アメリカン・メロディアスHRシーン屈指の実力派シンガー、スタン・ブッシュ、'10年発表の(現時点での)最新作は、プログレ・バンドばりに美麗なアートワークから高まる本編に対する期待を微塵も裏切ることのない、前作『IN THIS LIFE』から2作続いての大傑作。 スタンの絶品の歌唱と、心打つキャッチーな哀メロ、それにHR然としたエッジという、日本人の琴線に触れる要素を満載にしたサウンドは、よりポジティヴなフィールを強く打ち出したことで、メロディの泣きや哀愁がやや薄まりをみせたような気がしなくもないですが、まぁそんなことは些末なことです。高揚感を伴ってガツンとカマされる②や、映画『トランスフォーマー』(アニメ版)の主題歌として知られる自身の代表曲をモダンなアレンジでリメイクした⑫なんかも素晴しいのですが、圧巻は、凛としたピアノの旋律が良いアクセントとなっているバラード⑤、哀メロとハードネスが巧みにブレンドされた⑦、熱唱が胸に沁みるドラマティックなアルバム表題曲⑧といった「これぞスタン・ブッシュ!」な名曲が並ぶ本編中盤。 何度聴いても飽きることのない力作ですが、そろそろ新作も聴きたいので一つヨロシク。
“WAIT”(8位)と“WHEN THE CHILDREN CRY”(3位)という2曲のヒット・シングルを生み出し、アメリカだけで200万枚以上を売り上げたWHITE LIONの自他共に認める最高傑作、'87年発表の2ndアルバム。(プロデュースはマイケル・ワグナー) 当初は先入観から「どうせLAメタルだから能天気なんだろ?いいよ、俺は」と及び腰だったのですが、実際に聴いてみれば、本作はそうした思い込みをまるっと覆される見事な出来栄え。(我ながらこのパターンが多い) ザラついたハスキーな声質のマイク・トランプが歌うメロディや、エディ・ヴァン・ヘイレンばりのフラッシーさ&エモーショナルな表現力を併せ持ったヴィト・ブラッタのGプレイが発散するウェットなヨーロピアン風味と、思わず合唱を誘われるキャッチーなサビメロに、美しいハーモニーといったアメリカンな味わいとがバランス良く配合されたサウンドは、能天気どころか、6対4ぐらいの割合でヨーロピアン風味の方が勝っていますよね、これ。 特に、ヴィトの劇的な構築美を湛えたGプレイが映える冒頭3曲の流れ、そしてハードにして繊細、且つドラマティックな5曲目“LADY OF THE VALLEY”は、イントロからして猛烈な求心力を発揮するWHITE LION屈指の名曲ではないかと。 幅広い層のHR/HMファンにアピールし得る魅力を備えた名盤です。
自らマエストロを名乗るも、CDをスタートすると聴こえて来るのは、調子っ外れでたどたどしいGプレイ・・・という完全に出落ち系なイギリス人ギタリスト。 当然、'92年発表のデビュー作『PAGANINI'S LAST STAND』1枚きりで消えたものとばかり思っていましたが、その後も7弦ギターを開発したり、LA MUSIC AWARDを受賞したりと、活発に活躍していたようで意外。 '09年には2nd『13 JOKES FOR HEAVY METAL MANDOLIN』も発表していますが、聴いてみたいような、そうでもないような・・・。
80年代前半に勃発した最初のブームが収束し、90年代前半に第二次ブームが起こるまでの間、北欧からはD.A.D.やELECTRIC BOYSといった、従来の「北欧メタル」のイメージからは外れた新人バンドが次々にデビューを飾って話題となりました。 このPAGANも、そうした一群に属していたスウェーデン出身の4人組で、「異教徒」を意味するバンド名や、ファンタジックなヘタウマ・アートワークこそ王道北欧メタルの匂いを伝えてくれますが、内容に関して言えば、プログレ調の風変わりなアレンジと、QUEENばりの重厚且つ立体的なボーカル・ハーモニーを活かした楽曲は、劇的な様式美HMソングあり、爆走ロックンロールあり、更にはLED ZEPPELINの“移民の歌”を、QUEENの“WE WILL ROCK YOU”のリズムに乗せてカヴァーしてみせたりと、そのサウンドは(実験的と評するほど突飛ではないものの)かなり多彩。 それでも散漫な印象がないのは、ヒヤリと寒々しい感触のメロディがアルバムに一本びしっと筋を通しているからで(特に憂いに満ちた歌メロを拾っていくシンガーのセンスは「買い」)、この辺りはやっぱり北欧のバンドだなぁ、と思わせられます。 ちなみに本作のプロデュースを手掛けているのは、あのBISCAYAの中心メンバー、パー・エドワードソンでした。
新たにサイド・ギタリストを迎え入れて、ツインGを擁する6人編成の大所帯となったSUGARCREEKが、'84年に発表した3rdアルバムにしてラスト作。 威勢の良い「カモン!」の掛け声と共にスタートするエネルギッシュなOPナンバー①を手始めに、プログレ・ハード色を薄れさせたサウンドは、その代わりに2本のGの存在を前面に押し出して、ザックリ感をいや増したGリフや、よりダイナミックに駆け抜ける曲調等、時節柄、LAメタルへの接近を感じさせる内容に仕上がっています。 とはいえ、このバンド独特のフッキーなメロディ・ラインはその威力を全く鈍らせることなく健在。前作の作風を受け継いだポップ&キャッチーに弾む②⑥⑦があったかと思えば、甘く切ないバラード③⑧あり、そしてメロディの魅力はそのままにシャープさの磨かれたハード・ロッキンな名曲⑤⑪あり・・・といった具合に、本編は非常にバラエティ豊か。 前作収録の“CONQUEST FOR THE COMMONER”のようなプログレ・ハード調の逸品が見当たらないのは残念ですが、この完成度の高さはそれを差し引いてもお釣りが来る素晴しさ。 尚、バンドはこれを最後に活動を停止してしまいますが、後にTHE CREEKと名を改めて復活。80年代後半には2枚のアルバムをリリースしています。
元々はTHE MILES BROTHERS名義でブルーアイド・ソウルを演っていたジョージア州アトランタ出身の5人組が、音楽シーンの潮目の変化を受けて、よりHR色を強めたサウンドを実践するべく、バンド名をMPG(MILES PER GALLON)に改めて、'80年にA&M RECORDSからセルフ・タイトルのデビュー・アルバムを発表。この時のラインナップはオリジナル・メンバーのトニー・カレイ(Vo、Key)以下、デヴィッド・ミカエル(G)、キム・スミス(G)、マイケル・ボルト(Ds)、スティーヴ・ロックリン(B)。 アルバムは非常に高品質だったがセールスには繋がらず、バンドはこの作品のみを残して解散。後にデヴィッド・ミカエルはDAVID名義で数枚ソロ・アルバムを発表。本作のCD化に伴うリマスタリング作業も担当しています。
国内盤もリリースされている2ndや3rdに対し、長らく入手困難な状態にあった'89年発表の1stアルバムが、CENTURY MEDIA RECORDS創立25周年を記念して待望のリマスター再発。いやー目出度い。 同レーベルの創立者でもあらせられる初代シンガー、ロベルト・カンプフのメロディ無視の吐き捨てVo、時にブラスト・ビート寸前までヒートアップするリズム、むくつけき野郎コーラス(RISKのロム・ケイマーらが参加)、それにハリス・ジョンズが手掛けたササクレた音作りと、DESPAIRのカタログの中でも水際立った「ジャーマン・スラッシュ度」の高さを提示している本作ですが、勿論、既にこの時点で唯一無二の個性はドドンと確立済み。 まだまだ荒削りとは言え、クラシカルなメロディを紡ぐツインG、Key/アコギの効果的な導入、そして対位法を用いた、ドラマティック且つ静と動の落差の大きな曲展開が仕込まれた収録楽曲の数々からは、首魁ヴァルデマー・ゾリヒタ(G)の溢れんばかりの才気が迸りまくり。DESTRUCTIONの『RELEASE FROM AGONY』を彷彿とさせるカッコ良さ、と言えばその魅力の一端が伝わるでしょうか? 特にアルバムの幕開け役を担う①は、嘗てここまでテンションの上がるスラッシュ・メタルの序曲があっただろうか!?と、握り拳振り上げて力説したくなる名曲っぷり。・・・いやまぁ、冷静に考えれば他にも山ほどあるような気もしますが、ここは勢いに任せて「ない!」と無責任に言っておきたい。 正月明け早々、CENTURY MEDIA RECORDSからナイスなお年玉を貰った気分になれる1枚です。
TYGERS OF PAN TANGが『THE CAGE』で カヴァーしてメロディアスなポップ・チューン。 重厚なOPナンバー“A LEGEND NEVER DIES”に始まり、 ノリの良い“2+2”、切なさの滲むバラード “I DON'T FEEL THE SAME”を経て、 この曲へと繋がる構成は、 ぐうの音も出ないほど隙がありませんよ。