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Jump the Gun / PRETTY MAIDS
正直者 ★★★ (2019-05-31 18:52:44)
このアルバムは多くの人から批判されてきました。ソングライティングとプロダクションの弱さを言及したり、以前のアルバムよりも商業的なアプローチをとっているのが気に入らないといった、通り一辺倒の意見。キーボードが多すぎるとか、ロジャー・グローバーのオーバープロデュースなんかも多かったなぁ。ようは歌謡曲が好きなのかロックが好きなのか?和の音楽が身体にしみ込んでいるのか、本当の意味でロックを体感しているのかを問うようなアルバム。

オープニングの“ Lethal Heroes”は、彼らがこれまでに書いた中で傑作の1つ、ゾクゾクとさせるリフと艶のあるヴォーカルが乗った素晴らしく壮大なメタルソングで堂々としたスタートを切る。その流れを壊さぬようにハードロッキンな「Don't Settle for Less」と「Rock the House」と続きワクワクとさせられます。ロジャーの持ち込んだディープパープルのような威厳。そしてストレートなロックサウンドと深淵なるメタルサウンドへと侵攻、そのどちらも感じさせる頭3曲の流れに、このバンドが新たなるフィールドへ進んだと確信しました。

素晴らしいムードを持ったメロウなバラード「Savage Heart」それから、強力なフックを持つ「Young Blood」とメロディアスな「Headlines」、甘い北欧風だがメタリックなアレンジも効果的に持ち込まれ完成度の高さに唸らされます。タイトルトラックの弱さはいかんともしがたいが、「Partners In Crime」は素晴らしいハーモニーとコーラスで横腹をキック。脇見して落胆してんじゃないぞとカツを入れてきました。アルバムのリスタートと言える名曲の登場に安堵。パワーメタル時代を彷彿とさせる「Attention」は想像力の高い曲が続いただけに単調に聞こえるが、ストレートな曲の登場は悪いアイデアではない。


PRETTY MAIDSはこのアルバム「Jump The Gun」を制作したことによりバンドの新たなるレガシーを刻みに行きました。それはなんら非難されるものではないし、ロジャーのオーバープロデュース論は少し本質的な部分とはそれていますが、冒頭でも触れたように和が好きなのか洋の音楽に親しんでいるかが問われている。又、分かりやすいスピード論など論外。伊藤政則のライナーなど議論の余地もない。

彼らは新しいバンドに変貌したのだが、日本ではソコソコ売れたが、海外での評価は散々なものとなった。やはりパワーメタルバンドと認知されていたのに、いきなりディープパープル風は受け入れてもらえなかったのだろう。
制作時から方向性の問題も抱えメンバーチェンジが勃発。バンドは瀕死の重傷を負う。それだけ生死を掛けた大手術を行った。作風としては大正解だが、世間が付いてこれなかった典型的な例であろう。あちこちでメロディが弱いと聞くが、それが日本の歌謡曲的な耳なのか洋のロック好きなのかを単純に問う内容なので言及はしない。

いずれにしろ今回の失敗以降、彼らは単なるありきたりのロックバンドになった。なんの冒険もしない、リスクを冒さない商業バンドになり下がったのは皮肉なものだ。商業的な成功を追い求めた今作は、新しい試みが沢山あり、彼らが北欧のバンドなんだと強く認識させるメロディセンスを感じさせた。それだけに重ね重ね残念だ。

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