歌って良し、弾いて良し、書いて良しの三拍子揃った人間国宝級ギタリスト、TRIUMPHのリック・エメットが'24年に発表したソロ・アルバム(レコーディング自体は'12年に行われていた模様)。先生のソロ作が国内発売されるのってもしかして前世紀ぶりぐらいじゃないでしょうか?あまりに嬉しいので、せっかく解説書でご本人に貴重なインタビューを敢行してくれているのに、再結成TRIUMPHの現状とか、バンドとして新作をリリースするつもりはあるのかとか、重要事項に全く触れてくれないことに対する不満はグッと飲み下しておきますよ。(もしかしてそっち関連の話題はNGだったりしたのでしょうか?) それはともかく肝心の内容の方は、TRIUMPH時代の名曲の数々をアコースティック・アレンジで蘇らせたセルフ・カヴァー・アルバム。押さえるべきとこがきっちりと押さえられた納得の選曲に、“NEVER SURRENDER”や“ORDINARY MAN”“FIGHHT THE GOOD FIGHT”辺りを筆頭とする、アレンジが変わっても輝きは変わらない名曲としての強度、そして何より「円熟味を増すこと熟成されたワインの如し」なエメット先生のエモーショナルな歌声と一音入魂のアコギの妙技が揃えば、そりゃまぁ素晴らしい内容になることは分かりきっていたこと。そもそもこっちの予想を超えてくるタイプの作品ではないですし、ぶっちゃけリメイクは再結成TRIUMPHで演って欲しかった…と思わなくもないですが、贅沢を言っちゃ罰が当たりますからね。 名人の健在ぶりに思わず顔が綻ぶ1枚。TRIUMPHの国内盤カタログが入手困難な現在、これを切っ掛けに入門してくれるファンが一人でも増えることを願って止みませんよ。
アコースティカルな『TEN INVITATIONS FROM THE MINSTRESS OF MR. E』、ジャジーな『SWING SHIFT』に続く、 ルーツ・ミュージック三部作のトリを飾る作品として「ブルーズ」をテーマに制作、'99年にリリースされた リック・エメット6枚目のソロ・アルバム。(ちなみに国内盤が発売された最後の作品でもある) オール・インストだった『TEN~』や、本格的なジャズ作だった『SWING~』に対し、今回は歌入り、 しかもアップテンポの④⑩を収録するなど、よりハードな作風ということで、前2作に比べグッと取っ付き易い内容に 仕上がっていると言える本作だが、飽くまで直球勝負の「ブルーズ」であり、「ブルージーなHR」というわけではないので、 その渋さゆえ、地味(退屈)に感じてしまう若いメタル・ファンも多いかもしれんなぁ、と。 ただ、エメット師匠がノリノリでプレイしている姿が目に浮かぶような本編には、楽しげな雰囲気が充満していて、 何より、彼の説得力と表現力に満ち溢れたVoとGのお陰で、最後まで退屈することなく聴き通す事が出来る。 特に、TRIUMPH時代の名曲“LITTLE BOY BLUES"を彷彿とさせる、師匠の哀メロ職人としての腕前がスパークしまくった、 絶品のバラード・ナンバー⑥⑩におけるエモーショナルな泣きっぷりは強烈極まりなく、 この2曲を聴くためだけにでも、本作は購入する価値が大いにあるというもの。 派手さ皆無の落ち着いた作風ゆえ、逆にリック・エメットという希代の名ギタリストの実力がハッキリと確認できる1枚かと。