数々の名作・名曲を世に送り出してきたシンガー/ソングライターのスタン・ブッシュと、AXE、GUILD OF AGES、EDGE OF FOREVER等の活動で知られるボブ・ハリス。このメロハー・マニアからの信頼篤い職人2人のキャリアの出発点となったアメリカのバンド、BOULDERが米メジャーのELEKTRA RECORDSに'79年に残した唯一のフル・アルバム。先日中古盤屋を回遊していたら本作の帯付CDを発見して「こんなん発売されてたのか、知らんかった!」と思わず衝動買いしてしまいましたよ。まぁ実際は輸入盤に帯と解説が付属しているだけだったのですが、それでも謎多きバンドの一端を知ることが出来たので、ありがてぇありがてぇ。 ちなみにスタン・ブッシュは、本作にはフロンロマンではなくギタリストとして参加しており、曲作りにはほぼノータッチ。そのせいか、BOSTON辺りを天日干しして湿り気をさっぱり蒸発させてしまったような、少々時代を感じさせるハードポップ・サウンドに抒情性やドラマ性の類は希薄です。スタンのソロ作や、ボブ・ハリスが関与してきたバンドに通じるような「哀愁のメロハー」路線を期待すると肩透かしを食らうので注意が必要なものの、神秘的なイントロに期待で鼻の孔が広がる、本作収録曲の中では例外的にプログレ・ハードっぽい雰囲気漂わす①(ウォーレン・ジヴォンのカヴァー)や、ハーモニーが美しいオシャレな②、ピアノが楽し気に踊る④とかは、これはこれで良い曲。ノリ良く軽快な楽曲と、タイトな収録時間の合わせ技で気楽に聴き返せる、肩の凝らない構成も美点ではないかと。 資料的価値も見いだせるマニア向けの1枚ですが、質は十分高いと思いますよ。
高齢のベテランや、若くして破天荒なライフスタイルを送ってそうなミュージシャンだと、訃報に触れてもある程度は粛々と受け止められるものですが、アンドレ・マトス死去とは…。全く予想だにしなかった方向からブン殴られたような衝撃ですよ。 本作は彼が'12年にソロ名義で発表した3枚目のアルバムで、初めてサシャ・ピート以外のプロデューサーと組んで制作されているせいか、全体的にメロパワ・メタル色もラテン色も控えめ。よりモダンでプログレッシブなアプローチが目立っており、OPナンバーにしちゃ覇気に欠ける①や、本編を色濃く覆う内省的なムード、テンションを抑え気味に淡々と歌うマトスのVoもそうした印象に拍車を掛けています。無論②⑩のような疾走ナンバーも健在ですが、若干「置きに来てる」感がなくもないそれらよりは、憂いに満ちた③、ムーディなバラード④といった、マトスの哀愁声が映える、一聴地味だけど聴くほどに味わいを増す楽曲の方に心惹かれる次第。中でも、緩から急まで多彩な展開を織り込んだ⑧は名曲ですよ。 ちなみに日本盤はVIPER時代の代表曲“AT LEAST A CHANCE”、QUEENSRYCHEの“I DON’T BELIEVE IN LOVE”、演歌の名曲“氷雨”等のカヴァー曲を集めたボーナス・ディスクが付属する2枚組仕様。確か当時“氷雨”聴きたさに本作を購入したんだっけなと。マトスの微笑ましい日本語による歌唱は評価の分かれ目なれど、個人的には哀愁を孕んだ曲調をドラマティックに蘇らせた好カヴァーとして楽しませて頂きました。 マトスの豊かな才能が発揮された1枚であると共に、てめぇがやりたい音楽と、外から期待される音楽との齟齬についての彼の葛藤が刻まれている(ような気がする)作品でもあるという。
HR/HMシーンにおけるロック・オペラ・プロジェクトに先鞭をつけたPHENOMENA。『PHENOMENA』(’84年)『DREAM RUNNER』(’87年)『INNERVISION』(’93年)の3作をもって完結をみた同プロジェクトが復活し、'06年に発表した4thアルバム。 小さなお子様が目にしたら悪夢にうなされそうなホラー映画調のジャケットがフィーチュアされた本作は、過去作に比べるとゲストの顔触れはやや地味め(CLOVEN HOOFの参加には驚きましたが)。また簡素なプロダクションの下、やたら殺伐としたGリフが刻まれ、曲によってはラップ調のVoを取り入れていたりと、あからさまに流行――それも周回遅れ気味――を意識している感じなのも何だかなぁと、アルバム序盤はあまり良い印象が持てずにいました。 しかしながら、聴き進める内に本編は徐々にドラマ性と抒情性を回復。先に「ゲストは地味」とか書いてしまいましたが、参加シンガーはトニー・マーティン、リー・スモール、キース・マレルら実力派揃い。特にファンキーなグルーヴが効いた⑨を筆頭に、力づくで楽曲のクオリティをランクUPさせてしまうグレン・ヒューズのソウルフルな歌声は別格の素晴らしさですよ。またキースが歌う幻想的な④、重厚壮大な⑦、ラップVoを取れ入れた③も実は案外良い曲だったりと、トータルではPHENOMENAの名の下に発表されるに相応しい品質に仕上げている辺りは、流石ギャレー兄弟といったところではないでしょうか。 ちなみに本作、ジャケットをよく見ると名義が《FROM TOM GALLEY THE CREAT OF…》となっており、これは3rd『INNERVISION』発表後にプロジェクトの権利を巡って、メンバー兼プロデューサーだったオライアンと揉めたことが影響している模様。
スウェーデン出身のシンガー。 MADISONやTALK OF THE TOWNのバック・ボーカルを務める等してキャリアを積み、PROMOTIONでアルバム・デビュー。 このバンドを前身に誕生したGRAND ILLUSIONが日本でも人気を集め、また彼らが発表した作品で聴けるピーターの透明感を湛えた瑞々しいハイトーンVoが高評価を得たことで、知名度を一気に高めることなった。 '18年に初めてのソロ・アルバムとなる『NOW』を発表。
親日家トミー・クラウス(G)が率いていたドイツのメロディックHRバンド、ZARが'93年に残した3曲入りEP。 収録曲は、アコギが乾いた哀愁漂わすアメリカンな味わいのバラード“EAGLE’S FLIGHT”、憂いを帯びた重厚なミッド・チューン“NEVER SO ALONE”、合唱を誘うアリーナ・ロック然とした“I CAN’T BELIEVE”の3曲で、いずれもトミー・クラウスの作曲センスが発揮された佳曲ながらも、’93年発表の3rd『FROM WELCOME…TO GOODBYE』に収録されていた既発曲ばかり。ゆえに、それだけだったら買わずにスルーは確定だったですが、ハタと目に留まったのが、ジャケットに印刷されている《ZAR featuring JOHN LAWTON』の文字ですよ。そう、何と本作には1st『LIVE YOUR LIFE FOREVER』(’90年)で歌っていた初代シンガーにして、LUCIFER’S FRIENDやURIAH HEEPでの活動でも知られるジョン・ロートンが、ゲストVoとして自慢の喉を提供してくれているという。 参加曲が“EAGLE~”のみなのは残念ですが、二代目フロントマンのトミー・ブロックとリードVoを分け合う形で披露されるその歌声は相変わらず強力無比。張り良し艶良し伸び良しの絶品ぶりで、流石のトミー・ブロックのVoも、ここではやや霞んで聴こえてしまうのも致し方なしか。個人的には、この1曲を聴くためだけでもシングルを購入した甲斐は十分にあったと握り拳を固めた次第。 ちなみに(クラウスの日本趣味が発揮された)“KURODABUSHI”のカヴァーを収録する、『FROM WELCOME~』からカットされたもう1枚のEP『WELCOME』もお薦めです。
2nd『FORGET THE RAIN』収録のバラード“EYS OF ANGER”の 続編に当たる(?)アルバムのラスト・ナンバー。 トレイシー・ホワイトの濡れ濡れな美声が堪能できるメロウな前半だけで 十分素晴らしいのですが、4分過ぎてからのもう一山の盛り上がりが この曲をドラマティックな名曲たらしめています。
'07年に突如リリースされたDOKKENの蔵出しライブ。1st『BREAKING THE CHAINS』(’81年)発表後、ドイツからアメリカへと戻ったDOKKENが、メジャー・レーベルとの契約を得るべくカリフォルニアでクラブ・ツアーを行っていた時期のライブが収められており(どこで録られたものかは不明らしい)、Gソロ・タイムを含む全10曲中、3曲が未発表曲という構成に食指をそそられ思わず購入してしまいました レコーディング時のラインナップは、ドン・ドッケン(Vo)、ジョージ・リンチ(G)、ミック・ブラウン(Ds)、RATTへと去ったフォアン・クルーシェの後任として新たにバンドへ参加したばかりのジェフ・ピルソン(B)という黄金メンバー。後の洗練されたサウンドに比べると、本作で炸裂するバンドの若さ迸るパフォーマンスは、まるで観客の熱気溢れる声援と、海の向こうで盛り上がるNWOBHMに触発されたかの如く荒々しくメタリック。 とは言え、代表曲“BREAKING THE CHAINS”を始め、健在のボーカル・ハーモニーの美しさには聴き惚れてしまいますし、ジョージのGプレイも既にキレッキレ。何よりそれに対抗するドンの、身の内から迸るエネルギーを制御してきれていないかのようなシャープ気味の歌唱が実にパワフル。まぁ現在との隔世の感ぶりに若干の切なさを覚えなくもないですが、ともあれ観客との掛け合いを盛り込みつつドンとジョージが――不仲ゆえではなく新人らしい健全な競い合いの結果として――激しく火花を散らす“NIGHRIDER”は、本作のハイライトかと。こんだけ白熱のライブを演ってればそりゃ人気も出ますよ。 音源の貴重さと内容の充実度が釣り合った、まさしく「お宝発掘」というべき1枚。
“CANDY HORIZON”から“DON'T HOLD ME BACK”ときて、 このヘヴィ・メタリックなハード・ナンバーに繋がっていく 一連の流れは、間違いなくアルバム『TOOLBOX』のハイライト。 突き抜けるハイトーンVoにメロディアスなG、 「ワン・バスでツー・バスの音を出す男」と評された ヘイズのキレキレなドラムまで堪能できてしまう全部入りな逸品。
デビュー以来、断続的ではあるものの、それでもアルバム・リリースを重ねて来たUNRULY CHILDが、中心メンバーのブルース・ゴウディ(G)以下、1st『UNRULY CHILD』(’92年)に参加したオリジナル・ラインナップを再結集させ、'10年に発表した4thアルバム。 最大のトピックはやはり、90年代半ばに性同一障害を告白して性転換手術を受け、その後はHR/HMシーンの一線からは身を引いていた、マーク・フリー改めマーシー・ミシェル・フリーの復活ですよ。この人の手術後の歌声を聴いたのはこのアルバムが初めてで(ソロ作『TORMENTED』は聴きそびれてしまった)、年月を経て声質こそややハスキーなものへと変化していましたが、伸びのあるハイトーンや円熟味を増した表現力は衰えることなく健在で、まずはホッと一安心。 まぁ名盤『LONG WAY FROM LOVE』(’93年)の頃の潤いに満ちた美声を惜しむ気持ちもなくはないものの、ともあれ、そうした彼女の戦線復帰を祝うようにサウンドの方も、時代性を加味して飾り気を抑え気味だった2ndや3rdの頃に比べると、キラキラなKeyや厚めに盛られたハーモニーによる装飾を増量して、未だ人気の高い1stの頃を彷彿とさせる煌びやかなメロハー路線へと回帰を果たしています。甘いメロディに彩られたポップ&キャッチーに弾む③と、仄かな哀メロがじんわりと浸透するバラード④、アルバム表題曲でもある抒情的な⑥、美しく伸びやかなコーラス・ワークが絶品の⑪等は、多くのファンが「これよ、これ!」と膝を叩くUNRULY CHILD印のハードポップの名曲ですよ。 オリジナル編成の復活にちゃんと意味を持たせた内容であることに感心させられた1枚。
デビュー作『KINGDOM OF THE NIGHT』(’90年)が、本国ドイツにおいて発売開始から2週間足らずで2万枚以上を売り上げる大ヒットとなり(ナショナル・チャートに12日間連続でランクインし、国内HR/HMバンドの1stアルバムの売り上げレコードを更新したのだとか)、勢いに乗ったAXXISが'91年に早くも発表したのがこの2ndアルバム。 前回が『暗黒の支配者』で、今回は『帝国興隆』。邦題は相変わらず大仰ですが、追及している音楽性はタイトでスマート&機動力に富むメロディックHRサウンド。寧ろKey奏者の加入で収録曲のバラエティは更なる広がりをみせていて、HELLOWEENを彷彿とさせるメロパワ・メタル調の①②があったかと思えば、レゲエのリズムを取り入れた③や、明るく躍動する④、ノリノリに突っ走る⑩があり、一方で哀愁たっぷりのバラード⑤、重厚だがコーラスは非常にキャッチーな⑧のようなタイプの楽曲もある…といった感じ。前作のヒットを踏まえ、よりライブ映えしそうな明快なメロディやコーラスが増強されているのもポイントで、中でもKeyを前面に押し出し軽快に弾みまくるポップな高揚感を湛えた⑦は、アルバムのハイライトにしてAXXISを代表する名曲の一つです。 これらの楽曲を歌い上げる、細かい「揺れ」を伴うバーナード・ワイスのハイトーンVoは人によって好き嫌いがハッキリ分かれるところではありますが、この声あってのAXXIS。バンドに欠かせぬ看板声として強力な個性を放っていることは間違いありません。 昔は「随分とポップだなぁ」とあまりピンと来なかった覚えがあるのですが、今聴き直すと寧ろポップな部分にこそグッとくる1枚。
シングル“CUM ON FEEL THE NOISE”とデビュー作『METAL HELTH』(’83年)の大ヒットで一気にHR/HMシーンの頂点へ駆け上がるも、その後MOTLEY CRUE、RATTといった若手LAメタル勢の台頭やケヴィン・ダブロウ(どうでもいいけど受験/進級シーズンには禁句なお名前だ)のビッグマウスぶりが災いして、駆け上がった時と同じ速度で王座から転げ落ちていき80年代末期に解散してしまったQUIET RIOTが復活。ケヴィン・ダブロウ(Vo)、カルロス・カヴァーゾ(G)、フランキー・バネリ(Ds)という『METAL~』参加メンバーが再結集し、彼らのブレイクから丁度10年の節目になる'93年に、この復活第一弾アルバムを発表しました。 デビュー当時の底抜けに明るいロックンロール色が薄まって、時折ブルージーな香り漂う翳りを帯びたシリアスな作風は、メンバーのミュージシャンとしての成熟と、何より90年代HR/HMシーンの潮流を意識させる仕上がり。とは言え別にPANTERAやグランジ/オルタナ・ロックからの影響を無理くり取り入れているわけではなく、音数多めのフランキーのダイナミックなドラミング、要所で花開くカルロスのフラッシーなGプレイ、顔同様にアクの強いケヴィンの歌声が映える重厚でヘヴィ・メタリックな楽曲は、QR流“HEAVEN AND HELL”ライクな①、埃っぽいイントロからパワフルに展開していく⑥、スリリングなインスト・ナンバー⑩等これはこれで十分カッコイイじゃん!と思う次第。 まぁ地味と言えば地味。前作収録の“THUNDERBIRD”みたいなキメ曲も欲しかったところですが、復活作としては及第点を余裕でクリアしている1枚ではないかと。