この曲を聴け! 

Virtual XI / IRON MAIDEN
絶叫者ヨハネ ★★ (2006-01-04 22:50:00)
これはひどい。目も当てられません。Meidenのアルバムの中では、唯一売却済みです。リリース当時はMeiden大リスペクトの後輩ミュージシャン達からすら激しい非難を浴びたそうで、偉大なる鋼鉄の処女の恥部というべき惨めな作品です。私としても、この作品だけは擁護する気になれません。Killersが未発曲集的凡作、Dance of Deathがセンスに乏しい問題作とすると(どちらも「名作」との絶賛の声が多いのは承知してますが)、このVirtual Ⅺは正真正銘の駄作といってよいでしょう。

一般的には「歌っているのはブレイズのままだが前作よりかはずっとマシ」的評価ですが……。確かに表面的な楽曲スタイルの上では難解な部分があった前作よりもずっとなじみやすく、一聴しての印象はこちらの方がよいとは思います。Furturealのような最高のリフをもった名曲もありますし。しかし、ちょっと聞き込むとすぐボロが出てしまいます。

正直前作とは音楽としての魅力が違いすぎます。思えば前作X FactorはVoやプロダクションなど数え切れない弱点を抱えた穴ボコだらけの作品だったにもかかわらず、聴き手の心に確かに響くものをもっていました。楽曲の深みとイマジネイティヴなムードは過去最高といってもよく、彼らの世界観を好むファンならば「にもかかわらず、にもかかわらず、これは名作だっ、本当は素晴らしいアルバムなんだっ!!!!」と叫ばせるだけの魅力をもっていたのがX Factorというアルバムの不思議なところでした。

……しかし本作はどうでしょう。この凡庸さは何なのでしょう? 楽曲にしてもアレンジにしても、はたまたアルバムトータルでのイメージにしても、どこか中途半端で煮え切らない印象で、製作途中の作品を見切り発車的に無理矢理リリースすることになりました、というような感じがあります。ちょうど当時のMaidenの迷いとためらいが透けて見えるような作風です。当時バンドを取り巻いていた状況やメンバーの心境を考えると同情せずにはいられませんが、とりあえず一リスナーとしてそういう政治的事情に配慮するのはやめておきましょう。

録音状態は前作同様きわめて劣悪、まったく迫力のない薄っぺらい音像でこれにも大いに問題ありですが、結局本作最大の欠点は何といっても楽曲自体の魅力の乏しさに集約されます。ブレイズは何も悪くありません。彼は頑張りました。彼があらゆる面でMeidenに合わないシンガーであるのはどうしようもない事実ですが、それでも自分に出来ることはすべてやったと思います。しかし楽曲の方がどうにもいただけません。
ファンが期待する「従来どおりのMeidenらしさ」と「ブレイズのVoを上手く生かせるような楽曲」というどう考えても両立不可能なことを敢えてやろうとした結果、ひどく不自然で歯切れの悪い曲調になってしまっています。意図的に曲の方向性を宙吊りにしているというか、あえてどっちつかずで焦点のぼやけた、ブルース時代のMeidenとブレイズの間を行きつ戻りつしている感じを受けます。これに関してよく曲をブレイズ向きに仕上げてきた、という評論を目にしますが、私から見ればこれでは全然不十分です、こんな風に妥協するなら全くVoのことを考えないで今まで通りのMeidenらしさを貫いた方がまだ良かったと思います。

しかし本当のことをいえば、ハリス先生には敢然と勝負に出て欲しかったです。ブレイズにすべてを賭けるつもりで、今までのドラマティック路線を捨ててMan on the Edge や Futurealのようなシンプルな曲で攻めるべきでした。そうなっていれば従来のファンを失望させたとしても新しいファンを獲得できただろうし、なによりVo交代の意義を広く人々に納得させられたことでしょう。逆に今までの路線を守りたいなら、涙を飲んでブレイズを切り、楽曲の世界観を表現し切れるだけの力量をもったシンガーを加入させるべきでした。少なくともこういう中途半端なことだけは避けるべきだったと思います。

政治的にやむをえない事情がいろいろあったとは思いますが、そういった動揺や迷いがダイレクトに音楽の出来に反映されてしまっているのは実に痛いところです。これまでのアルバムと違って、今作からは自分たちの音楽に対する入れ込みとか、あるいは今度のMaidenはこれなんだ!!というような「確信」めいたものがあまり感じられません。そのせいで、個々の楽曲の世界観もアルバムトータルのイメージもどうにも曖昧になってしまっています。一言でいって、「顔の見えない」、全体のカラーがはっきりしない作品という印象です。
→同意