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NIRVANA
クーカイ ★★ (2002-11-17 00:47:00)
ベスト盤発売に寄せて~グランジロックを回顧する~
NIRVANAのベスト盤が発売された。未発表曲が入っているらしいが、今のところ買うつもりはない。しかし、バンドが消えてからもうしばらく経つのに、ここでベスト盤が発売されるというのは、このバンドの"商品価値"というのがまだまだ認められている証であろう。当然ながらレコード会社がどう認識していようが、このバンドがROCK史において重要な位置を占めていることについては疑いない事実である。それはこの先何年経とうが変わらないと思う。
このベスト盤と時期を同じくして、FOO FIGHTERSの4thが発売された。バンドのメンバーも固まり、演奏はタイト。"FOO節"にも磨きがかかり、かなりの力作である。だが、おそらくNIRVANAのベスト盤の方が売れるのではないだろうか。そんな気がする。
バンドの歴史はとうの昔に終止符をうち、かつてのメンバーが作ったバンドもはや4作目を発表している。かような状況下でベスト盤が発売されることを機に、ここで一度グランジロックとはいかなるものだったかについて、雑駁ながらまとめておきたい。
1.いわゆる「グランジ・オルタナ」について
最初に前提として触れておかなければならない点がある。それは'80年代末から'90年代初頭においてHR/HMリスナーの多くが、ムーヴメントとしてのグランジロックをオルタナティヴロックと混同していたという点である。それが顕著に現れているのが「グランジ・オルタナ」という表記である。
しかし、グランジロックとオルタナティヴロックは、両者が成立する際の基本理念や表現手法において、水と油ほど異なっていることに注意を向ける必要がある。
アメリカで流行の兆しが見え始めたのは、オルタナティヴロックの方がやや早く、FAITH NO MOREのブレイクが例として挙げられよう。一方グランジロックは、一般的にはNIRVANAのブレイクにより脚光を浴びるようになったと措提すると、オルタナティヴロックブームから2~3年遅れているといえる。
2.オルタナティヴロックについて
では、オルタナティヴロックはどのようなところを目指して成立したのであろうか。これは極簡単にまとめると、ラップとHRとの融合である。
なにか新しいものを作ろうとする時には、既存のものを混ぜ合わせるのが最も手っ取り早いというのは勿論あるだろうが、実のところは、アーティスト自身が影響を受けたジャンルがボーダレスになっただけの話である。ラップも聴くし、サバスも好きだ。なら、美味しいところは総取りにしようぜ。という具合であろう。
このような意味合いにおいてオルタナティヴロックは、"作り手側の満足の為なら手段を選ばない"という雑食性を獲得した。"何でもあり、で、ROCKの本来持っている機能性についての議論は二の次"というのがオルタナティヴロックだと理解できる。
3.グランジロックについて
一方グランジロックの方は、作り手側の満足はともかく、"ROCKの持つ初期衝動の表現"が重視される。"気持ちよいところ総取り"なのではなく、ROCKの持っていた機能性が何であったのかにとことん拘り、もう一度ROCK本来の姿を取り戻そうしていると理解できる。故に、インディーズレーベルでの活動に拘り、極力楽曲におけるキャッチーさ、ポップさが排されたのである。
すなわち、「ROCKはアンダーグラウンドなものだったろ?」という基本理念がそこには見られ、オルタナティヴロックと比較して、その成立の背景にはストイックでシリアスなものが存在していると考えられる。
ただし、シリアスなものが偉いかというとそうではなく、故に、オルタナティヴロックとグランジロックのどちらが優れているのか?という議論は無意味である。どちらも優れたバンドを輩出し、一方で屑バンドも生み出している。
4.グランジロックにおけるNIRVANAの位置付け
ここまでで、グランジロックというのがROCKの本来の姿を取り戻そうとする意識に基づくものであったことを明らかにした。では、NIRVANAというバンドはどのように位置付けられるのだろうか。
NIRVANAの音楽の持つ大きな特徴を以下に列記する。
①ノイジーなサウンド
②強弱法の使用
③ポップかつキャッチーな楽曲(ただし『NEVERMIND』に限定)
④陰鬱な詩世界
①については、その影響は先輩格にあたるSONIC YOUTHに求めることが出来る。SONIC YOUTHは'80年代初頭から活動を開始しているNYのバンドで、ギターのノイズをどう楽曲に生かすかという実験を繰り返してきた異色の存在である。NIRVANAがギターノイズを楽曲で使用する方法は、ある意味SONIC YOUTHの実験成果の援用である。
②についてはPOLICEの影響が大きいと思われる。ただし、POLICEがレゲエのリズムからロックのそれへシフトチェンジすることで得ていたスリルを、NIRVANAは数倍過激にしてはいるが。
③POLICEのみならずデヴィット=ボウイやニール=ヤングなどのアーティストから影響を受けていたカートは、ある意味"不用意に"そのポップセンスの良さを露呈してしまった。カートにしてみれば、自分の受けた影響に忠実だったわけだが、ノイジーでハードな音が抜群にキャッチーなメロディを奏でたわけだから、HM/HRムーヴメントの次の展開を狙っていたレコード会社の格好の餌食となった。リスナーの幸福とカートの不幸は2ndの爆発的ヒットから始まった。1stの次に3rdを作っていたら、多分カートはまだ生きていたろう。
④について。カートにしてみれば売れたことは信じられないことと同時に我慢ならないことだったに違いない。カートの詩世界の背景にあるのは、自己の否定であり、ROCKを歌うことは「何か大切なものが欠落した自分」を癒すためのセラピーだった。パンクロックは、社会に適応できない自分が悪いのではなく、社会が糞なのだと歌ったが、カートの歌は社会に適応できない自分は欠陥品だ、不良品だと歌っている。そして、なによりそうした考え方が共感を呼んだのだ。これもカートにしてみれば我慢ならないことだったろう。
以上をまとめると、NIRVANAというバンドは2ndアルバムを例に取るとグランジロックの代表格というよりは異端の存在であったと考えたたほうが良さそうである。1st及び3rdはグランジロックアルバムと位置付けても良いが、2ndアルバムの存在がこのバンドが別の何者かであることを暗示している。
5.総括
ここでこれまでに述べたことをまとめると、グランジロックというのは新しいレッテルを貼られた単なるHRだと言っても良いと思われる。ただしそれは非常に初期のHRや、まだHRが存在しなかったころの"ハードな"ロックを起源に持つものである。故に、成立時の基本理念は'80年代に隆盛を極めたポップかつハードなHR/HMの存在を基盤としていない。ただし、方法論においては既存のHR/HMから影響を受けている部分が存在する。そういう意味で「グランジロック/シアトル勢」と一括りにされたバンドは多種多様な個性を持っており、中にはかなりHM寄りの音楽をやっていたものもいる。グランジロック=HR/HMの敵だとする考え方は必ずしも的を得たものではないし、少なからず暴力的であることを指摘しておく。
長々と書き連ねてしまい済みません、こ~いちさん。
しかし、一度やってみたかったのです。

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