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Hear Nothing See Nothing Say Nothing / DISCHARGE
絶叫者ヨハネ ★★ (2006-03-02 00:18:00)
真摯で果敢なロックを求める人すべてに奉げられた不滅のマスターピース。
リリース以来、全世界のパンクスに絶大なインパクトを及ぼし、今日に至るまで「Dischargeの使徒」(フォロワーのこと)を名乗る者たちの列が絶えることのない偉大なバンドの唯一無二の代表作。

ヘヴィなリフのくりかえしとシンプルな高速ビート(通称Dビート)でひたすら突っ走る単調なスタイル。
腕自慢の一流HMバンドに比べれば演奏技術は下手、Cryptopsy等の前では、はっきりいって「無」。

しかし、そんなものはまったく無意味。そういう見地からしかこの音楽に接することができないなら、そういう輩はすでに「愚者」の域を通りこして「不幸」な人間だと思ってよいでしょう(極論)。
自分はメタルでハードコアは……、という分離主義の輩はさらに論外、厳しく指弾しましょう(これも極論)。
そもそも全世界の国と地域の若者に、「こういう音楽のために一生賭けても構わない」と言わせ、果てしなき求道の旅に赴かせるような音楽の力が、HMだのHCだのという「M」と「C」の一文字の差だけで消え失せるわけがないでしょう。

それほどこのアルバムでの彼らの音は、重く、激しく、怒りに震えて、抜き差しならぬ切実さに満ちています。反戦・反核という表層的なメッセージに止まらず、終わりのない搾取と争いを産む社会システムを作り上げた人類という存在そのものを激しく糾弾しているようです。おそらくこの世で最も真実に近い音の一つ。例えばQueensrycheのOperation Mindcrimeに代表されるような「作品としてのリアリティ」というのとはまったく違う次元の真実味です。人知を絶した技巧を誇るいかなデスメタルバンドといえども、未だ唯一つとして到達しえなかった領域の世界が広がっています。
音楽的には決して高レベルとはいえなくとも、アートとしては間違いなく超一流。音楽のもつパワーと求心力が圧倒的なのです。だから歌詞(もちろん英語)がまるでわからなくとも、サウンド自体が言葉以上の雄弁さで、彼らが果たして何ものであり、何を伝えんとしているか語っています。
彼らの音楽を聴いた後では、宣伝文句に「リアル」を掲げてはばからない、死すべき商業パンクはもちろんのこと、音の上では彼らよりはるかに過激で騒々しいエクストリームバンドですら、どこかしら「嘘臭く」、「フリをしている」ように聞こえてしまいます。

まさしく怒りの権化というか、音で描かれた不動明王のようなサウンドですが、ここに現れる怒りは「憎悪」よりは、かえって「義憤」に近いということを聞き逃してはいけません。攻撃的で激しくありながら、内面的な歪みや暴力性をほとんど感じさせないのが特徴で、まるで音をたてず煙を立てずに静かに燃える炎のような透明さがあります。彼らの音にはグランジ・オルタナティヴ世代以降のアーティストのようなひどく屈折した部分とか内向的な憎悪感情(ようするに「恨み」)がありません。

どうにもならない現実に対する自らの感情を、斜に構えることなく、正直に吐き出して続けていく様はある意味「すがすがしい」とも言えます。ここらへんの「握りしめた拳が示す、人としての真っ当さ」は初期のU2にも通じます。こういった点で、いかにもパンクで悪者のような外見とは裏腹に、彼らは極めて正統的なロッカーといえるでしょう(このあたりの過剰な真面目さは、どこかシニカルでファッション&商業戦略ありきのピストルズなどとは大違い。両者ならべてみると、パンク/ハードコアの両極性とダイナミズムが引き立って面白いです。)。

なにはなくとも若い頃(とくに十代)に絶対に聴いておくべきバンド。世俗にまみれて無感覚になってからでは遅すぎます。今これをご覧になっている幸運な(?)若人(年は食っていても心は若人の方もOK)のみなさん、すぐさまお店に走りこれを買ってきましょう。心の中に少しなりとも真面目な部分を持っている人なら、たとえスタイルは気に入らなくても、伝わるものが必ずあるはずです。……まあ、これを聴いて気に入ると、そのままハードコアに入っちゃいそうだけど。
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