「イカ天」に出場してベスト・プレイヤー賞を受賞する等、インディーズ・シーンにおいて確固たるファンベースを築いていたDANTEが、’91年に満を持して発表した1stアルバム。 購入当時は「加瀬竜哉がBで参加している」ということ以外、本作に関する情報は殆ど手元になかったのですが、バンド名がDANTEで、アルバム・タイトルは『IN THE LOST PARADISE』。しかも発売元がMANDRAKE ROOTとくれば、「これもう絶対にドラマティックな様式美HMアルバムでしょ」と期待に胸膨らませて再生ボタンを押したらば、聴こえて来たのはラフでノリ重視のHMサウンド…。様式美作品でなくとも加瀬のソロ『SISTER LEESA』(’93年)みたいな作風であってくれればと期待していた我が身には肩透かし感が半端なかったものの、クレジットをよく見りゃ作曲担当はギタリスト氏。そもそも加瀬はバンドの中心メンバーでもなんでもなかったという。(思い違いしてたこっちが悪い) そんなわけで、ファースト・インプレッションにしくじった感のあった本作でしたが、繰り返し聴き込むうちに「これはこれであり」と評価を上方修正。インディーズ制作ゆえの音質的ハンデや、楽器陣の達者さに比べるとVoの弱さが如何ともし難いというジャパメタにありがちな弱点を抱えつつも、キレのある演奏とアレンジ・センスに支えられた楽曲は、キャッチーなコーラス・ワークをフィーチュアして疾走するOPナンバー①といい、躍動感溢れるDANTEの代表曲④といい、アルバム後半を引き締めるスピード・ナンバー⑧といい、時折ギラリと光るカッコ良さでこちらの耳を惹き付けてくれます。 MANDRAKE ROOTも店仕舞いしてしまい、今では余り見かけなくなってしまったのが残念な1枚ですね。
THE SNAKESに関わった90年代末ぐらいからか。日本のHR/HMファンの間でも「どうもノルウェー出身の凄いシンガーがいるらしい」と徐々に噂になりつつあったタイミングで、ヨルン・ランデ(Vo)がリリースした初めてのソロ・アルバム(’00年)。その門出を祝うべく、ロニー・ル・テクロ、トゥーレ・オストビー、ラルフ・サントーラ&シェーン・フレンチ等々、ヨルンがフロントマンを務めたVAGABOND、THE ARK、MILLENIUMといったバンドの面々がゲスト参戦して華を添えてくれています。 ソロ・アルバムといっても、書下ろしの新曲5曲、カヴァー5曲の全10曲からなる内容は若干変則的。ソロ・シンガーとしての表現欲求に突き動かされて作り上げたというよりは、「自分、こんな色々なタイプの楽曲が歌いこなせます!今後ともヨロシク!」ってな、HR/HMシーンに向けたプレゼン的な性格が強めに感じられる仕上がりです。 とはいえ、それが悪いなんてことは全然なく。譜面に正確なだけでは決して歌いこなせない、難易度高めの哀愁のOPナンバー①を情感豊かに歌い上げてみせる導入だけで早くもその実力派シンガーぶりを知らしめてくれる本作は、ソロ・アルバムとしてのクオリティも十分。またCITY BOYの“THE DAY THE EARTH CAUGHT FIRE”や、JOURNEYの“EDGE OF THE BLADE”、FOREIGNERの“BREAK IT UP”、JEFFEERSON STARSHIPの“JUST THE SAME”といった敢えて隠れた名曲を取り上げるセンスにもキラリと光るものがありますよ。 数あるヨルン・ランデのソロ作の中でも、上位に来る完成度を有す1枚ではないでしょうか。
スコットランドからデビューを飾ったKey奏者を含む5人組、THE PROMISEが'99年にNOW AND THEN RECORDSから発表した2ndアルバム。 1st『THE PROMISE』(’95年)は、グランジ旋風吹き荒れる90年代のHR/HMシーンに、淡く差し込む美しい陽光の如き作品としてメロディ愛好家から高評価を受けましたが、一度録音した音源が機材トラブルで全て消えてしまい、レコーディング作業をやり直す等の不運を乗り越えてようやく完成へと至った本作も、クオリティの高さでは一歩も引けを取りません。というか寧ろ、疾走ナンバー①、哀愁のメロハー②、キャッチーなハードポップ③、感動的なバラード④というタイプは異なれど、いずれ劣らぬ強力な楽曲が連続するアルバム冒頭の流れが物語る通り、収録曲を絞り込み、プロダクションの質を高め、煌めくKeyを散りばめてこれまで以上にハード・エッジと繊細な哀メロのメリハリが強調された本編は、前作を更に上回る完成度を提示してくれています。 特に線は細いが楽曲の抒情性を増幅する憂愁を湛えたVoの歌声と、テクニカルな演奏を閃かせつつ泣きのメロディも滾々と紡ぐ「腕に覚え有り」なGの存在が映える⑧は、前作収録の名曲“END OF THE GAME”にも匹敵する泣きの逸品ですよ。(ドラマティックに本編を締め括るラスト・ナンバー⑪も素晴らしい) これだけのアルバムをもってしても状況は好転せず、本作を最後にバンドは解散。非常に日本人好みのサウンドが詰まっていただけに、せめて我が国ではもうちょい話題になっても良さそうなものでしたが…。やはり消費者金融みたいなバンド名が良くなかったか。
チャーリー・シュタインハウアー(Vo)率いるPARADOX、'21年発表の新作アルバム。 そのチャーリー以外面子がごっそり入れ替わっていますが、最早メンバー・チェンジはこのバンドの恒例行事ゆえ驚きには値せず。逸材だったガス・ドラックスの離脱は痛手なれど、後任には近年ETERNITY’S END等を率いて頭角を現しているクリスティアン・ミュンツナー(G)が出戻っているので、空いた穴は完全に塞がったと言えるのではないでしょうか。 それより何より、本作最大のトピックは「宗教戦争」をテーマに取り上げたコンセプト・アルバムにして名盤の誉れ高い2nd『HERASY~異端』(’89年)の続編作りに、満を持してチャーリーが着手したこと。尤も、多数のゲストを迎えたり生オケを導入したりといった大仕掛けは目もくれず、ダークなメロディをニヒルに歌い上げるVo、タイトに刻まれるGリフ、硬質に突っ走るリズムが一丸となったパワー・サウンドで、あくまで武骨に押しきる剛毅な姿勢がPARADOXならでは。『TILES OF THE WIERED』(’13年)以来のバンド復帰となるクリスティアンも、益々磨きの掛かったシュレッド・ギターでモノクロームな本編に鮮烈な輝きを加えており、特に憂いを帯びたメロディを伴い、重心低く突進する曲調に劇的なツインGが狂い咲く③はアルバムの旨みを凝縮したような名曲。この曲含めてOPナンバーからMETAL CHURCHのカヴァー⑭まで、ほぼ全編をスラッシーなスピード・ナンバーで畳み掛ける一方、10分近くに及ぶ大作⑨は走りそうになるのをグッと堪えて、重厚かつ劇的に聴かせきるメリハリの付け方にもベテランの業が光ります。 名盤の続編たるに相応しい見事なクオリティを誇る力作です。
FOREIGNERでルー・グラムの後任という大役を担うケリー・ハンセン(Vo)、カルロス・カヴァーゾ&ルディ・サーゾの実弟であるトニー・カヴァーゾ(Ds)&ロバート・サーゾ(G)、後にASIAに参加するジェイ・シェレン(B)らが在籍していたLAのプチ・スーパー・バンドHURRICANEが’85年に発表したデビュー・ミニ。ちなみにレコードは6曲入りで、CD化に際して更にもう1曲(アコギ独演のインスト・ナンバーで秀逸な出来栄え)が追加収録されています。また輸入盤と国内盤でジャケット・デザインが異なっていて、平凡なグループ・ショットが採用されている国内盤よりも、思わず目を凝らさずにはいられない輸入盤のアートワークの方がぐっとくる仕上がりなのは言うまでもありません。 ノリ良く重量感溢れるアメリカンなHRナンバーと、美麗なハーモニーとウェットなメロディに彩られた欧州風味の抒情性薫る楽曲の二本立てからなる本編は、メンバーが手練れ揃いだけあってこのバンドならではの美点が既に開花。タイトル通りHOT&HEAVYにぶちかまされる⑥のような前者路線の楽曲、一転してじっくりドラマティックに聴かせるプログレ・ハード調のバラード⑤のような後者路線の楽曲、それぞれどちらも大変魅力的ですが、取り分け合唱せずにはいられないライブ映えするキャッチネスと、哀愁を帯びたメロディを纏ってワイルドに跳ねる両路線のエッセンスを溶け合わせたバンドのテーマ曲④は、本作のハイライトたるインパクトを放つ名曲に仕上がっています。 「嵐が来る…!」とばかりに、1stフル『OVER THE EDGE』(’88年)に対する期待を煽る予告編としての役割を十二分に果たす逸品ですよ。
メロハー界の名匠ジム・ピートリックとのデュオ・プロジェクトPRIDE OF LIONSでも順調にアルバム・リリースを重ねるシンガー、トビー・ヒッチコックが’21年に発表した3枚目のソロ・アルバム。 1st『MERCURY’S DOWN』(’11年)ではECLIPSEのエリック・マーテンソンを、2nd『RECKONING』(’19年)ではFIND ME、THE MURDER OF MY SWEET他のダニエル・フローレスをそれぞれ起用する等、ブレイン役は一作毎に替えていて、今回の仕切りにはFRONTIERS RECORDS関連作品でその名前を見聞きしないことはないんじゃなかろうか?なアレッサンドロ・デル・ヴェッキオが満を持して登板。彼の起用に合わせるように、サウンドの方もハード・ロッキンな爽快感や躍動感は抑えめに、より哀愁のメロディをじっくりと聴かせるAOR/産業ロック寄りのスタイルへと変化しています。 未だ1stを愛聴する身としてはその点が若干寂しくもあるのですが、とはいえ爽やかに駆け抜ける⑩(ジョエル・ホークストラがGでゲスト参加)のようなHRナンバーもきっちり用意されていますし、何よりジム・ピートリックが「より歌声のニュアンスや強弱を出すことで、深みや表現力がますます増している」と太鼓判を押すトビーの抜群の歌唱力が生きる、泣きに満ちた④、ピアノの旋律が切なさを引き立てる⑥、フィナーレを物悲しくもドラマティックに彩る⑪といった、エモーショナル極まりないバラード系の楽曲の充実ぶりには心底惚れ惚れさせられますよ。 近年でも指折りの実力派シンガーの歌を思う存分に堪能できる力作です。
1stソロ『BACK WHERE I BELONG』(’92年)との間にBLACK SABBATHへの復帰と再離脱(というかオジーとの復縁を模索していたサバス陣営による一方的な解雇)を挟み、'05年に発表されたトニー・マーティン(Vo)、2枚目のソロ・アルバム。 ゲストはBLACK SABBATH時代の僚友ジェフ・ニコルズ(Key)のみで、ほぼ全てのパートをマーティンと彼の息子ジョー・ハルフォード(G)が賄うという家内手工業スタイルで制作されていますが、リラックスしたAOR寄りの作風(これはこれで大変魅力だった)を志向していた前作『BACK~』に比べ、重々しく刻まれるGリフ、重厚かつダイナミックに駆動するリズム、その上で憂いに満ちたメロディをしなやかに歌い上げるVoといい、本作は多くのファンが「できることなら『FORBIDDEN』(’95年)はこの路線で作って欲しかったなぁ…」と遠い目をするであろう、Wトニー期BLACK SABBATHを彷彿とさせるダークでミステリアスなHMサウンドがほぼ全編に亘って繰り広げられる仕上がり。 取り分け、亡きコージー・パウエルが残してくれたドラム・トラックを叩き台に完成させたというRAINBOW型OPナンバー①が口火を切り、漆黒の闇に沈み込んでいくようなヘヴィ・チューン②、名曲“CROSS OF THORNS”を思わすドラマティックな③、マーティンがヴァイオリンの腕前を披露するアルバム表題曲⑤といった強力な楽曲が続くアルバム前半のクオリティは出色ですよ。 収録曲の出来/不出来にややムラがある点含め、BLACK SABBATHの『CROSS PURPOSES』(’94年)を思い出す1枚かなと。今年リリースされた3rdソロも聴かにゃ(日本盤はどうした?)
2代目フロント・パーソンとして元SHADOWRISEのローラを迎え入れたスイス出身の5人組HMバンドBURNING WITCHESが、'16年に発表した3rdアルバム。 DESTRUCTIONのシュミーアと、元POLTERGEISTのV.O.パルヴァーのマブダチ・コンビがプロデュース担当というお馴染みの布陣でレコーディングが行われた本作は、「そろそろポップな方向にも曲作りの幅を広げて来るかな?」とのこちらの予想を正拳突きで粉砕するかの如く、ストロング&スパルタンな正統派HMサウンドを前2作同様に徹底。 ハイピッチ・スクリームが耳をつんざくスピーディなOPナンバー①から、色気を感じさせるエモーショナルな歌い込みが映える⑥のようなバラード系の楽曲まで、表現力豊かにこなすローラ嬢の歌唱力も前任Voのセレーナと比べて遜色はなく、その実力の程はロス・ザ・ボス(G)をゲストに迎え、エリック・アダムスばりのパワー&エモーションで堂々歌い上げてみせるのMANOWARの名曲“地獄の鎮魂歌”のカヴァー⑫からもビンビンに伝わってくるのではないでしょうか。それにしてもJUDAS PRIESTの“JAWBREAKER”といい、SAVATAGEの“HALL OF THE MOUNTAIN KING”といい、このバンドのメタル愛を感じさせるカヴァー・センスには毎度ニッコリさせられますね。(実はカヴァー曲目当てで本作の購入を決意したことは内緒だ) もはや、メンバー全員が女性であることを殊更に強調する必要性すら感じさせない、「女性にしては~」とか「男勝りの~」なんて枕詞もノー・センキューなHMサウンドが重厚に叩きつけられる1枚。
結成は'81年まで遡り、後にSARATOGAやSILVER FISTを結成するメンバーが在籍していたスペインはマドリード出身の古豪パワー・メタル・バンドMURO。本作は彼らが’03年に行ったラスト・ライブの模様を収めた実況録音盤です。(そういえばこのバンドはデビュー作もライブ盤でした) 最後のツアーということで、当然セットリストはベスト選曲が組まれている…のかどうかは、MUROのカタログは2nd『TELON DE ACERO』(’88年)ぐらいしか聴いたことがない身には正直分かりかねるものの、“ACERO Y SANGRE”や“TELON DE ACERO”を始め、勇ましげな巻き舌Voをフィーチュアしたスピード・ナンバーで全編を固めて、お別れの湿っぽさはそこそこに、ド直球のパワーメタル・サウンドと熱気ムンムンなパフォーマンスで畳み掛ける様は「スペインのACCEPT健在なり」を証明する迫力に満ちていますよ。ちなみにデビュー作では、そのACCEPTの“FAST AS A SHARK”をカヴァーしていましたが、本作ではY&Tの代表曲“FOREVER”のスペイン語カヴァーを披露。かなりのハマりっぷりなのでセットリストの定番だったのかなと。 これを受けて立つ観衆の方も「スペインのメタル・ファンは熱い」との評判に違わぬ、時に演奏を掻き消さんばかりの盛り上がりでバンドをおもてなし。特に両者の掛け合いをイントロ代わりに、スラッシュ・メタルばりのアグレッションを撒き散らしながら突っ走る2ndアルバム収録の名曲“SOLO EN LA OSCURIDAD”が炸裂する場面は、個人的に本作のハイライトでした。 解散記念盤ですが、何だったらMURO入門盤代わりにいかがでしょうか。(バンドも後に再結成しますし)