アメリカン・メロディアスHRシーン屈指の実力派シンガー、スタン・ブッシュ、'10年発表の(現時点での)最新作は、プログレ・バンドばりに美麗なアートワークから高まる本編に対する期待を微塵も裏切ることのない、前作『IN THIS LIFE』から2作続いての大傑作。 スタンの絶品の歌唱と、心打つキャッチーな哀メロ、それにHR然としたエッジという、日本人の琴線に触れる要素を満載にしたサウンドは、よりポジティヴなフィールを強く打ち出したことで、メロディの泣きや哀愁がやや薄まりをみせたような気がしなくもないですが、まぁそんなことは些末なことです。高揚感を伴ってガツンとカマされる②や、映画『トランスフォーマー』(アニメ版)の主題歌として知られる自身の代表曲をモダンなアレンジでリメイクした⑫なんかも素晴しいのですが、圧巻は、凛としたピアノの旋律が良いアクセントとなっているバラード⑤、哀メロとハードネスが巧みにブレンドされた⑦、熱唱が胸に沁みるドラマティックなアルバム表題曲⑧といった「これぞスタン・ブッシュ!」な名曲が並ぶ本編中盤。 何度聴いても飽きることのない力作ですが、そろそろ新作も聴きたいので一つヨロシク。
映画、ドラマ挿入歌、日本ではトヨタやマツダのCMソングを歌い、ルー・グラムが抜けたFOREIGNERの後任シンガーに名前が挙がったこともあるというメロディアスHR界の信頼と実績の優良ブランド、スタン・ブッシュ(Vo)。本作は彼が’93年に発表したソロ名義では2枚目となるアルバム。国内盤はゼロ・コーポレーションから発売で、同レーベルが彼の作品を扱ったのはこれが最初でした。(次々作『HIGHER THAN ANGELS』(’96年)とジャケット・デザインがそっくりでちょっと混乱しますけども) アメリカのHR/HMシーンがグランジ/オルタナティヴ・ロックのトレンドで塗り潰されようと、今回も自身の得意とするメロディ重視のアメリカン・メロハー・サウンドを真摯に追求。この人のカタログは目を瞑って選んでもハズレを引くことはない(そもそも当たりアルバムしか作っていない)のですが、それはJOURNEYのジョナサン・ケイン、ブライアン・アダムスやKISS等との仕事で知られるジム・ヴァランス、AXEのボビー・バースといった、共同プロデューサー&ソングライターとして名を連ねる錚々たる顔触れを見た時点で、早くも完成度の高さを確信させられてしまう本作においても同様です。 爽やかに聴き手を癒す③、ポジティブなエネルギーに満ちた⑤、高揚感を伴うキャッチーなサビメロが絶品⑨、タイトルからして名曲の風格漂うバラード⑩等々、収録曲はスタンの情感豊かな歌声が映える逸品ばかりな上に、後の作品と比べるとビートを効かせた躍動感溢れる楽曲の比率が高めゆえ、「AOR/産業ロックはちょっと…」という向きにもお薦めできる1枚ではないかと。
TVドラマや『13日の金曜日』等の映画サントラ、セリーヌ・ディオンにエディ・マネーといった有名アーティスト、メタル者的にはTRIUMPH、エリック・クラプトン、リー・アーロン、ALIASへのヒット曲の提供、更には自ら制作した3枚のソロ・アルバム――デビュー作『DANGEROUS GAMES』('83年)、母国のAORチャート年間第一位を獲得した大ヒット曲“ONE CHANCE”を収録する2nd『WINDOWS TO LIGHT』('86年)、現時点で最後のソロ作である3rd『UNDEWTOW』('92年)――もチャート上位へ送り込む、書いて良し歌って良しの売れっ子カナダ人シンガー/ソングライター。 ピーター・フレデッドとMETROPOLIS名義で制作した『THE POWER OF THE NIGHT』('00年)以外にこれといった音源を発表していないのが残念。
60年代末期、アメリカはイリノイ州シカゴにおいて誕生。 REO SPEEDWAGONのデビュー作で歌っていたテリー・ルトゥレル(Vo)が加わる等して陣容を整え、バンド名をPEGASUSからSTARCASTLEに改めると活動が一気に本格化。 ライブで腕を磨きつつ制作したデモテープに収められていた名曲“LADY OF THE LAKE”が評判となり、レコード契約を手に入れた彼らは'76年に1st『STARCASTLE』でデビュー。この時のラインナップはテリー以下、スティーヴ・ハグラー(G)、ハーブ・シルト(Key)、スティーヴ・タスラー(Ds)、ゲイリー・ストレイター(B)の5人で、この顔触れは2nd『FOUNTAINS OF LIGHT』(邦題『神秘の妖精』'77年)から3rd『CITADEL』(邦題『星の要塞』'77年)、そして最終作の4th『REAL TO REEL』('78年)に至るまで変わる事はなかった。 質の高い作品を作り続けたにも関わらず大きな成功とは縁のなかったバンドは'80年に一旦解散するが、その後も離散集合を繰り返し、'07年にはYESのリック・ウェイクマンらをゲストに迎えた5th『SONG FOR TIME』を発表している。
2nd『FOUNTAINS OF LIGHT』リリースから僅か1年足らずという短いインターバルで制作され、'77年に発表された3rdアルバム。(邦題は『星の要塞』) その『FOUNTAINS~』同様、ロイ・トーマス・ベイカーがプロデューサーとして再登板。SF系の映画や小説の仕事等で知られるティム&グレッグのヒルブラント兄弟が手掛けた芸術的なまでの美しさを誇るファンタジックなジャケット・アートワークも目を惹く本作は、壮大な音作りから、高度な演奏技術が活かされた技ありのアレンジ/曲展開と、ポップなメロディ・センスとが融合した楽曲に至るまで、YESフォロワーの座から脱し、STARCASTLEならではの個性的なサウンド・スタイルを確立した名盤としてファン人気が特に高い1枚として知られる。 前作ではやや冗長な部分も見受けられた大作主義(プログレ風味)を抑制。ポップな躍動感やボーカル・ハーモニーを増強し、コンパクトに圧縮された楽曲群はインスト・パートからテリー・ルトゥレルの「歌」へと明らかにその比重を移し、BOSTONやSTYXを思わせるメロディアスHRの側面がグッとクローズアップ。また、曲展開が整理されたことで、キャッチーに磨き上げられたサビメロもこれまで以上に素直に胸に響くようになった。 爽やかで抜けの良い“CAN'T THINK TWICE”は新たなSTARCASTLEの魅力を開拓する名曲ですし、従来のプログレ風味と新たなポップ風味とが巧みに溶け合わされた“EVENING WIND”や“WHY HAVE THEY GONE”辺りは、このアルバムならではの個性を備えたナンバーとして聴き応え十分。 STARCASTLE入門編にどうぞ。
プロデューサーにQUEENとの仕事で知られるロイ・トーマス・ベイカーを迎えてレコーディング作業が行われ、'77年に発表された2ndアルバム。(邦題は『神秘の妖精』) この人選の効果は覿面に本編に反映。繊細な表現力を増したVoの歌声(ジョン・アンダーソンっぷりに拍車がかかってます)を筆頭に、名工が手掛けたガラス細工のごときコーラス・ワークに彩られた、スペーシー且つ壮麗なる楽曲群が曲間を設けず流れるように展開していく構成、そして壮大にして奥行きを感じさせるサウンド・プロダクションetc・・・と、前作にそこはかとなく漂っていた疾走感やダイナミズムが薄まった代わりに、上品にソフティケイトされたポップなメロディと、細部まで丹念に練り上げられたアレンジの数々といったプログレ・ハード的な要素を一層強調した作風は、良くも悪くも「YES化」が更に進んだとの印象を受ける。 メロディの質や演奏など、パーツ毎に取り出せば耳惹かれるフックが備わっているのに、楽曲総体だと今ひとつ締りに欠ける・・・というウィークポイントが露呈してしまっていますが、それでも、美しくファンタジックな曲調に何やらフワフワとした心持ちになる“TRUE TO THE LIGHT”、物悲しいイントロからスタートする“PORTRAITS”、立体的に組み上げられたボーカル・ハーモニーにうっとりと聴き惚れる“DIAMOND SONG(DEEP IS THE NIGHT)”のような楽曲が連続する本編後半の魅力は、他にはない味わい。 本作もまた高いクオリティを有する1枚であることは間違いないです。
90年代に一旦は国内盤がCD化されたものの、その後は長らく廃盤状態が続いていたSTARCASTLEのカタログが先日、漸くリマスター&紙ジャケ再発。しかし何故かそのラインナップから外されてしまっていた'78年発表の4thアルバム。 従来のイマジネーションを刺激するファンタジックなイラストから一転、シンプルなグループ・ショットが用いられたジャケット・アートワークへの変化が端的に示すように、プログレ・ハード路線の前3作がクオリティに見合うだけの成功を収められなかったことに失望したメンバーが自棄になったのか、はたまたレコード会社から「もっと売れるアルバム作れやコラ」とプレッシャーがかけられたのかは定かではないが、ともかく一気にAOR/産業ロック方面へと踏み込んだ内容に仕上がっている本作。 Keyサウンドが脇へと下がり、スケール感やドラマ性を大幅に減じた曲展開、壮麗さを薄れさせたコーラス・ワーク等、全体的にシンプルにまとめられた小粒な作風には物足りなさを覚えずにはいられませんが、メンバーの技量は確かな上に、繊細なアレンジの魅力やポップなメロディ・センスも相変わらず冴えているとくれば、多少の路線変更があろうともつまらない作品が出来上がるわけがありません。 取り分け、叙情味の効いたピアノ・バラード“SONG FOR ALAYA”と、本編中最もプログレ・ハード・テイストを色濃く残しているラスト・ナンバーにして、濃厚な泣きのGプレイが炸裂する“WHEN THE SUNSHINE AT MIDNIGHT”は、このアルバムならでは名曲。 しかし結局、本作もまたセールス的には全く振るわずバンドは解散の道を選択する事となるでありました。合掌。(で、後に再結成)
ジョン・アンダーソン似のVoの歌い回し、泣きや哀愁より上品なポップ・センスが強く出たメロディ、大作主義を志向しつつも、起承転結を有する構築感よりも感性の赴くままに膨らまされた「奔放さ」の方が支配的な曲展開等、さしてYESに詳しくない我が身ですら「あぁ、YESぽいなー」と感じられる要素がてんこ盛りに詰め込まれた、'76年発表のセルフ・タイトルのデビュー作。 個人的にYESは少々苦手としているのですが、にも関わらず本作を思いの外楽しむ事が出来たのは、リード楽器の役割を果たすB、よく歌うG、カラフルなKey、変拍子を絡めたリズム・ワークで長大な曲展開を支えるDsといった、高い演奏能力を有する楽器陣の存在のみならず、アメリカのバンドらしく全編を壮麗に彩る美しいボーカル・ハーモニーの存在と、プログレ・テイスト以上にポップな大衆性が重視された作風ゆえかな、と。(逆に本家YESファンやプログレ愛好家には物足りないか?) 特にOPナンバー“LADY OF THE LAKE”は、11分越えの大作曲ながらもどこか親しみ易い響きを湛えた、スペーシー且つドラマティックな曲展開が堪能できるバンドの代表曲の1つ。また、美しいアコギをフィーチュアしつつスリリングに展開していく“ELLIPTICAL SEASONS”、疾走感溢れる楽器陣のインタープレイが気持ち良い“FORCES”なんかも、このバンドが何者なのかを判り易く示してくれる逸品かと。 後の作品と比べると、70年代HR的なハードネスやダイナミズム(「若さの迸り」ともいう)も感じられ、漂って来る初々しい雰囲気が如何にもデビュー作らしくて好感が持てる1枚。
マイク・スラマー(G)の立ち上げたメロハー・プロジェクト、STEELHOUSE LANEがデビュー作『METALIC BLUE』の高評価を受けて正式バンド化。『METALIC~』ではバックアップ役に留まっていたマイクもメンバーとしてラインナップにその名前を連ね、これが真のデビュー作とも言われる2nd『SLAVES OF THE NEW WORLD』は'99年に発表されました。(つってもこれが最終作?) サウンドの方は、重厚なプロダクションの下、カラッとポップに弾けるメロディック・ロック路線を継承しつつも、「バンドらしさ」を強調するためか、前作よりもグッとハードネスを前面展開。確かにバンドとしてのまとまりの良さはガッツリ伝わって来ますが、反面、メロディのフックはやや弱まったかな?とも。 マイク・スラマーというミュージシャンの「音楽半生ベスト盤」的様相を呈していた前作に比べてしまうと多少の聴き劣りは止むなしか・・・等と舐めて掛かったら、どっこい。キース・スラック(Vo)のソウルフルな歌声が映えるブルージーな④、爽快な躍動感に満ち溢れた⑤⑫、STREETS時代の楽曲のリメイク⑧⑪、そしてマサ伊藤もイチオシのバラード⑥etc・・・と、聴き進める内に収録楽曲の魅力はグングンUP。その決定打とも言うべきポップな名曲⑩にトドメを刺される頃には、本作の評価は「前作に勝るとも劣らぬ力作」というものに落ち着いておりました。
スティーヴ・ウォルシュ(KANSAS)が結成したSTREETSをキャリアの出発点に、その後もメロディック・ロック街道一筋に歩んで来た職人、マイク・スラマーが新たに立ち上げたバンドの'98年発表のデビュー作。 尤も、マイク自身は正式メンバーとして名は連ねておらず、彼が担当しているのは、バンド・メンバーの選抜からアルバムのプロデュース、そして楽曲提供といった、つんくとか秋元康的な裏で全てを牛耳るビッグボスの役回り(違うか)。 ちなみに、その収録楽曲は半分が新曲、もう半分が、これまでマイクがHOUSE OF LORDS、HARDLINE、TOWERCITY、WALL OF SILENCE・・・等々の他アーティストに提供して来た楽曲のリメイクで構成されていて、いずれもアメリカン・メロディアスHRの模範的なシルエットを描き出す秀曲揃い。特にスカッとハジけるOPナンバー①は、雲一つない抜けるような青空の下でオープンカーをかっ飛ばす爽快感に満ち溢れ、アルバムに対する期待感を開巻早々にMAXまで引き上げてくれる名曲です(どこか聴き覚えがある⑩もお薦め)。 全体的に泣きや哀愁成分は薄めなれども、キャッチーに洗練された大陸産ハードポップ・サウンドは、これはこれで十分に胸躍るサムシング有り。巧いVoに巧いGを得て、全編に亘ってマイク・スラマーのメロディ職人としての匠の技が冴える1枚。
'91年、JAKEY(Vo)、YOSHIO(B)、JIRO(G)が中心となって東京にて結成、'92年にシングル『IN DISGUISE』を自主製作してデビューを飾る。 流動的なラインナップが足枷となって活動がなかなか安定しなかったものの、2ndギタリストを加えた5人編成となった時点でフル・アルバムのレコーディング作業を開始。『GYPSY OF THE NIGHT』と名付けられた1stフル・アルバムは'95年に発表された。 同作は海外のレーベルを通じて欧州でもリリースされるなど好評を博し、翌年にはMANDRAKE ROOT RECORDSが編纂するオムニバス盤『MAKE IT SHINE VOL.2』に参加(この時には4人編成に逆戻りしてた)、その後の躍進が期待されたが、どうも不安定なラインナップが最後まで足を引っ張ったようで、間もなく活動停止状態に陥っている。 '00年代にメンバーを一新して再結成を果たし、2ndアルバムのレコーディングがアナウンスされましたが、現在に至るも発表はない・・・筈。