“SISTER CHRISTIAN”(第5位)と“WHEN YOU CLOSE YOUR EYES”(第14位)という2曲のヒット・シングルを生み出すと共に、200万枚以上を売り上げてダブル・プラチナムに輝いた’83年発表の2ndアルバム。 ツインGがフラッシーなバトルを繰り広げる傍ら、ツインVoは美しいハーモニーを奏で、更にKeyがカラフルな彩りを加えるという、個性的なメンバーの技を存分に活かした贅沢な音楽性はデビュー作のスタイルを順当に継承。一方でHR/HM人気がオーバー・グラウンドへと浮上していく時代背景を反映させたかの如く、プロダクションはより耳ざわり良く、サウンドの方はより明るく華やかに洗練の度合いを高めています。 例えば今回“炎の彼方”ばりの疾走感や、“NIGHT RANGER”で聴かれたような曲展開といったへヴィ・メタリックな要素は抑え気味なれど、その分メロディはキャッチーに磨き上げられていて、コンスタントに良い曲が揃っているという点ではデビュー作をも上回る出来栄えではないかと。その好例が大ヒット・パワー・バラード“SISTER~”であり、リリカルなメロディが胸を打つ“WHEN YOU~”であったのかなと。 勿論、スポーツ・ニュースのテーマ曲が似合いそうな爽快な曲調と合唱を誘うコーラスが、毎回ライブにおいてハイライトを創出するOPナンバー“ROCK IN AMERICA”や、Keyを活かした“WHY DOES LOVE HAVE TO CHANGE”といったエネルギッシュなHRナンバーのカッコ良さも、本作の魅力の一翼を担っています。 NIGHT RANGERの代表作と言えば、やはりこの作品ということになるのでしょうか?
日本先行で人気に火が点いたNIGHT RANGERのデビュー作。(邦題は『緊急指令N.R.』) オジー・オズボーンとの活動で一躍その名をシーンに知らしめた「アーミングの鬼」ことブラッド・ギルスと、オクトパス奏法を操るジェフ・ワトソンというタイプの異なる2人の若きギター・ヒーローを擁し、更に敏腕ソングライターとしても鳴らすBのジャック・ブレイズ&歌えるドラマー、ケリー・ケイギーによるHR/HMバンドには珍しいツインVo体制。かてて加えてアラン・フィッツジェラルドのキラキラと眩く煌めくKeyに飾り立てられた収録曲は、これ見よがしのテクニック発表会に陥ることなく、躍動感溢れる疾走ナンバーから美しいバラードまで、ハードなエッジとキャッチーなメロディが絶妙な融合を果たしています。キャラの立ったメンバーに優れた楽曲まで揃い、しかもそれが然るべき時期に然るべきプロモーションを受けたならば、そりゃあ人気が出ないわけがない、と。 特に、シブがき隊の“ZOKKON命”にイントロをパクられたことでも話題を呼んだ(?)アルバムOPナンバー“DON’T TELL ME YOU LOVE ME”(邦題“炎の彼方”)は、ツインGがスリリングに駆け抜けるNIGHT RANGER屈指の名曲の一つ。次作収録の“SISTER CHRISTIAN”ヒット以降は「バラード・バンド」なるレッテル貼りと、売れ線を強要してくるレコード会社からのプレッシャーに苦しめられた彼らなれど、この頃はそうした悩みとは一切無縁に、シングル・カットされた②(最高第50位)、愁いを帯びた⑤、緩急の効いたバンドのテーマ曲⑩といったハードにロックする楽曲をイキイキとプレイ。演る側も聴く側も思わず笑顔になってしまう、ポジティブなエネルギー渦巻く名盤です。
KING BISCUIT FLOWER HOUR放送用に収録された、TRIUMPHが’81年にアメリカのオハイオ州クリーブランドで行ったライブ音源が’97年にCD化。 彼らのライブ盤と言うと『STAGES』がありますが、絶頂期を迎えたバンドの横綱相撲が楽しめるあちらに比べ、栄光を鷲掴むべくガムシャラに突っ走っていた時期のTRIUMPHの姿が生々しく記録されているこちら。ベスト盤的構成のあちらに対し、一本のショウを丸々収録するこちら…といった具合に、同じライブ盤でもその性質は大きく異なっています。 なので本作におけるメンバーのパフォーマンスは、MCも含め全体的にかなり走り気味という。特にシンガーとしてのみならず、ドラマーとしての実力者ぶりも遺憾なく発揮するギル・ムーア(Vo, Ds)の存在が今作の肝。バンド・サウンドの強力な推進剤の役割も担う彼のパワフルなドラミングに呼応するかの如く、スマッシュ・ヒット・チューン“I LIVE FOR THE WEEKEND”や、中間部にリック・エメットのGの妙技が堪能できるインスト曲“FINGERTALKIN’”を挿し込んだ“ROCK & ROLL MACHINE”等、セットリストもアップテンポでハード・ロッキンな楽曲を中心に構築されていて、バラードリーな“LAY IT ON THE LINE”にすら(スタジオ版にはない)疾走パートを組み込んでみせる徹底ぶり。そうかと思えば一転、初期の大名曲“BLIND LIGHT SHOW/MOONCHILD”を、インプロヴィゼーションを交えオリジナル・バージョン以上にメロウにして壮大、且つドラマティックに再現してしまうのですから、HRからプログレッシブ・ロックまで、TRIUMPHというバンドの表現力の多彩さには恐れ入り谷の鬼子母神。ファンなら必須の1枚ですよ。
大映ドラマにドはまりしていた中学生の時分、 部活の先輩が「これが『乳姉妹』の主題歌の原曲だぞ」と カセットに録ってくれたのがこの名曲との出会い。 (一緒にボニー・タイラーの“HOLDING OUT FOR A HERO”も録ってくれたっけな) その時初めて「洋楽」というジャンルを意識したので ある意味、HR/HMというジャンルに足を踏み入れるきっかけともなった 恩人とも言える名曲ではないかと。
ドイツ本国でチャート№1の座を獲得した5th『PREACHERS OF THE NIGHT』の勢いを駆り、'15年に発表された6thアルバム。ついでにここ日本でも漸く国内盤のリリースが実現(前作も同時発売)。更に国内盤は、JUDAS PRIESTの“A TOUCH OF EVIL”、SAVATAGEの“EDGE OF THORNS”、CHROMING ROSEの“権力と栄光”、BLACK SABBATHの“HEADLESS CROSS”etc.といった、思わず「ナイス・チョイス!」と肩を叩きたくなる名曲の数々のカヴァー、全10曲を収録したボーナスCDとの2枚組仕様。しかもお値段はお得な据え置き価格で、これはお買い得ですよ!(ショップTV風に) 音楽性の方も前作同様、シンフォニックなKeyとチャーチ・オルガンを活かした劇的なアレンジ、ラテン語を交えた歌詞を時にオペラティックに、時にメタリックに歌い上げるシアトリカルなVo、それにコーラスを荘厳に彩るクワイアがフィーチュアされた、勇壮にしてキャッチーなパワー・メタル路線を堂々追求。間違いなく日本のHR/HMファンにも希求し得る魅力を満載にしたサウンドのように思われます。 前作と比較した場合、“AMEN & ATTACK”レベルの頭抜けた楽曲が見当たらない…というか、少々楽曲のパターン化が気にならなくもないのですが、それでもスピーディ&パワフルな収録曲は(捨て曲の見当たらない)文句なく高いクオリティを維持。またドラマティック過ぎる程にドラマティックな作風でありながら、無駄に大作主義に走らず、楽曲をタイトにまとめ上げる姿勢も本作の「取っ付き易さ」向上に一役買っているのではないかと。 LOUD PARKで呼んでくれれば、日本でも人気に火が点くのでは?と思わせてくれる1枚。
’13年に発表するやドイツのナショナル・チャート№1の座に躍り出る大ヒット作となった4th。 何だかよう分からんが、基本コンセプトに「狼」を据えたバンドということで、「まぁ要するにドイツ版MAN WITH A MISSONみたいなもんか?」とか薄らぼんやりしたイメージを抱いて本作を購入してみれば、別にメンバーは狼マスクを被っていたりはしませんでしたし(当たり前だ)、託されているサウンドも流行り要素皆無のオーソドックスなジャーマン・パワー・メタルだったという。 但しオーソドックスと言っても、Keyを活かしたシンフォニックなアレンジ、白塗りの風貌でパワフルなシャウトと朗々たるオペラティックな歌い上げを使い分ける「新世代のキング・ダイアモンド」――というか「ドイツのデーモン小暮」と呼びたくなる――実力派シンガーの歌唱、重厚に炸裂するクワイア、そして楽曲に冷厳なアクセントを加えるチャーチ・オルガンの調べが、宗教や東欧伝承をテーマにラテン語を交えて綴られる歌詞世界と呼応して、このバンド独自の荘厳且つドラマティックな音世界を描き出します。かてて加えてメロディが実にキャッチー。例えばPVも制作された本作のリーダー・トラック①からも明らかな通り、収録曲はパワフルで疾走感に溢れていてもコーラスは一度聴いてしまえばすぐに一緒に歌える(歌いたくなる)フックラインを有しており、こりゃ確かにチャート1位になっても不思議ではないなぁと。 実際に聴くまでは「過大評価じゃないの?」とか舐めて掛かる気持ちが無きにしも非ずだったですが、そしたらこの捨て曲なしの完成度の高さ。侮ったりしてすまなんだ。
ドイツ南西部の都市、ザールブリュッケンにて、ストーナー・ロック・バンドRED AIMを前身として、’03年から活動を開始。 「狼」をシンボルに掲げ、コープス・ペイント&全身ローブのシアトリカルな扮装で身を固め、一風変わったコンセプトのもと繰り出されるパワー・メタル・サウンドでもって着実に地歩を固め、’04年に『RETURN IN BLOODRED』、’07年に2nd『LUPUS DEI』を、’09年には3rd『BIBLE OF THE BEAST』、'11年に4th『BLOOD OF THE SAINTS』と、アルバムを発表する毎に人気も上昇。3rdがドイツ総合チャート第77位、4thが23位、そして’13年発表の5th『PREACHERS OF THE NIGHT』がとうとうナショナル・チャート第1位の座を獲得する快挙を達成している。
D.A.D.と言えば、大ヒット作『NO FUEL LEFT FOR THE PILGRIMS』(’89年)に対して、BURRN!!誌上ではゴッドが90点台を献上。その後すぐに2度の来日公演が実現する等、「新世代北欧ロック・バンドの雄」として注目を集める存在でした。本作はそんな彼らが’90年に日本で行ったショウケース・ギグ(会場は大阪MIDシアター)の模様を捉えた実況録音盤で、収録曲は7曲と少なめ。また選曲が『NO FUEL~』に偏っていることもあり、バンドの入門盤向けというよりは「熱心なファン向けアイテム」に類される1枚かと。 ぶっちゃけ、哀愁と美旋律まみれのオールドスクールな北欧メタルを愛する身的には、その風変りなロックンロール・サウンドは当時完全に興味の範疇外だったのですが、「日本収録のライブ盤」という点に釣られて本作を購入。そしたら「あ。案外良い曲書けるバンドなんだ」と(失礼過ぎる感想)。特にマカロニ・ウェスタンmeetsパンク・ロック=カウパンクと評された彼らの音楽性の真骨頂と言うべき“GIRL NATION”や、シングル・カットされ話題を呼んだ代表曲“SLEEPING MY DAY AWAY”等は、砂塵とタンブル・ウィード舞う西部の荒野を想起せずにはいられない、乾いた哀愁が心地良いったらないHRナンバー。 既に地元では確固たるステイタスを築いていたバンドだけあって、ライブ・パフォーマンスからは実績と自信に裏打ちされた安定感が漂いますし、掛け合いも盛り込んだ7曲目で飛び交う黄色い歓声を聴いていると「あぁ、日本でも人気あったんだなぁ」としみじみ。 興味本位から購入した作品でしたが、思ったよりもずっと楽しめた1枚でしたよ。
‘83年11月に、EASTERN ORBITが米軍横田基地内の将校クラブ「NCO CLUB」で行ったライブの模様を収めた実況録音盤(前座は十二単だったという)。 メンバーはJ.J.(Vo)、中島優貴(Key)、宮永“CHIBI”英一(Ds)、多田勇(G)、デイヴ伊藤(B)、それに特別ゲストのCHAR(G)という布陣。英語のMCも流暢にこなせるJ.J.の熱唱を始め、手練れの面子が繰り出す熱く激しいパフォーマンスと、初っ端からテンションが振り切れている観客の熱狂とが相俟って、本作を聴いていると、何やら海外で(そも米軍基地内はアメリカの領土なんですけども)、海外のバンドのライブを見ているような錯覚に陥る瞬間もしばしば。中でも個人的には、イアン・ペイスばりのタイトで流れるようなドラミングのみならず、RAIBOWのカヴァー③ではリードVoも担当する(しかも巧い!)という多才ぶりを発揮している、宮永英一の存在に特に感銘を受けましたね。 HEAVY METAL ARMY時代の代表曲①に始まり、疾走ナンバーの名曲②が後に続く「掴み」や、CHARの独奏“星条旗よ永遠なれ”からスタートする印象的なリフレインを持った⑥、全楽器が火花を散らして衝突し合うインスト曲⑦といった楽曲からは、スタジオ・バージョンを軽く凌駕する迫力と熱量が迸ります。「Key奏者が創作面のイニシアチブを握るバンド」と聞くと、プログレ・ハード系の音を想像しがちですが、ここに詰まっているサウンドは完全にHR/HMの領域にダイブ・イン。もしかすると1st『FUTURE FORCE』よりもEASTERN ORBIT入門盤にお薦めできるかもしれません。
サクセスとか、世間の流行り廃りとか、そういった世俗的事象には一切無頓着のままに、HR/HMシーンの裏街道を爆走し続けたカナダのスラッシュ・メタル番長、RAZORが’85年に発表した1stフル・アルバム。 トラッシーなジャケット・イラストといい、そこいらの公民館を借りてテレコで一発録りしました的プロダクションといい、突貫工事感が半端ない本作はハッキリ言ってチープ(尤も、この時期のスラッシュ・メタル・アルバムは多かれ少なかれそんな感じでしたけど)。リズムガン無視で強引にシャウトを捻じ込んで来るステイス“シープドッグ”マクラーレンの金切Voから、演奏がズレようが走ろうが「細けぇことはいいんだよ!」とばかりに突進を繰り返す楽器隊まで、ファイト一発!なラフさ加減に濃厚に息衝くのは、スラッシュと言うよりもパンキッシュなクソッタレ・スピリッツ。しかしながら昔は呆気に取られたそうした部分にこそ、今聴き返すと逆に轟々とメタル魂を燃え上がらされてしまうのが不思議でして、特に一心不乱にGリフを刻んで刻んで刻みまくるリーダー、デイヴ・カルロのリフ・カッター無双ぶりが痛快な“TAKE THE TORCH”なんて、鳥肌モノの名曲ですよ。 現代の感覚からすれば、もはや特別速いわけでもアグレッシブなわけでもない音かもしれませんが、しかし、ギアの壊れた自転車をそれでも猛然と漕ぎ倒すかのような、この鬼気迫る前のめりっぷりはやはりスペシャル。並のエクストリーム・メタル・バンドなんぞ足元にも寄り付かせない、破れかぶれなテンションの高さが痛快極まる1枚です。
ブラジルのVIPERが、'93年に川崎クラブチッタで行った初来日公演の模様を捉えた実況録音盤。 メロディック・パワー・メタルの名盤と評判の『THEATER OF FATE』(’89年)で一躍注目を集めるも、間もなくアンドレ・マトスが脱退。その後発表された3rd『EVOLUTION』(’92年)における大胆な音楽性の刷新がファンの間で賛否両論(つか圧倒的に「否」の意見が優勢だった)を巻き起こす中敢行された来日公演ということで、タイミング的には最悪もいいところ。動員もあまり良くなかったと記憶しておりますが、にも拘らずここに収められたライブが熱狂的な盛り上がりを聴かせてくれるのは、当日会場に集結したのが(批評に左右されない)筋金入りのVIPER MANIACSだったこと。そして、メタルというよりはロックンロール/パンキッシュな疾走感に貫かれたサウンド(QUEENの“WE WILL ROCK YOU”の倍速カヴァーもパンク・バンドが演りそうなアイデアですよね)が、スタジオ盤よりもライブで聴く方が遥かにカッコ良く響いたことがその要因でしょうか。 ハッキリ言ってシンガーの歌唱にしろ、楽器陣の演奏にしろ、初来日の喜びと緊張がない交ぜになって先走っているようなパフォーマンスは相当に危なっかしいのですが、このサウンドには不思議とそうした《気合一発!轟音で押しまくる、若さ溢れるライブ》(帯より)なノリがマッチしていて、文句を付ける気が起きません。⑩におけるバンドと会場が一体となった盛り上がりっぷりなんて何度聴いてもアガるものがありますよ。 「胸が熱くなる」と言うよりは、「気分がほっこりする」タイプのライブ盤なれど、大好きな作品です。VIPER再評価の切っ掛けの一つにどうぞ。
タイトルとアートワークはガテン系。でも音楽性の方は、ニール・カーノンが手掛けた音作りから、デズモンド・チャイルドら外部ライター勢を起用した形振り構わぬ姿勢まで(バックVoにはテリー・ブロック、ロビン・ベックも参加)、自信を持って放ったデビュー作『INDISCREET』がコケたことで「じゃあこれならどうだ!」とばかりに、一層AOR路線に前のめりになっている’89年発表の2ndアルバム。 いや前作だってポップで煌びやかな作品でしたけども、要所で溢れ出す泣きや哀愁が、隠しようのないFMのブリティッシュ・ロック・バンドとしての出自を物語っていたのに比べ、今回はもう身も心もアメリカンになりきって大陸の爽やかな微風を送り込んで来てくれています。例えるなら、前作収録曲“AMERICAN GIRL”の明るくハジけるノリを全編に行き渡らせたような感じ…とでも申しましょうか。 しかし、それが批判に値しないことは他の皆様の絶賛コメントが証明する通り。というか、こんだけ充実した制作環境だったら悪い作品なんて作りようもないですわな。スティーヴ・オーヴァーランドの「エモーショナルな歌唱」のお手本の如きVoや、兄クリスの弟に負けないぐらい歌心溢れるGプレイ等、メンバーのパフォーマンスも実に手堅い。 収録曲については、初めて聴いた時はジュディス&ロビンのランダル母娘提供の至高のハードポップ・ソング“SOMEDAY”のインパクトに全部持って行かれてしまった感があったのですが、その他の楽曲だって③⑤⑧等、十分に粒揃い。 3年後ぐらい、今度は『TOUGH IT OUT 30』をリリースするってのは如何でしょうか?
エンジェル・シュライファーとマティアス・ディート。ジャーマン・メタル・シーン指折りの実力派ギタリスト二人を新メンバーに加え、マット・シナーも「SINNERが最も充実していた時期の一つ」と述懐する強力なラインナップでレコーディングが行われ、'86年に発表された5thアルバム。(尤も、エンジェル・シュライファーは制作途中でPRETTY MAIDSに引き抜かれてしまうのですが) 前作『TOUCH OF SIN』は、絶妙なバランスでハードネスと哀愁のメロディが共存する「SINNER節」と表すべきサウンドを確立させた名盤でしたが、ドン・エイリーをゲストに迎えてKeyのフィーチュア度が格段に高まった今作は、コマーシャル路線へと大きく舵を切り、早くも音楽性に拡散の兆が見受けられるようになりました。 とは言え、明るくポップに疾走する①にしろ、タイトル“FASTER THAN LIGHT”に反して全く走らないけれど憂いを帯びたメロディには非常にグッとくる②や、本編のハイライトの一つに挙げたいぐらいハマっているビリー・アイドルのカヴァー⑤、それに軽快に駆け抜けていく⑥にしろ、シンセ類を活かした洗練を感じさせるアレンジから、相変わらずフックに富むメロディまで、楽曲の完成度は前作にも引けを取らない充実度。尚且つ攻撃的なツインGが映える⑨みたいなHMナンバーもちゃんと押さえられていたりと、隙のない作りが実に立派です。SINNERファンの間で高評価を受ける1枚なのも納得ですなぁと。 ちなみに、かつて再発された日本盤は次作『DANEROUS CHARM』との2㏌1仕様(発売元のビクターの得意技でした)。もしご購入を検討される場合はお得なそちらをどうぞ。
スラッシュ・メタル史に名を刻むベテランを次々と招聘する東の「THRASH DOMINATION」の向こうを張り、メジャーで華々しい実績を残したわけじゃないけど、マニアのハートにはその存在がガッチリと刻まれているクセ者を続々来日させる西の「TRUE THRASH FEST」。 '15年にはオーストラリアのHOBBS’ ANGEL OF DEATHまでが参戦を果たし「本当に呼んだの?」「すげえな!」と感心させられたばかり。しかも今回その彼らが新作を発表してくれて感激も一入です。国内盤はRAZORのライブ盤との同時発売で、店で2作が隣り合ってディスプレイされているのを見かけた時は「おお、テイチクの『HOBBS’ ANGEL OF DEATH vs RAZOR』再現!」と、思わず前世紀にタイムスリップした気分になりましたよ。 首魁ピーター・ホブス(Vo、G)のルックスは流石に老けた…というか横方向にかなり膨張気味なれど、不穏な導入部から激烈な疾走を開始する⑩や、荘厳なドラマ性も漂う⑫といった楽曲からも明らかな通り、曲作りの腕前は錆びることなく健在。鋭利なGリフがササクレて刻まれるファスト・パートと、邪悪さを発散するスロー/ミドル・パートを組み合わせ、そこに濃厚なアングラ臭を振りかけたような初期SLAYER直系のイーヴルなスラッシュ・サウンドは、デビュー当時の面影をそのまんま受け継いでいます。 時に炸裂するブラスト・ビートや、痙攣気味に刻まれるGリフといった北欧ブラック・メタル風味は新味と言えますが(BとDsはそっち系人脈からのヘルプ)、元々アンチ・クライスト・カラーも打ち出していたバンドゆえ、違和感なくハマっていますよ。 初来日を果たした喜びの表れか、漢字をあしらった裏ジャケにも実にほっこりさせられる1枚でした。
カナダのベテラン・スラッシャー、RAZORが、大阪開催のTRUE THRASH FESTに参戦した際の模様を収めた、(意外にも)彼らにとって初めてとなる実況録音盤。 『大阪最高』の邦題に相応しく、ボブ・レイド(Vo)による威勢の良い挨拶「マイドー!」でライブはスタートを切ります。セットリストの中心を担うのは、デイヴ・カルロ(G)の鬼神の如きシュレッド・リフに全身が総毛立つ“INSTANT DEATH”を始めとする、人気作『EVIL INVADERS』収録曲。全18曲、ランニング・タイムは60分オーバーという大ボリュームゆえ、キャリア云十年のベテランなら途中で「ミッド・テンポの楽曲で緩急を演出しよう」とか色々考えそうなものですが、RAZORはそういう仕掛けには一切興味がないご様子。MOTORHEADリスペクトな“IRON HAMMER”、攻撃的且つキャッチーな“SPEED MERCHANTS”、激烈たる“NOWHERE FAST”~“CROSS ME FOOL”メドレー、刻んで刻んで刻みまくる“TAKE THIS TORCH”etc…。畳み掛ける楽曲は最初から最後まで、一瞬たりとも立ち止まることなく全力疾走。ブレーキ無用の前のめりな突進を繰り返す楽曲とメンバーのパフォーマンスを更に加速させる、浪速スラッシャーの隙あらば「RAZOR!」コールを繰り返す盛り上がりも熱い(日本じゃないみたい)。煽り煽られ、短い掛け合いを経て雪崩れ込む名曲“EVIL INVADERS”はまさにクライマックス。 デビュー当時から全くブレることなく「スラッシュ馬鹿一代」な姿勢を貫徹し、HR/HMシーンの裏街道を駆け抜けて来たRAZORの、フルマラソンを100メートル走感覚で突っ走ってしまうような破れかぶれなパワーに圧倒される1枚です。痛快。
ツインGの片割れを元ACCEPT~現PANZERのハーマン・フランクに代え、’85年に発表された4thアルバム。ファンからは「初期SINNERの最高傑作」との高評価を獲得、バンド側にしても、初期楽曲の再録アルバムに『A TOUCH OF SIN 2』(’13年)なるタイトルを冠するぐらいですから、内容に対する自信の程が伺えます。ジャケットだけ見るとまずそんな風には思えないかもしれませんが(笑)。 THIN LIZZYからの影響を感じさせるメロディアスHRが胸を打った1stと2nd、ACCEPT、JUDAS PRIESTを思わすパワー・メタル路線に寄せた3rdと来て、今回は従来作の美点の集約を企図。哀メロを纏って踊るツインGのハモリっぷりに思わず目が細くなる②や、ポップ・センスも活かされたキャッチーな③という、SINNER屈指の名曲が雄弁に物語る通り、2本のGが印象的に紡ぐメロディの哀愁とHM然とした力強さの絶妙なバランス、ハードに疾走しようがクサく泣こうが(あとマットの歌声がお世辞にも美声とは言い難かろうが)、常に透明感を失わない本作は、前3作の「美味しいとこ取り」とでも言うべきサウンドに仕上がっています。 以降も、タイトル通り一緒に叫びたくなる④、メロウな⑤、アグレッシブに疾駆する⑦、これまたツインGの活躍が印象的な⑨etc.…と、本編はラストまで一切捨て曲なし。振り返ってみると、聴かせるよりもノらせるタイプの代表曲①が一番地味に感じられたりするのですが、あれはライブで真価を発揮するタイプの楽曲ですからね。 SINNERは山程アルバムを発表していて何から手を付ければいいのか分からないという方は、「SINNER節」の基礎が確立した本作から入ってみるのが良いのではないでしょうか。