本国ではデビュー早々チャート№1の座にアルバムを送り込み、著名なミュージカルやディナー・ショーを手掛ける等、着実にキャリアを積み上げてきたというスウェーデン出身のシンガー/ソングライター、エミル・ジーグフリードソン(舌噛みそうな名前だ)、’24年発表の3枚目のソロ・アルバムにして日本デビュー作。 母国語で歌っていた前2作は完全にポップス・アルバムだったそうですが、SUPREME MAJESTYのメンバーを曲作りのパートナーに迎えレコーディングが行われた本作で披露されているのは、高揚感に満ちたメロディ、歌の合間をフラッシーに駆け巡るG、楽曲を華やかに色付けるKeyとが生き生きと躍動する80年代風味満点のポップ・メタル。かつてはアメリカのバンドのお家芸だったこの手のサウンドも、今や北欧メロハー勢がそのお株をすっかり奪ってしまった感がありますね。 主役たるエミールも、伸びやかで張りのある歌声から、フックを盛り込んだ曲作りの巧みさに至るまで、キャリアに裏打ちされた実力を十二分に発揮。VoだけでなくGも良く歌っている②、レディー・ガガのカヴァーながら完全にHRバージョンとして蘇った⑤、イントロが“EYE OF THE TIGER”を彷彿とさせるSURVIVOR調の⑨等、本編は捨て曲の見当たらない充実っぷりを誇っており、中でもタイトル通りスパニッシュ・テイストがピリリと効いた哀愁のメロディック・ロック・チューン⑦と、青春映画のEDテーマ曲といった趣きでアルバムを爽やかに締め括る⑫は本年度ベスト・チューン候補にも挙げたいくらいですよ。 メロハー界の有望株登場にホクホク顔になれる1枚。前2作も聴いてみたくなりました。
バンドの看板でもあったバイオリン奏者ロビー・スタインハートの去ったKANSASが、'83年に発表したジョン・エレファンテ加入2作目となる9thアルバム。 前作収録の名曲“PLAY THE GAME TONIGHT”のスマッシュ・ヒットに気を良くしたレコード会社の「もっとコマーシャルなアルバム作らんかい」との圧力により、曲作りの主導権がケリー・リヴグレン(G)から、フロントマンたるジョンと、彼の兄でプロデューサー/コンポーザーとして鳴らすディノ・エレファンテに移行。それに伴い、ニール・カーノンが手掛けた乾いた音作りといい、シンセを大々的にフィーチュアしてメロディから湿り気が、曲展開からはプログレ色が減じられた楽曲といい、今作は(まさしくアルバム・タイトルが示す通り)大胆な作風の刷新が図られた仕上がりとなっています。 正直、スティーヴ・ウォルシュ在籍時代のKANSASサウンドを期待すると肩透かしを食う可能性大ですが、「ディノ&ジョンのエレファンテ兄弟が取り仕切ったメロハー作品」と気持ちを切り替えて本作に接すると、GリフがSURVIVORの“EYE OF THE TIGER”みたいな①とか、後に続くカラッと明るくポップな②とかも「これはこれでありだね!」と思えてくるから不思議ですよ。またアルバム後半には、山あり谷ありの曲展開をアップテンポで駆け抜けていく⑦、ケリーのペンによる、タメを効かせつつ重厚に盛り上がっていく⑧&リズミカルな曲調に哀愁のメロディが乗せられた⑨といった、かつてのプログレ・ハード風味がさりげなく薫る逸品もちゃんと収められていることを付け加えておきます。 KANSAS入門盤にゃお薦めしかねますが、スルーは勿体なさ過ぎる。自分なりの曲順を考えてみると、より評価が高まる1枚かもしれませんね。
ANGELICAへの参加や、現在はソロ・シンガーとしての活動でも知られるジェローム・マッツァ(Vo)が、FATEのトーベン・エネヴォルドセン(G)らをゲストに招いて立ち上げたプロジェクト、PINNACLE POINTの2ndアルバム(’18年発表)。 ソロ作ではANGELICA時代を思わすメロハー・サウンドを披露してくれていましたが、本作において追求されているのは、彼が愛して止まない黄金時代のKANSAS――具体的に言えば『永遠の序曲』『暗黒への曳航』『モノリスの謎』辺り――を彷彿とさせる、職人の拘りとポップな大衆性が絶妙なバランスで融合を遂げたプログレ・ハード・サウンド。スティーヴ・ウォルシュばりに熱唱する自身のVoを生かしつつ、リード楽器として曲展開を牽引するバイオリンの存在(シンセ等で代用せずわざわざ専任奏者を立てる姿勢も良し)といい、6分越えの大作が収録曲の半数を占めるも、大仰さや重厚さよりフットワークの軽やかさの方が印象に残る作風といい、全編に噎せ返る程のKANSAS愛迸る仕上がりとなっています。バイオリン導入だけに留まらず、KANSASっぽさ醸成に大きく貢献するKey(ピアノ)の流麗な活躍ぶりにも「マニアだねぇ」と思わずニッコリですよ。 特に、適度にポップ、適度にプログレッシブな曲調に胸躍る③、疾走感溢れる爽やかな曲調に凝ったアレンジが編み込まれた⑥、涼しげな哀愁を纏ってドラマティックに盛り上がっていく⑦、名曲“ON THE OTHER SIDE”を思わす泣きのバラード⑧なんて、70年代後半KANSASの未発表曲と言われたら信じてしまうような完成度を誇っています。 もうちょい話題になってもいいのでは?と思わずにいられない1枚ですね。
JUNKO名義2作目であり、三原じゅん子の歌手活動の取りあえずの一区切りとなった’86年発表の11thアルバム。 《ぶっ飛んで下さい。ロック遊女。》という帯惹句と、ジャケットを飾る和服を着崩したJUNKOの艶姿を見ると早くも迷走の気配がビンビンですが、10th『SO DEEP』に引き続いてB’z結成前の松本孝弘(G)が全面参加。鳴瀬喜博(B)、そうる透(Ds)、大平勉(Key)らがバックを固め、作曲陣にもハワード・キリー(河井拓実の変名)やAROUGEの福田純&橘高文彦(マネージメントが同じだった関係でツアーにも帯同していた模様)が名を連ねる等、基本的には前作で披露されたHR/HM路線を踏襲した仕上がりとなっています。 但し“WIRE ROCK”のようなゴリゴリのHMナンバーが姿を消し、煌びやかなシンセのフィーチュア度が格段に高まったサウンドは、80年代らしくよりゴージャスなメロディアスHR化が進行。JUNKOも『SO~』に比べると肩の力を抜いて伸びやかな歌唱を披露していて、本当、政治家としてのこの人に感心したことはビタいちないのですが、シンガーとしての実力には感心させられますよ。特に哀愁のメロハー“CAN’T STOP MY JEALUSY”や“TOKIO BLUE”、洗練されたバラード“LAY ME DOWN”辺りは、「三原順子でしょ?」と半笑いで聴き始めたら、クオリティの高さに思わず真顔になってしまう出来栄え。松本孝弘のGが暴れ回る疾走ナンバー“DEAD OR ALIVE”も本編をグッと引き締めてくれています。このタイプの楽曲がもう1曲ぐらいあればなぁと思わなくもないですが。 HR/HM路線であと2、3枚聴いてみたかった…と惜しまずにはいられませんね。
GREAT WHITEのフロントマンとして、現在もその看板を守り続けるジャック・ラッセル(Vo)が、故ボブ・キューリック&ビリー・シャーウッドをプロデューサー兼曲作りのパートナーに招いてレコーディングを行い、'02年に発表した2枚目のソロ・アルバム。 GREAT WHITE健在時に制作され、その息吹も感じられる仕上がりだった1stソロ『SHELTER ME』(’96年)に比べると、主要メンバーが櫛の歯が抜けるように欠けていき、バンドが実質的な解散状態に陥ってしまった時期にレコーディングが進められている本作は、今後ソロ・アーティストとして自身が進むべき方向性を模索するかの如く、ピアノやアコースティック・ギター、爽やかなハーモニーとに彩られたバラード~スロー・ナンバー系が大半を占め、よりジャックの「歌」に焦点を絞ったライトでメロウ、AOR寄りのサウンドが託されています(敬愛する実父の死もこうした作風に影響を与えた模様) とはいえ、もともと歌唱能力の高さに関して定評のある御仁ゆえ、この仕上がりはむしろ個人的にはばっち来い。とりわけジャックのエモーショナルな歌いっぷりが映える、GYPSY KINGSの“INSPIRATION”を思わすイントロから哀愁をたっぷり帯びた曲調にグッと来る③や、もし80年代にシングル・カットされたならヒット・チャートを賑わせたって不思議じゃない⑤辺りは、ラッセル/キューリック/シャーウッドという座組でここまでやってくれるんかいと、正直ビックリでしたよ(と同時にみくびって申し訳ないとも) 今後またソロ・アルバムを制作することがあるなら、是非またこの路線でヨロシク…とお願いしたくなる、実に味わい深い1枚です。
デビュー作『WORLD APART』のリリースが’99年、2nd『ON THE WAY TO EVERYTHING』が’11年、そして本3rdアルバムは’19年発表。22年活動して作ったアルバムが3枚と活動周期がオリンピック級の気の長さを誇る、ラリー・キング(Vo)とジョン・ブラスッチ(Key)によるメロハー・プロジェクトSOLEIL MOON。 メロパワ/スピード・メタルでも演っていそうな、対峙する女剣士と悪い魔法使いが描かれたファンタジックなジャケットと、仰々しい邦題『照律の勇者』(原題はシンプルに『WARRIOR』)を初めて目にした時は「同名異バンドか?」と思ったものですが、間は開けど作風には微塵のブレもなかったのでホッと一安心。ハイトーン型ではなく、中音域をメインにタフさや包容力を感じさせるラリーの聴き手を包み込むような歌声と、ソウルフルなポップ・チューンから壮大なプログレ・ハード・ナンバーまで優美に編み上げるジョンの卓越したアレンジ・センスが存分に堪能できる仕上がりとなっています。 AOR/産業ロックで括るには、存在感がググっと前へ迫り出す「気」を放つGを弾いているのは今回も名手マイケル・トンプソン(アー写には別の人物が載っているので正式メンバーではない様子)。曲名通りアクセル全開でOPを駆け抜けていく①、憂いを帯びた劇的な盛り上がりっぷりが胸を打つ本編のハイライト⑧、ミュージカル風味も感じられる芝居掛かった曲展開がファンタジー映画の主題歌っぽい⑪辺りは、特にマイケルのG、ラリーのVo、ジョンのKey及び楽曲構築術のハイレベルな融合ぶりが際立つ名曲ですよ。 こんだけ素晴らしい作品を作れる人達なので、次があるならもっと早く発表してくれると嬉しいなぁと。
正確には1stアルバムの楽曲なのですが、2ndにもボートラとして収録。 どこかで聴いたことがあるような…と思ったら、マイケル・キスクの PLACE VANDOMEが2nd『STREETS OF FIRE』でカヴァーしていましたよ。 あちらも素晴らしい出来栄えでしたが、このオリジナル・バージョンも 負けず劣らず優美にしてドラマティック。胸に迫る名曲です。
STAN BUSH & BARRAGEがデビュー作以来、実に11年ぶりに発表した2ndアルバム。(リリースは’98年で、日本盤は’01年に発売) 前作は内容の素晴らしさと希少性が相俟って、国内盤の中古CDが5桁のプレミア価格で取引されているメロディアスHRのお宝盤として知られていますが、本作もクオリティの高さでは全く引けを取りません。元々80年代後半に書かれたものの、発表の機会がないままスタン・ブッシュ(Vo)の手元で眠っていた音源が取りまとめられており、これほどの楽曲が陽の目を見ずに長らく埋もれさせとくなんてメロハー界の損失もいいところ。なのでNOW AND THEN RECORDSが発表に踏み切ってくれて本当に良かった。 楽曲の方向性も書かれた時期も前作とほぼほぼ同一(関わってる面子もお馴染みの顔触れ)。90年代にリリースされたスタンのソロ作に比べると、Keyを抑え気味にGの存在を強調してエネルギッシュにロックしている点も同様です。メロディをじっくり聴かせるバラード~スロー・チューンを魅力的に仕上げることなんてお茶の子さいさい、下手な人が作ったら大味に流してしまいそうな躍動感溢れるHRナンバーのメロディにも、心打つフックを仕込むスタンの曲作りの卓越した手腕には心底惚れ惚れさせられますよ。こういう人を真の職人というのでしょうな。特に高揚感を誘うサビメロが抜群なアルバム表題曲⑥、一転シリアスな雰囲気を纏ってパワフルに押し出してくる⑦、キャッチーなコーラスと歌うGがライブ映えしそうな⑧といった逸曲が並ぶ本編終盤では、その真骨頂を体感させて頂きましたよ。 近年は本作も希少盤化著しいようですが、もし中古盤屋で見かけたら是非お手に取って頂きたい1枚であります。
ラス・バラード(Vo)というと、ミュージシャンとしてよりも、RAINBOWがカヴァーした“SINCE YOU BEEN GONE”や“I SURRENDER”等のヒット曲の作者(ソングライター)としての印象が強いのですが、実際は70年代半ばからソロ・キャリアを歩み始めた実績の持ち主。大きなヒットにこそ恵まれなかったものの優れたアルバムを残しており、本作は彼が’80年にリリースした4枚目のアルバムとなります。 自身の楽曲がHRシーンで好意的に受け入れられたことや、英国でのNWOBHMの盛り上がりに触発されたのか、「ラス・バラードご乱心?」と疑うぐらいB級メタル然としたアートワークと、Gリフ主導で走り始める曲調にグッと力の入ったラスのパワフルなシャウトが乗っかったOPナンバー①が物語る通り、ポップ寄りだった前3作に比べ、今回は(メロディのキャッチネスはしっかりと担保しつつ)大幅にハードネスとバンド・アンサンブルを強化。無論、キャリアのある御仁ゆえゴリゴリにヘヴィ・メタリックなサウンドというわけじゃありませんが、レゲエ調のヴァースから転調してシリアスなサビメロに雪崩込む③や、後にURIAH HEEPがカヴァーすることとなる④、重厚なムード漂わす⑥等は、HR/HMリスナーが聴いても素直にカッコ良いと思える仕上がり。その最たる例が、ブルース・ディッキンソン擁するSAMSONが3rd『魔界戦士』のOPナンバーに採用したシャープな疾走ナンバー⑧(その時の邦題は“地獄の天使”でしたっけね)だったんじゃないかと。 捨て曲なしの名盤であり、手持ちのラス・バラードのカタログの中では最も聴き返す頻度の高い1枚。紙ジャケ再発されていますので、入門盤としてもお薦めですよ。
ヨラン・エドマンをフロントマンに据えたスウェーデン発のメロハー・プロジェクト、CROSSFADEが'23年に発表した4thアルバム。(全6曲収録なので「アルバム」で括るには若干ボリューム不足か?) 彼らの作品を聴くのは、国内盤も発売されたデビュー作『WHITE ON BLUE』(’04年)以来随分と久々なれど、叩きつけるのではなく、聴き手を穏やかに包み込むような音楽性は全く変わっていなかったので一安心。というか“THORN OF LIFE”のような比較的ロック・テイストの感じられる楽曲も収録されていた『WHITE~』に比べると、今回はより一層AOR方面に踏み込んだ仕上がりとの印象あり。 なので、「Mr.北欧ボイス」の存在から様式美HMテイストを求めるリスナーの期待には一切関知してくれない本作ですが、ラーズ・ハルバック(G)&リチャード・ステンストロム(Key)という名うての職人達によって奏でられる、透明感を湛えたメロディのフックが本編への集中力を途切れさせませんし、何より、ムーディな楽曲からブルージーなナンバーまで、まろやかに歌いこなすヨランの美声がアルバムの肝。改めて「バラード系の楽曲を歌わせたら天下一品だなこの人」との思いを再認識させられましたよ。中でもソウルフルな歌唱、リチャードが美しく奏でるピアノ、エモーショナルなラーズのGによって繊細に彩られた⑤は本作のハイライトに挙げたくなる逸品です。 派手さはないものの、聴くほどに味わいを増す1枚。秋の夜長のお供にいかがでしょうか。