マサ伊藤が「NWOBHM最強のバンドの一つ」と記す、英国はノッティンガムシャー、マンズフィールド出身で、マイクとグレンのスクリムショー兄弟を中心に結成された(活動開始は60年代まで遡るという)トリオ・バンドが、'80年に残した唯一のフル・アルバム。 「イギリスのRUSH」と評されただけあって、RUSH、YESを彷彿とさせる凝った曲展開やヒネリの効いたアレンジ、曲によってはメロトロンをフィーチュアする等、プログレ方面へのアプローチに余念のない本作ですが、軸足は飽くまでメタル側にキープ・オン・ロッキン。疾走感溢れるインスト・パートがスリリングなOPナンバー“GOING HOME”、ビートを効かせたダークな“KNIFE IN YOUR BACK”、タイトルからしてド直球のスピード・ナンバー“METAL MAN”、哀愁塗れの“MAMMA”から悲壮且つ重厚な大作曲“MAN OF COLOURS”に至るまで、NWOBHMらしいハードネスも泣きも十二分に堪能できる本編は、「プログレっぽいの?じゃあパスで!」なんて後ろ向きな発言かます輩(俺のことですが)を、張り倒して正気に返らせ得るインパクト&クオリティを兼備しています。 尚そんな本作。オリジナル盤と、後に発売されたベルギー盤では曲順が全く異なる上に、後者には、シングルとして発表されたNWOBHM史に足跡を刻む名曲“ASHES TO ASHES”がOPナンバーとして収録されているので、聴き比べてみるのも一興かと。ちなみに、テイチクから再発された日本盤はオリジナルの曲順に準じつつ、ボートラとして“ASHES~”も収録するという両者の美味しいトコ取りな構成で、そりゃ中古盤がプレミア価格で取引されるよな…と。一日も早い再発を希望する次第。
不幸の波状攻撃に翻弄されながらも立ち向かう、大映ドラマのヒロインばりに健気な姿(?)が日本のHR/HMファンの胸を打ったBIG IN JAPAN筆頭LION、'87年発表の1stフル。(国内盤は『宿命の砦』なる副題あり) とは言え、彼らが判官びいきのみで人気を集めたわけじゃないことは、タレント揃いのメンバーと、彼らによってクリエイトされる高品質な楽曲の数々からも明らか。元TYTANの英国人シンガー、カル・スワン(Vo)の情念迸るディープ・ボイスを活かしたサウンドは、基本的にはWHITESNAKE辺りからの影響を伺わせるヒンヤリとした哀感を身に纏うブリティッシュHMなのですが、そこにメタリックなエッジの鋭さや、ライブでの大合唱を誘うキャッチーなコーラス・ワーク、そして若きギター・ヒーロー、ダグ・アルドリッジのフラッシーなGプレイといった、LAメタル仕込みの華やかなエッセンスが加わることで、英米混合バンドたるLIONならではの個性が眩い輝きを放ちます。 特にアップテンポのHMナンバー④は必殺の名曲。今は亡き日曜洋画劇場で繰り返し放送されていたB級アクション映画『処刑ライダー』劇中歌で、LIONの存在なんぞまるで知らなかった時分から「イカス曲だなぁ!」と痺れまくっていただけに、これが彼らの手による楽曲だったと知った時は感激もひとしおでしたよ。他にも重厚な②、バンドの代表曲のリメイク⑥、ブリティッシュ・ボイスが冴え渡る⑦、本編ラストをアグレッシブに締め括る⑨と、収録曲はどれも逸品ぞろい。いや、もしかすると今日びの若いリスナーには地味に響くやもしれませんが、そこで手放なすのはぐっと堪えて、もう数年熟成させた後で改めて聴き直してみると、芳醇な味わいに気付いてガツンとやられることも案外あるのではないかと。
LIVING DEATHが、引き続きプロデューサーにラルフ・ヒューベルトを迎えて制作、AAARRG RECORDSから’88年に発表した4thアルバム。 布陣は前作と同じなのに一聴して明らかな音楽性の変化に加え、発表後にケルヒ兄弟とそれ以外のメンバーがバンド名の権利を巡って法廷闘争を繰り広げた泥沼の分裂劇の悪印象とが相俟って、今に至るも芳しくない評価に晒され続けている本作。斯くいう自分も初めて聴いた当時は、妙に整理された音作りといい、迸る狂気を抑え気味に中途半端に歌おうとするトーステン“トト”ベルグマンのVoといい、ジャーマン・スラッシュ・メタル史に残る傑作だった前作『PROTECTED FROM REALITY』に比べ、ヨーロッパ的ダークネスや聴き手の神経を逆撫でするようなトンガリ具合が大幅に減退してしまったサウンドには、圧倒的「コレジャナイ」感を覚えたクチなのですが。 とはいえ、発表から30年以上が経過して最早こちらも「ジャーマン・スラッシュ斯くあるべし!」的な面倒臭い拘りが薄れて久しい昨今。フラットな気持ちで付き合ってみると、これが案外楽しめてしまうんですよ。本作がスラッシュ・メタル・アルバムであることは間違いないですし、一緒にシャウトせずにはいられないキャッチーなギャング・コーラスを伴って突っ走る①や、不穏にかきむしられるGソロが印象的な③、クロスオーバー・スラッシュ的な炸裂感をもって畳み掛ける⑦辺りは、改めて聴き直すことでそのカッコ良さを再発見した楽曲です。 前評判を耳にして敬遠されている方も、案外聴いてみたら気に入る1枚かもしれませんよ。
2ndフル『MENACE OF SOCIETY』を以て、ここ日本で一躍評価を高めたLIZZY BORDENが、リジー曰く「新作が出るまでズーっとLIZZY漬けなって欲しい」との目的の下、次のアルバムまでの繋ぎとして'87年に発表したミニ・アルバム。 日本盤とUS盤とでは内容が異なっており、JEFFARSON STARSHIPの代表曲“WHITE RABIT”や、BITCHのベッツィ・ウェイスとリジーの「美女と野獣」デュエットが楽しいTUBESの“DON’T TOUCH ME THERE”といったカヴァー曲①②、及び新曲③④に関しては両盤共通な一方、日本盤はB面サイドに国内未発売だったデビューEP『GIVE ‘EM THE AXE』を丸ごと収録。個人的に本作の購入動機はこれ目当てだったぐらいでしてね。 キャッチーな表題曲⑤、リジーの個性的なハイトーン(歌の巧くなったオジー風)が勇ましい曲調に花を添える⑥、切れ味鋭く切り込み、劇的にハモるツインGの威力がガッツポーズ物のスピード・ナンバーの名曲⑦、バンドの名を一躍HR/HMシーンに広めるのに大きく貢献したRAINBOWの代表曲“LONG LIVE ROCK’ N ROLL”のカヴァー⑧等、『MENACE~』以降の作品よりも明確に欧州風味の正統派HM路線が志向されている楽曲の数々がカッコイイの何のって。勿論、バラード風に始まり、印象的に歌う2本のGを伴ってノリ良く駆け抜ける③のような新曲の出来栄えもお見事ではありますが。 本編全体に占めるカヴァー曲の割合の高さや、3分未満の楽曲がテンポ良く繰り出されていく構成といい、全体的に肩の力を抜き、バンド側も楽しんでレコーディングを行ったであろうことが伝わって来る1枚ですね。
「リッチー・ブラックモアRAINBOWを再始動」「シンガーは無名の新人ロニー・ロメロに決定」との報に触れても、ロニーもコージーも亡き今「もう遅かりし由良之助」と今一つテンションが上がらず。ところがLOUD PARK でそのロメロが所属するLORDS OF BLACKのパフォーマンスを目撃し、リッチーのお眼鏡に適ったのも当然の彼の歌唱力と、何より楽曲の素晴らしさに感銘を受け、慌てて日本デビュー作たる本2ndを買いに走った次第で。 劇的な序曲①が、コーラス部分でテンポアップする曲展開が胸熱な②へと繋がって行くOP構成が物語る通り、本作に託されているのはRAINBOW直系の様式美パワー・メタル。これに限らず本編には、コブシを効かせた歌い回しと声質が確かにロニーっぽいロメロの歌唱が映えるタイプの楽曲がズラリ揃っていて、バンドの中核を担うトニー・ヘルナンド(G)の作曲センスの高さが伺えます。GITで学んだというテクニカルなGの腕前のみならず、パワフルな④、憂いを湛えた⑧、更には10分に迫るドラマティックな大作ナンバー⑨のような重厚な楽曲においては、叙情的なKeyを奏でてコッテリ感緩和に努める等、八面六臂の大活躍をみせるこの人こそ本作のMVP。 そうした彼の曲作りの手腕と、ロメロの力強い歌唱とが理想的融合をみたのが怒涛の疾走ナンバー⑫。LOUD PARKでもライブの締めに演奏され、個人的にアルバム購入を決心する切っ掛けともなった問答無用の名曲っぷりで、年間ベスト・チューン候補ですよ。 全体的に硬さの感じられるロメロのVoに、もうちょい余裕というか表情が出て来ると、尚良くなるように思えますが、ともあれ、伸びしろ十分な充実作であることは確かです。