93年3月発表の5th。ポップ化した問題作とされる。 音楽性に介入してきたマネージメントを解雇した結果、法的な関係で長らくアルバムを発表出来なくなってしまった彼ら。 だが92年にテレビドラマのサントラに楽曲を制作、それに合わせて4曲分のPVを作り、翌年にアルバムを完成させた。 新たなスタートということもあって、ルーツに立ち戻った音楽性になったこと。ルーツとはデヴィッド・ディフェイの一番好きなバンド、LED ZEPPELINである。 結果、前作ゆずりのキャッチーなロックと、ZEP的なブルージーなHRをアメリカ流に料理した曲と、両者の中間のような曲が混在することとなった。 デヴィッドは「ブルーズ・エピック」「シンフォニック・ブルーズ」というような表現を使っている。 また、本作はよくWHITESNAKEと比較されるが、ZEP系リフmeetsキャッチーなメロディな「ブルーズ・エピック」系の曲は確かに「Still of the Night」の親戚のようにも思えるし、 メジャー感に満ちたポップ・ロック系のいくつかの曲もGeffen時代のWS的なところはある・・・が、雰囲気が近いだけで、似た/そっくりな/パクリな曲があるのではない。 ただ歌詞は露骨にZEP~デビカバな感じのエロいものもチラホラ(まぁブルーズというのはそういうものなのかも知れないが)。 個人的には、1曲目のブルーズメタル「Sex Rligion Machine」の陽気でリラックスした雰囲気が刺激を欠いてて、アルバムの印象の悪化に一役買っていそうで残念に思う。 同じく「ブルーズ・エピック」の曲ではカシミール系リフの荘厳な「I Dress in Black」は良いし「Crown of Thorns」の終盤の盛り上がりは格段に素晴らしい。 「Jet Black」「Love's Gone」も取り立てて秀でてはいないが、それなりの味わいがあると言えよう。 キャッチーサイドの曲だと、2曲目の「Love is Pain」がとんでもなく素晴らしい。これはLIONSHEARTの「Can't Believe」のような、1年に1曲あるかどうかクラスの名曲ではあるまいか。 他には「Never Believe in Good-bye」もそれに勝るとも劣らないロマンティシズム溢れる名曲だし、「Wild Fire Woman」は「Never~」の二番煎じ的だがやはり質が高い。 そしてレコード会社に要求されてリメイクした前作のバラード「Cry Forever」にポップ・ロックの「Too Hot to Handle」、 全編を裏声でやり切ったバラード「Last Rose of the Summer」はやり過ぎという声もあるが、とにかくどれも一定水準をクリアしてるのだ。 本作では小曲は3つ用意されてるが、その中で唯一歌入りの「Invitation」の圧倒的な美しさも特筆しておくべきだろう。 期待されていなかった音楽性ではあるし、曲順なども良くないかも知れない。音楽とマッチしてない上に地味なジャケットにも問題はあろう。 しかし名曲をいくつか内包した、優れたアルバムであるのは間違いない。 サウンドも素晴らしく、演奏にもキレがある。ヴォーカルのパフォーマンスも完璧である。 中古で安く見かけるので、キャッチーなメタル、美しいバラードが好きな人に是非聴いてもらいたい。 なお本作はデヴィッドは「パーソナルなアルバム」とした上で「非常に気に入ってる」と話している。 当初は作品を「時流に流されて売れ線に走った」などと認識していたが、ちょっと違うようだ。 いまでは名作とされる4作目に関してそれは当てはまる話で、本作が出た93年というのはグランジの潮流が渦巻いてた頃なのだ。 (しかし付け加えれば、デヴィッドはMOTHER LOVE BONEにALICE IN CHAINS、PEARL JAMとグランジが大好きで、地元のセッション・ライブではカヴァーもしているほど) 音楽性が変わったことについては、前作から4年以上も経ったこと、素直に自分のルーツを表現しようとした、ということらしい。 コマーシャルな部分は多いが、それは周りからのプレッシャーの結果でなく、本人にとってのチャレンジであり、やりきったという思いも強いのだろう。 もし単に時流に媚びただけなら、本作と間を置かずして制作された「マリッジ」がなぜああも正統派メタル・スタイルなのかも分らなくなってしまう。 ただ本人も本作がファンな間で不評なことは承知していて、イタリアと北欧ではまだ好かれているが、ギリシアとドイツでは憎まれていると語っている。
4th発表後もライブは続けていたらしいが、90年にはFOGHATのベーシストのクレイグ・マクレガー、そしてジャック・スターとSMOKE-STACK LIGHTNINGとブルーズバンドを組んだりしていた。 もしかしたらそこでバンドの歴史が途切れる可能性もあったのだろうか。 4thに関しては、ベースのジョーが病気ということでアルバムではデヴィッドがキーボード・ベースを使ったというのがOHP上のバイオグラフィーでの説明だが、 ジョーとドラムのジョーイはVSのLAメタル化に同調していて、またジョーは4thの曲をちゃんと練習してこなかったためにその音源が使われなかったという話がある。 そしてジョーは92年にバンドを去っている。後任は元DIOのテディ・クックを経て元RONDINNILIのロブ・ディマルティーノが加入。 この5thアルバムにはテディのプレイも使われている。ロブはSMOKE-STACK LIGHTNINGでクレイグの後任だったらしい。 92年5月、あるNYで銃撃事件が起こった。30半ばの既婚男性が17歳の少女と不倫関係にあり、その少女が男性の妻を襲ったのである(夫人は負傷するも生存)。 この事件は色々と世間を騒がせたようで、しかもこの男性は臆することなくメディアに露出して一躍有名人になったようである。 すぐさまこの事件を元にしたテレビドラマ(「Casualties of Love: The Long Island Lolita Story 」主演はアリッサ・ミラノ)が制作されることになり、VSが曲を提供することになった。 中でも「Snakeskin Voodoo man」のPVにはこの男性氏も出演していて大ハシャギしていたりして、流石にどうかと思う。 夫人は当然のように離婚したが、片方の聴覚を失ったらしいし、少女は刑務所に7年つながれたのだから。この男性氏は少女との交際ということで後に数か月の収監。 歌詞の内容はスケコマシについてで(笑)、音楽的にはマディ・ウォーターズに影響を受けたという、ムチャクチャ素晴らしいブルーズソングだ。 ちなみにこの曲はUSA盤のみのボーナストラックで入手困難(USA盤はジャケットも良い)。