全英チャート第4位に食い込むヒット作となった7th『WINGS OF HEAVEN』の成功を受け、より「売れること」を意識して制作された'90年発表の8thアルバム。 プロデューサーに名手キース・オルセンを起用し、彼が所有するLAのスタジオでレコーディング。共作者としてジム・バランスやラス・バラード、スー・シフリンといった売れっ子ライター陣が名を連ね、おまけに出来上がったアルバムのタイトルは『GOODNIGHT L.A』・・・これで不安を感じないファンはおらんだろ?っつーぐらいMAGNUMらしからぬ要素てんこ盛りの本作だが、意外にもクオリティの方は高い。 ざっくりと歯切れの良いHM成分の増量と引き替えに、ブリティッシュ然としたウェット感は薄れてしまったものの、ボブ・カトレイの極上の歌声と、ト二ー・クラーキンが生み出すメロディのフックに鈍りはない。大味なノリの①②はともかく、マーク・スタンウェイが奏でるKeyを活かして物悲しくもドラマティックに盛り上がる③以降は、キャッチーなHMナンバー④、都会の夜景が目に浮かぶアーバンなバラード⑤、MAGNUM版“BORN IN THE USA”(?)といった趣きの⑦、力強く高揚感に満ちた⑧、鳴り物を取り入れ快活に弾む⑨、まろやかでソウルフルなボブ・カトレイの歌声が引き立つ⑩等、従来のMAGNUM節と、このアルバムならではの新味が巧みに溶け合わされた魅力的な楽曲が並ぶ。何より、へヴィ・メタリックな疾走感とMAGNUMらしい高いドラマ性を兼ね備えた大トリ曲⑪のカッコ良さはガッツポーズ級。 流石に真っ先に聴くべきMAGNUMの代表作とは思わないが、このクオリティは実に立派。
'18年発表の最新スタジオ・アルバム。前作『SACRED BLOOD“DIVINE”LINE』から2年足らず、リ・レコーディング曲を含むバラード集『THE VALLEY OF TEARS』からは僅か1年のブランクでリリースという、他のベテラン・バンドにも見習わせたいフットワークで活動を続けるMAGNUM。長らく三本柱の一柱だったマーク・スタンウェイ(Key)と、再結成以降のバンドの土台を支え続けたハリー・ジェイムズ(Ds)を失いながらも、本作の完成度の高さには全く揺るぎがないのですから、トニー・クラーキン(G)とボブ・カトレイ(Vo)の看板コンビの旺盛な創作意欲には脱帽ですよ。 音楽性に大きな変化は見受けられず、大英帝国産の貫禄と威厳をその身に纏わせつつも、周囲を睥睨するよりも聴き手に寄り添い、そのハートを芯からポカポカと温めるかのような「遠赤外線メタル」ぶりも健在。マンネリ?とんでもねぇ。比較的ハードな方向に振られていた前作に対し、今回はツアーで得た経験が曲作りに反映され、ノリ易いテンポといい、観客の合唱やバンドとの掛け合いが盛り上がりそうなパートを組み込んだ曲構成といい、全体的にライブ映え重視の楽曲が数多く並んでいるのが新鮮です。 勿論そのことでメロディのフックやドラマ性が薄まる下手を彼らが打つ筈もなく、特にアルバム表題曲である雄大なエピック・チューン⑤は本作の魅力が集約された逸品。この曲に限らず、サウンドの気品とファンタジックな抒情性を効果的に引き上げる、新加入のKey奏者の良い仕事ぶりが光っていますね(カトレイの人肌の温もりを伝えるVo、クラーキンの滋味溢れるGの素晴らしさい関しては今更言及するまでなく)
前作『ESCAPE FROM THE SHADOW GARDEN』が欧州各国のアルバム・チャートで軒並み好リアクションを獲得し、更にそれに伴うツアーもライブ盤をリリースする程の評判を呼ぶなど、目下、80年代以来で訪れた2度目の全盛期を謳歌中のMAGNUMが、その余勢を駆って'16年に発表した最新スタジオ作。 相変わらず目のご馳走と言うべきロドニー・マシューズ謹製アートワークが内容の素晴らしさにお墨付きを与えてくれる本作ですが、ここ数作に比べるとシンフォニックな味付けは控えめ。その分、トニー・クラーキン(G)がクリエイトするサウンドはハード&へヴィな方向に振れていて、いつになく青筋立て気味のボブ・カトレイ(Vo)の歌唱と、リズム隊が叩き出すタメの効いたビートに思わず背筋がシャンと伸びてしまうOPナンバー①は、本作のそうした特色を印象付けてくれる逸曲ではないかと。 さりとて、今更彼らが大雑把にエクストリーム・メタル化する筈もなく、聴き手を包み込むような包容力も、威厳と格式に身が引き締まるような思いのドラマ性も、当然の如く厳然として健在。例えて言うなら本作における変化は、「英国紳士が、着ていたスーツのネクタイを緩めて腕まくりをした」程度のものなのですが、たったそれだけの行為でも「こやつ、只者ではない…!」と相手を圧倒できるのが紳士たる証であると。例えが分かり辛いですが。優美且つ壮大な②、ライブ映えするコーラスを有した⑦、MAGNUM印の劇的な名曲⑨、ラストを厳かに締め括る⑩といったところをハイライトに、現在のバンドの絶好調ぶりが如実にクオリティに反映された1枚。頼むから来日公演に繋がって欲しいなぁ。
JUDAS PRIESTが憑依したかの如き、LAのバンドらしからぬ劇的なブリティッシュHMサウンドを詰め込んだ1st『IN THE BEGINING』でデビューを飾ったMALICEなれど、プロデューサーをマイケル・ワグナーからマックス・ノーマンに代えた本2ndアルバムにおいては、逞しさを増し「ロブ・ハルフォードのそっくりさん」から「ロブ・ハルフォード型ハイトーン・シンガー」へとクラス・チェンジを果たしたジェイムズ・ニールの歌唱、ミッドテンポのヘヴィ・チューンが中核を成す本編の構成等、全体的にソリッドなアメリカンHM(LAメタル)テイストが強化されている印象を受ける。 このJUDAS PREIST成分の減量をプラス/マイナスどちらに評価するかは人それぞれだが、個人的には、身も心もJUDAS PRIESTになりきった“HELLRIDER”や“GODS OF THUNDER”のような強力なキメ曲が見当たらなくなってしまった点は明らかに減点要素。 それでも、挑みかかるようなOPナンバー“SINISTER DOUBLE”を手始めに本作で聴くことが出来るのは紛れもない正統派HMサウンドであり、光沢を帯びた音色で構築美を備えたメロディを奏でるツインGも相変わらずの存在感を発揮。ダークで重厚な“VIGILANTE”、MEGADETHのWデイヴがゲスト参加しているアグレッシブな“CHAIN GANG WOMEN”(ギタリストのジェイ・レイノルズは一時MEGADETH入りが取り沙汰されたりしてましたね)、そして本編中最も濃厚なJP風味を発散する“MURDER”といった、前作を気に入った人を失望させることのない楽曲の数々を収録したアルバムのクオリティは実に堂の入ったもの。 近年、再結成を果たして活動中とも聞くが、だったら新作を作って欲しいなぁ。
ここ数作のコンパクトにまとめられた楽曲重視路線から一転、久し振りに重厚長大なコンセプトを全面に押し出した、'07年発表の記念すべき10thアルバム。 コンセプト重視といえば、30分近くに及ぶ大作組曲“ACHILLES,AGONY AND ECSTASY"を収録した7th『THE TRIUMPH OF STEEL』を思い出すが、全体的にメロディの弱さが目立ったあのアルバムに比べて、今回は1曲1曲がきっちりと練り上げられていて、メロディの煽情度も高め。長尺曲で圧倒するのではなく、キャッチーなHMソングを、SEやナレーション、インスト曲で繋ぎ合わせ、映画のサウンド・トラックの如き壮大さを演出するという手法が取られていて、ジョーイ・ディマイオが『THE TRIUMPH~』から得た教訓をちゃんと本作に活かしている事が判る。例えるなら、6th『KINGS OF METAL』に収録されていた笑撃・・・もとい、衝撃的な組曲“THE WARRIORS PRAYER"~“BLOOD OF THE KINGS"の流れをアルバム全編で展開してみた作品? また、ここのところ「メタル応援歌」的な歌詞の比率がどんどん高まっていただけに、本腰を入れてジョーイが神話世界を題材に取ってスケールの大きな歌詞を書き上げてくれた点もファン的には嬉しい限り。 ただ、疾走曲が並ぶ前半に対して、(そのクオリティは兎も角)似通ったテンポのへヴィ・チューンが並ぶ後半はSEやナレーションの長さと相俟って明らかにダレる。ので、個人的には通して聴くのは遠慮させて貰って③⑤⑥⑦⑩⑫といった楽曲のみを摘み食いしていきたい1枚。