何となくバンド名がかっこよかったので興味を惹かれたんですが、これがかなりハイクオリティな作品で驚きました。簡潔に言えば、WATAINの骨太さや邪悪さ、KEEP OF KALESSINのメタリックさに加えて、中期BEHEMOTHの攻撃性を上手くミックスさせたようなメロディック・ブラック。例に挙げたバンドからも分かる通り、アングラ度はそこまで高くはないものの、ヘヴィメタルとしてもがっつり聴かせる質の高さのある音。
歌モノ以外にも、これからドタバタ劇が始まるような汎用ボス曲、プログレッシブな感性を染み込ませた6面道中曲などを初め、どの曲も印象に残る。何気に会話パートとかの曲も良かったりしますし。ちなみに5面道中曲は、名EP「Alice in WONDER HALLOWEEN」を作り上げたミュージシャンである星名優子氏、サークル「うたのは」を主催する小鳥遊まこ氏という、同人音楽シーンではひとかどの地位を得ているシンガーが参加していて、個人的には激アツな人選。サントラ買わせて下さいお願いします。
南米産のブラックで、レーベルもHammer of Damnationとなれば、ダーティでオールドスクールなブラックを連想しそうですが…このバンドはかなり北欧産に近い、しかも北欧産に勝るとも劣らないクオリティのブラックを演ってますね。各レビューやショップのコメントでも評価が高かったんですが、実際聴いてみたら予想していた以上に素晴らしかったです。
DARK FUNERALなどスウェディッシュ勢に通じる寒々しさや、(De Mysteriis期の)MAYHEMを思わせる、ノルウェー産ブラック的土着性の強い禍々しさを込めたトレモロ、フィンランドのプリブラに通じるオールドスクールな勢いなど、北欧の各国のバンドの影響を受けつつも、良いとこ取りで消化・昇華する楽曲作りのセンスが、まず素晴らしいんですよね。北欧の評価の高いバンドの中にあっても、埋没することなく輝ける器を持っているのではないでしょうか。
このバンドは安易に寒々しいトレモロ疾走パートを挿入する事を避けているのか、展開に結構工夫が見られるんですが…その工夫が、逆にマニアック度を上げてしまっている感じですね…。音数を少なくして、隙間を感じさせる音作りにしてみたり、ノイジーさを殊更に強調してみたり…。普通にメロディアスなパートでは、ペイガン系に通じる叙情性があって悪くないんですが。特に5曲目「Brentt sie nieder」辺りは自己満足っぽさを感じてしまう。
これはかなり凄まじい…一言で言うなら、BLUT AUS NORDが持つ暗黒趣味的で捻じくれた実験精神と、FYRNASKが持つどす黒いアンビエンスを掛け合わせたような、尋常でない禍々しさを発散するブラックメタル。ブラックの持つ特性として「邪悪さ」「暴虐性」など、色々な要素が挙げられますが、この作品は「異形性」に特化したような作風。
まずギターワークの前衛性と、そこから生み出される禍々しい雰囲気が素晴らしい。脳髄を冒す毒素を帯びた電波でも含まれているんじゃないかと思うような、引き攣ったトレモロと、聴覚を通じて聴き手の筋肉を弛緩させるかのごとき、BLUT AUS NORD的な奇妙なエフェクトの掛かったフレーズなどの波状攻撃で、サイケデリックで毒々しく、どす黒い異形の空間を形成。
VED BUENS ENDEがどこかサイコっぽい雰囲気を漂わせていたのに対し、個人的にはこちらはオカルトめいたおどろおどろしさを感じるんですよね。絶叫するだけでなく、生気のない声で語りかけるようなヴォーカルも楽曲の不気味さを助長。レーベルがレーベルだけに、VED BUENS ENDEやVIRUSよりも、ストレートなブラックの色が濃く、これらのバンドが持つ不条理さだけでなく、ブラック本来の邪悪さも両立させている印象。
一時的に活動停止状態にあったTSJUDERのメンバーにより結成されたという経歴、そして裏ジャケに燦然と輝く「True Norwegian Black Metal」のロゴ…この時点で、混じりっ気のないピュアなブラックメタルを演っているのは容易に予想が付きますね(笑)。TSJUDERと比較すると、こちらはブラストでの暴虐な爆走の頻度は抑え目な代わり、オールドスクールなミッドテンポやスラッシーな疾走をより多く取り入れている感じ。
Metal Archivesで調べたんですが、このバンドはメンバーがドイツのペイガン/メロディックブラックとしては割りと知名度の高い、HELRUNAR絡みなんですね。そのせいか、主にトレモロリフによって奏でられるメロディには、神秘性や叙情性が強く押し出されているという印象。これがノイジーなトレモロを伴う、寒々しい音像と合わさると更に神秘性を増すんですよね。
ただ、基本的に刺々しい音作りながら、キーが入るパートや妙な味のあるドラムと共に疾走するパートなど、音数が増えるような箇所では相対的にノイジーさが軽減されて良い感じに。また、アルペジオのフレーズは鬱ブラックの中でもかなり秀逸な方で、聴き手を徐々に俗世から切り離していくような魅力がありますね。中でも前半部をヴォーカルとキー、アルペジオのみで聴かせ、儚さを強調した「…and I shall exist no more」は異色で出色の出来。他の曲では世を疎んじて苦悩していた感じですが、これは既に召されかけてます(笑)。
2009年発表の5曲入りデモ。 Pest Productionsから1000枚限定でリリース。演奏時間は32分程度。
Pest Productionsが目を付けることからも察せられると思いますが、幽玄なアルペジオやアトモスフェリックにバンドサウンドを包むキーボード、メロウに掻き鳴らされるトレモロなど、エモーショナルな情景を描き出す「ポスト」要素の強めなブラックメタル。この手のバンドって、最早ブラックよりシューゲイザーに近い音を出してたりしますが、このバンドはこの時点ではブラックに両足突っ込んだままという感じの出音。
この作品、トレモロリフを多用しているだけあって、よく聴くとメロディアスな側面もあったりするんですが、パッと聴いての印象が全然メロウじゃないのが面白いですよね。それくらいメロディが陰湿。厳かに呪いの言葉を吐き続けるように呻くヴォーカル、地下臭く湿ったプロダクションもあり、その陰湿さは更に強調されてます。中盤にBEHERITの「The Gate of Nanna」のカヴァーを挿入してますが、原曲からして密教的なムードの強い楽曲だっただけに、全く違和感なくハマッていますね。
SFC時代にスクウェアが残した超名作「ファイナルファンタジー4」をリメイクし、そのアフターストーリーであり、携帯アプリやWiiウェアで展開された「FF4 The After 月の帰還」を追加した上、その二つを繋ぐ「インタールード」を加え2011年にPSPでリリースされた作品集。現在PSストアで2000円ちょっとで買えるのと、VITAで64Gのメモリーカードを購入し、容量に余裕が出来た事もあり買ったんですが…これ、ホント素晴らしいですよ。
オーケストレーションを始めたメロディの使い方も当然の如く派手で、美メロ大仰メロの大判振る舞いという感じ。中国のバンドながら(だからこそ?)、ヨーロッパ風のロマンティシズムを感じます。特に「Glory of the Warrior」のクリーンヴォイスで歌われるパートには、思わず「騎士道精神」という単語が頭に浮かんでしまいました(笑)。ちょっと惜しかったのは、ヴォーカルワークに妙に印象に残る部分があったのに、ブックレットに歌詞の記載が無い事でしょうか。「Unchain」とか、ホント「妙に」印象深いんですよね…。
今までのアルバムを例に出すなら、「Chimera」が最も近い作品でしょうか。メンバーのスキルの高さが生み出す圧倒的な暴虐性と、暴力的な衝動性だけではない、高い構築性を有した、エクストリームメタルとしてごく真っ当に超高品質な作風。前作「Ordo ad Chao」ではプリミティブを変な方向に解釈したような妙な音質が賛否あった(私は駄目でした)んですが、今作は音質もちゃんと迫力があって良いです。
後は歌詞ですが…1stでブラックメタルの原風景を植え付け、2ndでおそらく第三次世界大戦及びポストウォーのコンセプトを緻密に描き、3rdではサイコな世界観を描いてきたように思うんですが…今作のワードを拾っていくと「ケムトレイル」「アセンション」「第四種接近遭遇」「Milab (軍によるアブダクション)」等、疑似科学的なモチーフが頻出。…MAYHEMってこんなバンドだったっけ?英語に堪能でない私が言うのも説得力がないですけど、正直MAYHEMにこういうガジェットを持ち込んで欲しくなかったなぁ…。「Throne of Time」で描かれるディストピア感とかは、今ひとつシリアスさに欠けるように感じてしまう。
Pest Productionsってポストブラックに強い印象があるんですけど、こんなバンドも抱えてるんですね。インスト明けの2曲目から、シンプルだけどやたらに主張の強いメロディを奏でるトレモロと、わざとらしいくらいに馬鹿速いドラムロールが絡む、洗脳必須な強烈な印象を残すブラックを展開。どこか作り物っぽい感じも、B級めいた魅力があって悪くないです。インパクトは大事ですね。
ただ、個人的には硬派過ぎるんですよね…。叙情トレモロ全開な「Forest Legion」辺りは別ですが、全体的にケレン味に欠けるというか。通して聴いてると、ラストで如何にDISSECTIONの「Where Dead Angels Lie」がフックに満ちた名曲かを見せ付けられてしまうので、THEOSOPHYのアルバムとしてはちょっとどうかと思う構成ですね(苦笑)。まあこの飾らなさが良いというのも分からなくはないですけど。
と言ってもメロディ面も決して疎かにはなっておらず、疾走パートではしっかりとこの手に特有の叙情メロディが聴けたり、リードギターがかなりメロウなフレーズを聴かせるパートがあったり、このジャンルの醍醐味である叙情性も、甘くなりすぎない程度に感じられるのが良いですね。ポスト方向に行き過ぎて脱ブラックしてるバンドよりも、「Mammal」までのALTAR OF PLAGUESや、FARSOTなどの邪悪さ強めのバンドが好みな方にお勧め。