スラッシュ・メタルの元祖とも評されるカナダ出身のスピード・メタル・トリオEXCITER。本作は一度の活動停止期間を挟んで6th『KILL AFTER KILL』(’92年)でカムバックを遂げた彼らが'93年に発表した、バンドにとって初めてのライブ・アルバム。活動最盛期の80年代にリリースがなかったのは残念ですが、今となってはダン・ビーラー(Ds、Vo)とジョン・リッチ(B)が揃った状態でのライブ盤を公式に残してくれたことに感謝ですよ。 ’91年2月に地元で行った復活ギグの模様が収録されており、セットリストは彼らが最も尖っていた1st~3rdアルバム収録曲のみというかなり偏った構成。でも文句を言うファンはいないんじゃないかな?個人的にも文句はありません。演奏は精緻とは言い難いですし、音質もイマサン。録音レベルが低いのでかなりボリュームを上げて聴いていると、連続再生で別のアーティストの楽曲が流れ出すとムチャクチャ爆音で毎度ビクッとさせられるという。しかしながらそうした荒っぽさすらも、欠点としてあげつらうのではなく「うむ、実にEXCITERらしい!」とポジティブに捉えられるのがこのバンドの強み。 ほぼ全編をスピード・ナンバーで固め、“STAND UP AND FIGHT”に始まり、“HEAVY METAL MANIAC”“I AM THE BEAST”“LONG LIVE THE LOUD”“VIOLENCE AND FORCE”といった名曲で畳み掛ける手加減無用のライブは、歌もドラムも喧しいことこの上ないダンを中心に、まるでブランクを感じさせないエネルギーの迸りで聴き手を圧倒する仕上がり。彼ら唯一のライブ盤ですし(違う?)、機会があればEXCITER入門盤として是非一聴をお薦めするはっちゃけた力作です。
VENOMの登場に衝撃を受けたメム・フォン・シュタイン(B)が音頭を取って結成、彼の父親が提案したバンド名「EXHUMER」からHを抜いて「EXUMER」を名乗ったドイツ/フランクフルト出身の4人組スラッシャーがDISASTER RECORDSから'86年に発表した、ジャケットに描かれたジェイソン風怪人のインパクトも十分なデビュー作。(イラストレーターがアルバム・タイトルからイメージを膨らませて創作したキャラクターなのだとか) 個性派スラッシュ・メタル・バンドが群雄割拠するドイツにあって独自色を強調するため、「THE U.S. TRASH METAL BAND FROM GERMANY」を目指したという彼らのサウンドは、破壊的に刻まれる禍々しいGリフや、狂ったように掻き毟られるGソロ辺りにSLAYERからの影響を滲ませつつ、基本はVENOM直系のゴリ押しスラッシュ路線を爆走。演奏力はやや覚束なく、音質もしょっぱいが、「でも演るんだよ!」とばかりにガムシャラに押し出してくる喧しい楽曲の数々と、全編を覆うヨーロッパ的ダークネスが本作に独特の色合いを付与している。 特に、不穏なイントロを荒々しく引き裂いてスタートする②、緩急の効いたドラマティックな③、唐突に繰り出される「躁」パートに意表を突かれる⑥、印象的なGソロが疾走して行く⑦、ラストを仰々しく締め括る⑩なんかは、繰り返し聴き込んだ覚えがある名曲だ。 本作発表直後に中心メンバーのメムが脱退し、バンドは2枚の作品を残して解散するも、00年代に入って再結成を遂げた・・・らしいが、現在に至るも新作アルバムを発表したという話は聞こえてこない。
中島優貴(Key)率いるHEAVY METAL ARMYが、より幅広い音楽性を追求すべく、メンバー・チェンジ(ギターがシンキから多田勇に、ベースがチェピート竹田からデイヴ伊藤に交代)を契機にEARSTEN ORBITと改名。 ハードネスは維持しつつも、中島の操るKeyをこれまで以上に前面に押し出し、プログレ・テイストを増強した1st『FUTURE FORCE』を'82年に発表して出直しデビューを飾る。 アルバムのクオリティのみならず、横田基地で収録された『LIVE! JOURENEY TO UTOPIA』('83年)を聴けば明らかなようにライブ・アクトとしての実力も確かだったが、結局、その後間もなくバンドは自然消滅・・・。
‘83年11月に、EASTERN ORBITが米軍横田基地内の将校クラブ「NCO CLUB」で行ったライブの模様を収めた実況録音盤(前座は十二単だったという)。 メンバーはJ.J.(Vo)、中島優貴(Key)、宮永“CHIBI”英一(Ds)、多田勇(G)、デイヴ伊藤(B)、それに特別ゲストのCHAR(G)という布陣。英語のMCも流暢にこなせるJ.J.の熱唱を始め、手練れの面子が繰り出す熱く激しいパフォーマンスと、初っ端からテンションが振り切れている観客の熱狂とが相俟って、本作を聴いていると、何やら海外で(そも米軍基地内はアメリカの領土なんですけども)、海外のバンドのライブを見ているような錯覚に陥る瞬間もしばしば。中でも個人的には、イアン・ペイスばりのタイトで流れるようなドラミングのみならず、RAIBOWのカヴァー③ではリードVoも担当する(しかも巧い!)という多才ぶりを発揮している、宮永英一の存在に特に感銘を受けましたね。 HEAVY METAL ARMY時代の代表曲①に始まり、疾走ナンバーの名曲②が後に続く「掴み」や、CHARの独奏“星条旗よ永遠なれ”からスタートする印象的なリフレインを持った⑥、全楽器が火花を散らして衝突し合うインスト曲⑦といった楽曲からは、スタジオ・バージョンを軽く凌駕する迫力と熱量が迸ります。「Key奏者が創作面のイニシアチブを握るバンド」と聞くと、プログレ・ハード系の音を想像しがちですが、ここに詰まっているサウンドは完全にHR/HMの領域にダイブ・イン。もしかすると1st『FUTURE FORCE』よりもEASTERN ORBIT入門盤にお薦めできるかもしれません。
なかなか国内盤が発売されず、「まさか今回はスルーされてしまうのか?」と危機感を募らせていたら、’17年発表の4曲入りEP『IN FOR THE KILL』とドッキングした豪勢な2枚組仕様でのリリースが実現しホッと一安心。ベルギーの切り込み部隊EVIL INVADERSが’18年に発表した2ndフル・アルバム。 鼓膜をつんざく高音スクリームVo、カミソリGリフ、性急なリズムが一丸となって畳み込む、カナダの元祖スラッシュ・メタル・バンド、EXCITERの名曲“VIOLENCE & FORCE”のカヴァー⑩が「オリジナル曲か」っつーぐらい違和感なくハマりまくるスピード・メタル路線を迷いなく突撃する一方で、従来の疾走疾走また疾走という力業スタイルに比べると、今回は重厚なインスト小曲③から繋がるヘヴィな④、ラストを締め括るドラマティックなエピック・ナンバー⑨といった楽曲を要所に配置することで、これまで以上に作品全体に緩急とダイナミクスを演出。聴き手の鼻面を掴んでブン回すが如きアップダウンの効いた本編構成や、厚みを増した音作り等からは、バンドが次の段階へ進むために課題を設け、それを一つ一つクリアしていったような着実な成長の跡が刻まれています。 かといって、エピカルであることを意識し過ぎて切れ味を失い、鈍重になったりしていない点もナイスで、いきなりトップギアから爆走を開始する①②、高速回転するGリフがクールな⑤、本編最速の⑧といった、タイトに締まった激走ナンバーの数々からは、バンドの変わらぬスピード/スラッシュ・メタル魂の迸りを感じることができましたよ。 全10曲で収録時間は40分弱。何度でもリピートしたくなる実にスカッと痛快な1枚です。
メンバー5人中3人が脱退するという、バンドによっては致命傷にもなりかねない大幅な編成替えを経て、'15年に発表された3rdアルバム。それでいて音楽性は拡散することなく、寧ろその切っ先を益々鋭く研ぎ澄ませて健在です。 ジタバタと焦燥感を伴い喧しく炸裂する①、硬質に畳み掛けて来る④、アグレッシブな中にもキャッチーさを宿らせた⑩等、従来の「80年代型スラッシュ・メタル」のフォーマットをブレずに受け継ぎつつ、本作はプロダクションの強度が増したことで、リフ&リズムの切れ味、野郎コーラスの迫力、そしてメロディックに閃くGソロの鮮烈さetc・・・が、一層ダイレクトに伝わって来るようになりました。また「元メタル雑誌のライター」というユニークな出自の新Voが、前任者ほどのクレイジーネスを感じさせない代わりに、よりコントロールされたハイピッチ・シャウトを提供。 結果として、熱に浮かされたような破天荒さは薄れてしまったかもしれませんが、その分、サウンドの方には(若干ながらも)整合性が出て来て、取っ付き易さが増したかなと。中でもリードBに導かれて突っ走るパートの勇ましさが際立つ⑧は、彼らの今後の進むべき方向性を示唆するかのような名曲です。 バンドのLIVE FOR THRASH, DIE FOR THRASHな心意気が全編に漲る充実作。
S.O.D.の活動に触発され、'87年に結成されたという古参スラッシュ・メタル・バンド。 現メンバーは、元MIDAS TOUCHのパトリック・スポロング(B)、DARKANEのローレンス・マックローリー(Vo)、WUTHERING HEIGHTSのテディ・モーラー(Ds)、LOST SOULSのピーター・ランス(G)と腕利き揃い。その代償として継続的な活動を行うことが難しかったようなれど、過去にリリースした4枚のスタジオ・アルバムは何れも高評価を獲得し、'13年発表の4th『4:RISE OF THE MOSH MONGERS』では待望の日本デビューも飾っている。
楽曲の題材選びから、全身に血塗れメイキャップを施したメンバーの扮装まで、「ホラー・スラッシュ」を標榜するスウェーデンの5人組が'17年に発表した5thアルバム。 キレッキレなGリフ、機動力に富むリズム、メロディも追えるハイピッチVoという、抜群の安定感を誇るパフォーマンスがスクラムを組み、ランニング・タイム2~3分台とタイトにまとめ上げられた高速ナンバーが次から次へと畳み掛ける、速戦即決のスラッシュ・メタル…という基本スタイルは勿論継続。但しGソロが殆ど聴かれなかったり、前作『4:RISE OF THE MOSHERS』に比べるとややクロスオーバー方面に揺り戻されている感有り。 ヘドバンに興じてるうちにアッという間に聴き終っているという、頭よりも体で楽しむタイプの作品であり、1曲1曲のインパクトはそれほどでもない…かと思いきや。歌詞のテーマに『バーニング』『13日の金曜日PARTⅡ』『ローズマリー』『ゾンビ3』etc.といった1981年に撮られたホラー映画の名作(もしくはポンコツだけど愛される迷作)を取り上げることで、各曲のキャラ立ちを明快にしてしまうという仕掛け。ジャンル映画ファン的には、『バーニング』のバンボロって誰だよ?とか、『ローズマリー』のトム・サヴィーニの殺人芸術は見事だったなとか、思わず1曲毎に語りたくなってしまいますよ。楽曲的には、アルバム全体のテーマ曲でもある①、炸裂感に溢れたサビメロにアガる④、「キ・キ・キ…マ・マ・マ…」コーラスまで組み込んだ⑤、歌えるVoが活かされた⑧、歌詞的にも曲調的にも見事にハマったDEATHのカヴァー⑮辺りのカッコ良さが特に印象的。 次はもうちょい早いペースで出してね、と思わずお願いしたくなる充実作です。