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After / IHSAHN
Spleen ★★ (2010-03-07 00:04:00)
いつもならアルバムや曲のコメントが一番乗りだと「やった!」と思うところですが、今回に関しては「私ごときの新参ファンが最初でいいのか……?」とかなり躊躇しました。
結局コメントしたい欲の方が勝った訳ですが。
ともあれ、2010年発表のソロ3rd。
Emperorの功績からいって、イーサーンは「ブラックメタルの皇帝」と言っても差し支えない(むしろ『当然だ!!』という意見もありそうだ)と思いますが、本作を聴いていると、同時にブラックメタルという枠だけに収められない才能を感じます。
本作にはEmperorのようなシンフォニックさも、シンセのメロディックさもありません。
その代わり、ギターリフが美しいメロディを紡ぎ出しています。また、イーサーンのボーカルも朗唱ではないクリーンボイス&デスボイス(その点Opethっぽいように思えます)。
言うなれば、シンフォニック・サウンドによる重厚美でも、邪悪さを秘めた暗黒美でもない、洗練されたモノクロ美。ただ、あまりにも装飾を取り払って洗練されすぎた結果、色ばかりか生き物の姿すら消えてしまったようです(アートワーク参照)。
『AFTER』というタイトルとアートワークからして、人間が消滅した未来を描いたのかと思いましたが、その割には音が綺麗すぎるせいか「荒涼とした」という表現が似合わないように思えます。人間がいなくとも荒れ果てずに美しく存在する世界というのは、悪魔や幽霊とはまた違って怖いものです。
本作で最も目立っているのは、異色なようでいて曲の要になっているサックスの音。ノルウェーのプログレッシヴジャズバンドのメンバーが参加しているそうです。
ロック、メタル系のアルバムで聞こえるサックスの音と言うと、私の場合猥雑な空気や躍動感をもたらすというイメージがありましたが(現にそういう曲も聴きましたが)、ここでの音は今まで触れたことのない空気をもたらしました。
人気もなく寒々しい雰囲気だというのに、このサックスの音が響くと不思議と安らぎます。この音自体に生命力が宿っているからかもしれません。

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