通算8作目。前々作、前作に続く「Marriage Trilogy」の最終章。 音楽的には、前2作からは少し変化が見られる。 (1) このアルバムは、とにかくリフ、リフ、リィィィィイイフ!と唸らずにはいられない強烈なギターリフ・アルバムである。 (2) キーボードは以前の個性的な音使いは減り、いかにもキーボードといった音色になり、印象的なフレーズを弾くよりは音の厚みを持たせる仕事が多い。 (3) 前作で3曲のみ参加していたフランク・ギルクリースト(ds)はこれまでのVIRGIN STEELEには見られなかった「いかにもヘヴィメタルな」ツーバス連打を多用、 楽曲の迫力を増強している。ただそれによって味気なくなってしまった曲/パートもある。 (4) デヴィッドの歌唱は4th~7thの頃の自然なロック・ヴォーカルのスタイルから変化し、シアトリカルな表現を優先し、 「Triumph of Steel」時のエリック・アダムス(MANOWAR)によく似た咆哮型の歌い方を導入、また、力を抜いて歌いた状態で歌うパートも多い。 結果として、彼らの持ち味であるロマンティックさ、艶やかさ、軽やかさは一部に限定され、全体としてはこれまでにないアグレッシヴな音像となった。 また、楽曲のサイズが伸び、6つの小曲を除くと4~5分台が3曲、6~8分台が6曲、10分超のものが1つで合計75分の大ボリューム作品である。 厳ついサウンドの75分間、またヴォーカルの新たな試みのため、個人的には取っ付きにくさを感じた、聴いていて息苦しい作品でもあった。 しかし楽曲の質は高いし、何より本作こそが、前々作&前作とそのツアーで下地を築いた彼らが欧州でブレイクさせたのであり(ドイツのチャートで47位)、名盤とするファンは多い。 歌詞コンセプトの面では本作は「Marriage~」の続編だが、音楽的には次作&次々作「アトレウス二部作」と通じる部分が多い。 小曲の多々使用、古典古代(ギリシャ/ローマ)を思わせるクラシカルなメロディの導入などである。 ただ「アトレウス」との違いは組曲形式を用いていないことで、あくまでもギターリフ由来のメタル・ソングの集合体である。 しかしだからこそ、どの曲も不必要に長尺になっているように思う。ドラマ性のある楽曲は別にして、躍動的なメタル曲までが6分超のアレンジになっているのには、冗長さを感じてしまう。 また、小曲や部分パート以外に本格的なバラード曲がないのは彼らにしては珍しい。 本作はストーリー・アルバムである。 前2作は「宗教的対立」や「天国と地獄の和解」などをテーマとしていたようだが、本作はそうしたテーマをもとに構築された応用編に思える。 物語の主人公はエンディアモンとエマレイスという男女(人間)。二人は、自分たちを危険視する神々につけ狙われ、700年もの間、何度も転生しながら戦い続けている。 自分たち人間は太古の別の神々の子孫であり、現在の神々は侵略者であるという。 これは、キリスト教などの外来宗教を敵視し、自分たちはヴァイキングの子孫であるとして土着の信仰(北欧神話など)への帰依を誓うペイガン・メタルの思考に近い(ちなみにペイガンとは、キリスト教から見ての異教徒のこと)。 だが、よくよく話を追ってみると、ペイガンというよりはグノーシス主義的である。 グノーシス主義とは、マニ教に代表される古代の思想/世界観であり、一つの特徴として精神と肉体を分ける二元論の発想がある。これはまさに「マリッジ三部作」のテーマだ。 グノーというのは英語でいえば「know」であり、一神教においては神や世界といったものが人間の理解を超えているものとするのに対し、グノーシス主義では、知識/認識による世界把握を可能とみなす。 例えば、人間が天災に襲われたとき、「これは神の試練である、ちっぽけな自分たちには分からないが、神には神なりの意図があるはず」と考えるのが一神教。 グノーシス主義では「この世には善の神と悪の神がいる(二元論)。 自分たちに非がないのに災いがあった、これはもたらした神は悪の神である」と考える。 つまりエンディアモンの戦いは、古い神々のための戦いというよりは、自分たちに危害を加える悪しきものへの討伐だったのだ。 ペイガンでない証拠は最後の曲の歌詞にも明確に表れる。 サビで歌われる「We lived by the sword!」というフレーズ。 もし本作がペイガンならば「We lived by our Gods」と歌うのが自然だろう。実際、デヴィッドは歌詞の中で、あるいはライナーノーツのリスナーへの挨拶の際によく「By the Gods」というフレーズを用いている。 しかし、自分たちの正義は自分たちの力で示す(by the sword)というのだ。 そして最後の曲の最後の歌詞、神々を倒した後に歌われる台詞はこうだ。 「I Crown Us・・・KINGS!(俺は俺たちに・・・王冠を授ける!)」王権神授の否定、神からの独立宣言である。 ライナーノーツでデヴィッドは言う。「人間が神の権力を奪い、手にして、果たして上手くやれるだろうか。それは神次第・・・つまり我々次第だ!」 凄まじき人間/人間性の肯定である。 ちなみにアルバム・タイトルの「INVICTUS」とは「不敗/不屈/征服されない」という意味。脆弱な人間が神と戦う際の武器は、不屈の意志あるのみ。 この、意志(spirit)というのもVIRGIN STEELEの歌詞の上でのキーワードだ。 また、前2作はロブ・ディマルティーノのBLACKMORE'S RAINBOWのオーディション参加の関係でベース不在でレコーディングされたが、本作では戻ってきている。 1.The Blood of Vengeance///2分弱のSE。馬のいななき、剣が肉に食い込み血が吹き出る音、自分たちには滅ぼされた神々の血、復讐の血が流れていると語る。 2.Invictus///MANOWARの「Black Wind, Fire, and Steel」のようなバキバキのリフで始まるスピードチューン。ヴァースでの唸るような歌、サビでの囁くような歌・・・本作でのヴォーカル面での変化が如実に見て取れる。サビのメロディがシンフォニックなのもこれまでとの違い。 3.Mind, Body, Spirit///強烈なリフソングで、ダンサブルとさえ思う。後半パートはバラードに転調、完全に別の曲になっているがこれはどうなのか。個人的にアルバム前半のハイライト。「Miiiiiiinnd!! Body! Spirit! All are one!」と叫ぶサビのカッコ良さがとんでもない。 4.In the Arms of the Death God///神の怒りを示す、厳かなムードを表す小インスト。 5.Through Blood and Fire///強烈なザクザク疾走リフを持つ曲。シングルカットされた。 サビやギターソロの裏でのツーバス連打、サビのシンフォニックなメロディ、このあたりが個人的には不満な部分だ。ちなみにギターソロのメロディは12曲目のサビのメロディと同じ。 6.Sword of the Gods///シンフォ調のメロディが支配的な7分超の大曲、ギターソロのメロディは次作の重要な鍵となる。古典古代的な雰囲気もたっぷり出てきた。 7.God of Our Sorrows///本作には珍しくピアノの音色が響く小バラード。メロディには「マリッジ」の調べが濃厚。 8.Vow of Honour///アカペラから始まる序曲。徹頭徹尾の裏声使用だが、デヴィッドの裏声が嫌いという人はこの曲を聴いて欲しい。芸術ですよ、これは! 9.Defiance///荒々しいギャロップ・リフが素晴らしい曲。ただ力の抜けた掠れ声で歌うのが大不満。6分半というアレンジにも疑問だ。 10.Dust from the Burning///これまたノリノリのリフ・ソング。こっちはコンパクトだ。 11.Amaranth///天界に咲く枯れない花、アマランス。その不滅性はエンディアモンとエマレイスの愛の比喩なのか、人間の意志の比喩なのか。22秒の小インスト。 12.A Whisper of Death///8分超の、後半のハイライト。ザクザクのリフ、ブリブリのベースが良い!前作の「プロメテウス」に通じる傑作。 13.Dominion Day///アグレッシブなリフにシンフォニックなサビという、本作を象徴する曲の一つ。この曲の裏声の使い方はイマイチ。 14.A Shadow of Fear///アタック感の強いリフとツーバス連打の、不穏な空気を持つ曲。ラストに近づくとメランコリーになって泣かせる。 15.Theme from the Marriage of Heaven and Hell///おなじみのメロディが登場、22秒の小曲。 16.Veni, Vidi, Veci///こちらが溜め息をもらしたくなるようなデヴィッドの美声から始まる10分の大作。VIRGIN STEELEが世にもたらした至高の名曲の一つ。 悲哀を秘めつつもアグレッシブに駆け抜け、途中からは勝利のメロディに彩られる。こんな曲を書く人間は天才としか言いようがない。 個人的には不満もあるが、代わりの利かない名曲がいくつもある好盤なのは事実。一聴されたし!