その昔、どこぞの慌て者がデンマークのJACKALの作品と勘違いして購入するぐらい(ちくしょうめ・・・)似た名前のバンドが多数存在していてややこしいのですが、本作はオランダのJACKALが'89年に500枚限定でリリースし、マニアの間で評判を呼んだ6曲入りEP。 メタルバブル爛熟期真っ只中に産み落とされたのに、飾り気に乏しいプロダクションから、イキのいいツインG、そして少々頼りないハイトーンVoまで、真っ向から正統派HM一本勝負を挑んでくる本作は「バブル?何それ美味しいの?」状態。洗練とかゴージャスといったお洒落キーワード0っぷりで、GRAVESTONE、TALON等の80年代前半の独産メタル・バンドを引き合いに出して語られることの多い、浮かれトンチキな世間に背を向けたソリッド過ぎるサウンドが男らしいったら(単にお金がなかっただけかもしれませんが)。 ついでにジャーマン勢に比べると、メロディのクサ味や大仰な曲展開に対する拘りはアッサリ気味で、むしろ溌剌と突っ走る元気の良さの方が強く印象に残る辺りが、流石スピード/スラッシュ・メタルをいち早く受け入れ評価したオランダのバンドであると。特に、尻上がりにテンションを高めていく4曲目の“NIGHTMARE”と、後に続く彼らのテーマ曲とも言えそうなインスト・ナンバー“CRY OF THE JACKAL”はスリリングな名曲。 今となっては「うっかり間違えて買ってみるもんだなぁ」と感慨深い1枚です。フル・アルバムが聴いてみたかったな。
'85年に結成。オランダはアムステルダムを拠点に活動し、3本のデモテープを発表した後、'89年に6曲入りEP『CRY OF THE JACKAL』を500枚限定で自主制作。バンドは90年代に入って間もなく解散するも、『CRY~』はマニアの間で入手困難なお宝として評判を呼び、中古盤がかなりの高額で取引されるようになっていた。 '07年にオリジナル・メンバーだったGとDsが音頭を取ってJACKALは再結成。それに併せて、'87年と'91年のデモ音源5曲をボーナストラックとして収録した『CRY~』のリマスター盤もオフィシャル再発された。
雲間からゴッドが「とんでもねぇ!あたしゃ神様だよ!」と降臨しそうな勢いの神々しいコーラスで幕が開く、'15年発表の8thアルバム。 クリスチャン・ミュージック・シーンという安定した支持母体にも支えられ、チャート上位に発表アルバムを送り込む等、復活組の中でも順調な活動を継続している彼ら。ゆえに今回も、マイケル・スウィートが衰え知らずの美声を駆使して歌い上げる憂いを湛えたキャッチーなメロディに、メタリックな光沢を放つGリフ、そして華麗に舞う美の極みというべきボーカル・ハーモニーetc・・・と、これぞクリスチャン・メタルの鑑!というべきSTRYPERサウンドは健在です。 イントロとヴァースの弱さを、サビの劇的なメロディ展開で挽回するという、「才能の閃き」よりも「蓄積したベテランの業」を感じさせる曲作りの傾向はここ数作同様で、滑り出し①②の快調さに比べると、中盤の楽曲の弱さがやや気になるところではあります(BLACK SABBATHのカヴァー⑧は果たして必要だったのか?とか)。 それでも、壮麗なコーラスに圧倒される⑩、疾走感溢れる⑪、名曲“SOLDIER UNDER THE COMMAND”を彷彿とさせる⑫という、ラストのヘヴィ・メタリックなナンバー三連発による畳み掛けが大変素晴らしいため、聴き終えた後の帳尻をきっちりと合わせて来る辺りは流石。 STRYPERがアルバムを発表する毎に、どんどん往年の輝きを回復させていっていることを証明してくれる1枚ですよ。ハレルヤ。
遅々として進展しないBOSTONでの活動に業を煮やしたバリー・グドロー(G)とブラッド・デルプ(Vo)が、BOSTONを脱退してリズム隊及びKey奏者の5人編成で新たに立ち上げたバンド。なおバンド名は「再出発」を意味する「RETURN TO ZERO」に因む。 '91年にGIANT RECORDSから1st『RETURN TO ZERO』でデビューを飾り、同作からシングル・カットされた“FACE THE MUSIC”(第49位)“きみの愛が戻る日まで”(第26位)“ALL YOU'VE GOT”(第56位)の3曲が全米シングル・チャートにおいてそこそこ健闘するも、アルバム自体は泣かず飛ばずで'94年にバンドは解散。 ブラッド・デルプはBOSTONに復帰した後、'07年、自宅にて自ら命を絶っている。
デビュー作『REQUIEM FOR SCREAM』が絶賛された俊英ギタリスト、若井望(G)率いるプロジェクトが'15年に発表したミニ・アルバム。 ミニといっても全7曲でトータル40分に迫る収録時間は、アナログ時代であれば立派にアルバム級のボリューム。更に、ドヴォルザークの“新世界”のメロディをフィーチュアして突っ走るネオクラシカルな①を皮切りに、本編はデビュー作において披露した劇的且つメロディックな正統派HMサウンドをブレなく継承。前作ではバック・コーラスのみの参加に留まっていた女性シンガーの榊原ゆいとFUKIを、今回はガッツリとリードVoとして全面起用したり、アルバム・ハイライトの①を特別ゲストのロブ・ロックに⑦で再び歌ってもらうアイデアも、「こやつめ、やりおるわい」と。 そうした戦略から、収録曲のクオリティ、そして若井自身のエキサイティングなGプレイまで、本作には「次の作品までの繋ぎとして、ちゃちゃっと作ってみました」的なやっつけ仕事感は絶無。リスナーに満足感を与えつつ、同時に「もっと聴きたい」との飢餓感も煽るという、難しい注文にきっちりと答えを出してみせた1枚。
カナダはヴァンクーヴァーを拠点に活動する5人組。 ブリトニー・スレイズ(Vo)、スコット・ブキャナン(Ds)、ブレイデン・ディツコウスキ(G)らによって'07年に結成され、'09年には早くも1st『BEHOLD THE DEVASTATION』でデビューを飾っているので、活動は結成当初より順調だった模様。 オリジナル・メンバーでバンドの中心的存在だったブレイデンの脱退等がありつつも、2nd『DEMONS OF THE ASTROWASTE』('11年)の発表や、カナダ国内ツアーで腕を磨いたバンドは、'15年に入ってオーストリアのNAPALM RECORDSとのディールを獲得。同年には3rd『TIME STANDS STILL』をリリースし、更にはベルギーのスピード/スラッシュ・メタル・バンド、EVIL INVADERSのライブにスペシャル・ゲストとして帯同し、初の来日公演も敢行している。
名曲“LEGIONS OF THE DEAD”を収録する自主制作EP『WARRIORS OF THE SON』で'84年にデビューを飾った4人組が、'86年にPURE METAL RECORDSから発表した1stフル・アルバム。 ロブ・ハルフォードの生霊を憑依させたかのようなシンガーのイタコ真っ青な歌唱を筆頭に、JUDAS PRIESTに瓜二つな音楽性がマニアの間で評判となった彼ら・・・と書くと、単なる物真似バンドと思われるかもしれませんが、逆に「メタル・ゴッドと聴き紛う程のクオリティを有していた」とも言えるわけで。 もっさりとした音質に、まとわりつく垢抜けないマイナー・メタル風味と、アメリカのバンドらしいキャッチーさが加わった2nd『TOO LATE FOR LIVING』の名盤っぷりにはまだまだ及ばないまでも、デビューEPに比べると肩の力が抜け、ロブ・ハルフォー度を増したシンガーの歌唱から、前作より練られたフレーズを閃かせるようになったGまで、バンドとしてのレベルは格段にUP。中期JUDAS PRIESTばりの光沢を放つ③⑤⑧といった正統派HMナンバーが提示するカッコ良さは、(ゴールドクロス級とまでは行かずとも)とりあえずブロンズセイント並の破壊力は感じさせてくれる逸品です。 車田まさみ風に言うところの、「彼らはようやく登り始めたばかりだからな。この果てしなく遠いJUDAS PRIEST坂をよ・・・」と、SAINTの今後に大いに期待が持てる1枚。(事実、次作で大当たりを出してくれる)
FRONTIER RECORDSが仕掛けた数多のプロジェクトに参加し、ソングライターとしての手腕を振るって来たスウェーデン人アーティストのエリック・マーテンセン。その彼のメイン・バンドたるECLIPSEが'08年に発表した2ndアルバム。 そんなわけで聴く前から出来の良さは約束されたようなもんの本作ですが、実際に聴いた後も、その信頼が裏切られることはありませんでした。80年代風味満点の健康的なメロディックHR(日章旗ジャケットの採用は80年代っぽさを演出するためか?)という、デビュー作で披露したサウンドを継承しつつ、メロハー路線に寄せてた前作に比べると、今回はWHITESNAKEやUFOといった彼らのルーツたるブリティッシュHRバンド勢に対する愛情をつまびらかに開陳することで、楽曲に、よりハード・ロッキンなエッジと躍動感が加味されているのが特徴。その辺は『ARE YOU READY TO ROCK?』なる直球極まりないタイトルが堂々表す通りですね。 それでいて勢い任せで大味になってしまうことはなく、涼しげな哀愁に彩られた歌メロにしろ、メタリックに弾きまくって存在感を主張するGソロにしろ、全編に亘ってフックの大盤振る舞いなのですから、やはりエリック・マーテンセン、只者じゃあない。 無駄なく構成されたアルバムに捨て曲は見当たりませんが、中でもアグレッシブな曲調と伸びやかなサビメロの対比が印象的な②と、アコギ爪弾かれるイントロの後、憂いに満ちたメロディが本編随一のハードさを纏って駆け抜ける⑤の2曲は、それぞれアルバムの山となるハイライト・ナンバー。 これ以降のアルバムも聴いてみたくなる魅力溢れる作品です。
ARMORED SAINTの作品と対峙するのは随分と久し振りなのですが、お~全然変わっとらんのぞ、と。そう言えば、以前に『SYMBOL OF SALVATION』を聴いた時も「この人ら、(良い意味で)全然変わらんなぁ」との感想を持ったことを思い出しましたよ。 但し、甲冑風の衣装を身に纏い、“キエフの大門”で華々しく幕が開いた名盤『MARCH OF THE SAINT』のイメージで本作に挑むと、今回の地味というか地に足が着いてるというか・・・な作風には肩透かしを食うことになるではないかと。ここには勇壮なスピード・ナンバーやエピック・ソングといった判り易いタイプの楽曲は見当たらず(実のところ『MARCH~』だって表題曲を除けばそんな感じだったのですが)、また、熱いのか醒めてるのか、やる気があるんだかないんだか分かり辛いジョン・ブッシュ(Vo)のぶっきらぼうな歌い回しも、そうした印象に拍車を掛けます。いや単に声質がオッサン臭いだけで歌の上手い人であることは、硬派な憂いが匂い立つ④や、7分以上に及ぶドラマティック⑦等を聴くまでもなく明らかなんですけどね。 聴き様によってはモダンにもオールドスクールにも耳に響く、ヨーロッパ産の同系統バンドとは一味違う骨太で乾いた哀感渦巻くパワー・サウンドは、威勢良く叩きつけられるOPナンバー①から、メランコリックなバラード⑧を含む後半戦に至るまで、噛めば噛むほど味わいが増す(ありがちな表現ですが)スルメ系の魅力が横溢。じっくりと対峙することをお薦めする1枚に仕上がっています。 購入当初は「星二つかなぁ」ってなもんでしたが、今や三ツ星評価に何ら躊躇はありませんですことよ。