1999年11月発表の通産9枚目。マリッジ3部作に続く「アトレウス2部作」の第1弾。 ストーリーもののコンセプト・アルバムで、マリッジ3部作とは違い、小曲やインストが散りばめられた全22曲という構成。 そのための取っ付きにくさは確かにある。日本盤が出ず、物語の概観をザッとつかめない辛さもある。 歌のスタイルは前作に続いて表現優先で、裏声や威嚇シャウトを多用している。 ただ前作はストレートな楽曲も多かったのに対し、本作はドラマ重視なムードなので、その歌のスタイルは前作よりはハマっているのではないか。 1曲目サビの力を抜いた歌唱などには不満もあるが、アルバム全体を見ればB!誌レビューでの「腑抜けヴォーカル」という酷評は不適当と思う。 事実、本作は前作に引き続いて欧州での彼らのステータスを高めたアルバムなのだ。 楽曲のスタイルとしては、黒いジャケットのイメージそのままのダークな雰囲気に満ちている。 スピード曲は少ない。アップテンポの曲もあるのだが、厳めしい曲調のために重々しく聴こえる。 理由はリフだろう。前作はアグレッシヴながらもノリの良い、いくらかシンプルなギターリフが多かった。 一方、本作のリフはやたら緻密で、ガリガリと唸りをあげている。 ストーリーを理解したうえで対峙するなら、本作には無駄な楽曲は一つもない。どの曲もクオリティは高い。 しかし、小曲やインストが連続するパートもあるし、最初のうちはフルで聴くには忍耐もいるであろう。 ちなみに全22曲中、7曲が1~2分程度のインスト、4曲が2分程度の歌入り小曲。 そしてアルバム2曲目がセリフと歌が交互に出てくる変則的な曲というのもクセモノだ。 であるので、新たに本作を買おうという人や、好きになれなくて長いこと放ったらかしにしていた人のためにオススメの曲を列挙してみたい。 歌入りの「普通タイプ」の曲は、1、3、7、8、10、12、15、18、19、20、21なので、この11曲をプログラム再生して聴くのを勧める。 1曲目「Kingdom of the Fearless」は劇的な構成の、長めのスピード曲。 3曲目「Through the Ring of Fire」は吐き捨てシャウト系のサビがカッコ良い。 7曲目「Return of the King」8曲目「Flames of the Black Star」はミドル~アップテンポの、ダークな雰囲気のリフ・ソングだ。 10曲目「And Hecate Smiled」は短めの曲で後半はインスト。12曲目「Child of Desolation」はギターソロの素晴らしいバラード。 15曲目「Great Sword of Flame」は強烈な爽快感のあるスピード曲。 18曲目「Fire God」は元々は80年代にカナダのスピード/スラッシュ・バンドPILEDRIVERに提供したアグレッシヴな曲。 19~21曲目「Garden of Lamentation」「Agony and Shame」「Gate of King」はメドレー的な流れの、本作のクライマックスだ。 取っつきにくさはあるが、良い曲があるのは事実。ライブの定番曲も多い。 本作は、ドイツの演劇監督から「歌劇用の脚本と曲を書かないか」と請われたのがキッカケだった。 そしてこの「アトレウス2部作」は実際に舞台化されてドイツで何度も上演されている(マリッジ3部作もその後に舞台化。タイトルは「反逆者」)。 ちなみに元々デヴィッド・ディフェイズは演劇一家に生まれ育っている。