いくつものバンド/プロジェクトを渡り歩き、現在はソロ・シンガーとしても成功を収める実力派マイケル・ボーマン(Vo)と、実兄のダーク・ボーマン(G)、元MAD MAXのアクセル・クルーズ(Ds)らにより結成されたドイツ出身のJADEAD HEARTが’94年に発表した1stアルバム。 日本盤はゼロ・コーポレーションからのリリースで、同じ時期にやはりゼロから発売となったFATES WARNINGの『INSIDE OUT』(’94年)とごっちゃになってしまい「プログレ作品だっけ?」ってな誤った印象を抱いていたのですが、(当然そんなことはなく)本作に託されているのはアメリカンな抜けの良さ&分厚いハーモニーと、ヨーロピアンな叙情性を併せ持ったメロディアスHRサウンド。要所で美しく煌めくアコースティックギターを有用したアレンジも冴えており、フック満載の楽曲作りから、この頃既にLETTER XやCASANOVA等での活動を通じて歌唱力の確かさをHR/HMシーンに知らしめていた熱い歌いっぷりに至るまで、マイケルが自身の才を存分に振るえる環境が整ったわけですから、そらクオリティの高い内容に仕上がることは自明の理であったと。 重厚なOPナンバー①に始まり、曲調とマイケルの声質が相俟って猛烈にBON JOVIっぺー②、ドラマティックな⑥、キャッチーなハードポップ⑧、哀愁爆発バラード⑨、欧と米のエッセンスをバランス良く取り込んだ⑩、“I WAS MADE IN LOVIN’ YOU”そっくりな(KISSトリビュート・ソング?)⑬…といった具合に、本編は捨て曲の見当たらない充実作だけに、ゼロ・コーポレーション閉鎖後、国内盤が廃盤のまま放置されているのは勿体ない気がしますね。
オフコース解散後、ソロ・アーティストへと転じた小田和正(Vo)が渡米してレコーディングを行い、'86年に発表した1stアルバム。 それまでオフコース時代の代表曲“さよなら”ぐらいしか知らなかったこの人に興味を持つようになったのは、ご多聞に漏れず“ラブ・ストーリーは突然に”のメガヒットがきっかけ。とはいえソロ・アルバムまで追いかけてみようとは思っていなかったのですが、何となくレンタルCD屋で本作を手に取ってクレジットをチェックしてみれば、編曲にも全面関与するダン・ハフ(G)を筆頭に、ジェフ・ポーカロ(Ds)&デヴィッド・ハンゲイト(B)のTOTO組、後にダン・ハフとGIANTを結成することとなるアラン・パスクァ(Key)ら、西海岸セッション・ミュージシャンの一流どころがバックを固めているじゃありませんか。こら聴かいでか!と。 実際、今も昔も変わらぬ小田の甘くクリアな歌声と、美麗に舞うボーカル・ハーモニー、どこか切なさを誘うメロディに彩られたAOR/シティポップ・サウンドはじっくりと浸れるクオリティの高さを有しており、特にシングル・カットもされた“1985”は、アーバンな哀愁纏った楽曲自体の素晴らしさと参加ミュージシャン勢の的確な仕事ぶりが相俟って、個人的にはアルバム・ハイライト級の感銘を受けた名曲に仕上がっていますよ。 こうなると引き続きダン・ハフが参加している小田の2ndソロ『BETWEEN THE WORD & THE HEART』(’88年)も聴くべきなのかなぁ…とボンヤリ考えているうちに20年以上が経過し、年号や世紀まで変わってしまったという。
ジェス・ハーネル(Vo)が'95年に制作したソロ・アルバム。「それって誰よ?」という人に説明させて頂くと、ジェス・ハーネルはHR/HM冬の時代にLAからデビューを飾り、2枚のアルバムを発表してメロディ愛好家からちょっぴり注目を集めたメロディアスHRバンド、LOUD & CLEARのフロントマン。本作はその彼氏の1stソロ・アルバムで、制作当時はアメリカの音楽シーンの状況悪化もあって自主制作の環境に留まったようですが、LOUD & CLEARが評判を呼んだことも手伝って、'98年にはマーキー/アヴァロン・レーベルを通じて日本盤発売が実現しています。(THE BEATLESの代表曲の一つ“IN MY LIFE”や、ジェフ・テイトになりきった歌いっぷりが微笑ましいQUEENSRYCHEの“WALK IN THE SHADOWSのカヴァー等も収録) なので聴き手としてはついLOUD & CLEAR路線の溌剌としたポップ・メタルを期待してしまうところなれど、1曲目がいきなりピアノ・バラードという構成からもお察しの通り、ここで披露されているのは歌が主役のAOR/産業ロック・サウンド。メタル要素は殆ど見当たらないので要注意。とはいえ、ジェスのハイトーンVoを生かした楽曲のクオリティはいずれも高く、特にSIGNALの名曲“DOES IT FEEL LIKE LOVE?”のカヴァー⑤、物悲しいアコースティック・バラード⑥、本編中においては比較的ロック色強めのメロハー・チューン⑦といった逸曲が連続するアルバム中盤にはグッと惹きつけられましたよ。 近頃はとんと中古盤屋でも見かけることがなくなってしまいましたが、掘り出し物をお探しのメロディ愛好家諸氏にはお薦めの一作じゃないでしょうか。
次々とデビューを飾るも泡沫の如く一作限りで消えてしまうか、あるいは作を重ね主役と思っていたミュージシャンの首が突然挿げ替えられたりすることも珍しくない(例:SUNSTORM、KHYMERA等)FRONTIERS RECORDS発のメロハー・プロジェクト群の中にあって、ロビー・ラブランク(Vo)とダニエル・フローレス(Key)のコンビを中心に、立ち上げから既に10年以上の月日を数え、安定した人気と作品のクオリティを保ち続けるFIND MEが'24年に5thアルバムを発表してくれました。 名手アレッサンドロ・デル・ベッキオを筆頭に腕っこきのソングライター勢を結集、ロビーの伸びやかなで力強い歌声が映えるメロハー・チューンをズラリ取り揃える制作体制に変化はないため、当然今回も安心/安定の高品質を保証する仕上がり。特に高揚感に満ちたポップ・チューン②は全盛期のSURVIVORを彷彿とさせる名曲!…とか思ったら、実際に“I SEE YOU IN EVERYONE”のカヴァーだったという。前作でカヴァー曲“FAR FROM OVER”の素晴らしさが他の曲の存在を霞ませてしまっていた事実が一瞬脳裏を過りましたが、今回はその他にも爽快にアルバムのOPを飾る①、本家SURVIVORから馳せ参じたジム・ピートリック提供の⑦、後半戦をハードに駆け抜ける⑪等、優れた楽曲が要所を引き締めてくれているので大事には至らず。とりわけキャッチーでフックに富むサビメロに顔が綻ぶ⑥は、このプロジェクトの盤石ぶりを物語るような名曲ですよ。 前作には見当たらなかった「天使」が、再びアートワークにその姿が描かれていることにもホッと一安心(?)な1枚。
スイス出身の5人組が、プロデューサーにH.E.A.T.のヨナ・ティーを起用してレコーディングを行い’19年に発表した1stアルバム。(前身のHAIRDRYER時代に既にアルバムを制作しているので、正確にはバンド名を改めての出直しデビュー作というべき1枚なのかな) バンド名がFIGHTER Vで、アルバム・タイトルはシンプルに『FIGHTER』。これだけだとデモテープとシングルのみを残して消えたNWOBHMのオブスキュア・バンドの発掘音源集みたいですが、彼らの結成時期は’10年と結構最近ですし、プロデューサーの人選からも明らかな通り、出している音にも無骨さは皆無。煌びやかなKeyと分厚いVoハーモニー、思わず合唱を誘われるキャッチーなコーラス・ワークといった80年代的要素をふんだんに取り入れたメロディアスHRアルバムに仕上がっています。 元気よくかっ飛ばす疾走ナンバーから、明るく跳ねるロックンロールまで収録曲のバラエティは多岐にわたりますが(ヨナ・ティーがH.E.A.T.用に準備した楽曲だったという⑦も収録)、いずれにおいても北欧メタルに通じる透明感を湛えた哀愁のメロディ作りの上手さが際立っており、特にグッと胸に差し込むメロディの泣きと、ライブ映えする曲調を共存させたアルバム表題曲④、抜群に上手いわけではないものの愁いを感じさせる声質のVoの歌唱が映える、爽やかさを振りまきながら駆け抜けていくハードポップ⑥は、FIGHTERというバンドの魅力が的確に捉えられた本編のハイライト・チューンですよ。 先頃、5年のブランクを経てリリースされた2nd『HEART OF THE YOUNG』も是非チェックせねば!という気にさせられる力作です。
認知症と多系統萎縮症の悪化でツアーから身を引くというニュースを目にしたと思ったら、それから殆ど間を置かずに飛び込んできた「急死」の報には驚かざるを得なかったジャック・ラッセル(Vo)。浮き沈みの激しいミュージシャン稼業を送り、バンド名の使用権を巡ってかつての盟友マーク・ケンドールと訴訟にまで発展した時期もあったという彼氏が、JACK RUSSEL’S GREAT WHITE名義で'17年に発表したアルバムがこちら。 GREAT WHITEの看板掲げて制作されているので、本作から流れてくるのは当然過去作の延長線上にある、ブルージーなエッセンスを盛り込んだHRサウンド。マークのGの不在ゆえか、はたまた歌を中心に据え、全体的に落ち着いたトーンが支配的なこじんまりとした作風ゆえか、GREAT WHITEの新作というよりは「ジャック・ラッセルの3枚目のソロ・アルバム」を聴いているような気分になる仕上がりではあるものの、彼のソロ作…特に2nd『FOR YOU』(’04年)を愛聴している身には落胆に当たらず。むしろ望むところですよ。 流石に“ALWAYS”級の名曲は見当たらないまでも、独特のハスキー・ボイスは年を経ても全く衰えることなく健在。哀愁に満ちたOPナンバー①、後期GREAT WHITEに通じる②④、アーシーなバラード⑥といった佳曲は流石の歌いっぷりでエモーショナルに酔わせてくれますし、妖しげな雰囲気漂わすアルバム表題曲⑦、テクニカルなGの存在が映えるアップテンポのHRナンバー⑨のような新味を感じさせる楽曲も魅力的です。 JACK RUSSEL’S GREAT WHITEのポテンシャルが十二分に伝わってくる力作だっただけに、これが最初で最後のフル・アルバムになってしまったことが残念でなりませんね。
沖縄出身のシンガー/ソングライターKYAN MARIEこと喜屋武マリーが、MARIE WITH MEDUSA名義で'89年に発表した1stアルバム。(キャリアとしては3作目) BADFINGERの“WITHOUT YOU”やパット・ベネターの“HEARTBREAKER”、HEARTの“BARRACUDA”といった70年代ロックの名曲をカヴァーしていた渋めのデビュー作『MARIE FIRST LIVE』(’83年)しか聴いたことがなかったのですが、本作では一転してポップな躍動感を増した楽曲をシンセサイザーが派手に彩る、「時はまさに80年代末!」といった趣きのバブリーな歌謡メタル・サウンドが炸裂。同時代のアン・ルイスに通じる音楽性というと伝わり易いでしょうか?(実際彼女が作詞を手掛けている楽曲も収録) 軽薄な音作りや、過剰に鳴らされるシンセ、時代を感じる日本語詞に赤面を誘われる向きもありましょうが、マリー姐さんのパワフルな歌唱と、その歌い回しのカッコ良さもあってか個人的には歌詞の臭みは然程気になりませんでしたね。また作曲とアレンジを中島優貴が手掛けているだけあって収録曲自体は高いクオリティを維持。景気よく疾走する①⑤や、ノリ良くキャッチーな③といった華やかなHRナンバーの数々はもとより、やはりこの人の真骨頂はバラード系の楽曲にこそあり。CHAR提供のソウルフルな④、自身の半生を映画化した『Aサインデイズ』の主題歌でもあった⑦、再録されたBADFINGERの名曲カヴァー⑨における聴き手のエモーションを喚起する熱唱ぶりにゃグッとこないわけがないですよ。 ジョージ紫&マリナーだって再発されたご時世ですから、是非彼女のカタログのリイシューもお願いしたいところであります。
映画『オーメン』に登場する悪魔の子からバンド名を頂戴してDAMIENを名乗った5人組(同名バンドは多いが彼らはオハイオ州トレド出身)が、'89年に発表した2ndアルバム。1st『EVERY DOG HAS ITS DAY』(’87年)では凶悪な面構えの白犬、今作では戦闘機化した犬と、やたらジャケットが犬推しなのも「ダミアンは山犬の子」という映画の設定を踏まえているからなんでしょうかね? それはともかく。本作で披露されているのは高血圧なシャウトとメロディアスな歌い上げをスムーズにこなすVoと、硬軟自在に動き回る2本のGを効果的に用いたJUDAS PRIEST型正統派HM。勿論そのサウンドはアメリカのバンドらしくよりアグレッシブにビルドアップされていますが、一方で単調な力押しに終始することなく、キャッチーなメロディ作りへの拘りから印象的なツインGの絡みに至るまで、曲展開をしっかりと練ってフックを仕込む手腕には、しょせんB級メタルと舐めてかかる輩にカウンター・パンチをぶち込むが如き強力なクオリティが宿っていますよ。 パワフルに押しまくる曲調にふっと引きのパートが差し込まれる技ありのOPナンバー①、熱くドラマティックに盛り上がる③、憂いに満ちたメロディを纏ってスマートに駆け抜けていく⑧…。中でも重厚かつ好戦的な曲調、光沢を帯びたツインGハーモニーに乗せて「マチールダー!マチールダー!」と思わず唱和せずにいられないコーラスが炸裂する④はDAMIEN屈指の名曲じゃないでしょうか。 前作に負けず劣らず聴き応え十分の名盤。今更ですが日本盤出して欲しかったですね。
リトアニアに生まれ、現在はスウェーデンを拠点に活動するマルチ・アーティスト、マイケル・パレス率いるPALACEが'24年にFRONTIERS RECORDSから発表した5thアルバム。 FIRST SIGNALやCRY OF DAWNで彼の作曲能力の高さは知っていたものの、個人的にPALACEの1stと2ndに対する評価は「悪くはない」くらい。なので日本盤未発売に終わった3rdと4thを輸入盤買ってまで追いかける気にはなれなかったのですが、再び国内盤リリースが実現した本作を聴いて、キャッチーなメロディと煌びやかなKeyに彩られた80年代憧れ満載ハードポップ・サウンドの飛躍的なクオリティUPぶりに吃驚。収録全曲の曲作りは勿論のこと、プロデュースからミックス/マスタリング、更に全パートの演奏、果てはアートワークまで自ら手掛けるという、完全なる自作自演体制で作り上げたまさしく「入魂」の一作であり、中でも強烈なまでにフックの効いたコーラス・ワークに胸躍る③、タイトル通り聴き手を80年代へと誘うキャッチーな⑥、一瞬日本のシティポップかと思った⑨は、本編の魅力を分かりやすく体現するアルバムのハイライト・ナンバーじゃないでしょうか。 それらを歌うマイケルの歌唱力向上も著しく、初期作は「ソロ・プロジェクトだから自分で歌うのもありなんじゃない」程度の印象だったのが、ここでは他バンドにゲスト・シンガーとして招かれても全然おかしくない(歌一本で食っていけそうな)熱唱を披露してくれていますよ。 マイケル・パレスというアーティストの魅力がギュッと凝縮された、PALACE入門盤としてもお薦めできる1枚。こうなると未聴の3rdや4thにも興味が湧いてきますね。
コロナ禍で活動の場を失ってしまったロバート“ロリ”フォルスマン(G)が、空いた時間で書き上げた楽曲を発表するべく結成したREMEDY。’22年に1st『SOMETHING THAT YOUR EYES WON’T SEE』を発表したところ、これが本人にも予想外なことに大ヒットとなり(母国スウェーデンのTOP10チャートにランクインする程だったそうな)、その勢いを駆って'24年4月に本2ndアルバムがリリースの運びとなりました。『SOMETHING~』の日本盤発売は'24年2月だったので「えぇ、もう?」とちょっと吃驚してしまいましたよ。 前作同様、作曲には6人目のメンバーというべきソレン・クロンクヴィストが全面関与し、マスタリングにECLIPSEのエリック・モーテンセンを起用する必勝の陣容は継続。なので今作も音楽性の方に変化は皆無であり、90年代だったらゼロ・コーポレーションからリリースされたであろう、北欧のバンドならではの透明感と哀感に彩られたメロディアスHRサウンドにグッと来る1枚に仕上がっています。 ぶっちゃけ初聴時はあまり強いインパクトは受けず「慌てて作ったから練り込み不足なのでは?」と心配になったりしたのですが、繰り返し聴き込んでみれば、悲哀たっぷりにOPを飾る①あり、歌メロもGも泣いている③あり、ヒット・チャートを賑わせても不思議ではないキャッチー④あり、ソレン&ロバートのメロディ・センスが冴え渡る⑧あり…といった具合に楽曲の秀逸さがじわじわと浸透。現在では「前作に勝るとも劣らぬクオリティ!」との結論に落ち着いた次第で。 若干の置きに行った感はありつつも、今回も安心して楽しめる1枚であることは間違いありません。
80年代愛が詰まった“ON THE RUN”と“1989”のコミカルなPVのビジュアル・インパクトでも話題を呼んだスウェーデンの5人組、NESTORがデビュー作『KIDS IN A GHOST TOWN』(’21年)の高評価を追い風に、'24年に発表した2ndアルバム。 北欧における80年代トリビュート・ブームの盛り上がりを支える多くの若手バンドと異なり、NESTORは80年代実体験組(結成は'89年まで遡るという)。そのためヒゲ面のオッサンが揃ったメンバーのルックス面の華やかさでは数歩遅れをとるものの(失礼)、スウェーデン国内のポップ・シーンを中心に、数々のヒット曲を数多のアーティスト達に提供してきたトビアス・ガスタフソン(Vo)の磨き上げられたソングライティング・スキルが光る収録楽曲は、彼らが派手な見てくれだけが売りのバンドでないことを立派に証明してくれています。 期待感を煽るイントロSE①から爽快感を伴って盛り上がっていく②、歯切れ良く躍動するアルバム表題曲③、高いヒット・ポテンシャルを感じさせる④…といった具合に、溌剌とした曲調にフラッシーなGと煌びやかなKey、キャッチーなコーラス・ワーク、北欧らしい哀愁とポップ・センスが絶妙なバランスのメロディとに彩られたメロディックHRチューンの数々は、確かに80年代風味全開である一方、じゃあ具体的に80年代のどのバンドに似ているのかと考えてみる案外例えがパッと思い浮かばないという、実はNESTORならではの個性もしっかり刻印された仕上がりとなっています。特に胸を締め上げる哀愁のメロディ大盤振る舞いな⑤なんて本編のハイライトに推したいぐらいの名曲ですよ。 力作だったデビュー作を更に上回る、捨て曲なしの完成度を有する1枚じゃないでしょうか。
歌って良し、弾いて良し、書いて良しの三拍子揃った人間国宝級ギタリスト、TRIUMPHのリック・エメットが'24年に発表したソロ・アルバム(レコーディング自体は'12年に行われていた模様)。先生のソロ作が国内発売されるのってもしかして前世紀ぶりぐらいじゃないでしょうか?あまりに嬉しいので、せっかく解説書でご本人に貴重なインタビューを敢行してくれているのに、再結成TRIUMPHの現状とか、バンドとして新作をリリースするつもりはあるのかとか、重要事項に全く触れてくれないことに対する不満はグッと飲み下しておきますよ。(もしかしてそっち関連の話題はNGだったりしたのでしょうか?) それはともかく肝心の内容の方は、TRIUMPH時代の名曲の数々をアコースティック・アレンジで蘇らせたセルフ・カヴァー・アルバム。押さえるべきとこがきっちりと押さえられた納得の選曲に、“NEVER SURRENDER”や“ORDINARY MAN”“FIGHHT THE GOOD FIGHT”辺りを筆頭とする、アレンジが変わっても輝きは変わらない名曲としての強度、そして何より「円熟味を増すこと熟成されたワインの如し」なエメット先生のエモーショナルな歌声と一音入魂のアコギの妙技が揃えば、そりゃまぁ素晴らしい内容になることは分かりきっていたこと。そもそもこっちの予想を超えてくるタイプの作品ではないですし、ぶっちゃけリメイクは再結成TRIUMPHで演って欲しかった…と思わなくもないですが、贅沢を言っちゃ罰が当たりますからね。 名人の健在ぶりに思わず顔が綻ぶ1枚。TRIUMPHの国内盤カタログが入手困難な現在、これを切っ掛けに入門してくれるファンが一人でも増えることを願って止みませんよ。
傑作の誉れ高い1stソロ『LONG WAY FROM LOVE』(’93年)の発表や、KING KOBRAの名盤『READY TO STRIKE』(’84年)の再発、更にブルース・ゴウディらと結成したUNRULY CHILDの始動等を経て、シンガーのマーク・フリー(現マーシー・フリー姐さん)に対する興味がグングン高まっていた時期にチェックしたのが、SIGNALが’89年に残していたこの唯一のアルバム。 SIGNALはマークと、元ALCATRAZZのヤン・ウヴェナ(Ds)らにより結成されており、本作のプロデューサーには売れっ子ケヴィン・エルソンを起用。哀愁成分こそ然程ではないものの、米メジャーのEMI RECORDSからのリリースだけあって、厚みのあるプロダクションを得て繰り出されるフックの効いたメロディ満載のハードポップ・サウンドは、梅雨時のジメジメを吹き飛ばしてくれるような爽やかさ満ちた仕上がり。特に本編開巻を宣言する①はメロディ愛好家からも名曲として太鼓判押される爽快なOPナンバーで、逆に「この曲以外はイマイチ」みたいな評価もあったりするようですが、個人的には断じて否を唱えさせて頂きたいところ。重厚な⑤、キャッチーな⑥、感動的なバラード⑦、レゲエ調の導入からサビへ進むにしたがって哀愁が増していく⑨、TRIUMPHも演っていた⑩あり…とどこに出しても恥ずかしくない逸曲が揃っていますし、加えて「まさに全盛期!」という力強さで伸びていくマークの艶やかなハイトーンVoがそれらの魅力を更に底上げしてくれていますよ。 昔も今も日本盤が発売されたことがない、ということ以外は弱点が見当たらない名盤じゃないでしょうか?
BOSTON、CHICAGO、KANSAS等、国や都市の名前をバンド名として採用するパターンは結構あって、スコットランド出身のこのGLASGOWもそうしたバンドの一つ。本作は彼らがドン・エイリー(Key)やHEAVY PETTIN’のメンバーをゲストに迎えてレコーディングを行い、SONET RECORDSから'87年に発表した1stアルバム(アルバム・タイトルはグラスゴーの市内局番に因むという徹底ぶり)。先日CD屋に立ち寄ったら、とっくの昔に廃盤となっていた国内盤がまさかのリマスター再発されており「これは夢か幻か」と思わず目を疑ってしまいましたよ。ジャケットが変更されていて最初気が付きませんでしたが。 本作で披露されているのは、SHYやTOBRUKといった同郷バンドに通じるKeyをたっぷりとフィーチュアしたメロディアスHR。哀愁のメロディのみならず、明るいポップ・センスも生かされたこの手のサウンドを歌うには、熱唱型Voの声質がやや重な印象が拭えないものの(でも歌自体は非常に上手い)、個人的にはこのくぐもった声質がいかにも「ブリティッシュ!」な魅力を主張しているようで嫌いにはなれません。というかむしろセールス・ポイントでしょ?と。バラード⑦の素晴らしさなんてこのVoあったればこそですし、キャッチーに弾む②、一転重厚かつドラマティックに展開する③、清涼感を振りまきながらアップテンポで駆け抜けていく④、何となくRAINBOWの“SINCE YOU BEEN GONE”を思い出したりもする⑤…と、連続する逸曲の数々を聴けば、廃盤の国内盤が未だ5桁のプレミア価格で取引されている理由も分かるというものです。 いずれリリースされるであろう復活作を、本作を聴きながら楽しみに待ちますよ。
タイトルが表す通り、LAZYが'80年に発表した5枚目の作品。(フル・アルバムとしてはこれが4作目となる) HR色の増強が図られた4th『ROCK DIAMOND』(’79年)と、LOUDNESSの原点というべき最終作『宇宙船地球号』(’80年)の間に挟まれているので、当然本作もその流れを汲んだハード&ヘヴィなサウンドが託されているものと思いきや、さにあらず。“フルカウント”や“HOTEL”のような疾走ナンバーは見当たらず、どころか収録曲は全て外部ライターのペンによるもの。メンバーは曲作りに一切関わっておらず、バディ・ホリーやSKYLARK(デヴィッド・フォスターが在籍していたことで知られる)、鹿取洋子バージョンが有名なDIESELのディスコ・チューン“GOIN’ BACK TO CHINA”のカヴァーも収録する等、むしろポップ方向に幅寄せした内容に仕上がっているじゃありませんか。 ダウンタウン・ブギウギ・バンドみたいな①が始まった時はどうなることかと思いましたが、本作がアイドル歌謡路線に逆戻りしているのかといえば、そんなことは全くなく。強引な自己主張は抑制し、HRのエッセンスが曲中により自然に溶け込むよう心掛けられた楽曲及びアレンジは、レコード会社に「やらされている」というよりは「メンバー自らが積極的に新しい領域に取り組んだ」との印象を受ける仕上がりで、曲によっては同時期盛り上がりをみせたAORの線を狙ったのかな?と思わされたりも。特に哀愁を湛えて盛り上がるSKYLARKのカヴァー③は、原曲の良さとメンバー入魂のパフォーマンスが相俟って実にグッと来る逸品ですよ。 もろに過渡期的内容ながら、メンバーの成長ぶりが伝わる1枚となっています。
3枚目のシングル“赤ずきんちゃん御用心”が起死回生の大ヒットとなった――これがコケれば大手を振ってHRバンドに戻れると期待していたメンバー的には複雑な思いがあったようですが――LAZYが、’78年に発表した2ndアルバム。 曲作りは全てレーベル・サイドが(主に歌謡曲界隈から)参集した外部ライター勢が担当、歯が浮くような甘い歌詞から、和製BAY CITY ROLLERSの線を狙ったという明朗快活なポップ・ロック・サウンドに至るまで、1st『THIS IS THE LAZY』(’77年)同様、お仕着せのアイドル路線は今回もガッチリと堅持。それでも前作の成功を受け、多少ながらもバンド側の発言権も増したのか、楽曲にしろパフォーマンスにしろ、その端々でLOUDNESSへと至るHR/HM路線の息吹が確認できる仕上がりとなっています。 特に高崎“スージー”晃のGプレイは単なるアイドル枠には収まりきらない「気」が漏れ出す場面が多々あり、疾走ナンバー④なんて切れ味鋭いGリフの刻みっぷりといい、井上“ポッキー”俊次のKeyを生かしたドラマティックな曲展開といい、「アイドル・グループにしては」どころか、この時点で早くも80年代HMスタイルの試し撃ちが如きカッコ良さを誇っていますし、泣きのGとストリングスが効いた劇的なバラード⑥も、後に影山“ミッシェル”ヒロノブがソロ・アルバムでセルフ・カバーしたのも納得の名曲ぶり。あと高崎が歌う③とか、爽やかに駆け抜ける⑨とか、かつては眉をしかめて聴いていたアイドル歌謡風味の楽曲も実は結構魅力的であることに気付かされたりも。 改めて聴き直したことで、グッと評価が高まった一作であります。