本作において初期のハードな路線に戻ると前評判の高かった'91年発表の5th。 プロデューサーはRATTやWINGERを手がけたボー・ヒル。 ギターの音が前面に戻ってはいるものの、いかんせんアメリカンな香りが強い。 これまでの作品を淡い水墨画に例えるとすれば、このアルバムは差し詰め油絵といった感じだ。 キャッチーで軽快な「HALFWAY TO HEAVEN」、ジョーイの甘い歌声が魅力の「I'LL CRY FOR YOU」、典型的なハード・ロック・ソングの「SEVENTH SIGN」などはなかなかの好曲だし、ポップながらも哀愁漂うドラマティックな「PRISONERS IN PARADISE」やオリエンタルなメロディの「GIRL FROM LEBANON」は名曲だと思うが、これまでのEUROPEとは毛色が違うとの感は否めない。 手がけたバンドは皆同じ音になってしまうとの悪名の高いボー・ヒルの功罪も大きい。 イントロの流麗なギターが印象的な「BREAK FREE」やファンキーに刻まれるリフがいかした「YESTERDAY'S NEWS」のボーナス・トラック2曲が最もEUROPEらしいサウンドを奏でているのが皮肉だ。
10年以上の時を経てついに再結成されたEUROPEが'04年に放った6th。 プロデューサーは名盤「THE FINAL COUNTDOWN」を手がけたケヴィン・エルソン。 本作は過去のどの作品とも違うダーク&ヘヴィな作風で、オルタナティブ・ロック全盛期に多くのバンドが時代に寄り添ったかのようなサウンドに方向転換をしたことで落胆させられた気持ちを彷彿させるような内容である。 ジョン・ノーラムのギターもこの曲調では本来の魅力を発揮できていない気がする。 それでも「START FROM THE DARK」はBON JOVIにとっての「IT'S MY LIFE」のように、バンドの未来への指針となるような曲であるし、エッジのきいたギター・リフがかっこいい「FLAMES」や「WAKE UP CALL」、ほのぼのとした雰囲気がかつての曲調を彷彿させる「HERO」、ギター・ソロが絶品の「REASON」、愁いを含んだメロディが美しいバラード「ROLL WITH YOU」、パンチのきいたサビが印象的な「SUCKER」、本作において比較的アップ・テンポな「AMERICA」などは悪くはない。 次作もこの水準の出来ならばともかく、今はバンドが戻ってきてアルバムを発表してくれた喜びがアルバムの不満を大きく上回る。
世界中で650万枚以上を売り上げる大ヒットを記録した、バンドの代表作でもある'86年発表の3rd。 脱退したトニー・レノーの後任にイアン・ホーグランド(Dr)が、専任キーボーディストとしてミック・ミカエリが加入。 JOURNEY等の産業ロック系アーティストの数々の名盤を産み出したケヴィン・エルソンをプロデューサーに迎えたことにより、非常に洗練された聴き易い作品を作り上げた。 キーボードを前面に押し出したきらびやかなサウンド、これまでになくシンプルかつコンパクトになった楽曲は、1st・2ndの頃のピュアな北欧メタルが好きなファンにはショックを与えたものの、「THE FINAL COUNTDOWN」という超名曲が産み出されては納得せざるを得ない変化であった。 世界25カ国で№1を記録した同曲以外にも、キャッチーでライヴ向けの「ROCK THE NIGHT」、ジョーイの甘い歌声が耳に残るヒット・バラード「CARRIE」、DEEP PURPLEのようなキーボード・ソロが聴ける「DANGER ON THE TRACK」、前作までの北欧メタル・サウンドに最も近い哀愁度をを誇る「NINJA」、ギターとキーボードによるソロが美しい「CHEROKEE」、優しく甘いサウンドに包まれた「TIME HAS COME」、ドッシリとしたミディアム・テンポ・ナンバー「HEART OF STONE」、アルバム唯一の疾走曲「ON THE LOOSE」、キャッチーな中にも透明感のある「LOVE CHASER」と捨て曲は一切なく、ポップになりながらもバンド特有の哀愁&透明感は失われていない。
デビュー・アルバムの路線を踏襲しつつも、演奏技術・サウンド・プロダクションが格段に向上した'84年発表の2nd(邦題は「明日への翼」)。 「SEVEN DOORS HOTEL」のような必殺の超名曲はないものの、ギターのメロディに酔いしれる「STORMWIND」、疾走感に満ちたアグレッシヴな「SCREAM OF ANGER」、美しいアコースティック・ギターの音色からドラマティックに展開する「OPEN YOUR HEART」、ヘヴィで力強い「TREATED BAD AGAIN」、ギターとキーボードの絡みがメロディアスなインスト「APHASIA」、ヘヴィなリフとキャッチーなサビが魅力的な「WINGS OF TOMORROW」、ノーラムの流麗なギター・ソロが絶品の「WASTED TIME」、北欧メタルらしい疾走感とメロディに満ちた「LYIN' EYES」、ジョーイの甘く切ない歌声が感動的なバラード「DREAMER」、DEEP PURPLEのBURNを彷彿させる「DANCE THE NIGHT AWAY」と名曲が目白押しで、捨て曲は見当たらない。 これぞ北欧メタルの名盤! 個人的にも本作こそがEUROPEの最高傑作!
'89年発表のデビュー・アルバム。 まだ良質のアメリカン・ハード・ロック・バンドの1つといった感じであるが、ファンキーなサウンド、ヌーノ・ベッテンコートの超絶技巧ギター・プレイといった個性はこの時点で既に確立されつつある。 ノリのいいキャッチーな「WIND ME UP」、コーラス・ワークがこのバンドならではの「KID EGO」、美しくドラマティックなバラード「WATCHING,WAITING」、ヌーノの華麗なギター・ソロで幕を開けるVAN HALENのようなサウンドの「MUTHA(DON'T WANNA GO TO SCHOOL TODAY)」、ファンキーに疾走する最もEXTREMEらしい「TEACHER'S PET」、ヘヴィなリフの「FLESH & BLOOD」、トルコ行進曲で始まる完成度の高いハード・ロック「PLAY WITH ME」がお気に入り。
前作発表後にリズム隊が脱退、元MOTORHEADのフィル“アニマル"テイラーらが参加するとの噂があったものの、結局、キーボード奏者を含んだデイブ・キングの元バンド・メイトを迎えて制作された'86年発表の3rd。 プロデューサーはZENO等を手掛けたテリー・マニング。 本作の主導権はこのプロデューサーが握っていると言っても過言ではなく、アルバム収録曲の大多数の作曲に関わっており、バンドの中心的存在であったはずのエディ“ファスト"クラークは作曲には一切タッチしていない。 愁いを含んだメロディが美しい「THE WORLD WAITS FOR YOU」、きらびやかなシンセサイザーのサウンドがポップな「KILL ME WITH YOUR HEART」、いかにも'80年代的な哀愁ポップ・サウンドの「TIRED OF YOUR LOVE」、もの悲しいメロディのバラード「CHANGE」、デイヴの歌唱が素晴らしいダイナミックなタイトル曲「WAITING FOR THE ROAR」、シンセサイザーのサウンドがきらびやかな「GIRL」といった良い曲もあるが、シンセサイザーの大々的な導入やオーケストラの起用など、巷で隆盛を誇っていた産業ロックのようなきらびやかな装飾がなされており、バンドの持ち味であったロウ・パワーが失われてしまった感がある。 本来であれば見事にハマったであろうジャニス・ジョプリンの名曲「MOVE OVER」の生々しさに欠けるカヴァーが、バンドとサウンド・プロダクションとのミスマッチを表しているように思う。
THE WiLDHEARTSのジンジャーによる'06年発表のソロ・アルバム。 ギター・サウンドがノイジーな「UGLY」、ポップでほんのりと哀愁の漂う「MOTHER CITY」、クラヴ・ミュージックのようにグルーヴィーなインスト「G.T.T」、シングル・カットもされたキャッチーなナンバー「YEAH,YEAH,YEAH」、サビのメロディが極上の哀愁を伴う「TEN FLAWS DOWN」、美しく感動的なバラード「THE MAN WHO CHEATED DEATH」等を収録した1枚目、ホーンの音色がクールな「THE WAY」、次々とリフが繰り出される「DRINKING IN THE DAYTIME」、メロディアスなリフの「KEEP IT COOL」、ワイハーっぽいキャッチーでメロディアスな「ONLY LONELY」、美しいバラードの小曲「YOUR MOUTH」、サビのメロディがゴージャスで重厚な「CHANGE」、ハード・ロッキングな「MY FRIEND THE ENEMY」、ギターのイントロが強烈な「BULB」等を収録した2枚目からなる2枚組。 ワイハーほどにヘヴィではなく幾分バラエティに富んだ作風となっており、飛びぬけて優れた楽曲はないものの、どの曲にもジンジャーならではのポップで哀愁を含んだメロディが聴ける。 ボーナス・トラックとしてGINGER & SONIC CIRCUSでのライヴ3曲を収録。
グレン・ヒューズの真の復活作ともいうべき'94年発表のアルバム。 目立った派手さはなく、全体的にアダルトな雰囲気が漂う作品ではあるが、実はバラエティに富んだ楽曲で構成されている。 ブリッジがBURNにも似たメロディのハード・ロック曲「PICKIN' UP THE PIECES」、ブルージーかつヘヴィなリフの「LAY MY BODY DOWN」、素晴らしい歌唱で哀愁を聴かせる「THE ONLY ONE」、ゴスペルのような「WHY DON'T YOU STAY」、メタリックなギター・リフの「THE LIAR」、HUGHES/THRALL時代に作られたポップな「YOU WERE ALWAYS THERE」、北欧ハード・ポップのような「HOMELAND」、アダルトな名バラード「FROM NOW ON...」等、良質の楽曲が絶品の歌唱で聴けるのだからたまらない。 ボーナス・トラックの「BURN」と「YOU KEEP ON MOVING」も素晴らしく、グレンの歌唱はオリジナルを超える出来栄え。 ちなみにリズム隊とキーボードは元EUROPEの3人。