前作『HURRICANE EYES』がアメリカで不発に終わったことを受けて、テクニック志向を抑制し、LOUDNESS史上最もメロディアスな曲作りが試みられている、'89年発表の8thアルバム。 個人的に初めて購入したLOUDNESS作品ということで非常に思い入れのある1枚なのですが、こうした作風の変化や、個性の塊のようだったオリジナル・シンガー、二井原実の脱退を否定的に捉えて、雑誌では「アクが抜けてごく普通のHR/HMバンドになってしまった」と嘆くレビューも見られました。 勿論気持ちは分からなくもないのですが、しかし「ごく普通のHR/HMサウンド」のカッコ良さを舐めたらいかんぜよ、と。新Voマイク・ヴェセーラの熱唱、その彼のメタル声と化学反応を起こして、リフ/リード両面において更に切れ味の鋭さを増した高崎晃のG、そしてスピーディ且つタイトなリズム隊の存在が映える“SOLDIER OF FORTUNE”と“DEMON DESEASE”という、極上の名曲2つにサンドイッチされる形で並んだ中庸な魅力を備える楽曲群は、ほんのり和風テイストも取り入れたメロウな“25 DAYS FROM HOME”を筆頭に、ヘヴィ・メタリックなエッジは保ちつつ、胸を打つ哀愁とキャッチーなメロディに彩られた、いずれ劣らぬ逸品揃い。 つくづく、この編成が長続きしなかったことが惜しまれる名盤なのですが、90年代のLOUDNESSの混迷ぶり(と敢えて言いますが)を鑑みると、もし仮に同一編成であと何枚かアルバムを作ったとしても、これほど凄い作品が再び出来たかどうかは微妙なところではないでしょうか。短い出会いだったからこそ眩く輝いた、みたいな?
再びマックス・ノーマンと組んで、'86年に発表された6thアルバム。 前作『THUNDER IN THE EAST』は、二井原実時代のLOUDNESSの最高傑作に推したいぐらいのカッコ良さでしたが、一方で「売れるためにアメリカンなサウンドに日和った」「従来のらしさが薄れた」との声もあって、そうした批判に対して製作サイドも思うところがあったのか、今作ではより楽器陣のテクニック志向を強調。結果、本作は時に初期作を彷彿とさせる複雑な曲展開やアレンジが顔を覗かせる内容と相成りました。 サウンド・プロダクションの向上や、益々冴え渡る高崎晃のリフ・メイカーとしての才能、それにスケール感と洗練を併せ持った楽曲構築術等からは、脂の乗り切った当時のLOUDNESSの充実っぷりが手に取るように伝わって来きます。 その反面、ストレートな『THUNDER~』の聴き易さを支持していた身としては、Voを押し退けるようにして弾きまくるG、キャッチーさがぼやけ気味の楽曲、ついでに腹にもたれるプロダクションとが相俟って、聴いていると少々疲労感を覚えなくもない1枚かなぁ、と。 このバンドにしか作り得ぬ見事な完成度、それに美しい和風メロディで幕が開くアルバム表題曲①は文句なしの名曲だとも思うのですが。
当時の国産HR/HMバンドは、1年にアルバム複数枚を発表する等、今の感覚からすると信じ難いほど性急な活動ペースを余儀なくされていた印象があって、当然、それに耐え切れず潰れてしまうバンドも数多く存在したわけですが、LOUDNESSが凄かったのはこれを逆に糧へと変えて、短期間の内に飛躍的な成長を成し遂げた点(しかもメンバー・チェンジもなしに)。その成長過程は発表されたアルバムにも、しかと刻印されています。 '83年発表の本3rdアルバムは、未だ“Mr. YSE MAN”のようなちょいプログレ風味の入った大作をこなしつつも、全体的にはサウンドをタイトにストレッチすることで、80年代型HM路線へとその軸足を移しつつあることが伝わってきます。(この試みは次作で結実)。 更にアグレッシブに、強靭に鍛え上げられた高崎晃のGプレイを前面に押し出し、切れ味鋭いGリフが楽曲を牽引する“IN THE MIRROR”“THE LAW OF DEVIL'S LAND”“SPEED”といったスピード・ナンバーの数々は、まさしくバンドの代表曲の名に相応しい存在感。 大仰な『魔界章典』なるタイトルが、決してコケ脅しには聴こえない力作と相成っております。
アメリカン・メロディアスHRシーン屈指の実力派シンガー、スタン・ブッシュ、'10年発表の(現時点での)最新作は、プログレ・バンドばりに美麗なアートワークから高まる本編に対する期待を微塵も裏切ることのない、前作『IN THIS LIFE』から2作続いての大傑作。 スタンの絶品の歌唱と、心打つキャッチーな哀メロ、それにHR然としたエッジという、日本人の琴線に触れる要素を満載にしたサウンドは、よりポジティヴなフィールを強く打ち出したことで、メロディの泣きや哀愁がやや薄まりをみせたような気がしなくもないですが、まぁそんなことは些末なことです。高揚感を伴ってガツンとカマされる②や、映画『トランスフォーマー』(アニメ版)の主題歌として知られる自身の代表曲をモダンなアレンジでリメイクした⑫なんかも素晴しいのですが、圧巻は、凛としたピアノの旋律が良いアクセントとなっているバラード⑤、哀メロとハードネスが巧みにブレンドされた⑦、熱唱が胸に沁みるドラマティックなアルバム表題曲⑧といった「これぞスタン・ブッシュ!」な名曲が並ぶ本編中盤。 何度聴いても飽きることのない力作ですが、そろそろ新作も聴きたいので一つヨロシク。
“WAIT”(8位)と“WHEN THE CHILDREN CRY”(3位)という2曲のヒット・シングルを生み出し、アメリカだけで200万枚以上を売り上げたWHITE LIONの自他共に認める最高傑作、'87年発表の2ndアルバム。(プロデュースはマイケル・ワグナー) 当初は先入観から「どうせLAメタルだから能天気なんだろ?いいよ、俺は」と及び腰だったのですが、実際に聴いてみれば、本作はそうした思い込みをまるっと覆される見事な出来栄え。(我ながらこのパターンが多い) ザラついたハスキーな声質のマイク・トランプが歌うメロディや、エディ・ヴァン・ヘイレンばりのフラッシーさ&エモーショナルな表現力を併せ持ったヴィト・ブラッタのGプレイが発散するウェットなヨーロピアン風味と、思わず合唱を誘われるキャッチーなサビメロに、美しいハーモニーといったアメリカンな味わいとがバランス良く配合されたサウンドは、能天気どころか、6対4ぐらいの割合でヨーロピアン風味の方が勝っていますよね、これ。 特に、ヴィトの劇的な構築美を湛えたGプレイが映える冒頭3曲の流れ、そしてハードにして繊細、且つドラマティックな5曲目“LADY OF THE VALLEY”は、イントロからして猛烈な求心力を発揮するWHITE LION屈指の名曲ではないかと。 幅広い層のHR/HMファンにアピールし得る魅力を備えた名盤です。
自らマエストロを名乗るも、CDをスタートすると聴こえて来るのは、調子っ外れでたどたどしいGプレイ・・・という完全に出落ち系なイギリス人ギタリスト。 当然、'92年発表のデビュー作『PAGANINI'S LAST STAND』1枚きりで消えたものとばかり思っていましたが、その後も7弦ギターを開発したり、LA MUSIC AWARDを受賞したりと、活発に活躍していたようで意外。 '09年には2nd『13 JOKES FOR HEAVY METAL MANDOLIN』も発表していますが、聴いてみたいような、そうでもないような・・・。
80年代前半に勃発した最初のブームが収束し、90年代前半に第二次ブームが起こるまでの間、北欧からはD.A.D.やELECTRIC BOYSといった、従来の「北欧メタル」のイメージからは外れた新人バンドが次々にデビューを飾って話題となりました。 このPAGANも、そうした一群に属していたスウェーデン出身の4人組で、「異教徒」を意味するバンド名や、ファンタジックなヘタウマ・アートワークこそ王道北欧メタルの匂いを伝えてくれますが、内容に関して言えば、プログレ調の風変わりなアレンジと、QUEENばりの重厚且つ立体的なボーカル・ハーモニーを活かした楽曲は、劇的な様式美HMソングあり、爆走ロックンロールあり、更にはLED ZEPPELINの“移民の歌”を、QUEENの“WE WILL ROCK YOU”のリズムに乗せてカヴァーしてみせたりと、そのサウンドは(実験的と評するほど突飛ではないものの)かなり多彩。 それでも散漫な印象がないのは、ヒヤリと寒々しい感触のメロディがアルバムに一本びしっと筋を通しているからで(特に憂いに満ちた歌メロを拾っていくシンガーのセンスは「買い」)、この辺りはやっぱり北欧のバンドだなぁ、と思わせられます。 ちなみに本作のプロデュースを手掛けているのは、あのBISCAYAの中心メンバー、パー・エドワードソンでした。