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On Through the Night / DEF LEPPARD
失恋船長 ★★★ (2021-06-20 18:17:00)
全米で大成功を収めたバンドの1stは実にオーセンティックな英国スタイルを基礎としたバンドサウンドで勝負。オープニングから英国的な煮え切らないメロディとリフワークが耳を捉えるも、②ではハローアメリカときたもんであれっとなるが、③以降は英国スタイルに戻り攻撃性と叙情性を巧みに操っている。
とは言えシングルとして先に世に出しているのは②なので、このバンドが目指しているのはアメリカの成功だったんだろうと推察は出来る。
イギリスなんて小さい国から抜け出しアメリカで成功してやると言う野心めいたものを、成功後に聴けば感じる事が出来るかも知れないが、この時点で彼等がヒステリアを作るとは夢にも思えないだろう。

デビュー期がNWOBHMと重なるためにムーブメントの重要なピースとして語られる機会もあるが、彼等の音楽性をNWOBHMと解釈できるのは今作くらいだろう。2作目からプロデュースも含め、随分とアメリカを意識した作りになった。しかし、このバンドの成功は、他のバンドにも多大なる影響をもたらし、音楽性が変遷したバンドもいたのは間違いない。
そういう意味でも彼等はNWOBHMの星だったろうが、音楽性だけで括るなら今作以降は、別のスタイルとして論じられるバンドであろう。個人的にはNWOBHM出身と言う概念で接することはない。大人の力で音楽性を変えたのではなく、自らアメリカ進出を目指していたからに他ならない。

個人的に、愛聴する機会が一番多いのは今作と言うのも影響している。この英国的な陰りを含んだマイナー臭と、ポップセンスの妙、歌い手の甘さと軽めの声質も上手く機能、危険でグラマラスな空気も感じさせ妖しげで火薬の匂いがするロックサウンドを築き上げている。特に⑤みたいな曲は、初期ならではの味わいとも言える。

今作には、ラフなパワーが内包されている。その満ち足りたエネルギーはNWOBHMムーブメントと化学反応を起こしバンドをステージへと昇らせた。そこから、洗練された方向に舵を取り、見事に地下インディーズミュージシャンから脱却したのだが、今作で聴ける未熟で粗削りな面が、とてつもなく魅力的に感じる。
このリフもリズムもメロディも英国ロックならではと感じさせる場面も多いだけに余計にそう思う。個人的には捨て曲なしの名盤ですよ。

デフレパードなんてヒット曲満載のモンスターバンドという認識を持っている若い人も多いだろうが、デビュー期の彼等はメタルを愛する者の耳を刺激しますよ。洗練されたメジャー作品に慣れ親しんだ人には田舎臭い音に聴こえるでしょうが、マニアならば活況するシーンの合間を力ずくで抜け出してきたバンドであることを確認できるはずです。

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