この曲を聴け! 

A Night at the Opera / BLIND GUARDIAN
絶叫者ヨハネ ★★ (2006-03-11 20:54:00)
正直聴きにくいアルバムです。私自身も馴染むまでにずいぶん時間がかかりました。

本当に今の自分たちがやりたい音楽をやりたいようにやってみた、という感じです。これを前作Nightfall〰がヨーロッパで売れまくったのをいいことに、リスナー置き去りで(しかもお金と時間をたっぷり使って)好き放題やらかした自己満足的な作品ととらえるか、もしくは理想の音楽を正面きって追求していて素晴らしい、これこそアーティストだと受け取るかで評価が分かれてきそう。

楽曲の形式に関していえば、ついにストレートな2バス連打の疾走曲は完全消失、ここにきて初期のスタイルとは完全に縁を切ったようです。さらに前作同様、楽曲に対してのアプローチがHM的なものから確実に離れてきています。例えば、ラストの超大曲And There Was Silence はまさにその典型。
例えば同じ大曲で、タイム的にもほぼ同じくらいのIron Maiden のRime of Ancient Marinerなどと比べるとその違いは歴然とします。Iron Maidenの曲が長いインストパートやSE的パートを挟みつつも、あくまでリフの繰り返しが中心で、いわば通常のHMの曲構造をそのまま拡張したものだったのに対し、And There Was Silenceの構成法はすでにHMという枠の外に出ていると思います。私の耳にはこれはマイク・オールドフィールドの長尺曲に通じるミニマル&シンフォニックな基本構造を軸として、そこにクラシックの合唱曲風のメロディ展開を導入したように聞こえます。
実際、HM的様式感の耳で聞くと、これは展開の複雑さに反して、非常に単調に聞こえると思います。合唱隊が始終歌い続け、インストパートと歌パートのバランスが極端に偏っているうえ、音圧の強弱とテンポの緩急の差が少ない(いわゆる「静」と「動」の対比が弱い)からです。HM的な、「テンポや音の密度、もしくは音色の変化によるドラマ性の表現」に慣れている人には、一体これのどこがドラマティックなのか、始終クライマックスの連続で起伏に乏しいだけじゃないか、と感じられる方も多いのではないでしょうか?
実際のところ、この曲の「ドラマ」は主に、歌詞と伴って、コーラス部が歌いあげる「メロディ自体の起伏と展開」によって表現されているのですが、これはHMではあまり馴染みのない手法です(そもそもリフ主体で歌メロの間に間奏が入るような音楽では、展開をつけられほどメロディが連続しないのでこういう手法を使うのが難しい)。曲の中でのメロディのヴァリエーション(=物語の起承転結)が異常に多いのも、こう考えるとわかりやすいと思います(もちろんですが、これは私の解釈ですよ)。とりあえず、長年に渡ってHMに慣れ親しんだリスナーにとって、これはかなり「挑戦的」なアプローチであることは確かかと。

他の曲にしても、程度の差こそあれ、どれもいわゆる典型的なHMの型にはまっていません。パーカッションの音色がトライバルなイメージをかもしだすBattle Field(私の耳にはなぜかインディアンの勇士のテーマに聞こえます。)、ファンキーな感触すらある、Sadly Sings Destiny、とくに狂おしい激情が炸裂するPunishment Devine(実は超名曲)での音使いは、デジタル・サイケというか、テクノ/トランス的なニュアンスすらうかがえます(もっとも、これはかのQueensrycheの名曲、Screaming in Digitalの彼ら流の解釈といってもよいでしょう。)。

いずれにしても、こういう発想で楽曲に望むこと自体、ミュージシャンとしての彼らの立ち位置がどこにあるかがうかがえます。まあ、純粋な音楽的力量からいえば、このバンドはもはや駄作はおろか駄曲を作ることすら不可能なほどの境地に達してますので、後はリスナー側の問題なのではないでしょうか。今のバンドの方向性についていけるかどうかということに尽きます。

結局現在の、いやImagination〰あたりからしてすでに、彼らの音楽性は(DT系とは違ったタイプの)「プログレ・メタル」になっており、いわゆるジャーマンメタルーメロスピ系の魅力である「疾走&泣きメロ」や「わかりやすさ」を求める向きには、かなりつらい所のある音楽に変化しています。しかし、最初に「Helloweenフォロワー」という触れ込みで日本に紹介されたのが災いしたのか(彼らが実際にHelloween的な音を出したことは一度もなかったのですが)、メディアなどでもそういう部分があまり伝わっておらず、それが最近の彼らの作品に対する誤解と混乱の元になっていると思います(海外のサイト等をみると最近の作品はProgressive Power Metalと表記されていることが多く、こちらの方がより誤解の恐れが少ないと思います。)。しかし、すでに実際の音楽性からかけ離れているジャンル分けを無批判に踏襲して、かえって余計な誤解を与えるというのは、どうしたことでしょう。今作はもちろん、とりわけNightfall〰は、「ドラマティックなプログレ・メタル」と割り切って聴けば、すばらしい作品なのですが。

まあ良かれ悪しかれ、Somewhere〰までに比べると確実に聴き手に求めるものが大きくなっているのは確かなので、そこらへんをどう評価するによって今作の良否が分かれるのかもしれません。
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