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Angel of Retribution / JUDAS PRIEST
inoko ★★ (2005-02-27 20:46:00)
アルバムPAINKILLERのイメージは「鬼神」だった。
どの楽曲にも、明確な輪郭を備えた「主人公」がいるという印象だった。
妖怪火車のようなpainkiller、醜怪なモンスターのようなnightcrawler、
中性的な妖しさを湛える魔人がさまようa touch of evil、
快刀乱麻の騎士物語one shot at glory…。
凡てが、鬼神のおりなす物語だった。
それは、「現人神=絶対者」的な姿だった。
PAINKILLERがこうした明確な「すがたかたち」を持った作品になったのは、
JUDAS PRIESTがヘヴィ・メタルという音楽の創造に与った経緯の
帰結するところでもあったと思う。
70年代末期から80年代は、世界が高度消費社会の爛熟を迎えて、
世界中から「カオス」的なものが消滅していった時代だったと思う。
ヨーロッパの伝統的なハードロックは、
風前の灯火とはいえ実世界にリアルに存在していた「カオス」を
よりどころにしていた。JUDAS PRIESTは、その最右翼の一つだった。
しかし、社会はカオスを駆逐していった。
JPは、カオスの中に生息していた音楽世界が早晩リアリティを失うことを
察知したのだと思う。そこからKILLING MACHINE以降の試行錯誤が始まった。
JPは、「反世界」的なコスモスを創造し、その中に自らの音楽世界を
生息させようと試みたのだ。
つまり、箱庭的な疑似世界を演出し、その中で音楽を創造することに決めたのである。
明確な輪郭を持った楽曲へのシフトしかり。レザー&スタッドという記号しかり。
そして「メタル・ゴッド」という究極に求心的な偶像しかり。凡ては舞台装置なのだ。
この方法論は、ハードロックという音楽文化を、こうした記号や偶像を支持する人々の
内輪に囲い込んで強固にすることにつながった。これは、ロックの反社会性といった
生半可なレベルとはまるで異なる、異様な道である。
これがいわゆる「ヘヴィ・メタル」というジャンルの意味するところだと思う。
たしかに、JPが存在しなくても、ハードロックは徐々にこうした
「反世界的なコスモス」であるヘヴィ・メタルへと脱皮していったのかもしれないが、
伊藤政則さんがかつて言ったように、
JPの凄いところはこの流れを予知し、他に先駆けて意識的にこの道を邁進した
ことにある。
さて、PAINKILLERはこうしたヘヴィ・メタルの究極の姿だったと思う。
だから、徹底的に偶像的な作品だった。
ANGEL OF RETRIBUTIONはどうだろう?
実は、この作品は違う。音世界の佇まいは徹底的にカオスなのである。特に後半が。
確かにこの作品には、過去の作品に登場したキーワードが最も多く
散りばめられている。
偶像という点では、かつて以上に、運命の翼の天使を思い起こさせている。
しかし、楽曲の佇まいはその反対に、全く偶像的ではない。
むしろ、登場する偶像たちはその住処であるミクロコスモスの境界を押し破っている
かのようだ。アナーキーなのだ。メタルゴッドが統べている世界ではない。
「鬼神」ではない。すがたかたちは明瞭ではない。
この音世界を形容すると「魔境」といったところだろうか。
何かと議論の熱い、過去の近似した作品という論点に立てば、
僕はSTAIND CLASSを挙げたい。
ソリッドなサウンドに向かいながらも生理的に奇妙なメロディによって
最も「彼岸」の匂いがする作品であり、カオティックな雰囲気を持つ
「魔境」作品だと思うからだ。
思うに、STAIND CLASSで完成させた世界こそ、
70年代のカオティックなハードロックの最後の姿であり、
JPが「ヘヴィ・メタル」というミクロコスモスを創造してまで、
次の時代に生かしておきたかった音楽世界だったのではなかろうか。
ANGEL OF RETRIBUTIONでは、それが再び、メタルという境界を破って
解き放たれたのだと、僕には思えた。
単純にルーツのある部分に回帰したのではなくて、
彼らは、彼らが創造した舞台装置を外してしまった。
舞台装置なしでは生きながらえないと封印されていた音が脈動している。
それは過去に後戻りしているのではなく、2005年という現在が、
舞台装置なしでも充分に不穏なカオスに満ちているということを
JPが認識したからではないだろうか。
仮にそうだとして、この認識が時代に先駆けているとまでは言えないだろう。
彼らより若いヘヴィ・メタルグループの一部は既にカオスの中で表現している。
しかし、ANGEL OF RETRIBUTIONは凄いと思う。
月並みだが、オリジネーターにしか出せない威厳と、美しさと、完成度があると思う。
そして、彼らのキャリアの中でまたもや重要な意味を持つ作品が生み出されたと思う。
でも、でも、聴いた印象、やけに悲しい感じがする。
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