IRON MAIDENフロントマンとして過ごした日々は遠くへと去り、’12年には保険金や補助金の不正受給がバレ逮捕されてしまい9ヵ月間臭い飯を食う等、『ザ・ノンフィクション』の登場人物ばりに塩辛い人生を送る男、ポール・ディアノ。そんなメタル界隈随一、中孝介の“サンサーラ”が似合う男が'96年に個人名義で発表したソロ・アルバムがこちら。 アルバム・タイトルが『~IRON MAN』だったり、今回もIRON MAIDENの楽曲(ライブ音源)が収録されていたりして「擦るなぁ」と苦笑を誘われますが、意外にも本編にメイデン色は希薄。いや希薄というか1曲目がいきなりジェームズ・ブラウンの“LIVING IN AMERICA”、更にWILDCHERRYの“PLAY THAT FUNKY MUSIC”とドファンクなカヴァー2曲が頭から続いた時は、買うCD間違ったかとジャケを二度見してしまいましたよ。 序盤3曲を聴いた時点じゃ「ポール殿ご乱心」を疑いたくなる本作でしたが、キャッチーなコーラス・ワークと、ギターが奏でる憂いを帯びたメロディの取り合わせが印象的な④以降は徐々に欧州風味も強まっていき、洗練すら感じさせるメロハー⑤、軽快に疾駆する⑨、そして最後には、これは掛け値なしの名曲!と太鼓判を押せるドラマティックな⑩も登場しますんでご安心を。また落ち着いてから序盤を聴き直すと、ロックンロール系の楽曲もポールのラフな声質には合っていて「これはこれであり」と案外違和感なく聴けてしまうんですよ。 色々と藻掻いていた90年代のポールの試行錯誤がガッツリ刻まれていますが、メイデン時代の遺産を擦り倒すよりはずっと好感度が高い1枚。メイデン・サイドの援助もあって長年の懸案だった膝の手術も受けられたそうで、今後の御大の人生に幸多からんことを。
HELLOWEEN脱退以降は第一線から退いていたマイケル・キスクの才能を惜しみ、何とか彼を表舞台に引き留めるべくFRONTIERS RECORDSの全面バックアップのもと始動したプロジェクトPLACE VENDOME。その後キスクがHRナンバーを歌うことに前向きになり、盟友カイ・ハンセンと共にUNISONICを結成したこともあって、「もうPLACE VENDOMEはお役御免か?勿体ないなぁ」と思っていたタイミングで、'13年に発表された3rdアルバム。 前作『STREETS OF FIRE』もなかなかの名盤でしたが、今回も負けてはいません。レーベルはマイケルにリラックスして歌って貰うべく、プロデューサーには引き続き気心の知れたデニス・ワードを起用し、ソングライターとして必殺請負人アレッサンドロ・デル・ヴェッキオを筆頭に、メロハー作りのツボを知り尽くした匠達を大集結させるという万全の援護体制を敷いており、こうなると最早「本作のメロディック・ロック・アルバムとしての完成度の高さは推して知るべし」(←FRONTIERS関連作品の感想では毎度これと似たようなフレーズを使い回していて、我ながら語彙の少なさが嫌になるのですが)といったところ。 ともあれ、完全にブランクから回復したキスクの喉はOPナンバー①から絶好調で、泣きのGが楽曲を劇的に盛り上げる③、清涼な雰囲気漂わす⑥、舞い上がっていくような爽快感溢れる⑦、そしてアレッサンドロの作曲センスがキャッチーに唸りを上げる名曲⑧といった楽曲は、キスクの堂々たる歌唱とメロの素晴らしさが相俟ってグッと惹き込まれる仕上がり。 PLACE VENDOMEのアルバムにハズレなし!を実証する一作です。
80年代はオジー・オズボーンのバンドで活躍し、名曲“SHOT IN THE DARK”の共作者としてもその名を刻むフィル・スーサン。この人に関してはベーシストとしての印象はまるで残っておらず、それよりも後年、雑誌インタビューでオジーから「ホームラン級のバカ」と評されていたことばかりが思い出されてしまうのですが、彼が結成したBEGGERS & THIVESが、'90年に米メジャーのATLANTIC RECORDSから発表したこのデビュー作は聴き応え十分の内容。オジーの発言で我が身に刷り込まれた「フィル・スーサン=激烈バカ」というマイナス・イメージが上書きされるインパクトを持った力作に仕上がっていますよ。まぁ作曲クレジット見るとこの人全然曲作りに関与してないんですけどね…。 90年代の作品ながら、当時流行りのブルーズ色は然程強くなく(だからセールス的に失敗したのか?とか思ったりも)、基本となるのは溌剌とエネルギッシュな80年代型アメリカンHRサウンド。さりとて能天気になり過ぎることもなく、スケールの大きなOPナンバー①に始まり、緊迫感を湛えて駆け抜けるハード・ナンバー②、爽やかな哀愁薫る⑤、デズモンド・チャイルドのペンによるノリ良くキャッチーな⑧、ラストを雄大に締め括るバンドのテーマ曲でもある⑪…と、本編にはメロディにもアレンジにもきっちりとフックの効いた逸品がズラリ。バンド・メンバーはフィル以外ほぼほぼ無名の面子ばかりながら、熱唱型のVoを筆頭に、安定感溢れるパフォーマンスを繰り出してサウンドの土台を手堅く支えてくれています。 隠れた佳作として、ふと思い出して聴き直したくなる1枚。フィル・スーザンが抜けた後もバンドは存続し、アルバム数枚をリリースしているようなので、機会があればそちらも聴いてみたいなぁ。
ソロ・アーティストとしてアルバム・リリースやツアーを行う傍ら、リタ・フォード、VIXEN、MR. BIGといったバンドに楽曲提供を行う等、80年代からシンガー/ソングライターとしても活躍してきたジェフ・パリスが、'93年に乞われてイギリスのNOW AND THEN RECRODSから発表した3rdソロ・アルバム。 プロデュースからエンジニアリング、果ては全パートの楽器演奏まで一人でこなすマルチ・プレイヤーぶりを発揮してレコーディング作業を敢行。それに関してはご本人が「エナジーとアイデアがあればどんな状況でもアルバム制作は可能。大金は必要はない」との男前な発言を残してくれています。カッコイイじゃないのさ。 収録曲は、共作者としてMR. BIG、売れっ子セッション・マンのマイケル・トンプソン、KISSのポール・スタンレー、BAD ENGLISHのリッキー・フィリップスら豪華な面子がクレジットされていて、気の利いたアレンジから、痒い所に手の届くメロディ展開に至るまで、長年かけて培われたソングライターとしての腕前が存分に振るわれた仕上がり(歌の上手さに関しては言うまでもありません)。MR. BIGの1st『LIVE AND LEARN』にも収録されたゴージャスなOPナンバー①や、80年代ならヒット・チャートを賑わしていても不思議ではないバラード⑩辺りも素晴らしいのですが、個人的に特に一押ししたいのが⑧。知る人ぞ知る才人ブレット・ウォーカーとの共作で、胸打つ哀愁の名曲っぷりには「この顔合わせによるの楽曲がもっと聴いてみたかった…」と、つくづくブレットの早逝が惜しまれます。 もう長いこと日本盤リリースと縁がありませんが、ご健在でいらっしゃるのでしょうか?
名バラード“I’LL SEE YOU IN MY DREAMS”をスマッシュ・ヒットさせ、2枚のアルバムを残して解散したメロディアスHRバンドGIANT。90年代以降は復活と休眠を繰り返していた彼らがFRONTIERS RECORDSの仕切りで3度目の帰還を果たして'22年にリリースした、通算では5枚目となるアルバムがこちら。 オリメンのデヴィッド・ハフ(G)とマイク・ブリグナーディ(B)は健在ながら、売れっ子プロデューサーとして多忙な日々を送るダン・ハフは今回も不参加で、その穴を埋めるのはFRONTIERS RECORDSの必殺仕事人アレッサンドロ・デル・ヴェッキオ。シンガーはテリー・ブロックに代わって同レーベル一押しの逸材ケント・ヒッリ(PERFECT PLAN)が担当しています。正直なところ、顔触れ的にもサウンド的にも「GIANTの新作」っつーよりは「良くプロデュースされたFRONTIERS RECORDS発のプロジェクト・アルバムを聴いている」ってな感覚に陥ることもしばしばな本作ですが、かと言って、じゃあそれはマイナス要素なのか?と問われれば、さに非ず。抜群のソングライティング・センスとエモーショナルな歌声に下支えされた本編は、高いヒット・ポテンシャルを感じさせるバラード⑥など、フックの効きまくった捨て曲の見当たらない充実度を誇っていて、中でも本編ラストに置かれた⑪は一際インパクトを放つ名曲。果たしてこれがGIANTらしい楽曲なのかどうかはよう分かりませんが、ともかく自分の中で’22年のベスト・チューン候補に燦然と輝くメロディのヨロシク哀愁ぶりにゃ悶絶せざるを得ませんでしたよ。 次回作はもう少し早いスパンでのリリースを、とお願いしたくなる充実作。
映画『メジャーリーグ』へ挿入歌“HOW CAN THE GIRL REFUSE”の提供といった、ソロ・アーティストとしての活動でも知られる英国人シンガー/ソングライター、ピーター・ベケットの在籍していたLA出身の4人組PLAYERが、オリジナル・メンバーであるピーター・ベケット(Vo、G)とロン・モス(B、Vo)のユニット形態でカムバックを果たし、23年ぶりにFRONTIERS RECORDSを通じて発表した新作アルバム(’13年)。 失礼ながらPLAYERに対しては、シングル“BABY COME BACK”(本作にもリメイク・バージョンが収録)こそ全米№1ヒットを飛ばすも、その後はほぼ鳴かず飛ばずの「一発屋」的なイメージを抱いていたのですが、類稀なるソング・ライティングのセンスが十全に発揮された、アコースティック・ギターと美しいハーモニーを生かした、暖かみに溢れる収録曲の数々を聴けば、そうした浅はかな先入観は雲散霧消していきますよ。 無理にハードさを強調しているような1曲目はあまりピンと来ず、多少不安を覚えたことは正直に告白しておきますが、透明感と哀愁を演出するKeyが効果的な②以降は、AUTOGRAPHのスティーヴ・リンチが、ドラマーとしてのみならず作曲家としても腕を振るうバラード③、重厚な憂いに満ちた⑫(GENTLE GIANTの前身であるSIMON DUPREE & THE BIG SOUNDのカヴァー)等、ブランクをまるで感じさせない「らしい」秀曲揃い。中でも躍動する曲調にキャッチーなメロディが絡むハードポップ⑩は、本編においても一際強いインパクトを放つ名曲です。 折角の充実作だけに、これ以降新しい音源の発表がないのが残念でなりませんね。
《カヴァー・アルバムじゃない。VSアルバムだ。》との帯惹句を目にして「言葉の意味はよう分からんがとにかく凄い自信だ」と呟いた、現GALNERYUSのフロント・パーソン小野正利が、デビュー25周年を記念して洋楽カヴァーを中心にレコーディングを行い(GALNERYUSのメンバーも参加)、'16年に発表した2枚組ソロ・アルバム。 前作『THE VOICE -STAND PROUD-』(’11年)の感想を書いた際に「次は産業ロックに特化したカヴァー・アルバムをお願いしたい」と記したのですが、本作でその願いが概ね叶う形に。DISC-1には主に90年代以降のヒット曲を、DISC-2にはBON JOVI、JOURNEY、VAN HALEN、ケニー・ロギンスといった80年代の音楽シーンを象徴するようなアーティストのヒット曲をメインに配して、それを小野が衰え知らずの美声を生かして伸びやかに歌い上げるという構成。マライア・キャリーやセリーヌ・ディオンの楽曲を、ここまで違和感なくハイトーンVoで歌いこなせる男性シンガーは、他にそうはいませんて。 個人的には、やはり思い入れのある楽曲が並ぶDISC-2の方を聴き直す頻度が高く、特にピアノ・バラード風にアレンジすることで抒情性がいや増したBON JOVIの“LIVIN’ ON A PREYER”は、秀逸なカヴァー…もといVSアレンジになっているのではないかと。あと小野の名を一躍知らしめたデビュー・シングル“YOU’RE THE ONLY”もセルフ・カヴァーしていて、随分と久々に聴き直しましたけどやはり胸打つ名バラードだなぁとつくづく実感させられた次第で。 質・量ともに大満足な一作。次は邦楽の名曲に挑戦か?
姉さん、事件です(古い)。遂に、遂にジョージ紫&MARINERのカタログ2枚が再発ですよ。SABBRABELLS、DOOM、SACRIFICEといったバンドの1stアルバムが次々CD化された昨今、もしかしたら彼らも…と一縷の希望は抱き続けていましたけど、嘗てオムニバス盤『OKINAWAN HARD ROCK LEGENDRY』に提供されていた2曲を繰り返し聴いて満足していた時期を想うと「まさかこの日が来ようとは」と感慨に浸らずにはいられませんて。 音楽的方向性の違いから紫がアルバム2枚を残して解散した後、ジョージ紫が新たなメンバー(全員アメリカ人)と共に結成したバンドで、本作はニューヨークにてレコーディングが行われ’79年に発表された1stアルバム。多彩に楽曲を色付けるKeyを中心に据えた音楽性は紫時代を継承しつつ、インプロヴィゼーションは控えめに、曲展開からコーラス・ワークまでアレンジをしっかりと作り込み、歌を主役によりメロディアスで整合性を高めた仕上がりとなっているのが特色です。 勿論⑤みたいなGとKeyがスリリングに絡み合いながら疾走するDEEP PURPLEスタイルのHMナンバーも収録されていますが、個人的にそれ以上に印象に残るのは、スペーシーなイントロに導かれてスタートする①であり、ピアノの美旋律をアクセントに、泣きを湛えてエモーショナルに盛り上がっていく④や、哀愁のバラードの小曲⑦から繋がり本編を壮大且つドラマティックに締め括る⑧といった、プログレ・ハード風味が薫る楽曲の方。 長き入手困難な時期を通じて高まりまくっていたこちらの期待を裏切らないどころか、想定していたハードルを軽々と飛び越えていく名盤。再発に心からの感謝を。
80年代、スラッシュ・メタルとハードコア/パンクのクロスオーバー現象の旗振り役を担ったマイク・ミューア率いるSUICIDAL TENDENCIESが、3rd『HOW WILL LAUGH TOMORROW WHEN I CAN’T EVEN SMILE TODAY』から僅か半年のインターバルを経て'89年に発表した8曲入りEP。これまたタイトルがやたらに長いですが、邦題はシンプルに『檄』と冠されています。 その邦題通り、ここに託されているサウンドはスピーディかつアグレッシブ。スラッシュ由来の疾走感は若干抑え気味にして、その分、重厚さや整合性といったヘヴィ・メタリックなエッセンスの拡充が図られていた『HOW WILL~』に対し、ほぼ一週間でレコーディングを終了させたという突貫作業ぶりが物語る通り、ラフなプロダクションから勢い重視の楽曲まで、本作は生々しいエネルギーの迸りが封入された仕上がりとなっています。 前作を踏まえ起伏に富んだ曲展開を盛り込みつつも、本編は鼓膜に突き立つエッジーなGリフの刻みや、カタルシスに満ちた爆発的な疾走感といったスラッシュ・メタルのエッセンスを大幅回復。特に切迫感を煽り倒す③や7分に迫る長尺をダイナミックに畳み掛ける④は、リフ/リード両面においてキレキレなロッキー・ジョージのGがスラッシャーの血を騒がす逸品。と同時にウリ・ロートをリスペクトする彼氏らしく、②では泣きのメロディをエモーショナルに奏でて懐の深さを披露してくれています。 SUICIDAL TENDENCIESのカタログの中ではスルーされがちな作品ですが、個人的には愛して止まない一作。EPながらアルバム・サイズの満足感が味わえますよ。
首魁トム・エンジェルリッパー(Vo、B)以外のメンバーが脱退し、約30年ぶりに旧友フランク・ブラックファイア(G)がバンドに復帰。更に新メンバー2名も補充して、SODOM史上初めて4人編成でレコーディングされたスタジオ・アルバム。('20年発表、16作目) プロデューサーのヴァルデマー・ゾリヒタと共に制作されたここ数作では、アグレッションは十分に担保しつつも、エピカルなメロディを増量する方向性を打ち出していましたので、今回のメンバー・チェンジはそのスタイルの一層の拡充を図るためのものと思っていましたが、実際のところはそうした意図でなかったことは、ツインG体制の初お披露目となったEP『OUT OF THE FLONTLINE TRENCH』(’19年)を聴けば明らかな通り。2本のGはメロディの充実よりもむしろサウンドの「圧」「突破力」の強化に用いられており、鬼軍曹たるトムの怒号Voによる指令下、ガリガリと刻み込む殺傷力抜群のリフ、重量感溢れるゴリゴリのリズムとが波状攻撃を仕掛けて来る本作は、MOTORHED由来のロックンロール・ソングも見当たらない、SODOM流スラッシュ・メタルの原点に立ち返ったような殺伐としたアグレッションを放つ仕上がりとなっています。 とはいえ、音作りからパフォーマンスまで貫禄がオーラの如く立ち昇るサウンドに、初期作につきまとったチープさや不安定さは欠片もなく、また近作で培ったエピックなメロディも実は要所で息衝いていたり。特に不穏なイントロから激走へと転じるアルバム表題曲④は、現行SODOMの魅力が凝縮されたようなカッコ良さに痺れずにはいられませんよ。 例え編成が変わろうと、トムが健在であれば今後に不安は何もないと納得するに十分な1枚。