歌舞伎メイクを施したメンバーの出で立ちや、日本の歴史/伝承を取り扱った歌詞を見ていると、一足先に日本デビューを飾ったイタリアのHOLY MATYRのことを思い出しますが、あちらが飽くまでベーシックなパワー・メタル・サウンドの上に立脚し、和風メロディはアクセント的な扱いだったのに比べ、こっちは琴や三味線、和音階をガンガン取り入れて、日本語の台詞でスタートするOPナンバーから、バンドのルーツを物語るアニメ『銀牙 -流れ星 銀-』の主題歌のカヴァーまで、もう全編和風メロディの雨アラレ。⑥なんてタイトルが“KAPPA”ですよ。これに失笑を漏らす人もいるでしょうが、(ホラー映画ばりの歌詞に反して)ジャジーなパートも組み込んだ曲調はどこかコミカルで、日本人が持つ河童のイメージとピタリ一致。こうした「色物」と受け止められかねないジャパネスクな題材とも真摯に向き合うバンドの姿勢には好感を持たずにはいられません。 特に「お祭りメタル」とでも評したくなる高揚感に満ち溢れた②や、シンフォニックなアレンジを纏って猛然と突進する③、雪女の物語を題材に取り上げ、激しくも悲哀に満ちたメロディが涙を誘う⑥といった楽曲は、「MELODIC DEATH METAL WITH JAPANESE FOLK ELEMENT」を標榜する彼らの真骨頂というべき名曲。 「初期陰陽座をもっと過剰にして、デス・メタルのエレメントとシンフォニックなKeyを加えた感じ」との説明(大掴みですが)にびびっと来たらお薦めの1枚。
MANOWARのジョーイ・ディマイオ閣下をして「彼らは素晴しいバンドだよね」と言わしめた (まぁ、リップサービスもあろうが)日本HR/HMシーンの至宝Xが、'91年に発表した3rdアルバム。 お耽美な雰囲気を漂わせたジャケット・アートワークといい、HM的なアグレッションよりも、中性的な繊細さや華麗さが 強調された印象の楽曲といい、いよいよ、Xというバンド名を聞いて連想されるイメージが、音楽的にもルックス的にも 完成された、彼らの代表作と呼ぶに相応しい本作。その象徴が、マッドな美しさに満ちたピアノ・インスト曲①を イントロ代わりにスタートする、アルバムのリーダー・トラックにして、バンドの代表曲②(海外のバンドが カヴァーしたりして話題にもなりましたっけ)。ダイナミックに疾走するリズム、その上を華麗に舞うツインGと、 劇的且つ流麗なピアノの音色、線は細いが悲壮なメロディを見事に歌いこなすVo、そしてドラマティックで シンフォニックなアレンジ・・・と、このバンドの持つ美点が全て凝縮されたかのような、名曲中の名曲です。 角が削り落とされた、ソフト過ぎる音作りには大いに不満が残るし(お陰で必殺曲“STAB ME IN THE BACK"の威力が半減)、 ロックンロール風味の増強とか、傑作『BLUE BLOOD』における“ROSE OF PAIN"に該当する楽曲がないため、 後半の盛り上がりが今ひとつだとか、前作と比べてしまうとやや聴き劣りする感が否めないものの、それでも、見た目だけの 凡百なビジュアル系バンドとの格の違いを見せ付ける、唯一無二の個性と比類なき完成度を、本作が誇っている事は確か。
専任Key奏者として藤山高浩をメンバーに加え5人編成となったX-RAYが(前作『TRADITION BREAKER』との間にEP『OUTSIDER』のリリースを挟んで)、'84年に発表した3rdフル・アルバム。 華やか且つキャッチーなKeyサウンドが加わった結果、X-RAYのカタログ史上、最もライトな内容に仕上がった本作は、殆ど「ハードポップ・ソング」と表現しても差し支えない“ANYDAY!ANYTIME!”のような元気溌剌なノリの楽曲も収録。流石にやり過ぎたと思ったのか、次作『STRIKE BACK』(名盤)では若干の軌道修正が図られHRテイストが再増量されていたが、個人的には“ANYDAY!~”は大好きな曲だし、本作も優れたアルバムとして愛聴させて頂いている次第。 少なからず1stや2ndを覆っていた垢抜けない雰囲気が完全に払拭され、万人にアピールし得るメジャー感を獲得した本編には、従来のハードネスと今作ならではのポップな新味が巧みに融合された“STARDUST WAY”、前2作を大きく上回る藤本朗の卓越した歌唱が圧巻のバラード“TELL ME ABOUT YOURSELF”といった、嘗てない洗練された空気を漂わす名曲の数々を収録。 また、これらの楽曲においてフラッシーに弾きまくりつつも、要所ではメロディをしっかりと聴かせてくれる湯浅晋の緩急を心得たGプレイも心の琴線に触れまくりですよ。
前作『IN ROCK WE TRUST』のジャケットの酷さは相当なもんでしたが、'85年発表のこの5thアルバムのジャケットも脱力さ加減じゃ負けてませんよ! そこは素直に負けとけよって話ですが。 加えて、我が世の春を絶賛謳歌中のLAメタル勢に感化されたカラフル&ヒラヒラ衣装を身に纏い(ことにレオナード・ヘイズの「着せられてる感」が半端ない)、外部ライターのペンによるポップな②を“オール・アメリカン・ボ~イ♪”と楽しげにパフォームするメンバーのお姿にハラハラと落涙を禁じえなかった初期Y&Tファンも多いことかと存じます。 しかしながら気楽な後追いファンとしては、本作も十分「有り」ですよ。前述の②は――Y&Tがこれを演らんでも・・・との思いを別とすれば――単純に優れた楽曲ですし、また、華やかに躍動する③、濃い口のブルーズ風味とは異なるアッサリめの哀愁漂わす⑤等は、前作で端緒を開いたポップ・メタル路線に更に大胆に踏み込んだ逸品ではないかと。 売れ線を装いつつも、デイヴ・メニケッティの歌と演奏からは相変わらず隠し切れないオーラが立ち上っていて、特にその真価は、Y&Tのお好みテープを制作する際には欠かすことの出来なかったドラマティックな泣きの名曲⑩において遺憾なく発揮されております。 これまでの作品に比べると若干パワーダウンした感は否めませんが、むしろパワーダウンしたにも関わらずこれだけのクオリティを保っている事実が、Y&Tの底知れぬポテンシャルを物語っていると思うわけで。
「歴代最高シンガー」との評価を得ていたマーク・ボールズが出戻って、'99年に発表された10thアルバム。 久々に「ライジング・フォース」名義を使用している本作ですが、それで何かが大きく変わったということは特になく、ここで聴かれるのは毎度お馴染みのイングヴェイ流HMサウンド。 ただ、今回彼がかなり気合を入れて派手に弾きまくっているのは確かで、「電撃戦」のタイトルに相応しいアグレッシブなOPナンバー“BRITZKREIG”、一転、ブルージーな泣きと哀愁を炸裂させる“BLUE”、そして三部構成からなる大作組曲“ASYLUM”等、攻めの姿勢と気迫が漲るインスト・ナンバーの数々を収録。またロックンロール系やポップなノリの楽曲が姿を消した本編も、ダークでクラシカルなHMナンバーで統一が図られており、こうした初期作を彷彿とさせる要素を端々で確認できる本作は、なるほど、「ライジング・フォース」の名を冠するに相応しいと言えるのかもしれません。 重厚壮大な“LEONARDO”、スピーディな様式美ナンバーのお手本のような“WIELD MY SWORD”や“HANGER 18, AREA 51”は、マークのコブシの効いた歌い回しと、目の覚めるようなハイトーンが琴線にビンビンと響きまくる名曲です。 70分オーバーの長丁場が全く苦に感じられない力作。個人的に、手放しで絶賛できるイングヴェイのアルバムはここら辺りまでかなぁ。
「RAINBOW四代目フロントマン」の肩書きも今は昔。最近じゃすっかり便利屋シンガー稼業が板に付いたドゥギー・ホワイトを迎えてレコーディング、'02年に発表した12thアルバム。 CDをトレイに乗せると表示される《16曲:73分》という超ボリュームに、いきなりテンションが下がります(苦笑)。最終的な絞込み作業をさぼったのか、とにかく仕上がったものを片っ端から収録していったような本編は、楽曲の出来・不出来の差がかなり大きい。というか、イングヴェイのアルバムでここまで収録各曲のクオリティにバラつきがあるのって初めてでは・・・。 ドゥギーのVoに関しても、伸びやかな歌唱はイングヴェイの作り出す楽曲に良くマッチしているのですが、勢い任せでフックに乏しい歌メロが彼の実力を十全に活かしきれているとは思えません。特に前半の楽曲にそれは顕著で、いっそのこと3曲目の“VALLEY OF THE KINGS”他、1、2曲を除くアルバム前半の楽曲はばっさりオミットして、9曲目の疾走ナンバー“IN THE NAME OF THE GOD”から本編をスタートさせた方が、クオリティ的にも収録時間的にも丁度良かったのでは?なんて思ったりも。 実際アルバム後半には、勇壮且つキャッチーな“VALHALLA”、Keyが良い仕事している“TOUCH THE SKY”など優れた楽曲が並んでいますし。中でも疾走ナンバー“IRON CLAD”はイングヴェイ流HMの真骨頂が堪能できる名曲ですよ。
90年代のイングヴェイの最高傑作と言えば、ジャケットで欧陽菲菲みたいな彼が睨みを利かせるこの9thアルバムで決まり。 理由は勿論、敬愛して止まないコージー・パウエルの遺作だから・・・というのも勿論大きいが、それと同等に収録楽曲の飛び抜けたクオリティの高さ。分けても(別に嫌いではないが無くとも全然構わなかった)ブルーズ系の楽曲が姿を消し、ダークで緊迫感を伴ったHMナンバーで本編の統一が図られている点が評価ポイント。判り易いスピード・ナンバーが見当たらない代わりに、適度な歪みと熱さを備えたマッツ・レヴィンの歌声と、一撃一撃に魂の篭ったコージーのパワフルなドラミングが映える楽曲がズラリ揃えられています。唯我独尊っぷりを色々揶揄される機会の多いイングヴェイなれど、この辺の「参加メンバーの長所を活かす曲作りの上手さ/器用さ」は他の追随を許さないレベル。流石マエストロ。また、今回は彼自身のGプレイが冴えまくっているのも特筆すべきセールス・ポイントですかね。 力強くドラマティックなOPナンバー“BRAVEHEART”、『ODYSSEY』の頃を思い起こさせる“FACING THE ANIMAL”、重厚且つ緊迫感に満ちた“ENEMY”・・・といった具合に、語ろうと思えば頭から順に全曲について語れてしまうぐらい逸曲揃いの本作ですが、取り分け、エモーショナルなGソロにキュンキュン来るバラード“LIKE AN ANGEL”、コージーの重たいドラミングが映える“MY RESURRECTION”、巧みにまぶされたポップ・センスに唸る“ANOTHER TIME”といった、劇的極まりないメロディ展開に耳奪われる名曲が連続する本編中盤の盛り上がりっぷりは圧巻。 聴き終える度に、大いなる満足感と共に一抹の寂寥感を覚えずにはいられない1枚です。合掌。