高齢のベテランや、若くして破天荒なライフスタイルを送ってそうなミュージシャンだと、訃報に触れてもある程度は粛々と受け止められるものですが、アンドレ・マトス死去とは…。全く予想だにしなかった方向からブン殴られたような衝撃ですよ。 本作は彼が'12年にソロ名義で発表した3枚目のアルバムで、初めてサシャ・ピート以外のプロデューサーと組んで制作されているせいか、全体的にメロパワ・メタル色もラテン色も控えめ。よりモダンでプログレッシブなアプローチが目立っており、OPナンバーにしちゃ覇気に欠ける①や、本編を色濃く覆う内省的なムード、テンションを抑え気味に淡々と歌うマトスのVoもそうした印象に拍車を掛けています。無論②⑩のような疾走ナンバーも健在ですが、若干「置きに来てる」感がなくもないそれらよりは、憂いに満ちた③、ムーディなバラード④といった、マトスの哀愁声が映える、一聴地味だけど聴くほどに味わいを増す楽曲の方に心惹かれる次第。中でも、緩から急まで多彩な展開を織り込んだ⑧は名曲ですよ。 ちなみに日本盤はVIPER時代の代表曲“AT LEAST A CHANCE”、QUEENSRYCHEの“I DON’T BELIEVE IN LOVE”、演歌の名曲“氷雨”等のカヴァー曲を集めたボーナス・ディスクが付属する2枚組仕様。確か当時“氷雨”聴きたさに本作を購入したんだっけなと。マトスの微笑ましい日本語による歌唱は評価の分かれ目なれど、個人的には哀愁を孕んだ曲調をドラマティックに蘇らせた好カヴァーとして楽しませて頂きました。 マトスの豊かな才能が発揮された1枚であると共に、てめぇがやりたい音楽と、外から期待される音楽との齟齬についての彼の葛藤が刻まれている(ような気がする)作品でもあるという。