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アポロンの嘲笑 / 中山七里
Usher-to-the-ETHER(2014-09-05 00:44:06)
つい先日発売された新刊。
…彼の作品は新刊が出るたびに買ってるんですが、今まで、一度として面白くないと思った事は無かったんですよね…ですが今回初めて、「イマイチ」だと思ったかもしれません…。ハードカバー新刊で買ったんだし、ちょっとくらい批判してもいいですよね…。

まず今作、プロット自体が正直面白くないです。
原発作業員の同僚を刺殺し移送中に逃走、ある目的を持って原発を目指す邦彦と、それを追う刑事の仁科の二つの視点で物語が進行していく訳ですが…邦彦が原発に辿り着くまでの間に様々なトラブルに巻き込まれたり、人生を回想したりする展開が本編の8割を占める構成は正直どうなんでしょう…。読んでも読んでも原発を目指して移動してるだけで、ストーリーの停滞感が半端ないです。一応、刑事視点で事件の真相を追う部分もありはしますけど…。

今作は3.11直後の福島を題材にしているだけあって、原発作業員の苦境を描写したり、国や東京電力の対応の拙さを批判するような箇所もかなり多いんですが…エンターテイメント小説としては筆者の主張が、それも怒りを感じるような主張が前に出すぎてしまっていて、読んでて若干苦しい。安生正氏の「生存者ゼロ」を読んだ時にも思ったけど、政府の拙い対応振りを客観的に描くのは良いんですけど、地の文にそれに対する罵倒を書かれると、こっちとしては醒めるんですよね。

作者の主張を伝えたいがために書かれた、バリバリに社会派な小説ならまあ許されると思うんですけど、この作品は野犬や警官と格闘するアクションシーンがあったり、スケールの大きな真相があったりとエンタメな色も依然として濃くて、どうも食い合わせが悪い感じ。邦彦の悲惨な境遇を描いた回想パートの苦々しさもあり、正直読んでいて辛いものがありました。

と言っても、やはり一番の問題はストーリーの停滞感ですかね…。この人の作風なら、堤剛志やら公安部やらをもっと派手に動かして、ドラマティックにしてくれた方が良かったと思うんですけどね。彼の作品にしては珍しく、読者に驚きを与えるような「どんでん返し」もないですし。「エンターテイメントを書きたい」のか、「原発事故を批判したい」のかハッキリして欲しい。「エンターテイメントを通じて伝えたい」なら、その目論見は上手くいってないと思います。明らかにエンタメとしての質が他作より落ちてると思うので。

なんか色々口汚く書きましたけど、こういう事を書きたくなるくらい、彼の作品には期待してるんですよ…。そして今までその期待が裏切られたことは無かったんですよね。なので今作には結構がっかり。彼は東野圭吾さんに匹敵する作家になりうると思いますけど、東野さんの「天空の蜂」と比べると、エンタメ性と批評性を両立させる力はまだ及んでいないと言わざるを得ないかと。

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