しかし、それらのバンドと決定的に異なるのは、森の妖精のすすり泣きのような儚い女性ヴォーカルを全編に取り入れていることでしょう。このお陰で、音のイメージが初期DIMMU BORGIR+初期THE 3RD AND THE MORTALみたいな、雰囲気のあるメタルが好きな人にはたまらないものに。ただ、ラストがテクノビートやハーシュノイズ入りのインダストリアル寄りの曲で雰囲気を壊している上に、エンディング曲(シークレットトラック)まで数分の空白があるのとで何だか竜頭・竜体・蛇尾な印象に…。まあ、そこ以外は特に文句はないんですけど。
CDラックに、ブラックに混じってTHE 3RD AND THE MORTALやTHEATER OF TRAGEDY(共に1st)辺りが並んでる人なら買って損はないかと思います。何故か中古で安い事が多いですし。
BEHEMOTH並みの突進で幕を開け、美しいピアノソロで幕を閉じる劇的な曲があったり展開の振り幅も広く、曲自体の質も非常に高いんですが、Orionの咆哮デスヴォイスもまた素晴らしいですね。「ZOS KIA CULTUS」の頃のNergal似のドスの効いた咆哮で、この手の歌い方でもかなり迫力がある方だと思う。BEHEMOTHのライブ盤ではNergal以外のメンバーの咆哮もド迫力でビビったんですが、これ聴いて納得。聴こえやすいミックスのため、最近のBEHEMOTHのスタジオ盤よりも迫力はあるかもしれません。
ブラックらしからぬ、一回聴いたら口ずさめそうなキャッチーな女性コーラスを配したゴシック寄りの曲で、以前の名曲「Her Ghost in the Fog」の再来を思わせる曲。エグい濁声で微妙にメロディを追いながら歌うDaniの声も非常にかっこいい。そんなにエクストリームメタルに触れてない人にもお勧め出来る間口の広さがあると思います。
以前DIMMU BORGIRが初期のアルバムをメタリックな音で再録してましたが…私的にはSATYRICONにこのアルバムでそういう試みを演って欲しかったです。「Dominions of Satyricon」辺りは最近のライブでも演るみたいですが、せめてライブ盤を出して欲しいなぁ…シングルのカップリングじゃ物足りないです。
ただ、前作と比べると、キャッチーなコーラスパートを配した曲は多いものの、前作の1、2曲目ほどのキャッチーさを誇る曲はないかな、という印象。その代わり、先行シングルにもなった「My Skin Is Cold」の魔が外界に溢れ出してくるようなトレモロ、「Last Man Standing」の闇が忍び寄ってくるようなメロディなど、音から見える情景は更に濃くなっている感じ。SATYRICON史上最もダークなアルバムというのも強ち誇張ではないと思います。
唯一の不満はライナー以外なーんのうまみもない日本盤。 EP「My Skin Is Cold」丸ごとやリミックスを収録したコレクターズ・エディションを買えば良いんですけど、専門店じゃないと入荷しないと思うし、専門店でもいつ再入荷されるのか分からないしで待ちきれず日本盤買っちゃったんですが、ボーナストラック一曲も入ってないし…。せめて生ブラス入れた「Mother North」のライブバージョンくらい入れてくれてもなぁ…。