イギリス、ノッティンガム生まれの作家、アラン・リシトーが1959年に発表した『The Lonliness Of A Long Distance Runner』(邦題・長距離走者の孤独)という短編集に収められている表題作が元。新潮文庫より。 この短編を読んでみましたが、メイデンの曲もだいたい小説の内容を尊重している様です。話はクロスカントリー競技会で優勝目前にしながらも走るのを止め、感化院長などの期待に見事に反抗を示した非行少年スミスの話です。 社会が築いたさまざまな規制への反発と、偽善的な権威者に対するアナーキーな憤りを、青春の生命の躍動感と照らし合わせて描き出した傑作です。 このような社会を風刺したような作風は作者自身の貧しい生い立ちが大いに影響していると僕は思います。彼の作品の中に出てくる主人公はその社会に対する憤りを、現在の階級からの脱却や既成の体制の破壊をもって晴らすのではなく、法律と道徳が創り上げた境界ギリギリの線を危うく歩き続け、最後には完全なる不道徳行為に全生命を掛けることで巨大な権威にぶつけています。 メイデンの曲の中ではその権力にプロテストするような歌詞は出てきませんが、少なからずこうして走ることへの疑問やその意味への問いかけを表現しているように思われます。 ただ、一人孤独に走る続けるランナーの強靭さ溢れる躍動感はメイデンも小説もとてもうまく表現出来ていると思います。 少なくとも『モルグ街の殺人事件』よりは原本に忠実だと思いました。