レコーディング終盤、出来上がってきたサウンドに不満が生じたため、クリス・タンガリーディスにミックス作業のやり直しを依頼するというゴタゴタが発生したものの、その甲斐あってか、硬質でタイトなリズムの「鳴り」の良さにかけては過去最高レベルを獲得した、'08年発表の12thアルバム。 時にKeyを交えて、屈強さよりもメロディ重視の姿勢が貫かれた作風は前作『IMMORTAL BIND』と同様だが、所謂「昭和歌謡メタル」的な臭みを伴ったメロディが聴かれる場面は徐々に減少傾向にあり、特にそれは坂本英三(Vo)の歌メロに顕著に表れている。 例えばアルバム表題曲“BLACK EMPIRE”はヴァース部分こそ森川時代を彷彿とさせるANTHEM節なのだが、サビメロに関しては、より洗練されたスマート且つキャッチーな歌い回しでまとめられていて、従来の思わずコブシが回る歌唱は影を潜めている。 尤も、涙なしには聴けない叙情HRナンバー“WALK THROUGH THE NIGHT”や、へヴィに刻まれるリフ&リズムとその上を舞う哀メロのコントラストが絶妙な“EMPTINESS WORLD”辺りを聴けば分かる通りクサメロが皆無なんて事はなく、何より前述の“BLACK~”や、リズム隊が主役を張る“HEAT OF THE EMOTION”“GO INSANE”といった楽曲に代表される、唯一無二のANTHEM流HMサウンドのフォーミュラはきっちりと固守しながら、マンネリに陥ることなく、似て非なる名曲を次々に生み出すこのバンドの曲作りセンスには毎度感心させられっ放しですよ。名盤?勿論ですとも。
国内アーティストには点が辛いBURRN!!誌のレビューコーナー(当時)において、90点台のハイスコアを叩き出した事でも話題となった、'87年発表の3rdアルバム。 多くのファンが「初期ANTHEMの最高傑作」と太鼓判を押す本作は、名手クリス・タンガリーディスのプロデューサー起用がドンピシャでハマリ(以後、長い付き合いとなる)、サウンド・プロダクションの格段の向上はもとより、ヘヴィ・メタリックな硬質感やアグレッションは維持したまま、これまで作品全体を濃厚に覆っていたNWOBHM風味のマイナー臭や荒っぽさが取っ払われ、よりメロディアスに、よりキャッチーに洗練された楽曲からはメジャー・アクトとしての風格さえ感じられるようになった。 前2作にはやや地味めな存在の楽曲も散見されたが、今回はアルバム表題曲“BOUND TO BREAK”を手始めに、緊迫感を孕んで切り込んで来る“EMPTY EYES”、雄々しく重厚なミッド・チューン“THE SHOW MUST GO ON!”・・・といった具合にOPから名曲が連打され、トリを締めるファストなヘドバン・ソング“FIRE'N’THE SWORD”に至るまで、埋め曲や捨て曲の類は皆無。中でも個人的にプッシュしておきたいのが“NO MORE NIGHT”で、ツインG風のアレンジを施されて疾走するサビメロのカッコ良さに震える度、「埋もれた名曲」との評価に力強く同意するのであった。 ANTHEM入門編としても強くお薦めする、日本のHR/HM史にその名を刻む名盤です。
福田洋也の後任に無名の新人ギタリスト、清水昭男を抜擢してレコーディング、'92年に発表するも、残念ながらANTHEMのラスト作となってしまった7thアルバム。 新メンバー加入で気持ちが若返ったのか、はたまた90年代HR/HMシーンの潮流の変化を読んだのか、ともかくサウンドがマッチョにビルドアップされているのが本作の特色で、情念は抑え気味にパワー重視の歌唱を聴かせる森川之雄のVoも、そうした印象に拍車を掛けている。パワフルに畳み掛けて来るOPナンバー“VENOM STRIKE”はそうしたアルバムの特性が見事結実した名曲ですね。 まぁ、正直に申さば、艶に欠ける森川のガナり気味Voは一部楽曲の大味さを冗長させており、必ずしもアルバムにとってはプラスに作用していない印象なのですが・・・。 個人的には、前作『NO SMOKE WITHOUT FIRE』に引き続きゲスト参加を果たしたドン・エイリーのKeyサウンドが華麗な彩りを加える、RAINBOW風味のエキゾチックなGリフが印象的な“GOLD & DIAMONDS”、物悲しくもキャッチーに駆け抜けて行く“CRY IN THE NIGHT”、タメを効かせて劇的に盛り上がる“SILENT CROSS”といった、ANTHEMらしい哀愁のメロディと、本作ならではの骨っぽい味わいが上手く溶け合わされた楽曲がお気に入りです。
『BOUND TO BREAK』という名盤をモノにしながら坂本英三が脱退。バンドは直ちに後任として「和製グラハム・ボネット」の異名を取る逸材Vo、森川之雄を加入させ、再びクリス・タンガリーディスをプロデューサーに起用してレコーディング作業に突入、'88年にこの4thアルバムを発表した。 まさにメタルを歌うのに打ってつけだった坂本の金属質な歌声を「剛」とするなら、日本人離れしたパワーのみならず、情の深さも感じさせる森川の歌声は「柔」。そうした彼のしなやかな歌唱を得た事で、HM以外の何者でもなかった前3作のガチガチに硬派な鋼鉄路線に比べると、今回はKeyを隠し味に使用しサウンドが一気にスケールアップ。また、時に歌謡曲的臭みを発するメロディがこれまで以上に哀愁を帯びてキャッチーに練り込まれる等、より幅広いリスナー層にアピールし得る魅力を備えるに至った。 本作のハイライト・ナンバーたる“GYPSY WAYS”“LOVE IN VAIN”“CRYIN' HEART”“SHOUT IT OUT”を筆頭に、収録曲全てについて詳細に語れてしまうほど名曲が詰まった本編は『BOUND~』にも匹敵する捨て曲皆無の充実っぷりで、個人的にはANTHEMの全アルバムの中でもトップレベルで愛して止まない1枚。 確か柴田直人も、このアルバムが最もお気に入りだったんじゃなかったっけ?
初の海外(ロンドン)レコーディング、元RAINBOWのドン・エイリー(Key)のゲスト参加、そして福田洋也(G)最後の参加作品・・・と、様々な話題を背負って'90年にリリースされた6thアルバム。(ちなみにタイトルは『火のない所に煙りは立たぬ』の意) 爆走する“THE VOICE OF THUNDERSTORM”“DO YOU UNDERSTAND?”のようなパワー・メタル・ナンバーを収録しつつも、作品自体は、これまではサウンドの隙間を埋めるための小道具程度の扱いに過ぎなかったKeyが完全にアレンジの一部に組み込まれて機能していたり(ドン・エイリーの存在が影響しているのかな)、またアリーナ・ロック調の“POWER & BLOOD”みたいな楽曲も収録する等、ANTHEMのアルバムの中では比較的ライトな作風に仕上がっている・・・と言えるかも。(飽くまで「彼らにしては」レベルだけどね) 尤も、泣きの入ったメロディとキャッチーに跳ねるKeyフレーズが印象的な“LOVE ON THE EDGE”はこのアルバムならではの名曲だし、森川之雄の情念迸る熱唱に昂ぶらずにはいられない“BLINDED PAIN”、そして何と言っても、個人的に森川時代の楽曲としては5指に入るぐらい愛聴している名曲“SHADOW WALK”の存在が本編をキリリと引き締め、本作もやっぱり「ANTHEMらしい名盤」との評価に揺らぎはない。
これまで未発表だったデモ音源やライブ映像、それに現在では入手困難なEXPLOTION RECORDS発のオムニバス盤『HEAVY METAL FORCE』に提供した楽曲等を、蔵から引っ張り出して来て柴田直人(B)監修のもと取りまとめた、CD2枚・DVD1枚からなる正に『OFFICIAL BOOTLEG』の名に相応しい作品。この手の高価なBOXセットは、資料価値に釣られて大枚はたいて購入するも、その行為自体に達成感を覚えてしまい、結局本編は大して聴かずに放置という本末転倒なことになりがちで、本作もしばらく棚で埃を被ってしまっていたのですが、EP『READY TO RIDE』の再発を切っ掛けに初期ANTHEMに対する情熱が再燃。ここ暫くは毎日のように聴いている次第で。 特にANTHEM初代フロントマンにして、ジャパメタ愛好家からは藤本泰司(G)率いるDANCERのシンガーとして有名な前田“トニー”敏仁が歌う“WARNING ACTION!”や“WILD ANTHEM”といった名曲や、完全未発表のDisk-B③④、更には中間英明(G)擁する編成でのライブDisk-A⑦⑧⑨まで聴けてしまうという大盤振る舞いは最大のトピック。これらに耳を傾けていて、自分の本作購入動機が上記楽曲群聴きたさだったことを今更思い出したぐらいですよ。トニーに関してはDANCER時代は「線の細いハイトーン・シンガー」との印象だったのですが、ここでのパワフルな歌いっぷりは柴田御大をして「エグイ」と言わしめるだけのことはあるな!と。余談ながら、彼が歌う“WILD ANTHEM”は何となくDANCERの名曲“BLUE FIRE”に通じるものがあるような、ないような? あと、できれば『HEAVY METAL FORCE』シリーズの再発も是非お願いしたいところであります。
バンド自身のプロデュースでレコーディング作業を行い’85年に発表された、初見時に思わず「ダサッ」と呟いてしまった若気の至り感溢れるジャケットと、レーベル面に印刷された《今やパワー・メタル全開!A面に針を落とした瞬間からもうインパクトの連続!成長したアンセムの怒涛のようなサウンドにメタルゾンビも逃げ出す!?》という昭和センス爆発のひょうきん(死語)な叩き文句が目印の5曲入りEP。 長らくCD化が待望され続けたレア・アイテムで、内容は福田洋也(G)のペンによるキャッチー&ワイルドな“READY TO RIDE”と、終盤に繰り出される扇情的なGフレーズにグッとくる疾走ナンバー“SHED”という2曲の新曲に、1st『ANTHEM』収録曲である“STEELER”“ROCK’N ROLL STARS”“LAY DOWN”の英詞バージョンを加えた全5曲からなる構成。新曲・既発曲共に若さ漲るパワー・メタル・ナンバーばかりで、今聴くとコーラスの軽さといい、音質のラフさといい、坂本英三のVoの青さといい、どうしたって微笑ましさが先立つ部分がありつつも、この火傷しそうな熱さ、空回り上等の前のめりな爆発力には、やはり問答無用でメタル魂に火を点けられてしまいますよ。 収録曲はどれも1stや2ndのリイシュー盤でボーナス・トラックとして聴けてしまうため、現在では音源としての貴重度はそれほどじゃないかもしれませんが、やはりファンとしちゃEP単品でちゃんと所持したかったところなので、今回のCD化はまさに快挙。ありがとう、ネクサス!
1st『ANTHEM』との間にEP『READY TO RIDE』のリリースを挟んで'86年に発表された2ndフル・アルバム。 セルフ・プロデュースの上、殆ど一発録りに近いノリでレコーディングされたという本作は、音の悪さにかけてはANTHEMのアルバムの中でも1、2を争うが、その分ホットで荒々しい勢いが損なわれる事なく封入されており、全編に満ちる攻撃性の高さにおいてもANTHEMのカタログ中トップクラス。 デビュー作だって相当に荒っぽい内容だったが、未熟さゆえ図らずもラフな仕上がりになってしまったあちらに対し、今回は意図的に荒々しさが前面に押し出されているのが大きく異なる点で、例えばキャッチーなアカペラ・パートからスタートする“VICTIM IN YOUR EYES”、スラッシュ・メタルばりの突進力を誇る“DRIVING WIRE”、激烈にラストを締め括る“BLACK EYED TOUGH”といった怒涛の如きスピード・ナンバーの数々にも今回はきっちりとコントロールが効いている。硬派な哀愁背負って疾走する名曲“NIGHT AFTER NIGHT”なんて、一層逞しさと表現力を増したメンバーの成長っぷりがしかと刻まれた(未だライブでも欠か事の出来ない)初期ANTHEMを語る上で忘れてはならない本編のハイライト・ナンバーですね。
映画雑誌を読んでいたら、『ANVIL! THE STORY OF ANVIL』という ANVILのドキュメンタリー映画(!)の記事が目を引いた。 ツアーに出れば散々な目に遭い、CDを自主制作してもレコード会社から 「ロートルに用はねえよ」と門前払いを食ってしまうというドン底状態のANVIL。 だが映画のクライマックス、'06年に日本のLOUD PARKに出演した彼らは大観衆から喝采を浴びるのだった・・・ という紹介文を読んでるだけでかなりグッと来るものがあった。 日本でも公開してくんないかなぁ。
輸入盤が出回り始めてから随分と経つのに、いつまでも国内盤が発売されず「まさか今回は出さないつもりでは・・・」とヤキモキしていたところで、漸く昨年末に国内盤のリリースが実現したANVILの15thアルバム。ちなみにHELLHOUNDのCROSSFIRE氏が思い入れたっぷりの解説文を寄稿していて、これはナイス人選。 映画にも出演していたグレン・ファイヴ(B)が脱退してしまいましたが、最早リップスの熱血VoとGプレイ、ロブ・ライナーの暴れ太鼓さえあればANVILサウンドが成立することは衆目の一致するところであり、今作も「らしさ」は微動だにせず。あと後任ベーシストが元CITIESってのもピッタリな人事過ぎてちょっと笑っちゃいましたよ。 重厚な仕上がりだった前作『JUGGERNAUT OF JUSTICE』の反動か、今回は全体的にシンプルなロックンロール・ナンバー中心の構成が取られていて、1曲ずつピックアップすればこれはこれで悪くないのですが、通して聴くとやや覇気とダイナミズムに乏しい印象かな?と。ヘヴィネス渦巻く①や、ANVIL版“SMOKE ON THE WATER”といった趣きの③のようなヘヴィ・メタリックな楽曲も収録されはいるんですけどね・・・。 ファンなら勿論「買い」ですが、入門盤にはちと不向きな1枚か。
レコーディングの最中から既にバンドに対する情熱が感じられなかったというデイヴ・アリソン(G)が脱退。デビュー以来続いたオリジナル編成では最後のスタジオ作品となってしまった'88年発表の5thアルバム。 ANVIL史上、最もポップ方向に振れた内容だった前作『STRENGTH OF STEEL』(個人的には傑作だと思うんだけど・・・)の出来を省みて、一転、ヘヴィネスとアグレッション全開でレコーディングに挑んだという本作は、実際開巻早々から、メンバーが「パワー/スラッシュ・メタル版“666”」と語る名曲“BLOOD ON ICE”をもって強烈な先制パンチを浴びせかけてくる。 特に今回、主役級の存在感を発揮しているのがロブ・ライナー(Ds)その人で、硬質なサウンド・プロダクションの下、ありったけのオカズを詰め込んで荒れ狂う彼のドラミングは、前述の“BLOOD~”から、タイトル通りビシビシと銃弾を体に撃ち込まれているかのような感覚が味わえる“MACHINE GUN”、そして強面のへヴィ・チューン“FIRE IN THE NIGHT”に至るまで、全編に亘って冴えまくり轟きまくり。ロブの演奏を追っているだけで本作は楽しむ事が出来きますね。 反面、へヴィさに拘り過ぎるあまりメロディにフックが欠け、従来の彼らの持ち味だった「キャッチーさ」が発揮し切れていないという弱点も抱えているのですが・・・。 手持ちのANVILのカタログの中では印象の弱い1枚ではあるものの、例えばNASTY SAVAGEみたいなアメリカン・パワー/スラッシュ・メタルがイケル口の人なら問題なく楽しめる作品かな?と。