ボストンのクリスチャン・メタル・バンド、MASSが翌年発表する2ndフル・アルバムに先駆けて’87年にリリースした6曲入りEP。 その昔。ラジオで耳にしたのか、お店で流れていたのを聴いたのか忘れてしまいましたが、ともかく名曲“OVER YOU”のあまりのカッコ良さにK.O.され、こりゃ是が非でも収録作品をゲットせねば!と探し回ってようやっと購入。しかも実際に本作を聴いてみたら、キレのあるスピード・ナンバー③や、抒情メロディと劇的な構築美を備えた⑥(あと再発盤にボートラとして追加収録されている⑦もドラマティックで素晴らしい)等、それ以外の収録曲も捨て曲なしの名作だったというね。 次作『VOICES IN THE NIGHT』(’88年)ではマイケル・スウィートをプロデューサーに迎え、音作りやキャッチーなコーラス・ワークがより洗練されたことで、更にSTRYPER色が強化されることとなりますが、この頃のサウンドから受ける印象はセルフ・プロデュースによるラフな音質とも相俟って、未だ「アグレッシブな正統派HM」といった趣き(何せ1曲目からタイトルは“PEDAL TO THE METAL”ですからね)。その集大成と言うべきが、イントロの――ちょっとSTRYPERの名曲“SOLDIER UNDER COMMAND”を彷彿とさせる――勇壮なGメロディだけでメタル魂に着火されてしまう、クリスチャン・メタル史に残る(と勝手認定)逸品“OVER YOU”だったのかなと。 ボリュームはタイトながら内容は濃厚。実はMASSの作品の中で最も手が伸びる率の多い1枚だったりします。
日本でも確固たるファン・ベースを構築済みのPRETTY MAIDS。その彼らのカタログの中で、次作にして名盤『RED, HOT AND HEAVY』のインパクトに存在感を掻き消されてしまい、「え?そんな作品あったっけ?」と極めて影が薄いのが、’84年発表のこの6曲入りデビューEP。人気がないとか以前に、そもそも知名度がないという点ではTNTの1stに通じるものがあるような、ないような…。中古盤屋じゃとんと見かけない割に、特にプレミア価格で取引されているわけでもない辺りが本作の立ち位置を如実に物語っていますよ。 ロニー・アトキンスの看板Voや、攻撃的なツインGの運用法等、バンドとしての基礎が固まりつつあることは既に本作の時点で伺えるものの、NWOBHMやTHIN LIZZYからの影響の痕跡がハッキリとコンニチワする楽曲に関しては、まだまだ荒削り。例えば疾走ナンバー①④は、名曲“BACK TO BACK”の試し打ち的カッコ良さを有する反面、全体的に力押しに終始する仕上がりで、様式美HMというよりはNWOBHMばりの直線的な荒くれ感の方が強く感じられるという。(HELOWEEN登場前の独産パワー・メタルっぽくもある) 逆にそういう意味では、ここでしか聴くことができないタイプのPRETTY MAIDSサウンドが楽しめる作品であると言えますし、何より「磨けば光るダイヤの原石」としてのポテンシャルの高さは、前述の疾走曲①④、ケンさんのGソロも美味な抒情ナンバー⑤(イントロが“孤独のナイト・ゲームス”みたい)からもびんびんに感じ取れます。 90年代にCD化されたきり、ほったらかしになっている作品なんで(多分)、取り敢えずリマスター再発の方をお願いしたいところなのですが。
ノルウェーのDA VINCIが’87年にPOLYDOR RECORDSから発表し、本国ではグラミー賞を受賞するほどの大ヒット作となった1stアルバム。日本盤は遅れて’93年にゼロ・コーポレーションを通じ、2nd『BACK IN BUSINESS』と同時リリースされました。 自分は先に『BACK~』を聴き、その完成度の高さに感心したことから本作も購入したのですが、涼しげなKeyを取り入れた中期EUROPE辺りに通じるハードポップ・サウンドが、既にこの時点で満開。北欧メタルと聞くと、どうしても「ヘタウマなVo」「貧相な音質」といった垢抜けないイメージが付き纏いますが、本作に関してはメジャー資本のバックアップを受けているだけあって音質は良好ですし、フックを盛り込んだメロディ構築術に抜かりがない上に、アレンジもハイセンスときたもんだ。 特にグラミー賞会場でも演奏したというポップに弾む①や、ドラマ性と大衆性を高いレベルで両立させた大ヒット・バラード③、Keyを有用した中間部の鮮烈なアレンジが技ありな⑥、メロディの甘さとコーラス・ワークの美しさに聴き惚れる⑨といった楽曲は、如何にも新人バンド的な「脇の甘さ」がまるで感じられない見事な出来栄えを誇ります。 少々軽過ぎる&甘過ぎる音に思える向きもありましょうが、メロディ愛好家にとっちゃこれからの季節、寝苦しい熱帯夜を快適に過ごすためのお供に打ってつけの、実に爽やかな1枚。ちょいと前まで中古盤にアホみたいに高値が付けられていましたが、輸入盤も再発された近年は価格も落ち着いて来たようなので、買うには丁度いいタイミングではないでしょうか。その際は2nd『BACK IN BUSINESS』も併せて是非どうぞ。
幼馴染のメンバーらによって結成され、LAベースに活動していたツインG編成の4人組。’86年にSCOTTI Bros. RECORDSからセルフ・タイトルの1stアルバムを発表してデビュー(プロデューサーは売れっ子ジェフ・ワーマン)。WILD CHERRYのカヴァーでもあるシングル“PLAY THAT FUNKY MUSIC”は米ビルボード・チャート63位にランクインを果たした。 日・香合作映画『孔雀王』に楽曲提供が決まったことから、“NOT THE SAME”と“PLAY THAT FUNKY MUSIC”の2曲を本編からカットした代わりに、映画主題歌“BURNING THRUGH THE NIGHT”と、サントラ曲“MY WAY”を新たに収録、アルバム・タイトルも『BURNING THROUH THE NIGHT』に変更した特別仕様で'88年に日本デビューを飾る。ちなみに“BURNING~”と“MY WAY”の楽曲権利は日本側にあるようで、’07年にオリジナル盤がリマスター再発された際にも、この2曲は収録されていない。 バンドは日本デビューからまもなく、全くサポートのない所属レーベルに失望し解散を選択した。
スラッシュ・シーンとハードコア/パンク・シーンのクロスオーバー推進に一役買ったパイオニア・バンドの一つ、マイク・ミューア(Vo)率いるカリフォルニア出身の5人組が’87年に発表した、アメリカ軍の徴兵ポスターのデザインをパロった表題とアートワークが目印の2ndアルバム。(邦題は『軍団宣言』) スケーターズ・ロックならではの疾走感は既に十分なれど、いかせんメタル側からすると音の軽さが気になったセルフ・タイトルのデビュー作。正統派HM色を強め(泣きのGソロまで聴ける)BUURN!!誌レビューじゃゴッドが高得点を献上したものの、疾走感の低下には物足りなさを覚えざるを得なかった3rd『HOW WILL I LAUGH TOMMORW WHEN I CAN’T EVEN SMILE TODAY』。この2枚の間に挟まれた本作は、ハードコア/パンク由来の爆発的スピード感と、へヴィ・メタリックなエッジの鋭さを美味しいトコ取りした、まさにクロスオーバー・スラッシュの名盤と評するに相応しい出来栄えを提示しています。 スラッシュ・メタルとしてジャッジした場合、マイク・ミューアの声の「軽さ」「線の細さ」には相変わらず迫力不足の感が否めぬまでも、緩急を取り込んでテンション高く突っ走るアルバム表題曲②や、本作から加入したバンド随一のメタル・ガイ、ロッキー・ジョージ(G)によって高速で切り刻まれるGリフが「これぞスラッシュ!」なカッコ良さを叩き付けて来る⑦といった名曲を前にすれば、そんなこたぁ些細な問題かと。 SUICIDAL TENDENCIES入門盤として、またクロスオーバー・スラッシュのジャンル入門盤としてもお薦め出来る1枚です。
現在は敏腕プロデューサーとして名を馳せるトミー・ニュートンを中心に結成されたドイツの5人組が、家庭の事情により脱退したチャーリー・ハーンの後任に、オーディションの末フェルナンド・ガルシア(Vo)を迎え入れて’88年に発表した4thアルバム(邦題は『ネヴァー・サティスファイド』)。ちなみにそのオーディションには、元TYGERS OF PAN TANGのジョナサン・ディヴァリル、THUNDERHEADのテッド・ブレットらが参加していたことはよく知られた話(特にテッドは加入寸前まで行ったらしい) 本作は、エネルギッシュに歌うVoによってもたらされるアリーナ・ロック的スケール感や、合唱を誘う開放的コーラス・ワークに加え、ツインGが奏でる劇的にして湿ったメロディという、アメリカン・ロックと欧州HMの特色を併せ持ったVICTORY流HMサウンドの完成形が提示された名盤です。嘗てはそうした折衷スタイルが「美味しいトコ取り」というよりも「どっちつかず」「中途半端」に感じられ、聴くのを敬遠してしまっていたのですが、愁いを帯びつつキャッチーなVICTORY屈指の名曲⑥を始めとする優れた楽曲の数々を前にすれば、つまらない先入観に囚われていた己を恥じいるばかり。 何しろ、グルーヴィなアルバム表題曲②や、雄大なバラード③といったシングルが、アメリカのラジオ及びMTVで好リアクションを獲得し、アルバム自体も本国チャートで最高19位を記録。最終的には全世界で25万枚以上を売り上げる等、どこに出しても恥ずかしくない立派な成績を残しているのですから、その内容の充実っぷりたるや推して知るべし。 次作『TEMPLE OF GOLD』と併せて、VICTORY入門盤にお薦めする1枚です。