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De Mysteriis Dom Sathanas / MAYHEM
Bullet Beast ★★ (2008-02-19 16:50:00)
私がMAYHEMと—このアルバムと出会ったのは、私がEMPERORやDISSECTION、NAGLFARと言った、どちらかというとメロディ寄りのブラックメタルを「これこそがブラックメタルである」と完璧に盲信してしまっていた頃である。
その頃は既にマウスのクリック一つでどんな情報も見つかる時代になっていて、もちろん私も例外無く新たなエクストリーム・メタルを探し求めてネットの海をさまよっていた。
そんな中で「MAYHEM」の名を、「De Mysteriis Dom Sathanas」の名を目にするのも自明の理、あっという間だった。
何時でも何処でも、ブラックメタルを愛する誰もが曰く。
「世紀の神盤」
「避けて通れぬ、誰もが通る道」
「これを聴かずにブラックメタルを語っても鼻で笑われる」
「ブラックメタルの歴史における最も重要なバンドの最も重要な一枚」
と口を揃えて言うものだから、右へ並へが心の底から嫌いな私も「これは聴かねば」と思うようになった。

果たして、結果は惨敗であった。

ブラックメタルといえば、中~後期EMPERORのような洗練されたアグレッション、DISSECTIONのような身も心も凍えるような寒々しいメロディ、と信じ切っていた私には、このアルバムが放つ、普通のアルバムでは絶対に出せない、否、出そうと思って出せるような類いのモノでは決して無い、ドス黒い霧のような障気に耳を、頭を覆われる感覚は耐え難かった。
サウンド云々はまた別に、MAYHEMに関するよろしくない話題ももちろん知っていた。皆がこのアルバムを讃え、賛美するのはその話題性からだろうと思っていた。話題性のみでこのアルバムを「何となく手にして」「何となく聴いて」「何となく好きになった」方も、恐らくこの中にいるだろう。
だがそんな話題性を抜きにしても、あのアルバムからどろりと滲み出るような狂気と冷気は尋常ではない。聴き続けていれば、私の身体や精神に間違い無く何らかの障害が現れたに違いない。
MAYHEMとの初の邂逅以降、私はこのアルバムを殆ど聴くことなく、ただの資料として記憶と押し入れの奥底に封印し、ブラックメタルには殆ど手を出さず、デスメタルにより深く傾倒するようになってしまった。

数年後(この書き込みから2ヶ月ほど前です)部屋の整理をしていました。CDラックを片付けていると、漆黒の闇にぼんやりと写る、腐食した死人のような蒼白い色に、火葬された死者の炭になった骨の黒色を混ぜたような色の洋館が描かれた、見様によっては簡素にさえ見えるジャケットのCDを見つけました。
途端に、数年前のあの忌まわしい感覚と記憶がざわめくように蘇りました。
しかし私はあろうことか、そのCDをつかみとるや、コンポにブチ込んで再生ボタンを押しました。
数年の時を経て、多種多様なバンド(ただしエクストリームなメタルバンドに限る)を聴いてきた今の私ならMAYHEMの魅力を十二分に理解出来る。ブラック・メタルの最高峰をこの耳でしかと受け止めてやろうじゃないか。
それは、そう慢心していた私の、二度めの惨敗の瞬間でした。
結局のところ、良質なサウンドやメロディ、目を見張るようなテクニックとスピード、それらの要素によって形作られたアグレッションなど、表面的な所にしか見えないわかりやすいクォリティをメタルに求めている私のような人間には、このアルバムはおろか、このアルバムが位置づけられているジャンルは一生理解できないのでしょう。
なんとも寂しい限りですが、仕方ないとしか言えません。

まぁ、何が言いたくてどうでもいい昔話を長々書いたのかと言うと。
ブラックメタルを聴こうと思っている、もしくは聴き始めた皆さん。
「基本」「名盤」の言葉に騙されるな。
初心者は決して触れるべからず。
MAYHEM及びこの「De Mysteriis Dom Sathanas」及びこのジャンルは「ブラックメタルとは何か」をキチンとわかっている人でないと理解できません(こういったブラックメタルが最初から体質に合っているは別。聴いてみないとわかりませんが…)。

悟った者のみが覗き見ることができる暗黒の深淵。
あたなは、辿り着くことが出来るか。
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