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詩羽のいる街
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詩羽のいる街
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解説 - 詩羽のいる街
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1. Usher-to-the-ETHER ★★★ (2014-06-29 00:07:33)

2008年に単行本として出された小説。2011年に文庫版も出てます。

お金や家を持たず、人との繋がりの中で暮らす女性、詩羽。人と人とを繋げる触媒としての才能を持ち、「人に親切にする事」を生業として生きる彼女の、日常や人々との触れ合いを描いた作品。ぶっちゃけあらすじだけ読むと、そこまで好奇心を掻き立てられるような感じはしないんですが…これ、滅茶苦茶面白かったです(笑)。

まず言いたいのが、これは「物凄く贅沢な小説」だという事。
作中に登場する作品が、それだけで単行本出せそうなくらい面白そうなんですよね。例えば、幽体離脱の能力を持つ少女が、あるきっかけで大気圏外に人々の叶わなかった想いの残滓が漂う場所を見つける「衛星高度の魅祐姫」や、ほぼ全能の力を手にした少女の顛末を描いた「戦場の魔法少女」は、筋書きだけ読んでもエンターテイメントとして非常に面白く、かつ教訓も含んだもの。

しかもこれらの作中作品は、作者や読者などのキャラクターの心情と絡めたり、物語における重要な伏線となったりしながら、その内容が語られるんですよね。特に「戦場の魔法少女」は、その壮絶なストーリーを思いついた発想力と、それを本編の展開と絡めてグイグイ引き込んでいく筆力に感嘆。最初は、こんな面白そうなストーリーを作中作品だけで終わらすのは勿体ない…と思ってたんですが、再読したら、これは最高の素材を最高の方法で調理したと言えるのでは…と思うようになってきました。

もうひとつ大きな魅力としては、キャラクターの会話などに筆者の主張や、思ったであろう事が滲み出ていて、エッセイ小説的な楽しみ方が出来る事ですね。第1話での編集者が漫画をスポイルする事についてや、商業出版のボッタクリ振りなどを始め、そこだけ読んでも興味深いと思えるような箇所もかなりあります。第3話の「『今まで通りの生き方を続ける事』が人生の目的になってしまっている人」という表現なんて、正に自分の事を言い当てられたようでドキリとしました。

個人的に地味に共感できたのは、第1話の主人公がパソコンの不具合を診るパートでの、喫茶店マスターとの会話。「不正な処理を行ったので強制終了されます」じゃないだろ、「申し訳ありませんが、このプログラムは不具合が生じたので終了させて頂きます」、だろ。…全くだ(笑)。エンタメ作品って、筆者の主張が過ぎると辟易してしまう事も多いですが、この作品はむしろ主張が強く出てる箇所の方が面白いと思ったり。「衛生高度」の魅祐姫と城主の会話とかはその典型ですね。あそこは共感というか、グッと来ました。

ただ、詩羽のキャラやその日常を描く、優れた導入部である第1話、自殺しようとしている少女を止めようと奮闘する第2話、悪意を街にバラ撒く人間との対決を描いた第3話に比べ、お祭りのオリエンテーリング中心の第4話が、いまいち盛り上がりに欠けるのは個人的には不満かも。まあ、第4部も今までの物語を踏まえた上での心情描写や、オリエンテーリングの謎解きがとある伏線になってたりといった仕掛けがあって、面白いといえば面白いですが。第3部までにはしっかり感じられた、エンタメとしてのスリルが若干足りないというか。

一本の小説に、ライトノベル数冊分のストーリーとエッセイをぶち込んで、尚且つハートフル(not onlyハートウォーミング)なエンターテイメントとして成立させた、盛り沢山で素晴らしい作品。これを読んで、これからこの人の新刊はなるべく出たらすぐ買おう…と思いました。確かに筆者の主張が強く感じられる分、説教臭いという意見も分かるんですけど、説教自体が面白くて聞き入ってしまう感じです。あと読後にポトフが食べたくなります(笑)。



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