4th『PREACHERS OF THE NIGHT』(’13年)を本国ナショナル・チャート第1位の座に送り込み、一躍その名を世界に知らしめたドイツのPOWERWOLF。急遽日本盤も発売された『PREACHERS~』で聴ける劇的且つシンフォニックなパワー・メタル・サウンドのカッコ良さに感心し、こりゃ過去作も是非チェックせねばと思ったのですが、どうしたことか3rd以前のカタログは入手困難。辛うじて購入できた(なぜか近所の古本屋のCDコーナーで売られていた)のが、この'07年発表の2ndアルバムだったという。 荘厳な雰囲気を醸し出すチャーチ・オルガンの多用や、オペラティックな歌い上げとメタリックなシャウトを使い分け、楽曲にシアトリカルな盛り上がりを演出するVoの歌唱等、バンドの重要な個性となる要素はまだ確立には至っておらず、この時点での印象は、BLIND GUARDIAN影響下の豪奢なジャーマン・パワー・メタルといった趣き。(シンガーの歌唱スタイルや声質もどことなくハンズィ・キアシュ似) とは言え、それも飽くまで近作と比較しての話であり、単体で評価すれば、大仰なイントロに導かれてスタートする本作におけるサウンドは、既に十分過ぎるほどに勇壮且つシンフォニック。彼ら特有のキャッチーなメロディ・センスも冴え渡っていて、特にIRON MAIDENばりのツインGフレーズを散りばめつつ疾走する③は、「讃美歌メタル」とでも言うべき厳粛なドラマ性の迸りといい、ライブ映えする荘厳なコーラスといい、バンドの個性を如実に表す名曲にして本編のハイライト・ナンバーの一つではないかと。 POWERWOLFというバンドの非凡な才能が十二分に発揮されている1枚。
大いなる注目を集めて'91年にセルフ・タイトルの1stアルバムでデビューを飾るも、レコード会社の無為無策に足を引っ張られた挙句解散を余儀なくされてしまった悲運のバンド、スウェーデンのGREAT KING RATが'99年に発表した2ndアルバム。…ではなく。日の目を見なかったお蔵入り音源(一部録り直し曲もあり)を取りまとめた未発表曲集。 本作に託されているのは、「北欧のMr. BIG」とも評されたデビュー作のサウンドを順当に継承する、70年代の薫り漂うブルージーなHR。マイケル・シェンカーにその才を買われたリーフ・スンディンのエリック・マーティン似のソウルフルなVoや、現POODLESのポンタス・ノルグレンのテクニカルなGプレイに、レトロなハモンド・オルガンの音色等、例え未発表曲集と言えども、ここには「北欧のローカル・バンド」的な垢抜けない雰囲気は皆無。逆に言うと「煌めく美旋律」「ドラマティックな曲展開」といった様式美HM要素を期待するとガッカリすることになるわけですが、それでも作品全体がどこかヒンヤリとした空気に覆われているように感じられるのは、やはり彼らの血の為せる業か。 個人的には、FREEの名曲“BE MY FRIEND”を完全に己のものにしているリーフの熱唱に聴き惚れる⑦以降、初期RAINBOW風味の妖しげな重厚感漂わす⑧、埃っぽい疾走ナンバー⑨、ほんわかと心温まるバラード⑩といった優れた楽曲の連打にテンションがアガるアルバム後半の流れがお気に入り。 廃盤の国内盤が高値で取引されている1stに比べると比較的入手も楽なので、取り敢えずどんなバンドなのか興味を持たれた方は本作から入ってみるのがよろしいかと。
東京を拠点に活動する4人組が'17年に発表したデビュー作。雑誌のインタビューで「最も影響を受けたバンドはSTRYPER」と答えているのを読んで「おお、国内じゃあまり知らないタイプのバンド」と興味を持って購入してみたら、これが大当たりでしたよ。 実際に本編は、荘厳な序曲①の余韻を切り裂いて攻撃的に疾走する②や、愁いを帯びたメロディが華麗に舞うアップテンポの⑩といった、シャープなGリフとメロディックなツインGの存在が映える、『YELLOW AND BLACK ATTACK』や『SOLDIER UNDER COMMAND』を発表した頃のSTRYPERを彷彿とさせる――更に骨太な感触はあるものの――楽曲によって頭と尻をサンドイッチ。しかしながら通して聴いてみると、ACCEPTの“FAST AS A SHARK”(あるいはANTHEMの“WARNING ACTION!”)に通じるパワー・メタル・チューン③あり、日本語詞で歌われる爽やかなJ-POP調の⑤やポップな⑧、様式美HM風味のインスト曲⑨(TORNADO-GRENADEのGがゲスト参加)あり…といった具合に、単純に「STRYPERフォロワー」の一言では括り切れない、多彩なタイプの楽曲が収録されていることに気付かされます。特にスピード・ナンバー⑦は、アグレッションを全開にしつつも、コーラスではVoが甘美なメロディをしっかりと歌い上げる、このバンド独自の魅力が炸裂する名曲として強力な存在感を放っているという。 シンガーの歌唱力の精進(現時点でも十分上手いのですが、更なる伸びしろを感じさせる)や、音質の一層の向上等、これから経験を積み重ねて行けばバンドが理想と語るFRONTIER RECORDSとの契約だって夢物語ではない、実に立派なクオリティを有する1枚。
'18年発表の最新スタジオ・アルバム。前作『SACRED BLOOD“DIVINE”LINE』から2年足らず、リ・レコーディング曲を含むバラード集『THE VALLEY OF TEARS』からは僅か1年のブランクでリリースという、他のベテラン・バンドにも見習わせたいフットワークで活動を続けるMAGNUM。長らく三本柱の一柱だったマーク・スタンウェイ(Key)と、再結成以降のバンドの土台を支え続けたハリー・ジェイムズ(Ds)を失いながらも、本作の完成度の高さには全く揺るぎがないのですから、トニー・クラーキン(G)とボブ・カトレイ(Vo)の看板コンビの旺盛な創作意欲には脱帽ですよ。 音楽性に大きな変化は見受けられず、大英帝国産の貫禄と威厳をその身に纏わせつつも、周囲を睥睨するよりも聴き手に寄り添い、そのハートを芯からポカポカと温めるかのような「遠赤外線メタル」ぶりも健在。マンネリ?とんでもねぇ。比較的ハードな方向に振られていた前作に対し、今回はツアーで得た経験が曲作りに反映され、ノリ易いテンポといい、観客の合唱やバンドとの掛け合いが盛り上がりそうなパートを組み込んだ曲構成といい、全体的にライブ映え重視の楽曲が数多く並んでいるのが新鮮です。 勿論そのことでメロディのフックやドラマ性が薄まる下手を彼らが打つ筈もなく、特にアルバム表題曲である雄大なエピック・チューン⑤は本作の魅力が集約された逸品。この曲に限らず、サウンドの気品とファンタジックな抒情性を効果的に引き上げる、新加入のKey奏者の良い仕事ぶりが光っていますね(カトレイの人肌の温もりを伝えるVo、クラーキンの滋味溢れるGの素晴らしさい関しては今更言及するまでなく)
バンド名はジャバン?ギャバン?(宇宙刑事?)どう読む?と思ったら、どうもドイツ語で「ジャワ」と読む模様。メロディ愛好家から地味に寵愛を受ける名盤『SOMEWHERE IN THE NIGHT』1枚を残して解散してしまい、その後はメンバーの動向もよう分からんかった謎多きドイツの6人組が’92年に残した最初で最後のアルバム。リリース当時BURRN!!誌のレビューで高得点を叩き出していたので、「じゃあ日本盤も出るだろ」と高を括っていたのですが、いつまで経ってもその気配はなく、そうこうする内にバンドが解散してしまったとの噂を耳にして、仕方ないので輸入盤を買いに走りましたよ。 雑誌レビューではRISING FORCEが比較対象として挙げられていましたが、個人的にはそこまでバリバリの様式美HM路線な印象はなく、煌びやかなKeyをフィーチュアして、哀愁と透明感を湛えた音像は北欧ハードポップに近い感じ。かと思えば、ジェフ・スコット・ソート似のVoの声質が、サウンドの繊細さからするとやや太めな辺りがゲルマン風味も主張しているという。しかしハード・ナンバーからバラードまでエモーショナルに歌いこなす、このシンガーの歌唱能力の高さは保証できますし、彼が歌うクラシカルな風情を湛えた⑥、儚く爪弾かれるアコギをバックに切々と歌い上げる⑫といったバラード2曲は、メロディの泣きっぷりといいドラマティックな曲展開といい、まさに珠玉。そして当然、テクニカルなGをお供に涼し気に駆け抜けていく①のようなHRナンバーも魅力的です。 今となっては余り顧みられる機会のない1枚ですが、メロディ愛好家を自認する方なら一度ぐらい聴いておいて損はないかと。
'87年発表の4th『V』の中から4曲に、ゲイリー・ムーアやCHEAP TRICKとの仕事で知られるエンジニア、イアン・テイラーの手によるミックスを施し同年クリスマスに発表されたミニ・アルバム。ちなみにリーダー・トラックであるジョン・ウェット提供の名曲“DON’T LEAVE ME NOW”はロング・バージョンとリミックス・バージョンの2種を、“DON’T TELL ME LIE”はロング・バージョンを、“CRY NO MORE”と“BREAK OUT”はリミックス・バージョンをそれぞれ収録する全5曲構成。 楽曲の素晴らしさに関してはアルバム『V』の項目をご参照頂くとして、本作と『V』を熱心に聴き比べたことがないため、イントロからして明らかに変わっている“DON’T LEAVE~”以外は、アルバム・バージョンとの差異は正直「分かったような分からないような」レベルの不届き者なのですが、とりあえず全体的に厚見玲衣のKeyサウンドが前面に出て、よりゴージャス感を強調した音作りが目指されていることは流石に伝わりました。逆に今聴くと80年代然としたプロダクションに時代を感じてしまう気も…いやいや。この辺は聴く人の趣味嗜好の問題でしょう。 いわゆる「ファン・アイテム」であり、既に『V』を持ってる人がわざわざ購入する必要がある作品かどうかは微妙なところですが、優れた楽曲を超人揃いのメンバーが全力でパフォームしているのですから、質の高さは保証できる1枚なのは間違いありません。
’92年に東京・中野サンプラザで行われた「サヨナラ公演」の模様を収録したTNT初の実況録音盤。 そっけない導入部を含め、観客の声援を大々的にフィーチュアしたタイプの作品ではなく、また全盛期のTNTが残した唯一のライブ盤(正確にはVHS作品『FOREVER SHINE ON JAPAN LIVE』もあるけど未DVD化)にも関わらず、選曲が『REALIZED FANTASIES』偏重…というか、バンド側の判断で名盤『INTUITION』から当日披露された楽曲が悉くオミットされるというご無体極まる構成ゆえ、リアル・タイムで聴いた当時は全く乗れず、CD棚で埃を被らせてしまっていたという。 ただ、紆余曲折ありつつも再結成TNTが活動を継続する現在では、もう少し落ち着いて本作を吟味できようになりまして。で、冷静に分析してみたところ、やっぱり選曲の弱さには如何ともし難いものがあるなぁと。それでも、解散が決定的な状況下で敢行されたことから「集金ツアー」なんて揶揄にも怯むことなく会場へ駆けつけた熱心のファンの声援を受け、ロニー・ル・テクロのGプレイを始めとするバンドの演奏は冴え渡っていますし、『REALIZED~』のハイライトを飾った名バラード“LIONSHEART”におけるトニー・ハーネルの圧巻の歌唱は「感動的」の一言に尽きる。メンバー紹介や観客との掛け合いを盛り込んで、『TELL NO TALES』『KNIGHTS OF NEW THUNDER』収録の名曲が畳み掛けられる終盤の流れは、「あれ?結構盛り上がるぞ」と。 なんやかんや言いつつも、やはり手放せない1枚なのでありました。
'07年発表の2nd『CEASE FIRE SAVE YOUR ROUNDS』以来、音沙汰がなかった愛知出身の4人組が、久々にリリースした3曲入りシングル(’18年発表)。ディスクユニオンで買ったら特典として2曲の未発表曲入りCD-Rが付いてきたので、実質5曲入りEPと言えなくもないか? 『CEASE~』は、全7曲で収録時間が20分弱と、かなりクロスオーバー・スラッシュ方面にはっちゃけた内容だったと記憶しておりますが、本作も一発録りっぽいラフな音質といい、Gリフのササクレ感や、突っ走った時に放たれるアグレッションといい、ジャンルとしては間違いなくスラッシュ・メタルで括れるサウンド。ただ、男臭い発声のVoがメロディを追っかけ(OUTRAGEの橋本直樹と似たタイプ)、時にMOTORHEADに通じる埃っぽさを身に纏わせた楽曲はパワー・メタル…というよりも、80年代初頭のスラッシュ・メタル誕生数歩手前のHM的な感触も有り。 また、勢いに任せてガムシャラに畳み掛けるのではなく、曲によってはプログレ・メタルばりの緩急を仕込んだ曲展開や、適度に隙間を活かしたリフ&リズムの組み立てで抜けの良さを演出したりする手腕、それでいてあれこれ詰め込み過ぎてとっ散らかった印象はなく、それらがちゃんとバンドの個性として消化されている辺りは流石キャリアの長いバンドだけのことはあるなぁと。 継続的な活動と、ニュー・アルバムの発表への期待を高めずにはいられない1枚。
楽曲の題材選びから、全身に血塗れメイキャップを施したメンバーの扮装まで、「ホラー・スラッシュ」を標榜するスウェーデンの5人組が'17年に発表した5thアルバム。 キレッキレなGリフ、機動力に富むリズム、メロディも追えるハイピッチVoという、抜群の安定感を誇るパフォーマンスがスクラムを組み、ランニング・タイム2~3分台とタイトにまとめ上げられた高速ナンバーが次から次へと畳み掛ける、速戦即決のスラッシュ・メタル…という基本スタイルは勿論継続。但しGソロが殆ど聴かれなかったり、前作『4:RISE OF THE MOSHERS』に比べるとややクロスオーバー方面に揺り戻されている感有り。 ヘドバンに興じてるうちにアッという間に聴き終っているという、頭よりも体で楽しむタイプの作品であり、1曲1曲のインパクトはそれほどでもない…かと思いきや。歌詞のテーマに『バーニング』『13日の金曜日PARTⅡ』『ローズマリー』『ゾンビ3』etc.といった1981年に撮られたホラー映画の名作(もしくはポンコツだけど愛される迷作)を取り上げることで、各曲のキャラ立ちを明快にしてしまうという仕掛け。ジャンル映画ファン的には、『バーニング』のバンボロって誰だよ?とか、『ローズマリー』のトム・サヴィーニの殺人芸術は見事だったなとか、思わず1曲毎に語りたくなってしまいますよ。楽曲的には、アルバム全体のテーマ曲でもある①、炸裂感に溢れたサビメロにアガる④、「キ・キ・キ…マ・マ・マ…」コーラスまで組み込んだ⑤、歌えるVoが活かされた⑧、歌詞的にも曲調的にも見事にハマったDEATHのカヴァー⑮辺りのカッコ良さが特に印象的。 次はもうちょい早いペースで出してね、と思わずお願いしたくなる充実作です。
BAD COMPANYを解散させたポール・ロジャースと、LED ZEPPELINを解散させたジミー・ペイジのご両人が、多発性硬化症を患うロニー・レーン(元FACES)のために開催されたベネフィット・コンサートを切っ掛けに意気投合。その後立ち上げたTHE FIRMが’86年に発表した2ndアルバムにしてラスト作となったのがこちら。 ペイジが弾き、ロジャースが歌う…こいつぁ凄いことになりそうな予感!とパンパンに膨らんだファンの期待を他所に、デビュー作で提示されたのはZEP色の薄い、シンプルで飾り気のないブルーズ・ロック。バブルに浮かれる80年代真っ盛りのロック・シーンにおいては、「地味」「期待外れ」と芳しい評価を得られなかったと聞き及びますが、後追いリスナーな上に、そもそもZEPには殆ど思い入れがないボンクラゆえ(BAD COMPANYは大好きなのですが)「ポール・ロジャースの上手い歌が聴ければいいか」ぐらいの過度な期待をせずに購入したことが奏功したのか、本作も十分楽しむことが出来ましたよ。 特にメロウに揺らめくヒット・チューン③や、後半から踊り出すピアノがバドカンの名曲“RUN WITH THE PACK”を思い起こさせる④といった、ブリティッシュ・ロックならではの哀愁と、ロジャース先生絶品の歌唱が堪能できる楽曲はバッチグー。また草原を吹き抜ける一陣のそよ風の如き⑩におけるペイジ御大のGプレイも実に味わい深く美味。 音質やアレンジ面を含め、同時代のヒット作に比べると圧倒的に華のない作風ではありますが、お陰で今聴き直しても時代性を意識せずに楽しむことができるという、ある意味タイムレスな魅力を持った(?)1枚ではないかと。