ミートローフと組んで『地獄のロック・ライダー』を大ヒットさせたプロデューサー、ジム・スタインマンの陣頭指揮を仰いで制作。女性シンガー初となる、英米両国のアルバム・チャートで№1に輝いた作品としてギネス認定を受ける他、その年の数多の音楽アワードを総なめにしてボニー・タイラーのブレイク作となった、’83年発表の2ndアルバム。 本編はいきなりC.C.R.の名曲(日産セレナのTVCMに使われていたことでお馴染み)“雨を見たかい”のカヴァーからスタートしますが、ピアノを全面的にフィーチュアしたゴージャス且つドラマティックなアレンジや、スケールの大きなサウンド・メイキングはまさにジム・スタインマン・ワールド。そしてこのクドイぐらい大仰な音世界には、それに負けないぐらいのクドさ(誉め言葉)で迎え撃つ、「女ミートローフ」ことタイラー姐さんのハスキー且つパワフルな歌声が実によく映える。これぞ理想的なコラボレーションですよ。 ドラマ『スクール・ウォーズ』主題歌として麻倉未稀にカヴァーされた名曲“HOLDING OUT FOR A HERO”が聴けるのは次作『秘めた想い』(’87年)なれど、アルバム・タイトルのカッコ良さといい、タイトに締まった音作りといい、それに何より収録曲の粒の揃い具合で断然本作の方に軍配が上がります。ハイライトはやはり4週連続で全米チャート第1位の座に居座った劇的なバラード“愛の翳り”(PVも珍味で最高)ということになるのでしょうが、流麗なピアノのイントロを皮切りに、息苦しい程の怒涛の盛り上がりを呈するジム・スタインマン節全開のアルバム表題曲②もそれに匹敵する名曲っぷり。 ボニー・タイラー入門盤といえば間違いなく本作で決まりでしょう…って、廃盤なの?
JOURNEY、STYX、KANSASらと共に、一時は「アメリカン・プログレ・ハード四天王」とも並び称された、マサチューセッツ工科大学卒という異色の経歴を誇る才人トム・ショルツ(Key)率いる理系ロック・バンドBOSTONが、'76年に発表した1stアルバム。(邦題は『幻想飛行』) 70年代初期から活動を開始し、音楽的試行錯誤を重ねて来た他の3バンドに比べ、後発のBOSTONはデビュー当初より一貫してポップなアメリカン・ロック・サウンドを志向しており、壮麗なギター・オーケストレーション、良く歌い良くハモるツインG、クセなくクリアに伸びていく故ブラッド・デルプ(合掌)の歌声と、ファルセットを効果的に用いた美しいボーカル・ハーモニー、それに軽やかなハンドクラップ(手拍子)等、そういった要素一つ一つを丁寧に組み上げ構築された、メロディアスで透明感を湛えた「BOSTONサウンド」は、既に立派にその個性を確立済み。 と同時に、彼らのカタログ中最も強くプログレ色が滲み出ているのも本作の特徴の一つで、特にそれを強く感じさせるのがトム・ショルツの操るハモンド・オルガンの活躍っぷり。取り分け、2部構成からなる7分以上に及ぶ大作③や、ブギーの軽快な曲調から一転、インスト・パートではハモンドがドラマティックに唸りを上げる⑤は、このアルバムでしか聴く事の出来ないタイプの名曲かと。 我が最愛のバラード“A MAN I'LL NEVER BE”が収録されているのは2nd『DON'T LOOK BACK』なれど、「BOSTONの魅力全部入り」といった趣きの名曲①②を筆頭に、最初から最後まで一切の捨て曲/埋め曲の類の見当たらぬ本作こそが、このバンドの最高傑作ではないかと思うのだが、如何でしょうか?
個人的に、BOSTONの全楽曲の中で最も愛して止まない名バラード“A MAN I'LL NEVER BE”を収録している、'78年発表の2ndアルバム。(邦題は『新惑星着陸』) 乾いた哀愁に軽快なノリの良さ、スペーシーな透明感と雄大なスケール感を兼ね備えたメロディアス・ロック・サウンドはそのままに、前作において要所で見せ場をさらっていたハモンド・オルガンの存在(=プログレ・ハード色)が後方へと下がり、よりノーマルなアメリカンHR路線へと歩みを進めているが、質の高さは相変わらず。 「ノー・シンセサイザー」「ノー・コンピューター」と誇らしげにクレジットされている通り、トム・ショルツ拘りのサウンド・メイキングが全編に渡って炸裂しまくった本作は、Gの歪ませ方から重ね方、ボーカル・ハーモニーの配置、アコギやKeyの使用タイミング等、細部の細部に至るまで徹底的な作り込みがなされており、これ聴いてると「メンバーは曲作る時に設計図を用意してたんじゃね?」と思わされるほど。流石、HR/HMシーンきっての理系ロック・バンド。 ロックならではの熱量の迸りが殆ど感じられない作風は評価が分かれるところかもしれないが、さりとて本作に機械的な冷たさや無機質さは皆無。心打つエモーションと人肌の暖かみを備えたメロディの素晴しさは唯一無二であり、特にその代表格と言えるのが前述の名バラード④。この曲のクライマックスにおいて「ここぞ!」というタイミングでハモンド・オルガンが切り込んでくる場面は、何度聴いても胸を締め付けられる程の感動を味わえます。その④をハイライトに、優れた楽曲が敷き詰められたアルバム前半の構成は完璧と評しても過言ではないような? デビュー作と共に、これまた必聴のBOSTONの名盤。
数々の名作・名曲を世に送り出してきたシンガー/ソングライターのスタン・ブッシュと、AXE、GUILD OF AGES、EDGE OF FOREVER等の活動で知られるボブ・ハリス。このメロハー・マニアからの信頼篤い職人2人のキャリアの出発点となったアメリカのバンド、BOULDERが米メジャーのELEKTRA RECORDSに'79年に残した唯一のフル・アルバム。先日中古盤屋を回遊していたら本作の帯付CDを発見して「こんなん発売されてたのか、知らんかった!」と思わず衝動買いしてしまいましたよ。まぁ実際は輸入盤に帯と解説が付属しているだけだったのですが、それでも謎多きバンドの一端を知ることが出来たので、ありがてぇありがてぇ。 ちなみにスタン・ブッシュは、本作にはフロンロマンではなくギタリストとして参加しており、曲作りにはほぼノータッチ。そのせいか、BOSTON辺りを天日干しして湿り気をさっぱり蒸発させてしまったような、少々時代を感じさせるハードポップ・サウンドに抒情性やドラマ性の類は希薄です。スタンのソロ作や、ボブ・ハリスが関与してきたバンドに通じるような「哀愁のメロハー」路線を期待すると肩透かしを食らうので注意が必要なものの、神秘的なイントロに期待で鼻の孔が広がる、本作収録曲の中では例外的にプログレ・ハードっぽい雰囲気漂わす①(ウォーレン・ジヴォンのカヴァー)や、ハーモニーが美しいオシャレな②、ピアノが楽し気に踊る④とかは、これはこれで良い曲。ノリ良く軽快な楽曲と、タイトな収録時間の合わせ技で気楽に聴き返せる、肩の凝らない構成も美点ではないかと。 資料的価値も見いだせるマニア向けの1枚ですが、質は十分高いと思いますよ。
オクラホマ州出身のシンガー/ソングライター。 80年代からCMソング等を手掛ける傍ら、ジム・ピートリックやスタン・ブッシュらとコラボして腕を磨き、'91年にはジェフ・パリスと共作し、ALIASに提供した楽曲“WAITING FOR LOVE”が全米シングル・チャートで最高第13位、カナダでは最高第4位にランクインするヒット曲となる。 このヒット曲を名刺代わりに、以降はソロ・シンガーとしても活動を開始。複数枚のソロ・アルバムを発表しているが、'13年に自宅にて急死(死因は明らかにされていない)。まだ51歳という若さだった。
BRIGHTON ROCKは'91年に解散の後、'02年に再結成を遂げて現在も活動中なのですが、スタジオ・アルバムとしては、’90年発表のこの3rdアルバムが一応(現時点での)最終作。…ということでいいのかな。 2nd『TAKE A DEEP BREATH』までの流れから、てっきり更にポップになってるかと思ったら、全くそんなことはなく。Key奏者が抜けた代わりにサイドGが加わった編成と、1曲目から小気味よく疾走するHMチューンをガツンとぶつけてくる構成が物語る通り、本編は寧ろ、よりタフでワイルドな方向へと突き進んでいましたよ。 J.J.ケイルの代表曲…というよりもエリック・クラプトンが大ヒットさせたことで有名な“COCAINE”のカヴァーにもチャレンジする等、仄かに土の匂い漂わす新機軸を打ち出した作風は、90年代以降の音楽シーンの潮流の変化を踏まえていますが、シンガーのしゃがれ声がこの手の音にマッチしている上(場面によってはトム・キーファー風?)、相変わらずフックを盛り込んだ曲作りの巧さやメロディ・センスの冴えに鈍りがないので、単に上っ面だけ流行をなぞったような退屈な作品にはなっていません。 本編はメタリックに突っ走る①にて幕が上がり、溌剌とハジける③、重厚な雰囲気を纏った⑥といった優れた楽曲を経て、感動的なバラード⑪にて大団円を迎えます。前2作に比べると、そのクオリティにややムラを感じなくもありませんが、最後まで基本軸をブレさせることなく活動を全うしたバンドの、有終の美を飾るに相応しい1枚でありました。
2代目フロント・パーソンとして元SHADOWRISEのローラを迎え入れたスイス出身の5人組HMバンドBURNING WITCHESが、'16年に発表した3rdアルバム。 DESTRUCTIONのシュミーアと、元POLTERGEISTのV.O.パルヴァーのマブダチ・コンビがプロデュース担当というお馴染みの布陣でレコーディングが行われた本作は、「そろそろポップな方向にも曲作りの幅を広げて来るかな?」とのこちらの予想を正拳突きで粉砕するかの如く、ストロング&スパルタンな正統派HMサウンドを前2作同様に徹底。 ハイピッチ・スクリームが耳をつんざくスピーディなOPナンバー①から、色気を感じさせるエモーショナルな歌い込みが映える⑥のようなバラード系の楽曲まで、表現力豊かにこなすローラ嬢の歌唱力も前任Voのセレーナと比べて遜色はなく、その実力の程はロス・ザ・ボス(G)をゲストに迎え、エリック・アダムスばりのパワー&エモーションで堂々歌い上げてみせるのMANOWARの名曲“地獄の鎮魂歌”のカヴァー⑫からもビンビンに伝わってくるのではないでしょうか。それにしてもJUDAS PRIESTの“JAWBREAKER”といい、SAVATAGEの“HALL OF THE MOUNTAIN KING”といい、このバンドのメタル愛を感じさせるカヴァー・センスには毎度ニッコリさせられますね。(実はカヴァー曲目当てで本作の購入を決意したことは内緒だ) もはや、メンバー全員が女性であることを殊更に強調する必要性すら感じさせない、「女性にしては~」とか「男勝りの~」なんて枕詞もノー・センキューなHMサウンドが重厚に叩きつけられる1枚。
東京を拠点に活動する4人組が'17年に発表したデビュー作。雑誌のインタビューで「最も影響を受けたバンドはSTRYPER」と答えているのを読んで「おお、国内じゃあまり知らないタイプのバンド」と興味を持って購入してみたら、これが大当たりでしたよ。 実際に本編は、荘厳な序曲①の余韻を切り裂いて攻撃的に疾走する②や、愁いを帯びたメロディが華麗に舞うアップテンポの⑩といった、シャープなGリフとメロディックなツインGの存在が映える、『YELLOW AND BLACK ATTACK』や『SOLDIER UNDER COMMAND』を発表した頃のSTRYPERを彷彿とさせる――更に骨太な感触はあるものの――楽曲によって頭と尻をサンドイッチ。しかしながら通して聴いてみると、ACCEPTの“FAST AS A SHARK”(あるいはANTHEMの“WARNING ACTION!”)に通じるパワー・メタル・チューン③あり、日本語詞で歌われる爽やかなJ-POP調の⑤やポップな⑧、様式美HM風味のインスト曲⑨(TORNADO-GRENADEのGがゲスト参加)あり…といった具合に、単純に「STRYPERフォロワー」の一言では括り切れない、多彩なタイプの楽曲が収録されていることに気付かされます。特にスピード・ナンバー⑦は、アグレッションを全開にしつつも、コーラスではVoが甘美なメロディをしっかりと歌い上げる、このバンド独自の魅力が炸裂する名曲として強力な存在感を放っているという。 シンガーの歌唱力の精進(現時点でも十分上手いのですが、更なる伸びしろを感じさせる)や、音質の一層の向上等、これから経験を積み重ねて行けばバンドが理想と語るFRONTIER RECORDSとの契約だって夢物語ではない、実に立派なクオリティを有する1枚。