この曲を聴け! 

Elysion ~ 楽園幻想物語組曲 ~ / SOUND HORIZON
Usher-to-the-ETHER ★★★ (2006-08-16 08:53:00)
2005年発表のメジャー2ndとなるアルバム。

最初の印象は「何これ!?メタルじゃん!!」でした(笑)
1曲目のイントロがクラシカルなソロから始まったので…。勿論メタル的なアレンジだけでなく、ダンサブルなポップナンバーや民族音楽っぽい親しみやすいメロディの曲があったり、「幻想的」という共通点はあっても曲の振り幅は広いです。また、歌メロは起伏があって単調にはならず、アレンジもキーボードやヴァイオリン、ブラスなどをふんだんに用いた煌びやかなサウンドで聴き手の耳を楽しませてくれます。でも一番の特徴は、曲の至る所に挿入されているNHKのドラマを思わせるようなナレーションかも(笑)詞の3分の1くらいはナレーションに当てられているので、ちょっと好みが分かれそう。

ヴォーカルも柔らかな声質で幻想的な音楽に良く合ってますね。
他のレビューを読むと声量の無さが指摘されているようですが、私は力を抜いた発声をする事で幽玄さを醸し出しているんだと思います。中島みゆきさんや美空ひばりさんの歌う「Ark」を想像してみてください。こういう曲で声量を出すのは、なにか違うでしょ(笑)?

また、このグループはコンセプチュアルな世界観を得意としているようですが、このアルバムも一枚で一つの物語を形成しているようですね。奇数番号の曲が仮面の男(アビス)とその娘であるエル(エリス)のメインストーリー、偶数番号が娘の面影を求める仮面の男に見初められた狂気の少女達の物語となっているみたいです。この曲順のおかげで、まるで仮面の男の率いるパレードに次々と少女達が加わりながら、物語が進んでいくかのような感覚を覚えます。

物語の中には殺人はもとより、ネクロフィリアやインセストを思わせる描写もありかなり頽廃的。人によっては世界観が薄く感じる人もいるみたいですが、私はそんな事はないと思います。確かに月をルナ、星をステラと読んだりといった漫画のルビ的な表現、漫画チックなイラストがジャケに使われていたりと言った部分にチープさを感じる部分もありはしますが、コンセプト自体は良く出来てると思います。

例えばの話ですが、ジャケがウイリアム・ブレイクの版画絵のようなイラストで歌詞が全部英語で同じストーリーだとしたら、そういう人も批判しなくなるのではないでしょうか。結構見た目の世界観に惑わされてる人が多いんじゃないかと思います。ただまぁ、作中の登場人物が出来事を通してとはいえ、一足飛びに狂気に陥るのはちょっと…。私はどっちかというと狂気という「状態」よりも、そこに至るまでの精神的「過程」の方に惹かれるので。でもそこまで描いたら物語が成立しなくなっちゃうかな?

ともかく、こんなにシアトリカルという言葉が似合うグループって珍しいのではないでしょうか。曲を聴く以外でも登場人物の名前が何のアナロジーであるかなど、曲の考察をする事によっても楽しむ事が出来るので、聴き手と作り手の新しい関わりを提示した優れた作品であると思います。

→同意