この曲を聴け!
Killers / IRON MAIDEN
絶叫者ヨハネ ★★ (2005-10-31 22:28:00)
ほとんど神格化されている初期、しかもポール・ディアノ在籍時の最後のアルバムということもあって、世間的にはたいへんな名作との評価ですが、実際聞いてみると意外と平凡な印象。出来のよい「ごく普通のアグレッシヴなロック」という感じで、ぼんやり聴いているうちにあっさり終わってしまいます。はっきりいって……VirtualⅪよりはずっとよいものの……結構凡作ですよ、これは。
一聴して、曲の雰囲気がいつものMaidenと違うことに気がつきます。どことなく「世俗的」というか、昔のロックによくあるようなあまり「頭がよくなさそうな」感じが漂っています。そのせいでサウンドから3rd以降のような、「透徹した知性」を感じさせる音使いはもちろん、無愛想なまでの格調の高さと厳粛さが欠けています。Meidenのカリスマ性の源であり、彼らを唯一無二の存在へと押し上げていた、「音の響きによぎる神秘の影」のようなものが感じられないのが痛いところです。いまだ独自の世界観が形作られる以前の段階、というところでしょうか。(ついでに言えば、歌詞も浅くてつまらないものが多いです。やはり「知性」ではブルース>>ポールなのでしょうか。「カリスマ」なら反対になるかもしれませんが)。
楽曲のスタイルもまだ開発途上、未完成だと思います。ブルース加入後の楽曲の、ロックとは思えぬほどの構築性と比べると、ずいぶん粗く、ぎこちなく聞こえる箇所がいくつもあります(これぐらいが普通なのか)。この「若さゆえの拙さ」を、いかにもあの時代の新人バンドらしく、パンクの長所が素直に生かされていて良いと評価する向きもありますが、曲の完成度という点ではやはり数段落ちてしまいます。
例外的な数曲を除くと、どの曲にも展開に「足の生えたおたまじゃくし」のような不自然さがありますが、これは曲中の各パートの切れ目がはっきりしすぎているせいです。いかにもリフやフレーズを張り合わせて、最後に一曲にしてみました、というのがありありとわかります。しかも、各々のパーツがあちこちでズレたりはみ出したりしていて本来あるべき位置にないのに、力わざでムリヤリねじ込んだ跡さえあります。
加えて今作のウリである「衝動性にあふれたストリート感覚のサウンド」の方ですが……リリース当時はこれはこれでインパクトがあったかもしれませんが……、どう聴いてもMortorheadを始めとするその筋の大物に比べると迫力不足という感は否めません。
ちょうど上流育ちの根がお嬢さんな女の子が、例の思春期の嵐に吹き流されて、無茶してBガール風になってみました、みたいな「さまになっていない」感じがするのがいただけません。外見はそれらしく決めていても、ふと髪を撫でる動作がお嬢さんそのもので、すぐ出目がばれてしまうあの構図に似てます。アグレッシヴに走ろうとする勢いが、本来の構築美とあちこちで激突して止められたり、急ターンさせられたりしています。この段階では、まだパンク・ハードコア的な攻撃性をうまく消化できないでいるようです。
次作Number of The Beastを聴いた後でこれを聴くと、全体の構成力と展開のスムーズさのあまりの差に唖然とさせられますが、同時に「ディアノ時代こそMaidenの絶頂期!!」、「Maidenは最初の二枚で終わった!!」と叫ぶ人たちの気持ちがなんとなくわかります。Voはもちろんのこと、曲の組み立て方からして3rd以降とは別モノといっていいほど異なるのもありますが、なによりスタイリッシュに様式化される以前の、オリジナルの熱さと輝きみたいなものがあるのです。楽曲の完成度や音楽としての洗練度とは別の次元でのパワーというか、ロックミュージックが原初にもっていたであろう、「アグレッションとアーティスティックな閃きが溶け合ったような強烈な熱さ」のようなものがあるのは事実です。人によっては、これは作曲面での未熟さをカバーして余りある、と感じる方も多いのではないのでしょうか。
以上、純粋な楽曲の完成度という点では、残念ながらMeidenの全作品中最低クラスの作品といってよいでしょう。同じ初期でも、1st(こちらは評判通りの名作でした)に比べて、曲のクオリティが大きく落ちます。水準以上と呼べるのはライヴでおなじみWrathchild、勢いのあるMurder in Rue Morgue、 緊張感あふれるタイトル曲Killers、疾走&メロディアスなPurgatoryの4曲のみ。
しかし、これらはどうもMeidenというより、Meidenの前身バンドの未発表曲のような気がするのが不思議です。確かにありますが。実際、グルーヴ感重視の曲やストレートなノリのR&Rなど本作で見られる曲調の多くはほぼ今作かぎりで消滅し、それらの要素は以後楽曲の中の一要素としてのみ生き残りました。これは1stが初期特有の荒さを残しつつも、3rd以降のMeidenにずっと近い作風でその後の彼らの音楽性の基本となったのと対照的です。
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