路線としては、ダンサブルなインダストリアル・ビートに、リズミックさを更に強調するような刻みリフを絡め、そこにブラックメタルバンドらしい不穏なキーボードや、凶悪にアジるヴォーカル等を乗せたインダストリアルブラックで、「Reign of Light」「Solar Soul」期のSAMAELに近い音。キーボードのフレーズに不穏さだけでなく、クラシカルな美意識も感じられるのは、やはり元アノレクのメンバーの感性に因るものが大きいのでしょうか。 SAMAELがクールさとポジティブな暗黒エナジーを強く感じる作風なのに対し、こっちはもっと厭人的かつ好戦的で、より凶悪な雰囲気を纏っていると思う。歌詞もストレートに凶悪だし。
スタイル自体はブラックメタルの一つの王道とも言うべき物ですが、やはり彼って才能あるミュージシャンですよね…他の鬱ブラックと比べても、曲の印象度や凄みに、明らかな違いがあると思う。特にそれが感じられるのがメロディ。以前の曲では「Dunkelheit」「Det Som Engang Var」「Spell of Destruction」などに顕著でしたが、彼の書くメロって鬱々としているだけではなく、北欧神話に隠された闇の部分を語るかのような、神秘性もあると思うんですよね…大袈裟に言ってしまえば、「哲学的な雰囲気がある」というか(笑)。
取り敢えずアルバムで一番好きです。 「♪No one knows~」のバッハ風歌メロがとにかく素晴らしい。アメリカ産のバンドながら、MINSTRELIXとかと勝負出来るレベルの歌メロですよ、これ…。「Divided we stand, united we fall」という歌詞もかっこよくて皮肉が効いてて好きです。
個人的に凄く惜しい1曲。 「♪From the depth~」からの歌メロは、あともう一捻りすれば大悶絶確定のクサメロになりそうなのに…何だかお上品に纏まってる感じがする。この作品に不満がある人って、多分こういうところに煮え切らなさを覚えるんだろうなぁ…。リフもキャッチーで、即効性のある良い曲だとは思いますが。
ディスク2は、99年のデモ「Pain」と02年のデモ「Scattenlicht Des Mondes」に、未発表音源である「Die Leere」を加えた内容。「Die Leere」も1stと同路線の鬱ブラックで良い曲なんですが、それ以上に驚いたのはデモ音源。キーボードや効果音が、時折バンドサウンドを飲み込んでしまう音像で、1stの曲以上に魔的・神秘的な印象があります。
…「Mondinsternis」が元々はデモ3つを集めたアルバム、という性格の作品のため、これ一枚で05年までの彼らの音源をコンプ出来るかな…とも思ってたんですが「Vollmond」デモにはMAYHEMの「De Mysteriis Dom Sathanas」のカヴァーも入ってたんですね…めっちゃ聴きたいんですけど、25枚リリースとか聴かせてくれる気は全く無さそうです(笑)。
例えば、THORNSの「Thorns」やDEATHSPELL OMEGAの「Kenose」「Chaining the Katechon」などの「前衛的で、しかも邪悪」かつ、それを説得力を持って聴かせられる力のある作品って、聴いていると、何か人知の及ばない神秘の深淵に触れているような感覚を味わえるんですよね。この作品も、前作の前衛的な作風を踏まえた上で、更に邪悪さが濃密になったこと、大作を聴き手の集中力を常に惹きつけた状態で聴かせられる作曲能力が備わった事で、上記の作品に通じる、深淵さに触れる感覚を味あわせる力を持ったものに仕上がったのではと思います。
07年発表のフル「A Journey to the Vyrdin」からの音源を中心に、スプリット提供曲や未発表曲を詰め込んだ、70分を超える大ボリュームの内容。店の歌い文句によると…このバンドはSILENCERやSORTSIND、辺りにも匹敵する、狂気じみた悲痛絶叫が聴ける鬱ブラックとして評価されている、とのことですが…