ジェイ・グレイドン、グレン・バラードと結成し、デビュー作『A HEART FROM THE BIG MACHINE』(’91年)が日本でスマッシュ・ヒットとなったPLANET 3での活動や、様々なアーティストへの楽曲提供で知られるシンガー/ソングライターのクリフ・マグネスが、1st『SOLO』(’94年)以来、24年ぶりにリリースした2ndソロ・アルバム(’18年発表)。 雲ひとつない青空、パームツリー、アメ車、あと犬…と、わたせせいぞう感溢れるジャケットから想起される通り、クリフのクセのないハイトーンVoが伸びやかに響き渡る、ポップで爽快なメロディアスHRサウンドが心地良い1枚。前作がメロディ愛好家から「まるで青春映画のサントラのよう」と絶賛されていたことを踏まえると、変わらない魅力を湛えつつも、どこか過ぎ去った日々を懐かしむような郷愁が漂ってくる本作は同窓会映画のサントラ的趣きも感じられたり。 …なんて書くと、何やら後ろ向きで覇気に欠ける作品のように思われるやもしれませんが、どうしてどうして。アルバムのOPを飾るVAN HALENばりに溌剌と駆け抜ける①、歯切れ良く軽快に弾む④、ゲストVoのロビン・ベックが華を添える⑤等、要所に配されたHRナンバーがしっかりと気分をアゲてくれます。特にキャッチーなコーラスと哀愁のメロディに思わず合唱を誘われる⑧はアルバムのハイライトに推したい名曲。無論、「80年代にトレンディドラマかCMに主題歌として起用されてなかった?」と尋ねたくなるヒット・ポテンシャル充填120%な③、バグパイプを効果的に取り入れた⑥といったバラード系の楽曲の素晴らしさに関しては、今更言及するまでもなく。 前作を気に入った方なら迷わず買えよ買えば分かるさな1枚。前作を知らない方も是非に。
名作『IMAGINOS』収録の名曲 “THE SIEGE AND INVESTITURE OF BARON VON FRANKENSTEIN'S CASTLE AT WEISSERIA” を彷彿とさせる、重厚にしてドラマティックなアルバムのハイライト。 Gにリードされて曲調が疾走へと転じる場面のカッコ良さ、 そして凛としたピアノの旋律も印象に残ります
それこそ肩眉を剃り落して山に篭りそうな勢いで(誤ったイメージ)ひたすらJOURNEY型メロディアスHRサウンドを求道し続ける「馬鹿よのう…まさにメロハー馬鹿」なギタリスト、ジョシュ・ラモス。RAMOS名義では『LIVING IN THE LIGHT』(’03年)以来、実に17年ぶりとなる、’20年発表の2ndソロ・アルバムがこちら。 トニー・ハーネル、ダニー・ヴォーン、エリック・マーティン、トニー・ミルズ…著名な実力派シンガー勢をゲストに迎えてレコーディングされている本作でも、当然JOURNEY路線のメロハー・サウンドが聴けるものとばかり思っていましたが、意表を突いて本編の幕開けを飾るのは、イントロからGが派手に弾きまくられ(そもそもSHRAPNELからデビューを飾った人なのでテクニックは十分)、70年代HRばりの豪快さを伴って繰り出される①。アルバム全体としても所謂クラシック・ロックからの影響を伺わせる渋めのサウンドが展開されており、まさしく表題『MY MANY SIDES』を地で行く仕上がりだったという。 思ってた方向性と多少異なるとはいえ、ブルージーなフィーリング漂わす楽曲には元XYZのテリー・ルイス、再結成SWEETのフロントマンとして知られるジョー・レッタらの粘っこい熱唱がハマっていますし、またそれらの楽曲においてもジョシュの類まれなるメロディ・センス、一音入魂のGプレイはしっかりと健在。特にGを雄弁に歌わせるインスト・ナンバー⑩にゃ聴き惚れずにはいられませんて。そしてアルバム終盤にはちゃんと「これぞジョシュ・ラモス」という爽快メロハー⑪が用意されているので、聴後感も良好です。 予想は裏切るが期待は裏切らない1枚。でも、出来れば次はメロハー物をヨロシク。
現WHITESNAKEのミケーレ・ルッピに師事した実力派シンガー、ダヴィデ・バービエリ率いるイタリア出身の5人組HRバンドWHEELS OF FIREが'19年に発表した3rdアルバム。昨年末に帯・解説付の輸入盤がBICKEE MUSICから発売されていたので「年が明けたら買おう」と呑気に構えていたら、それから1~2か月足らずであっという間に廃盤になってしまい慌てましたよ。どう考えても早過ぎるのですが一体どうしたことか。 80年代風味満点の溌剌としたポップ・メタル・アルバムだった1st、より成熟しメロディアスになった2ndときて、本作で披露されているのはちょうど両作の中間ぐらいに位置するメロディック・ロック・サウンド。ポップな中にも哀愁がまぶされたメロディと、この手の音にお似合いの、ちょっと鼻にかかったハイトーンでエネルギッシュに歌いまくるVo、それにコンパクトにまとまった良ソロをテクニカルに繰り出すGにより華やかに彩られた本編は、ボーナストラック含めて捨て曲なし。前作から7年という長期間のブランクをものともしない、相変わらず卓越した曲作りのセンスが光るハイクオリティな仕上がりです。まぁダヴィデは活動休止期間中も多数のプロジェクトを掛け持ちしていたようなので、それも当然っちゃ当然なのですが…。中でもピアノのイントロからスタートするドラマティックなバラード⑤や、フックを満載にして疾走する⑨等は、今が80年代ならヒット・チャートを賑わしたっておかしくない本編のハイライト・ナンバーですよ。 過去2作の美味しい所取りとも言える充実作なので、WHEELS OF FIRE入門盤代わりに強くお薦めする1枚…って、もう廃盤か。願・再発。
『ワイルドギース』に『ジャガーノート』に『カサンドラクロス』…70年代イギリス製アクション映画には欠かせない俳優だった(晩年は『ハリーポッター』シリーズの初代ダンブルドア校長役で知られる)故リチャード・ハリス。プログレ・バンドのBEGGERS OPERAやドナ・サマー、グレン・キャンベルなんかもカヴァーした名曲“MACARTHUR PARK”を聴いてこの人のシンガーとしてのキャリアに興味を持ったところ、折よく過去のカタログがリイシューされたので、とりあえず購入したのが'71年発表の本3rdソロ・アルバム。 既成曲のカヴァーや書下ろしの新曲が入り混じる本作で聴けるサウンドは、もちろんHR/HMとは相当距離があるポピュラー・ミュージック。ただ、離婚により息子と離れ離れになってしまった父親の「我が子への想い」をコンセプトに据え、詩情豊かに綴られるストーリー仕立ての構成と、ハリスの包容力を感じさせるジェントリーな歌声が組み合わさることで、アルバムはプログレッシブ・ロック作品にも通じるドラマ性とメリハリを獲得。特に、哀愁に満ちたヴァースからサビにかけての劇的な曲展開が胸を打つ“PROPOSAL”、躍動感溢れるテンポ・チェンジが効果的な“LIKE FATHER, LIKE SON”や“THIS IS MY LIFE”、エルヴィス・プレスリーもカヴァーしたヒット・シングル“MY BOY”といった、ハリスのトム・ジョーンズばりの(それこそ『007』の主題歌を歌ったらハマリそうな)熱唱が炸裂する楽曲は、息苦しい程の盛り上がりを呈していて実に感動的ですよ。 右から左へは聞き流させない、ROBBY VALENTINE、MEATLOAFあたりがイケル方なら間違いなく楽しめる1枚ではないでしょうか。
TOKYO BLADEが’20年に新作をリリースしたとの情報を聞きつけ、「アルバムは『THOUSAND MEN STRONG』(’11年)以来、久々だなぁ」と遅ればせながら購入してみたところ、国内盤の解説を読んでビックリ。何と既に’18年に『THOUSAND~』の次作となるアルバム『UNBROKEN』が発表されている上(しかも当サイトにおいて失恋船長さんがレビュー済み)、いつの間にかデビュー作で歌っていた初代シンガーのアラン・マーシュがバンドに出戻っているじゃありませんか。全然気が付いていませんでしたよ。 …と、ちょっとした浦島太郎状態を味わいつつ聴き始めた本作でしたが、アランの歌声は往年の個性をしっかりキープ・オン・ロッキン。若さに溢れていた前任Voに比べると流石にパワーでは劣る感が否めないものの、その分、力んで歌っても肺から空気が漏れていくようないなたさが如何にもNWOBHMシンガー然とした味わいで(誉めてます)、郷愁をそそられずにはいられないという。 その彼が拾っていく煮え切らない歌メロと、曇天模様のリフを刻み、湿ったメロディを奏でる2本のGを両軸に牽引される本編は、復活後なら例えば“LUNCH-CASE”に匹敵するような強力なキメ曲が見当たらないため多少地味な印象がつきまといますが、それでも雄々しくライブ映えしそうな⑤や、ツインGの勇壮なハモリが耳を捉える⑧あたりを始め、聴くほどに沁みて来る滋味深い楽曲を多数収録。ファンが最も支持する初期2作の路線は本作においてもきっちりと継承されています。 『UNBROKEN』も聴かないわけにはいきますまい。
LIVING DEATHが、引き続きプロデューサーにラルフ・ヒューベルトを迎えて制作、AAARRG RECORDSから’88年に発表した4thアルバム。 布陣は前作と同じなのに一聴して明らかな音楽性の変化に加え、発表後にケルヒ兄弟とそれ以外のメンバーがバンド名の権利を巡って法廷闘争を繰り広げた泥沼の分裂劇の悪印象とが相俟って、今に至るも芳しくない評価に晒され続けている本作。斯くいう自分も初めて聴いた当時は、妙に整理された音作りといい、迸る狂気を抑え気味に中途半端に歌おうとするトーステン“トト”ベルグマンのVoといい、ジャーマン・スラッシュ・メタル史に残る傑作だった前作『PROTECTED FROM REALITY』に比べ、ヨーロッパ的ダークネスや聴き手の神経を逆撫でするようなトンガリ具合が大幅に減退してしまったサウンドには、圧倒的「コレジャナイ」感を覚えたクチなのですが。 とはいえ、発表から30年以上が経過して最早こちらも「ジャーマン・スラッシュ斯くあるべし!」的な面倒臭い拘りが薄れて久しい昨今。フラットな気持ちで付き合ってみると、これが案外楽しめてしまうんですよ。本作がスラッシュ・メタル・アルバムであることは間違いないですし、一緒にシャウトせずにはいられないキャッチーなギャング・コーラスを伴って突っ走る①や、不穏にかきむしられるGソロが印象的な③、クロスオーバー・スラッシュ的な炸裂感をもって畳み掛ける⑦辺りは、改めて聴き直すことでそのカッコ良さを再発見した楽曲です。 前評判を耳にして敬遠されている方も、案外聴いてみたら気に入る1枚かもしれませんよ。
グラム・ロックの源流の一つとして、後続勢に多大な影響を与えたSWEETが'72年に発表した3rd。 英盤と米盤で内容が若干異なっており、自分が所有しているのは米盤ベースの国内盤(邦題は『荒廃の街角』)。リリース当時は英米のチャートを席巻し、近年でも映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:REMIX』の予告編にフィーチュアされたことで再びリバイバル・ヒットを飛ばした代表曲“FOX ON THE RUN”を収録、SWEETが「ヒットメーカーにお膳立てされたアイドル・バンド」から「よりヘヴィなサウンドを追求するHRバンド」へと歩みを進める分岐点となった名盤です。 初期から培ってきた甘くポップなメロディ・センスや、親しみ易いキャッチーなコーラス・ワーク、QUEEN等に通じる高音ハーモニーといった従来の魅力に、タイトで歯切れの良いハードネスが加わった本編は、前述の“FOX~”を筆頭に、賑々しい“ロックンロールは恋狂い”、曲名通りのタテノリ・ナンバー“A.C.D.C.”、重厚に舞うボーカル・ハーモニーが印象的な“THE 6 TEENS”、ヘヴィなリフとポップなメロディのコントラストが絶品な“SWEET F.A.”等、硬軟のバランスに優れた名曲がズラリ。中でもHEATHENがカヴァーし、個人的に本作購入の切っ掛けともなった逸曲“SET ME FREE”は、明快なメロディにアグレッシブな疾走感といい、「これ完全にHMナンバーじゃね?」ってなカッコ良さに満ち溢れていますよ。 CDだと更にボーナス・トラックとして代表曲“ACTION”(DEF LEPPERDがカヴァーしていました)まで収録されているという至れり尽くせりっぷり。下手なベスト盤に手を出すくらいなら、SWEET入門盤には本作をお薦め致します。
1stソロ『RUDE AWAKENING』がゼロ・コーポレーションからリリースされた当時は、ジェイムズ・クリスチャンというアーティストに全く興味がなかったのでスルーしてしまったのですが、その後HOUSE OF LORDSで快作を連発する彼の実力に瞠目させられ、’06年発表のこの2ndソロを慌ててショップへ買いに走りましたよ。 優秀なシンガーであるだけでなく、ジェイムズ自身が素晴らしい楽曲を書けるソングライターであることに加えて、本作はファブリツィオ・V・グロッシーがプロデュースを手掛け、スタン・ブッシュや、マーク・フリーへの楽曲提供、VENUS & MARSでの活動で知られるジュディス&ロビンのランダル母娘といった百戦錬磨の作曲陣が参加しているのですから、「それもう絶対に大当たりの奴じゃん」と聴く前から期待値がガン上がり。そして実際聴いてみても、高まりきったこちらのテンションにきっちり応えてくれる出来栄えをアルバムは誇っており、完成度に関して言えば、同時期にリリースされたHOUSE OF LORDSの再結成作『THE POWER AND MYTH』をも上回っているんじゃないでしょうか。 特にランダル母娘との共作曲で、ヴァースからコーラスへ向かって哀愁度が上昇していく②や、哀愁のメロディをフラッシーに弾きまくるGの活躍も印象的な⑦、スタン・ブッシュが手掛け、ジェイムズの奥方であるロビン・ベックがバックVoとして参加するキャッチーで爽快な⑧は、この組み合わせにこちらが期待する要素をギュッと凝縮したようなメロハーの逸品です。(ちなみにXのPATAのペンによるバラード⑤も収録) つくづく『RUDE~』購入をスルーしてしまった己の所業を悔やまずにはいられない1枚。