『ワイルドギース』に『ジャガーノート』に『カサンドラクロス』…70年代イギリス製アクション映画には欠かせない俳優だった(晩年は『ハリーポッター』シリーズの初代ダンブルドア校長役で知られる)故リチャード・ハリス。プログレ・バンドのBEGGERS OPERAやドナ・サマー、グレン・キャンベルなんかもカヴァーした名曲“MACARTHUR PARK”を聴いてこの人のシンガーとしてのキャリアに興味を持ったところ、折よく過去のカタログがリイシューされたので、とりあえず購入したのが'71年発表の本3rdソロ・アルバム。 既成曲のカヴァーや書下ろしの新曲が入り混じる本作で聴けるサウンドは、もちろんHR/HMとは相当距離があるポピュラー・ミュージック。ただ、離婚により息子と離れ離れになってしまった父親の「我が子への想い」をコンセプトに据え、詩情豊かに綴られるストーリー仕立ての構成と、ハリスの包容力を感じさせるジェントリーな歌声が組み合わさることで、アルバムはプログレッシブ・ロック作品にも通じるドラマ性とメリハリを獲得。特に、哀愁に満ちたヴァースからサビにかけての劇的な曲展開が胸を打つ“PROPOSAL”、躍動感溢れるテンポ・チェンジが効果的な“LIKE FATHER, LIKE SON”や“THIS IS MY LIFE”、エルヴィス・プレスリーもカヴァーしたヒット・シングル“MY BOY”といった、ハリスのトム・ジョーンズばりの(それこそ『007』の主題歌を歌ったらハマリそうな)熱唱が炸裂する楽曲は、息苦しい程の盛り上がりを呈していて実に感動的ですよ。 右から左へは聞き流させない、ROBBY VALENTINE、MEATLOAFあたりがイケル方なら間違いなく楽しめる1枚ではないでしょうか。
音楽一家に生まれ育ち、若くしてセッション・ミュージシャンとして名を上げると、'88年に行われたオーストラリアの建国200年祭のテーマ・ソングを歌ったことで知名度大幅アップ。'90年にソニーとの契約を交わし、'91年に1st『HEAVEN KNOWS』でデビュー。シングル“NOT A DAY GOES BY”が全豪チャートTOP5入り、アルバムもチャート最高第3位の大ヒットとなる。 その後も定期的にアルバム・リリースを重ね、近年だと、'17年に同郷のシンガー/ソングライター、ジャック・ジョーンズと組んで発表した、米ウェスト/コーストの名曲にトリビュートを捧げるカヴァー曲集、その名も『CALIFORNIA DREAMING』がアルバム・チャートTOP10に入るヒットを記録している模様。
アコースティカルな『TEN INVITATIONS FROM THE MINSTRESS OF MR. E』、ジャジーな『SWING SHIFT』に続く、 ルーツ・ミュージック三部作のトリを飾る作品として「ブルーズ」をテーマに制作、'99年にリリースされた リック・エメット6枚目のソロ・アルバム。(ちなみに国内盤が発売された最後の作品でもある) オール・インストだった『TEN~』や、本格的なジャズ作だった『SWING~』に対し、今回は歌入り、 しかもアップテンポの④⑩を収録するなど、よりハードな作風ということで、前2作に比べグッと取っ付き易い内容に 仕上がっていると言える本作だが、飽くまで直球勝負の「ブルーズ」であり、「ブルージーなHR」というわけではないので、 その渋さゆえ、地味(退屈)に感じてしまう若いメタル・ファンも多いかもしれんなぁ、と。 ただ、エメット師匠がノリノリでプレイしている姿が目に浮かぶような本編には、楽しげな雰囲気が充満していて、 何より、彼の説得力と表現力に満ち溢れたVoとGのお陰で、最後まで退屈することなく聴き通す事が出来る。 特に、TRIUMPH時代の名曲“LITTLE BOY BLUES"を彷彿とさせる、師匠の哀メロ職人としての腕前がスパークしまくった、 絶品のバラード・ナンバー⑥⑩におけるエモーショナルな泣きっぷりは強烈極まりなく、 この2曲を聴くためだけにでも、本作は購入する価値が大いにあるというもの。 派手さ皆無の落ち着いた作風ゆえ、逆にリック・エメットという希代の名ギタリストの実力がハッキリと確認できる1枚かと。
リック・エメットがクラシック・ギターに挑んだ(と言うにはリラックスした作風だが)オール・インスト・アルバム。 ロケンロール!的エネルギーや激しさは皆無の音楽性なれど、リック・エメットのアーバンな雰囲気漂わせた絶品のギター・プレイと、叙情メロディに彩られた楽曲の数々は、TRIUMPH時代の“LITTLE BOY BLUES"、ソロになってからの“OUT OF THE BLUE"といったスロー・ナンバーにグッと来た経験の持ち主なら、時が経つのも忘れてドップリと浸れる事をお約束する一枚。 長い夜のお供にお薦めです。
歌って良し、弾いて良し、書いて良しの三拍子揃った人間国宝級ギタリスト、TRIUMPHのリック・エメットが'24年に発表したソロ・アルバム(レコーディング自体は'12年に行われていた模様)。先生のソロ作が国内発売されるのってもしかして前世紀ぶりぐらいじゃないでしょうか?あまりに嬉しいので、せっかく解説書でご本人に貴重なインタビューを敢行してくれているのに、再結成TRIUMPHの現状とか、バンドとして新作をリリースするつもりはあるのかとか、重要事項に全く触れてくれないことに対する不満はグッと飲み下しておきますよ。(もしかしてそっち関連の話題はNGだったりしたのでしょうか?) それはともかく肝心の内容の方は、TRIUMPH時代の名曲の数々をアコースティック・アレンジで蘇らせたセルフ・カヴァー・アルバム。押さえるべきとこがきっちりと押さえられた納得の選曲に、“NEVER SURRENDER”や“ORDINARY MAN”“FIGHHT THE GOOD FIGHT”辺りを筆頭とする、アレンジが変わっても輝きは変わらない名曲としての強度、そして何より「円熟味を増すこと熟成されたワインの如し」なエメット先生のエモーショナルな歌声と一音入魂のアコギの妙技が揃えば、そりゃまぁ素晴らしい内容になることは分かりきっていたこと。そもそもこっちの予想を超えてくるタイプの作品ではないですし、ぶっちゃけリメイクは再結成TRIUMPHで演って欲しかった…と思わなくもないですが、贅沢を言っちゃ罰が当たりますからね。 名人の健在ぶりに思わず顔が綻ぶ1枚。TRIUMPHの国内盤カタログが入手困難な現在、これを切っ掛けに入門してくれるファンが一人でも増えることを願って止みませんよ。
紆余曲折はあったものの結局ト二ー・ムーアがシンガーの座に出戻り、名盤『THUNDERSTEEL』リリース時のラインナップ(勿論、マイク・フリンツも健在)でレコーディングが進められ、'11年に発表されたニュー・アルバム。 ここ数年のトニー・ムーアの歌声には衰えの兆候が見受けられたので(例えば大村孝佳のソロ作とか)、「そんなんでパワー・メタル路線に戻って大丈夫かよ・・・」と懐疑的にならざるを得なかったのですが、ところがどっこい、息の合ったツインGと、名手ボビー・ジャーゾンベクが叩き出すパワフルなリズムに乗って、トニーの朗々たる――衰えなんぞ微塵も感じさせない――歌声が疾走するOPナンバー“RIOT”が切れ味鋭く始まった瞬間、そうした不安は跡形もなく吹き飛ばされてしまいました。流石バンド名を関する自信作だけのことはあり、数ある“THUNDERSTEEL”風疾走曲のなかでも、この曲は本家に迫る勢いのカッコ良さ。またリーダー・トラックとして先だっての来日公演や、東日本大震災のチャリティー・アルバムでも披露されていた“WINGS ARE FOR ANGELS”や、より表現力を増したVoの歌唱が映える哀愁度満点のHRナンバー“FALL BREAK ME”も、同曲に匹敵するインパクトを放つ名曲。 中には、折角のシリアスな曲調をおちゃらけたサビメロで崩してしまう楽曲もあったりして、パワー・メタル・スタイルへの回帰を意識する余り少々肩に力が入り過ぎてる感が無きにしも非ずですが、しかし間違いなく、ここ数年ではベストの1枚じゃないかと。