時は1990年代前半、CDの登場からまだ10年程で新品/中古問わずCDショップ巡りが盛んだった頃、ふと(B)-BADFINGERの所で目にした鎖帷子みたいな素材のビキニを着てこちらを指差す妖しい女性のジャケット。それまでも見覚えはあったが当時の私はJ-POPの方が楽しく洋楽から離れていまして、BADFINGERにしても"Come And Get It""Day after Day""Know One Knows"、アルバムはピート亡き後トムとジョーイで再始動の"Airwaves"しか認識していなかったため見事にスルー。その後いつの間にか買って手許にある当時の輸入盤を聴きながらのレビューです。1970年11月リリース、BADFINGERに改名してからは2nd、IVEYSから通算すれば3rdとなる本作の売れ行きはと言うと、USチャートで最高28位となるも本国UKではランキング外。折しもBEATLES解散騒動最中のこと、どうやらアップルレーベルに居続けたことが彼らの命運を分けたらしく、当初MAL EVANSプロデュースでレコーディングしながら並行してRINGO STARRのシングルやGEORGE HARRISONのアルバム制作セッションに参加させるハードスケジュールを見かねてGEOFF EMERICKに交代したために発売が半年も遅れたとか。上手くいかないのはアルバム制作だけでなくシングルリリースも同様で本作からのシングルは5.とUK盤におけるそのB面8.のみ。6.は他アーティストにカバーされてヒットし有名になっただけで、彼ら自身によるオリジナルのシングルは出ていません。No Dice…振ったサイコロが台から飛び出してノーカウント、無効になって"駄目"だという意味ですから、まだ悪徳マネージャーに捕まる前のこの時点でもうアップルを離れるべきだった、そんな状況を暗示するタイトルな気がします。最後はどうでもいい話、女性の上半身が写るジャケットは開いた状態で下半身も現れるようになっているため、綴じ目が左になるように収めるとタイトルや女性の頭が右へ横向きに倒れてしまうんですね。という訳で買って見て聴いてください。
"No Dice"1992年版CDのボートラ5曲目、トラック#17にしてエンディングテューンは新加入のジョーイを含む4人の共作となるカントリーロックまたはソフトロックです。シンプルなメロディの繰り返しは突き詰める余地がありますが、仄々としたコーラス、ハーモニーはバッドフィンガーならではのもの。聴いているこちらからビートルズの後継はYou'll be the oneだ!とエールを送りたくなる、1970年当時未収録だったのが惜しまれるナンバーです。
"No Dice"1992年版CDのボートラ3曲目であるトラック#15も前曲に続いてジョーイの曲です。IVEYS時代からBADFINGER本来の音楽は基本的にポップスでしたが、ジョーイ加入によってだいぶロック寄りに舵が切られました。そういった功績は大きいものの彼の作品が全て優秀かというと否でして、この曲も焦点が定まらず可もなく不可もなくといったところ。ギターオリエントなのは当然と言うことで辛口評価です。
リリース当時の"No Dice"最後を締めくくるのはやはりピート作の壮大なバラードです。イントロから全体にアコースティクな曲調、これは…"Eight Days A Week"? いや違いますね、あの曲よりは落ち着いた"お互い足りない所を補完し合おう"みたいなラヴソングとなっています。ストリングスが加わり静かでいながらドラマティックに。だが最終的に向かう所はタイトルの通りで何かバンドの行く末を予感させますね。それも今だから言えることなのであって、ここはまず曲自体をそしてピートの才能をじっくり再評価しましょう。
本作時点での新メンバー・ジョーイを含む4人の合作名義になっている、シャッフル調のロックンロールないしブギ―です。ひたすら明るく楽しい曲調ですが、歌詞はわかりやすいけど英国特有のヒネリが感じられます。そりゃまタイトルからして歌詞には入っていないけど英国の地名ですから。見方によってはBADFINGERの代表曲とまでは言わずとも注目すべき重要な曲かと。私的にはエルヴィスの"Don't Be Cruel"に影響されイーグルスの"Heartache Tonight"に影響を与えた? どうでしょうね。
本作リリース当時のB面1曲目はピート作のカントリー風で、音像だけ聞くとのんびりしてネアカな佳曲です。R&Bからカントリーまで貪欲に吸収するUKアーティスト全般に見られる引き出しの多さを実感できます。ただ歌詞がですね、"My life may not be long"はズバリ重大な出来事の予言みたいだし、"Say You'll take from me what I will give to you"なんてまるで搾取してくださいと言ってるようなもの。尤も当然ピート自身当時はそんなつもりではなく過ぎたから言えることでしょう、それにしても…。
実は案外好きな人が多そうな隠れ名曲? 私も最近BADFINGERに再注目するようになって知った、甘いメロディが素晴らしいピート作の美しいバラードです。不安げに揺れるピアノのイントロに続く歌メロがストレートながらも胸を打ちます。どうやらピートがドラマーのマイクから聞いた不幸な実話を基に作った曲らしく、特に最後のNobody's gonna help you nowなんて歌詞がもう絶望的ですね。既出の通りBOB DYLANと並び称せられる早世のフォークシンガーTIM HARDINが2年後にカバーしています。Without YouをHARRY NILSSONがカバーした件といい、BADFINGERの曲はシンガー&ソングライターさえもオリジナルそっちのけでカバーしたくなるほど魅力的だということでしょう。
本作のみ参加のBOB JACKSON単独作品となるブルージーでちょいヘヴィなナンバーです。当然ながらBEATLESの弟分バッドフィンガーがそれまで築いてきた音楽とは似ても似つかず、でも違和感を感じるより先にむしろ却って新鮮な感覚になりました。"抱いていた夢は全て忘れよう""いつになったら振り返ることができるんだ"と歌詞もヘヴィで"When will we ever learn?"なんて私がちょっと前に紹介した"花はどこへ行った"そのもの。色んな意味で名曲としておきます。