'18年に惜しまれながらも解散ツアーを行い、40年以上に及ぶキャリアに堂々終止符を打ったカナダ出身プログレ・ハード・バンドの古豪SAGA。本作は彼らが'15年にドイツのハンブルグで行ったショウの様子をCD2枚組に収録、翌年発表した実況録音盤です。 代表曲“ON THE LOOSE”を筆頭にセットリストは初期の名曲を中心に編まれているとはいえ、プログレ系バンドのライブということで、観客は熱心に演奏に聴き入って曲終わりに歓声を上げる程度でライブは比較的淡々と進行していく…なんて光景を想像していたのですが(偏見)、ところがどっこい。本作で繰り広げられているのは、観客によるコーラスの合唱や、バンドとの息の合った掛け合い等、ステージ上と客席のエネルギーの交換がしっかりとフィーチュアされた熱気溢れるパフォーマンス。これはマイケル・サドラー(Vo)によるドイツ語のMCや、観客とのアットホームなやり取りを始め、昔からSAGAがドイツのファンを愛し(何せ解散公演の地としてもドイツを選んだぐらいで)、ドイツのファンもまたSAGAを愛したことの証であると共に、彼らが過去にクリエイトしてきた楽曲の数々が、いかにキャッチーな魅力を有しているかの証明ではないかと。張り良し伸び良しのマイケル・サドラーの歌声を始め、経年劣化をまるで感じさせないメンバーの熱演に煽られる、名曲“DON’T BE LATE”や“ICE DREAM”、スリリングな“CAREFUL WHERE YOU STEP”辺りの盛り上がりには相当にグッとくるものが有りますよ。 日本では過小評価に泣いたSAGAですが、彼らの実力と人気の一端を知るのにお薦めの1枚。月並みな台詞ですが「入門盤にいかがでしょうか」
拡散傾向にあったサウンドの焦点を再びHMに集約することで、鮮やかにMEGADETH復活を印象付けた会心作『THE SYSTEM HAS FAILED』。本作は同アルバム発表後、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで'05年に開催されたPEPSI MUSIC FESTIVALにてMEGADETHがトリを務めた際のパフォーマンスの模様を収録する2枚組実況録音盤。 デイヴ・ムスティン(Vo、G)以下、グレン・ドローヴァー(G)、ショーン・ドローヴァー(Ds)、ジェイムズ・マクドノフ(B)というラインナップで行われたこの時のライブが、未だMEGADETHの看板を掲げての活動に逡巡を覚えていたというデイヴに、バンド存続を決意させる決定打となったことはよく知られており、それを踏まえて本作を聴くと、そりゃこんだけ観客が熱狂してくれてたらデイヴも考えを改めるわな、と。 いやまぁとにかく歌う歌う。南米メタルヘッドの隙あらば歌いまくる姿勢は、例えばブラジルでレコーディングされたIRON MAIDENのライブ盤諸作でも広く周知されていますけど、アルゼンチンのメタルヘッド、そしてMEGADETHファンもその点では一歩も引けを取りません。コーラスやツインGのハーモニー・パートを合唱するのは当たり前。挙句に、曲によってはGリフまで歌ってしまうのだから凄まじい。特に“HANGER 18”や“狂乱のシンフォニー”における盛り上がりは圧巻で、テンションが高まりきったタイミングで炸裂する後者において、リフの刻みに合わせ「MEGADETH!MEGADETH!I WANT TO MEGADETH!」と絶妙なコールを入れる様にはゾクゾクさせられますよ。 タイトな演奏を繰り出すバンドだけでなく、観客に対しても敬服せずにはいられない1枚。
所属レーベルのFRONTIERS RECORDSがイタリアのミラノで主催したイベント、FRONTIERS ROCK FESTIVAL ⅣにTYKETTOが参戦した際のパフォーマンスを収録したライブ盤。’17年発表 1st『DON’T COME EASY』(’91年)は名盤で“FOREVER YOUNG”も名曲だけど、ヒット・チャート上位を賑わす程の成功を収めたわけじゃなし、ヨーロッパにおける彼らの人気の程がイマイチよく分からず、しかもこの時のライブは2番手出演だったというじゃありませんか。結構な金額払ってショボい内容だったら敵わんなぁ…とかグチグチ思いながら再生した本作でしたが、結論から言えば心配は完全な杞憂に終わりました。 スペシャル・セットリストとして『DON’T~』から全曲披露(曲順はアルバムの最後から最初へ遡っていく構成)されているライブは、1曲目から観客が大歓声で盛り上がりまくり。キメの名曲である“FOREVER YOUNG”は当然にしても、それ以外の楽曲に関してもダニー・ヴォーン(Vo)が客席にマイクを預けると即座に大合唱が返ってくるのですから、「これならライブ盤として残したくなるわなぁ」と。無論楽曲の良さのみならず、バンドの熱演がその盛り上がりを支えていることは言うまでもなく、特にパワーを落とすことなく最後まで歌いきるダニーのVoは本作の大きな聴き所。そうした再結成後の精力的なライブ活動に裏付けられたバンドのパフォーマンスと、打てば響く客席の反応が最高潮に達する⑨⑩⑪の流れからは、懐メロ・バンド的緩慢さとは無縁のエネルギーが迸っていますよ。 舐めてたことをバンドに謝罪したくなる、「記録よりも記憶に残るバンド」TYKETTOの強さが発揮されたライブの好盤です。
帯やライブ中のMCでも表明されている通り、SHOW-YAの看板シンガーであった寺田恵子在籍時代最後のツアーとなった「HARD WAY TOUR 1991」の中から、大阪厚生年金会館と名古屋市公会堂でのパフォーマンスの模様を収めた、彼女達にとっては2枚目となる実況録音盤。確か個人的にこれが初めて購入したSHOW-YA作品だったような…。 『GLAMOUR』『OUTERLIMITS』『HARDWAY』といった傑作を連発してオリコン・チャート上位を席巻する等、名実共にバンドが完全に「仕上がっていた」時期のライブだけに聴き応え十分なのは当然のこと。’89年リリースの『TURN OVER』と聴き比べれば明らかな通り、歌謡ロック路線から本格派HM路線へとシフト完了したバンドは、最早「ガールズ・ロック・バンド」なんて括りを必要としない、並の野郎バンドじゃ束になっても敵わない堂々たる貫禄と迫力を身に纏っています。とりわけ過酷なロード生活を経てイイ具合に燻された(逆に言えば相当喉に負担があったということなのでしょうが…)寺田の歌声は圧巻で、代表曲“私は嵐”のようなヘヴィ・メタリックな疾走ナンバーにおけるパワフルなハイトーンから、ブルージーな“BLUE ROSE BLUES”におけるハスキー・ボイスを活かしたセクシーな歌い回しまで、幅広い表現力を駆使し、ラスト・ツアーに持てる力全てを注ぎ込まんとする気迫漲るパフォーマンスにゃ胸を打たれること必定です。寺田のVoと、五十嵐美貴のGを始めとする楽器陣が火花を散らしながら突っ走る“FAIRY”“ギャンブリング”“限界LOVERS”というラストのスピード・ナンバー三連打のカッコ良さなんて、まさに本編のクライマックス。 若き日のバンドの全力疾走ぶりが克明に刻まれたライブの名盤。入門編にもどうぞ。
ハイきた、早くも今年ベスト1作品(候補)。GRAND ILLUSIONで一躍注目を集め、現在はデーモン閣下のソロ・アルバム制作に関わったりツアーに同行したりといった活動で知られるマルチ・アーティストのアンダース・リドホルムと、WORK OF ARTやLIONVILLE等で高い評価を得るシンガー、ラーズ・サフサンドがタッグを組んだプロジェクトのデビュー作。 WORK OF ARTとGRAND ILLUSIONの組み合わせだからART OF ILLUSION。安直~と言うなかれ。軽快なイントロで今回はポップ路線に寄せたの?と一瞬不安にさせておいてからの、サビでは立体的なコーラスが壮麗に舞うアレンジの出現で「よっ、待ってました!」とニヤリとさせられる①を始め、曲作りをほぼ一手に担うアンダースの作曲センスと、ラーズの伸びやかでエモーショナルな歌声が理想的なマッチングを果たした本作は、聴き終えてみればまさしくこのプロジェクト名がぴったりであったと深く理解できる筈。特にGRAND ILLUSIONのアルバムに収録されていても違和感のない③⑥⑧はアンダースの美学が凝縮されたアルバムのハイライト。冷ややかな哀メロを伴いシアトリカル且つ劇的に駆け抜ける③の素晴らしさにゃ、こちとら瞳孔が開きっ放しになりましたよ(大袈裟)。 他にもQUEENを北欧風の味付けで料理したようなミュージカル調の④⑨⑫あり、爽快に躍動するハードポップ②⑩あり…。ボートラ収録の⑬までラーズの美声が映える美しいバラードなんですから、本作の捨て曲なしのクオリティっぷりが窺い知れようというもの。 当然第2弾、第3弾アルバムも期待せずにはいられない傑作。あとやはりアンダース・リドホルムはもっと色々なバンド/プロジェクトで活躍して欲しい逸材だなぁと。
3rd『DEMONS DOWN』(’92年)を最後にHOUSE OF LORDSが事実上の解散状態に陥ったことを受けて、フロントマンだったジェイムズ・クリスチャンが’94年に発表した1stソロ・アルバム。当時はゼロ・コーポレーションからのリリースでしたが、後にNIPPON CROWNからボーナストラック6曲を追加収録する形でリイシューもされています。(今じゃどちらも入手困難なのが残念) 華を添えるブルース・ゴウディ、マイク・スラマー、ミッチ・ペリーといったギタリスト達のゲスト参加に加え、作曲面ではHOUSE OF LORDS時代からの付き合いであるソングライター、マーク・ベイカーの助力を得て制作されている本作で聴けるのは、まさしくそのHOUSE OF LORDS時代の作風を忠実に受け継いだ、ほんのりブルージーな味付けも施されたメロディアスHRサウンド。 ほぼバラード系の楽曲の固め打ち、全体的にHR/HM色は薄めな仕上がりながら、だからこそジェイムズのエモーショナルな歌声が映える。立ち上がり①こそ多少地味な印象でも、「ドラマかCMで主題歌に起用されてませんでした?」と思わず考え込んでしまうぐらいフック効きまくりの名曲②で早くもクライマックスを迎えて以降は、これまた高いヒット・ポテンシャルを感じさせる③、躍動感溢れるロック・チューン⑦、物悲しいイントロからドラマティックに盛り上がっていく⑧等、本編には秀逸な楽曲が目白押しです。 スタン・ブッシュやランダル母娘といった腕利き作曲家が関与した2ndソロ『MEET THE MAN』も大変な傑作でしたが、本作だって負けず劣らず、探し出してチェックする価値は十分にある1枚かと。