ホラー映画史に燦然と輝く金字塔、故ジョージ・A・ロメロ監督作『ゾンビ』(原題『DAWN OF THE DEAD』)と言えば、米国劇場公開版、ディレクターズ・カット版、そしてダリオ・アルジェント監修版の3パターンを基本に、派生型である日本TV初公開版やら、ドイツのマニアが勝手に作ってしまった最長版やら、無数のバージョン違いが存在していることで知られています。で、お前はどのバージョン派?と問われたならば、コンマ数秒たりとも躊躇うことなく「アルジェント版!」と即答する準備は万端。ロメロが作品に込めた消費社会・文明に対する批評性が薄められているとしてマニア受けはイマイチなれど、カット割りがスピーディ且つアップテンポで、『ゾンビ』のサバイバル・アクション物としての側面がより強調された同バージョンの味付けが、個人的に一番グッときましてね。それに何より、ここにはGOBLINが手掛けた最高にイカした劇伴がある!と。特に映画序盤、警察/不法移民/ゾンビが三つ巴の地獄絵図を繰り広げるアパートの場面で、名曲②が流れないなんてちょっと考えられないですよ。この勇ましく緊迫感に満ちた名曲を聴く度に、ウーリー大暴れの図が脳裏に浮かんでほっこりするという(それはどうか)。 そんなアルジェント版の劇中使用曲をまとめて収録したサントラ盤たる本作ですが、『ゾンビ』を見たことがない方が、単純にプログレッシブ・ロック作品として触れると、唐突に陽気なピアノ曲やカントリー、更には民族音楽風コーラスが挿入されたりと、ロック色の薄い、少々アバンギャルドな作りに戸惑う危険性あり。映画を見てからだと、聴く度に劇中の名場面の数々が瞼の裏に蘇って感動に浸れる名盤なのですが…。
今やすっかり聖飢魔Ⅱファミリーの一員と化した感のあるアンダース・リドホルム(B)率いるGRAND ILLUSIONが、復活作『BRAND NEW WORLD』から然して間を空けることなく発表してくれた5thアルバム。 TOTOのスティーヴ・ルカサーや、AIRPLAYのジェイ・グレイドンらAOR/産業ロック界の大物ギタリスト達が風格とセンス溢れるGプレイで華を添える本作は、突き抜けるように真っ直ぐ伸びていくピーター・スンデルのハイトーンVo、北欧らしい透明感とフック満載の哀メロ、そして鮮烈なコーラス・パートを壮麗に彩るボーカル・ハーモニーといった、まさしくGRAND ILLUSION以外の何者でもないメロハー・サウンドが終始徹底されており、ファンの期待に120%応える出来栄え。 ボスニア出身の新人ギタリスト、マリス・ヴァラジックの良い仕事っぷりも特筆モノで、彼の鮮烈なGソロがフィーチュアされた、スケール感とゴージャスな雰囲気を纏って駆け抜けていくOPトラック①、このバンド流の様式美に則った劇的なメロディ展開が堪能できるアルバム表題曲③、ノリ良くキャッチーな⑪は、何れも本編の要石となる重要曲だ。 それ以外にも、哀愁に満ちた曲調とスティーヴ・ルカサーの名演が感動に拍車を掛けるバラード④、GRAND ILLUSION節が心地良い哀メロ・ナンバー⑤(ソロを取るのは名うてのセッション・ギタリスト、ティム・ピアーズ)等、耳惹かれずにはいられない秀逸な楽曲が並ぶ本編は、名盤『VIEW FROM THE TOP』にも迫るクオリティの高さを誇る。 アンダースが制作を手伝ったと言うデーモン小暮のソロ・アルバムも早く聴いてみたいなぁ。
GRAND MAGUS、'04年発表の2ndアルバム。 勇猛でドラマティックなエピック・メタル・サウンドにノックアウトされて以来彼らの作品を集めるようになりましたが、本作で聴くことが出来るのは、シケシケな音作りに、引き摺るよう刻まれるGリフと、重々しくのたうつリズムによって構成された真性ドゥーム・メタル・サウンドで、流石にこの辺りまで遡ると最近作とは大きく音楽性が異なります。 と言っても完璧に断絶しているなんてことはなく、きっちりと今へと至る連続性は確保されており、ヨーロッパの「闇」を纏ったドラマティックな曲展開の素晴しさも然ることながら、やはり本作の肝となるのは、ダルさなぞ微塵も感じさせない熱い歌声と、猛烈な「気」を放つ入魂のGプレイで本編を彩るJ.B.のの骨太な存在。エモーションの乗ったGソロにハート鷲掴みな③、後のエピック・メタル路線の萌芽が垣間見える⑤、ヘヴィ・メタリックなGリフがアップテンポに刻まれる⑥、圧し掛かるようなヘヴィネスが荘厳な空気も運んでくる⑦等は、彼のダイナミックなパフォーマンスと楽曲自体の質の高さが相俟って、聴き応え満点の名曲に仕上がっております。
4th『IRON WILL』と5th『HAMMER OF THE NORTH』の余りの素晴しさに痺れ、遡って購入した'03年発表の3rdアルバム。 男らしく野太い声質と広い声域を併せ持ったJBのVo、猛々しく刻まれるGリフに、地鳴りの如きうねりを伴ったリズムから構築される、「BLACK SABBATHミーツ北欧様式美HM」といった趣きのサウンド・スタイルは、このアルバムの時点で既にその方向性を定めつつあるが、と同時に本編には、ゆっくりと沈み込むようなヘヴィネスを湛えた超ドゥーム・メタリックな楽曲も散在。初期作の色合いも確実に息衝いており、まぁ要するに過渡期的内容の作品なのか。 但し、ここに収められた楽曲の数々はメチャ強力。特に、雄々しくも物騒な①に始まり、(なぜか)『恐怖のレストラン』の頃の聖飢魔Ⅱを思い出したりもする②、ヘヴィなインスト曲③に導かれてスタートする、BLACK SABBATHのみならずMANOWAR辺りからの影響も入り混じったエピック・チューン④を経て、シャープなGリフがアップテンポで駆け抜けていく⑤にてクライマックスを迎える、アルバム前半の完成度の高さは間違いなく本編の白眉。(北欧民謡風のメロディが聴かれるインスト小曲⑥から始まる、アルバム後半戦も十分聴かせてくれるけどね) パワフルな歌いっぷりのみならず、センス良くまとめられたJBのGプレイもキラリと輝きを放つ1枚。
大いなる注目を集めて'91年にセルフ・タイトルの1stアルバムでデビューを飾るも、レコード会社の無為無策に足を引っ張られた挙句解散を余儀なくされてしまった悲運のバンド、スウェーデンのGREAT KING RATが'99年に発表した2ndアルバム。…ではなく。日の目を見なかったお蔵入り音源(一部録り直し曲もあり)を取りまとめた未発表曲集。 本作に託されているのは、「北欧のMr. BIG」とも評されたデビュー作のサウンドを順当に継承する、70年代の薫り漂うブルージーなHR。マイケル・シェンカーにその才を買われたリーフ・スンディンのエリック・マーティン似のソウルフルなVoや、現POODLESのポンタス・ノルグレンのテクニカルなGプレイに、レトロなハモンド・オルガンの音色等、例え未発表曲集と言えども、ここには「北欧のローカル・バンド」的な垢抜けない雰囲気は皆無。逆に言うと「煌めく美旋律」「ドラマティックな曲展開」といった様式美HM要素を期待するとガッカリすることになるわけですが、それでも作品全体がどこかヒンヤリとした空気に覆われているように感じられるのは、やはり彼らの血の為せる業か。 個人的には、FREEの名曲“BE MY FRIEND”を完全に己のものにしているリーフの熱唱に聴き惚れる⑦以降、初期RAINBOW風味の妖しげな重厚感漂わす⑧、埃っぽい疾走ナンバー⑨、ほんわかと心温まるバラード⑩といった優れた楽曲の連打にテンションがアガるアルバム後半の流れがお気に入り。 廃盤の国内盤が高値で取引されている1stに比べると比較的入手も楽なので、取り敢えずどんなバンドなのか興味を持たれた方は本作から入ってみるのがよろしいかと。
NWOBHMを代表する名盤『SEE YOU IN HELL』と、GRIM REAPERの最高傑作として名高い 3rd『ROCK YOU TO HELL』の間に挟まれて、イマイチ影の薄い'85年発表の2ndアルバム。 最近、リマスター再発されたのを期に初めて購入したのだけれど、パワーと湿り気を備えた作風は、 「これぞブリティッシュHM!」といった魅力に満ち溢れ、上記2作と比べても決して聴き劣りするレベルの作品ではない。 叙情バラードやドラマティカルなナンバーを排し、力押しに終始する本編の流れはやや単調だし、 たった9日間でレコーディングされたというサウンド・プロダクションも(相変わらず)貧相だが、 ヴァイキング風のPVも作られたアルバム表題曲①、フックの効いた歌メロが強力な②、勇壮な⑧といった楽曲を筆頭に、 シャープに疾走するリフ&リズムの上に、心の内なるメタル魂にポッと火を点される、スティーヴ・グリメットの 雄々しく伸びやかな歌唱が乗っかった楽曲の数々は、前作のスマッシュ・ヒットで波に乗るバンドの勢いが 如実に反映された仕上がりで、問答無用のカッコ良さを誇る。 『SEE YOU~』や『ROCK YOU~』が気に入った人なら、当然のように本作もマスト・バイ。
3rdアルバム収録曲は、“ROCK YOU TO HELL"とか “WHEN HEAVEN COMES DOWN"とか、リズム・パターンの乏しさゆえ、 どの曲も非常に似通った印象を受けてしまうのだが、 でもどの曲も無茶苦茶カッコイイんだから仕方ない。 リフのカッコ良さも然る事ながら、この曲の白眉は やはりスティーヴ・グリメットの張り/艶/伸びの三拍子揃った 強力極まりない歌声でしょうか。
'17年の南米ツアー中重度の完成症に罹患し、右足切断という悲劇に見舞われたスティーヴ・グリメット(Vo)。現在はそれを乗り越えて復帰を果たし精力的に活動を継続している彼が、自らの名を一躍HR/HMシーンに知らしめる切っ掛けとなったバンド、GRIM REAPERを復活させ、'16年に発表した再結成第1弾アルバム(通算4作目)がこちら。 つっても嘗ての中心メンバー、ニック・ボウコットはミュージシャン稼業から足を洗ってしまい不参加。肝心のスティーヴに関しては、LIONSHEARTの2ndからこっち「ちゃんと曲を書ける人材を登用してくれ」と常々感じていたので、無名のメンバーと組んで果たしてどれほどの作品を作れるものか?と、正直事前の期待値はあまり高くなかったという。 しかしコレが聴いて吃驚。本作で披露されているのは、エッジの切り立ったGリフ&軽快に疾走するリズムといい、その上に乗る憂いを帯びて勇壮、それでいてキャッチー(←重要)なメロディといい、紛うかたなき在りし日のGRIM REAPERそのものなサウンド。ソリッドに突き進むアルバム表題曲②や、思わず拳を突き上げたくなる⑥、雄々しくメロディアスな⑩等、秀逸な楽曲をパワフルに歌い上げるスティーヴのVoも経年劣化を殆ど感じさせない全盛期の張りと伸びをキープ。多少地味な楽曲も彼が歌うことで3割増しで輝いて聴こえる神通力も衰えていません。 “SEE YOU IN HELL”や“ROCK YOU TO HELL”級のキメ曲は見当たらないので、一聴地味に感じられるかもしれませんが、繰り返し聴き込むことで徐々に魅力が浸透して来る燻し銀な1枚。そういう意味では2nd『FEAR NO EVIL』に近い仕上がりと言えるかも。
'86年にドイツはフランクフルトにて誕生。JUDAS PRIESTの名曲からバンド名を頂き、GRINDERを名乗る。 2本のデモテープ『SCARED TO DEATH』と『SIREN』を制作した後、METAL HAMMER誌の元編集長チャーリー・リンが興したNO REMORSE RECORDSと契約を結び、エイドリアン・ハーン(Vo、B)、ラリオ(G)、アンディ・ユルゲン(G)、ステファン・アーノルド(Ds、現GRAVE DIGGER)というラインナップで1st『DAWN FOR THE LIVING』('88年)、2nd『DEAD END』('89年)、EP『THE 1st EP』('90年)をリリースし、そのタイトなスラッシュ・サウンドが評判を呼ぶ。また'90年の5月にはトルコのインスタンブールでライブを行い、「初めてトルコでライブを行った外国のHMバンド」の称号も手に入れている。 90年代に入りNRRが倒産すると、バンドはNOISE RECORDSへ移籍し、アンディ・リヒャルト(B)を加えた5人編成でレコーディングされた3rd『NOTHING IS SACRED』を発表。 だがスラッシュ・シーンの衰退期と重なり活動は徐々にフェードアウト。結局、彼らはバンド名をCAPRICORNと改めて活動していく事となる。